11.魔法陣の作者
それから樋口さんは、わたしの方を見ました。
「彼女たちは、この家で預かりなさい」
「そうするしかなさそうねー。ホテルを用意して、このふたりだけ泊めるってのもどうかと思うし」
「勝手な行動されても困るし、この世界のこと全然知らなそうだからな」
「でも、泊めるにしてもベッドがないですよ?」
「じゃあ、わたしがラフィオの部屋で寝ます! これでベッドがひとつ空きますよね!」
「駄目だ」
「えー!?」
「仕方ない。ソファで寝てもらうか」
悠馬さんは、あまり気乗りしないって言い方です。
この家のソファは大きいので、ふたりで寝るのは問題なさそうです。では何が問題かといえば。
「男女で同じ空間で寝るのは……広いからいいのかしら」
「ソファで寝てるなら一緒だろ」
「そうよねー」
姉弟で困ってる顔です。
なんだ。そんなことですか。
「心配いりませんよ。わたしたち付き合ってるので! 恋人なので! それに旅の中で同じ部屋で寝たことなんて何度もありますし。ふたりきりで野宿したことも多いです」
「へえー。異世界だとそれが普通なのかしら」
「旅だとそうなのかもな。仕方ない。ベッドほど寝心地は良くないけど、我慢してくれ」
「はい! ユーリくんもそれでいいですよね」
みんなの話を黙って聞いていて、ずっと無口だったユーリくんが頷きました。
「えー! ふたりが一緒に寝るなら、わたしもラフィオと一緒がいい!」
「駄目だ」
「変なことしないもん! モフモフするだけだもん!」
「それは十分に変なことだ。ほら、風呂に入れ」
「一緒にはいろ?」
「駄目」
ラフィオさんがつむぎさんの背中を押して、お風呂のある場所まで連れてってます。あのふたりもカップルなんですよね。わたしたちとは雰囲気が違いますけど。
でも、仲が良さそうです。
しばらくすれば樋口さんは帰っていって、わたしたちもお風呂に入れられました。
綺麗なお湯が出続ける仕組みに驚いたり、お風呂でゆっくり出来る気持ちを噛み締めたり。この世界ではこのお風呂は当たり前だと聞いてまた驚いたりしながら、ソファに横になります。
長いソファ。少し顔を動かせば、ユーリくんの顔があります。彼もこちらを見ていました。
「この世界、便利ですね」
「うん」
「コータさんは、こんな世界に住んでたんですね」
「うん」
「……皆さん、今頃心配していますよね。帰る方法を早く見つけないと」
「大丈夫。きっと、なんとかなる」
「はい!」
ユーリくんの方へ手を伸ばせば、彼は握り返してくれました。
見知らぬ世界ですけど、ひとりではありません。だから心細くはないです。
強い狼の手の感触に安心しながら、わたしは眠りにつきました。
――――
目の前でユーリとフィアナが魔法陣の中に消えた。ぬいぐるみの体のコータはこれを止められなかった。恐ろしい翼を持つドラゴンをボコボコにすることは出来ても、落ちていく仲間の手を掴むことはできない。
無力さに打ちひしがれそうだけど、そんな暇はない。
「リゼ! このふたり、どこに言ったんだ!? まさか怪物どもが暴れる世界に!?」
「わからない! モフシって場所に繋がるゲートのはずなんだよ! でもモフシには怪物なんかいないんだよね!? 何が起こってるのか全然わからない! てか転移の魔法とかわたしも詳しくないです!」
使い魔召喚の魔法は、この世界でもよく知られてる。妖精の国にゲートを繋げる魔法だ。その魔法陣を間違えて、コータのいた世界と繋がって魂だけ送られてきた経緯がある。
他にも悪い魔法使いが、向こうの世界の人間の魂をこちらに大量に連れてくる計画をしたこともあった。
だから、模布市がある俺の世界まで繋がる魔法は必ずあるはず。ユーリたちはそっちに行ったのかもしれない。
でも、その魔法はこっちの世界でも研究が進んでいない。リゼにもよくわからないのは仕方ない。
「カイ! こっちに来てくれ!」
「わかった! この魔法陣の作者がいた」
「へ?」
「は、はじめまして。ロジャーと言います」
カイは、若い男を連れてこっちに来た。俺のいた世界で言えば中学生くらいの歳。童顔で、ちょっと頼りなさそうな印象を受ける。
着ている服は、怪物が暴れる場所で逃げ回って隠れた結果汚れているが、上等そうな仕立てだった。リゼと似たようなローブを羽織っている。
魔法使いっぽい格好ではあるな。短めの杖も持っているし。
「はじめましてロジャーさん。わたしは魔女のリゼです! そして使い魔のコータ!」
「よう」
「使い魔。すごい。リゼさんは高位の魔女なのですか?」
「まあねー痛っ」
「ロジャー。この魔法について教えてくれ」
「は、はい。これはテラン世界という、こことは別世界の人間をこちらに連れて行くために描きました。なのになぜか途中で不具合を起こして、怪物たちが出てきて。僕は慌てて隠れました」
「逃げはしなかった?」
怪物が出続ける場所からは一目散に逃げるべきだ。広場のベンチなんて頼りない隠れ場所に居続けるのは危険だ。
この事態を引き起こした者として責任を感じていた、というよりは。
「彼女がこっちに来た時に、危険だから助け出してすぐに逃げるために」
一応、他者を慮っての行為らしい。




