13.模布市の朝
朝です。よく眠れました。足の痛みも完全に引いていて、走っても問題ありません。
金属音が聞こえます。
「ぎゃー!」
悲鳴も聞こえました。騒がしいですね。
「ねえ! いいこと思いついたんだけど! わたし今日休むべきだと思うの! だって! また怪物が出るかもしれないし! だからねえ! やめてフライパン叩かないで!」
「仕事に行け。もしあれが出たら俺がなんとかするから」
「うわーん! 悠馬の薄情者ー!」
愛奈さんが泣きながらリビングに来ました。
一足先に起きていたらしいラフィオさんと遥さんが、朝食をテーブルに置いてます。四角いパンに目玉焼きを乗せたやつです。愛奈さんはそれを急いで口の中に入れて飲み込みます。
「むぐぐ! あ、フィアナちゃんユーリくんおはよう! よく眠れた? 急いで帰らなきゃいけないのは知ってるけど、ちょっとでもこの世界を楽しんでね! 行ってきます!」
と、慌ただしく出ていきました。挨拶を返す暇もありませんでした。
こちらを気遣ってくれてるのは伝わりました。
「ほら。フィアナちゃんたちも食べて」
「椅子が足りないよな」
「ソファで食べる?」
わたしもユーリくんも、寝ていたソファの上から動いていません。背もたれに手を置いて膝立ちになり、リビングの様子を見ているだけです。
キッチンで皆さんの料理を手伝うべきかと考えましたけど、無理そうです。なんか水がドバドバ出る管とか。簡単に火を起こせる台とか。わたしには使いこなせそうにありません。
まな板や包丁は、似た形をしていますけど。
遥さんたちは何もしないわたしたちに気を悪くすることなく、お皿をソファ前のテーブルに載せました。ベーコンに目玉焼きに焼いたパンです。
「フィアナちゃん、今日は何する?」
「え? 何って」
「樋口さんの調査には時間がかかるだろうし。フィアナちゃんたちが元の世界に戻るのも、何日かかかるかなって。だからこの世界のこと、もっと知ってほしいの」
楽しげに話しかけてきた遥さんですが、わたしは少し首をかしげます。
「どうせ戻るのに、この世界を知るんですか?」
「そう! 楽しんでほしいから!」
「観光、みたいなもの?」
「そう! ユーリくん良いこと言う!」
なるほど観光ですか。ユーリくんとのふたり旅の延長で、ちょっと変わった街に寄ったと思えば、ありですね。
「わ、わかりました! ユーリくんと一緒に、この世界で楽しみます!」
「うんうんその調子! じゃあ、みんなで街まで遊びに行こっか! 悠馬も」
「あー。俺はこの近所を見回るから。遥がちびっ子たちを引率してくれ」
「なんで!?」
「アユムも俺と一緒に来てくれ。何かあった時、魔法少女の力がほしい」
「おー。わかった」
「待って待って! 浮気でしょうか!? 彼女! わたし彼女なんですけど!? なんで他の女の子と一緒に別行動なの!?」
そっけない反応の悠馬さんに、遥さん焦っています。
ですが悠馬さんはずっと冷静で。
「樋口から連絡が来た。夜のうちに警官が調べたんだろうな。五条院は自宅のアトリエにいなくて、連絡もつかないそうだ」
スマホを見せながら説明します。
「アトリエ?」
「社員とは連絡がついて、そう言われたんだと。五条院は家の仕事場をそう呼んでるらしい。どうせパソコンが並んでるとか、そんな普通の家だろうけど」
「まあ、ゲーム作りなんてパソコンあれば出来ちゃいそうだもんね。アトリエなんて格好つけた言い方しなくてもいいのに」
「オールラウンドゲームクリエイターらしい言い方だな」
「で、五条院がいない?」
「ああ。社員に、昨日の怪物がゲームのモンスターそっくりだと説明したら、かなり驚いたらしい。ありえないとも。それから、モンスターデザインはすべて五条院が手掛けてると証言した」
「怪しいねー。五条院、何か隠してるね。連絡がつかないのは逃げてるからだね」
「そうだ。でも逃亡を永遠に出来るとも思わない。五条院に何か目的なり悪意があるなら、次に行動を起こすはずだ」
「なるほど。怪物が出たのはこの近所。また動きがあるなら、家の近くに誰か残ってた方がいいよねー」
遥さんが納得したって感じで頷きます。
「うんうん。さすがわたしの彼氏。思慮深い。とっても頭がいい。わたしの彼氏は頼れる」
「なんか褒められてる感じしないんだけど」
「褒めてる褒めてる! 悠馬大好き! じゃあ仕方ない。頭のいい悠馬と、魔法少女になれるアユムちゃんで留守番お願いね!」
「オレのこと馬鹿にしたか?」
「してないしてない! 魔法陣を描いた五条院さんが現場に戻ってくるかもしれないしね! 警戒よろしくね!」
「そういえば樋口が監視カメラ調べてくれたけど、魔法陣を書いたのは五条院じゃなくて別人らしい。セーラー服を来た女の子だって」
「!?!?!? むあー! わかんない! 何が起こってるのか全然わかんなくて頭パンクしそう! 何も考えたくないです! フィアナちゃん! 着替えに行こう!」
「え?」
何か事件の真相が複雑なものになっているのを聞いていると、遥さんが急にこっちに話を向けてきて。部屋までわたしを押していきます。
「ユーリくんはそこで待ってて! フィアナちゃん、その格好で街に出るのは目立っちゃうよ! もっとこっちに合った服装をしなきゃ!」
「えっ!? ええっ!?」
部屋で、昨日から着ている服を脱がされます。代わりに渡されたのは、この世界の服らしくて。
短めのスカートに、ちょっとドキドキします。
「この服は洗濯してあげるから! そっちを着て!」
「え、でも」
「どうせ誰も着ない服だから遠慮しないで! それにほら。可愛い服装を見せたら、ユーリくん喜ぶかもよ?」
「そ、そうですね! 見せたいです!」
急いで着ます。ちょっとスカートの中がスースーしますけど、平気です。リゼさんだって同じような丈のスカートで転げまわってるじゃないですか。




