18.バーサーカーと白い糸
「ら、ラフィオ。わたしも彼氏から頭撫でてほしいな」
「君はいつも僕を撫でているだろう? モフモフしてるとも言うけど」
「たまにはわたしも撫でてほしくて」
「こちょこちょならするけど」
「そ、それでも……いいよ? ラフィオがしたいなら」
「こら! そこの二組! いちゃつくな! 羨ましいから! つむぎちゃんは変身して! 空飛ぶ敵だから、みんなの力が必要なの!」
わたしも必要なんですね。
ユーリくんがわたしの手を引いて物陰に向かいます。ここは百貨店の中。買ったばかりの服を破るのは忍びないらしく、人目につかないところで脱ぎ始めます。わたしも鞄から弓矢を取り出し、代わりに脱いだ服を入れました。
変身したライナーが空の車椅子を押してこっちに来ます。
「樋口さんに連絡したんだけど、向こうは別件で動けないそうなの。なんか魔法陣を描いた女の子が見つかったとかで。澁谷さんがスタッフを手配して荷物回収してくれるから、とりあえず車椅子の上に置いて」
知らない名前が出てきました。魔法少女というのは友達が多いのですね。
ハンターを乗せたラフィオさんが百貨店内を駆けます。わたしもユーリくんに乗って追いかけました。
すれ違う人々がぎょっとした顔をします。巨大な狼がよほど珍しいのでしょう。わたしからすれば、皆さんの世界の方が珍しいですよ! こらそこ! ユーリくんを見て怪物の仲間だとか言わないでください! 失礼ですよ! 全然違いますし!
驚いた人たちが避けてくれるので、ユーリくんは建物内を伸び伸びと走れています。
狼の走りに余裕でついてくるライナーに驚きながら外に出ます。空を十数体の怪物が飛んでいます。
逃げ惑う人々に狙いを定めて、急降下して捕らえようとしていました。すかさず弓で狙って射抜きます。
「広範囲に敵が散らばる可能性がある。あちこち走り回って、一体ずつ確実に殺していこう」
「わかりました! ユーリくん、高いところから狙いたいです」
わたしの腕力では、あまりに上にいる敵まで矢が届きません。近づく意味でも、広範囲を見る意味でもそうするべきです。
低い声で鳴いたユーリくんが、登れそうな建物を探して駆け出しました。
その動きはかなり目立つらしく、怪物がこちらに狙いを向けます。急接近するそいつの首を射抜いて殺し、次の敵に狙いを定めました。
怪物がなんだって言うんですか。全員殺してやりますよ。
――――
バーサーカーが出ていって静かになった部屋で、悠馬は少女を見下ろしていた。
彼女の身元が知りたい。財布とか学生証、そしてスマホがあれば見たいのだけど、さすがに女の子の体を探るわけにはいかない。
見守りながら、バーサーカーの戦いが優勢であるのを祈るだけ。
愛奈はどうだろう。今仕事中かな。戦いに行けそうか、尋ねようとスマホを手に取ると、樋口から電話。
家の前まで来たから開けてほしいと。
「すぐに来てくれて助かった」
「そりゃね。重要参考人が見つかったならね」
「じゃあ、この子は任せていいか? バーサーカーの所に行く」
「あなたも慌ただしい人ね。行ってらっしゃい」
「あの子はこれからどうなる?」
「心配しないで。とりあえず、この家にいさせる。ここで事情を聞いて、あなたたちの意見を聞いて処遇を決めるわ」
「助かる」
それだけ言って、悠馬は覆面を被って駆け出した。駅を通り抜けてその向こうに。
全力疾走してバテた状態で戦いに行くのは避けたいから、速度はキープしてるけど。でも、これでも鍛えてるんだ。スタミナには自信がある。
それにしてもと、再び考える。
なんでこの場所に出たんだろう。
ラフィオが以前言っていた。この地の魔力の霊脈の一番濃い所が、ショッピングセンターの近くにあると。だからフィアイーターが多発した。
それと関係あるのだろうか。
「うおっ!? おい! やめろ! これほどきやがれ!」
戦いの場に行けば、バーサーカーが白い糸で体をぐるぐる巻きにされて転がっていた。スカートの中が見えかけて慌てて目を逸したけど、それどころじゃないと駆け寄った。
ニワトリがバーサーカーに迫って、くちばしで突こうとしていたから。
「ほら一旦引くぞ」
「おう来てくれたか! 蜘蛛の奴が出てきてやられたんだ!」
「見ればわかる」
バーサーカーをお姫様抱っこして、その場を離れる。けどニワトリも追いかけてきた。
「自力でその糸、なんとかできないのか?」
「意外に頑丈で」
「おいやめろ。動くな」
「だって」
悠馬の腕の中でもぞもぞと動くバーサーカー。胸とか尻が当たって、とても気まずい。
今はニワトリに追いかけられていて、それどころじゃないっていうのに。
背後に足音が迫る。追いつかれる。というかこの状況、どう打開する? バーサーカーの拘束を解くのには刃物が必要だけど、そんなものどこにある? ショッピングセンターで包丁でも調達するか? でもそんな暇は。
「セイバー斬り!」
すると背後から声が聞こえた。あと刃物も来た。
セイバーがニワトリを一刀両断。後続の敵も次々に切り捨てる。
「姉ちゃん」
「なんか楽しそうなことしてるわねー」
「楽しくはない。少なくとも俺は」
「バーサーカーは、なんか縛られて嬉しそうよね」
「ちょっと思った。昨日も蛇に縛られてたし」
「だから! 好きでやってるわけじゃねえんだよ! なんかこうなるだけで! てか早く助けてくれ!」
「はいはい」




