15.都会
あ、そうだ。忘れ物です、洗濯機の所に行けば、ゴウンゴウンと音を立ててわたしの服が洗われてます。これで綺麗になるのでしょうか。
その傍らに革製のベルトが二本、弓と矢をそれぞれ装備するためのものです。
弓を背負って、束ねた矢を腰に提げます。やっぱりこれが無きゃ落ち着きませんね。
「さあ行きましょう!」
「え。フィアナちゃん弓矢持っていくの?」
「はい!」
「えー。あー。どうしよう」
「フィアナは、この格好が、一番いい」
「えへへっ。ユーリくんわかってますね!」
「そっか。じゃあ持っていこう。あんまり目立たないようにね。警察とかに見つかると面倒だから。なんとかはなるけど」
なるんですね。すごいです。
普通の道を、遥さんは自力で車椅子を動かして進みます。ちょっと段差や勾配があるとラフィオさんに押してもらうことになるのですが、基本は自分でやる方針だとか。その気になれば義足で歩いて自分で押すこともできるそうです。
すごいですね。障害者だけど、自立しています。
街の中心部に行くとのことです。駅まで歩いて、電車に乗って向かうとか。車とは別の移動手段だそうです。
車が通る道と人が歩く道が別々になっていたり、すぐ隣を高速で動く車が通り過ぎるのを見たり。電気なるものを家々に送り届ける電柱が立ち並んでいたり。
この世界の風景は新鮮で、見ていて飽きません。ユーリくんも表情は変わりませんが、目が輝いています。
駅でも驚きの連続でした。電車に乗るには切符というものが必要らしいです。城壁の内側に入るための身分証みたいなものでしょうか。
機械から切符が出て、それを機械に通すと別の場所から戻ってきます。乗り終わる時にはまた機械に入れるそうです。
入れたり出したり忙しいですね。
電車は車以上に鉄の箱という感じで。それがいくつも連なっていて、そしてものすごい速さで走ります。窓の外の景色がどんどん流れていきます。
「すごい! すごいですよユーリくん! きっとユーリくんより速いです!」
「うん」
「これに乗ったユーリくんが走れば、もう誰も追いつけませんね!」
「うん」
「楽しそうだねー」
遥さんがニコニコしたら顔で見ています。
窓の向こうに見える建物がだんだん大きくなっていきます。巨大な塔が、当たり前のように立っています。
電車が停まったのも、大きな建物の中。空は見えますけれど大きな屋根があります。エレベーターなる狭い箱に入って出れば、広く入り組んだ空間が広がっていました。
「ゆゆゆユーリくん。わたしの手、絶対に離さないでください! 迷子になっちゃいます!」
「わかった」
「どっちかと言えば、フィアナはつむぎと手を繋ぐべきじゃないかい?」
「わたしたちとはぐれたら終わりだもんねー。でもわたし、ラフィオと手をつなぎたい!」
「後でな」
「今がいい!」
「後だ」
ラフィオさん、譲りません。芯の強さが見えます。
駅構内には様々なお店が立ち並び、いい匂いがあちこちからして、色とりどりの商品が並んでいます。何が並んでいるのかは、正直わかりません。こっちの世界だと、肉とか野菜とか果物とか、わかりやすかったのに。
こっちでは、なんかテカテカした袋に入ってるものばっかりです。品物が見えないって不安じゃないですか?
ガラスのケースに入っているものは美味しそうです。こんなに透き通ったガラスをたくさん作れるのって、なんかすごいですね。しかも電気の力で、温かい方が美味しいものはずっと温かいまま陳列できるそうです。すごいです。
こんな風に驚きっぱなしのわたしですけれど、一番驚いたのは外に出た時ですね。見上げるほどに大きな建物が目に入って。
「おぉ……おおおお……」
声にならない声を上げてしまいました。
こんな高い建物、見たことがありません。空まで届くのではないでしょうか。
建物の形も奇妙でした。大きく螺旋を描きながら伸びていく建物がありました。
「な、なんですかこれは!?」
「やっぱり、これが一番驚くよねー。アユムちゃんもそうだったし。というか、アユムちゃんよりも驚き方がすごいねー」
遥さんが誇らしそうです。自分の街を見て驚いてくれるのが、とても嬉しいらしいです。
「この世界には、こんなすごいものがあるのですか……」
「まあねー」
「入れるんですか?」
「このビルは関係者以外立ち入り禁止かな。でも他の建物なら、上の方まで行けるよ」
この螺旋のビルは学校らしいです。こんな所で学べる人間は、きっととても優秀な人なのでしょうね。
他にも多くあるビルのエレベーターに乗って上階まで行きます。展望台という、見張り台のすごいやつがあるらしいです。
そこから外界が一望できるそうです。
「わぁ……」
地面が遠いです。こんな高いところにいるなんて。しかも落ちる心配もないそうです。
「ユーリくん」
「うん」
「この世界はすごいですね。旅の中であちこち行きましたけど、いつも戦ってばかりで。それはそれで楽しかったですけど。こんな風にすごい街を楽しむって、なかったので」
「うん」
ユーリくんもガラスに額をくっつけて、下を夢中で見ています。これは楽しんでいますね。わたしにはわかります。
「それじゃあ、買い物にしましょうか! まずはユーリくんの服から!」
遥さんが楽しそうに言います。
「悠馬もファッションには興味なかったからなー。わたしが教えなきゃいけなかった」
「服なんて、着れればいい」
「そうでもないの。服はね、他の人に見てもらうものなの」
「?」
「フィアナちゃんは、ユーリくんが格好いい服着てたら、素敵だと思わない?」
「! はい! 思います!」
「だよね! ユーリくんも、彼女が喜ぶのは嬉しいよね?」
「……」
ユーリくんはこちらを見てから、頷きました。
決まりですね。




