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第2章 - ズル

**第2章 - ズル**


私の両親はそれぞれ異なる人生哲学を持っていたが、その違いにもかかわらず、互いを尊重し、決して口論になることはなかった。


父は、未来を心配しすぎると現在を楽しめなくなると信じていた。考えすぎは人生を生きるのを止めてしまう。「心配するのはいいけど、過度に心配すると肩に重い負担がかかるだけ。適度に心配して、自分のやり方で人生を生きなさい。他人を喜ばせるためじゃなく、自分の人生を生きなさい」と。


一方、母は現在を楽しむのはいいが、未来についても大いに心配し、将来の危機に備えて蓄えを確保すべきだと考えていた。「未来は不確かだよ、サイク。心配せずに生きるのは幸せだけど、痛みや悲しみももたらすかもしれない。人生はバラ色だけじゃないんだ、息子。いまは楽しめても、未来は必ずやってくる。そのとき、立ち向かえる準備はできてる? 10年後の自分を考えてみなさい。君の行動の結果を背負うのはその未来の自分だよ。いまの君みたいに現在を楽しめないかもしれない。私は無理に頑張れとは言わない、自分のやり方で生きなさい。君の人生なんだから、君が決める。ただ覚えておきなさい、未来は謎だ。幸せに生きたければ、準備しておくことだよ。」


二人とも人生の楽しみ方が違った。父は現在を楽しみ、大学教授として満足していたが、母は家族の将来を心配し、人道支援プログラムを立ち上げたり、教育や医療関連の事業を始めたり、さらにはさまざまな雑誌のモデルとしても働いていた。結局、私はその事業を売却し、支援プログラムの管理は母の親しい友人たちに任せた。管理する時間がないし、他人に任せるのも信頼できなかったからだ。


事業を売却して得たお金は、国の最も貧しい地域に学校を建てるために寄付した。そのお金は母が稼いだものだから、自分のために使う権利はなかった。だから、母が愛した子どもたちのために使った。家の売却で得たお金だけは残した。だって、路上で暮らすほどバカじゃないから。


母は我が家の名を高め、国内でもっとも裕福で有名な一家にした… まあ、両親が死に、私がすべてを売却して家の価値を下げてしまうまでは。


多くの家庭が私を養子にしようとしたし、娘と結婚させようと持ちかけてきた人もいたけど、私はきっぱり断り、そんな下品な提案は二度としないでくれと言った。彼らは我が家の名を狙っていた。なぜなら、私は最後の家族だが、母が国にしたことのおかげで、その名はまだ大きな社会的価値を持っている。私が誰かの娘と結婚すれば、その家族は私を手中に収めて名声を得られる。


彼らは状況を利用して自分たちの利益を得ようとした。両親の死を利用して儲けようとした… めっちゃ気持ち悪い。


ああ… 両親は人生の楽しみ方が違ったけど、一つの考えでは一致していた。「自分の条件で人生を生きなさい。他人にどう生きるべきかを決めさせない。君の人生、君の選択。君は他人を満足させるために生まれたんじゃない、自分の人生を生きるために生まれた。他人が君をどう思うかは関係ない。君が自分をどう思うかだけが大事。自分じゃない誰かを演じて生きても、決して本当には楽しめない。自分らしく、幸せに生きなさい。」


それが私が一番尊敬する考えだ。


他人からの否定的なコメントを気にせず、自分にとって一番心地よい方法で人生を生きること。


「ちょっと、君、待ちなさい。髪を直さないと中に入れないよ」と、校門に入ろうとしたときに先生が言った。


「だから言ったじゃん、サイク!」と、隣で浮かんでるユキが言った。


「髪型に関する規則はないはずです、先生。入れなかったら校長に訴えますよ。」


「君のためを思って言ってるんだ。最初の印象は大事だよ。」


「見た目より結果が大事です。」


「まあ、いいけど、後悔しないでくれよ。」


「しません。」


私はそのまま進み、ユキはため息をついた。たぶん、髪をとかせって何度も言って疲れたんだろう。


「みんな変な目で君を見てるよ、サイク。気にならない?」


「別に。」


「じゃあ、いじめられても文句言わないでね。」


「いじめ、ね? それなら心配いらないよ。」


だって、俺に絡むやつは後悔することになるから。




よし、ここが入試の教室だ。ユキは誰が一番頭いいか調べて、そいつの答えを写すために、カフェテリアで親たちの会話を盗み聞きしに行った。


教室に入った。


ふむ… みんなくそ普通だな。あ、普通の学校生活が始まるぞ。普通の生徒で、普通の生活。パラダイスだ。


指定された席に座ると、先生が俺の髪をめくった。


「なんだこれ?」


「カンニングするつもりかと思って、髪に答えを隠してるんじゃないかと。」


「そんな賢くもバカでもないんで、ご心配なく。」


先生は封筒を渡して去った。


あと5分、ボードに指示が映ってる。


振り返らない。


会話しない。


試験だけを見る。


頭を動かせば試験は没収。


イヤホン、スマホ、サングラスなどのデバイス禁止ルール。まあ、心配ない、スマホは家に置いてきた。


8時ジャストに封筒を開けて開始。


うわ、うわ。噂どおり厳しいね。最高だ。


要するに、試験だけ見て書けってこと。首を伸ばして筋肉や腕をほぐすことさえ許さない。面白い。


「戻った! ラムって女の子がいるよ、先生たちが高く評価してる。校長からの推薦も受けてるって聞いた。」


なんて不公平。校長のひいきが、俺のクラスや世代で一番になる計画を邪魔しないといいけど。


「彼女の答えを写せば、試験に受かるよ、サイク。うう、ズルしてる気分。ちゃんと勉強してよね、サイク! 君のために犯罪犯してるんだから、価値あるようにしてよ」と、腕を組んで怒ったふりして言った。


なんでふりってわかる? だって、可愛く見えるように唇を尖らせてるから。彼女、俺が可愛い態度に弱いって気づいたっぽい。もしそうなら、見事に成功してる。


「ケーキとゼリー、どっち?」と囁いて、彼女の罠にハマってご褒美を甘くした。


「両方、両方、お願い! ありがと!」


彼女は俺の頬にキスして抱きついてきた。


…うわ、いい感じ。両親、なんで妹か弟をくれなかったの? まあ、理由があったんだろう。


待て、ケーキとゼリー? ふむ… いいコンビネーションのアイデアが浮かんだ。家に帰ったら実験してみる。


「サイク、ね? ふふ。本当にこんな学校に入れると思ってる?」


…この知らんやつ、誰?


「この知らんやつ、誰、サイク?」


それ、俺も思ってる、ユキ。


どれ… デブ、ニキビだらけの顔、金持ちのスーツ… ふむ… わからん。


「君、いつも最低だったし、これからもずっとそう。恥かかずにさっさと消えなよ。」


ふむ…


腰に手を当て、軽蔑の笑みを浮かべて俺を見下してる。


ああ、こいつ… いや、考えたけど、誰かわからん。


「なあ、知り合い?」


「ふふ。俺を知らないふりか。みっともない。」


俺を笑って自分の席に行ったけど、ゴミみたいに簡単に捨てられるって感じで、軽蔑の目で睨み続けてた。


「サイク、知ってる?」


「正直、さっぱり。両親に無理やり連れてかれたパーティーで知った金持ちのガキだろうな。前の同級生って可能性は低い。俺、公立に通ってたし、この学校は高い。入試の費用だけで、平均的な労働者の年収くらいかかった。」


「なんで公立? 君の家、めっちゃ金持ちだったよね?」


「私立で問題起こして退学させられたから。あとで話すよ。」


「うわ、うわ。ふふ。面白そう。学校出たら詳しく教えてね。」


俺は頷いた。


実は、俺をバカにした生徒をボコって何度も退学させられた。俺への悪口だけなら何もしなかったけど、両親を侮辱したり、殴ろうとしたやつには拳を使って、マジで骨折らせた。


いじめの証拠を見せて訴訟は避けたけど、退学は避けられなかった。


公立でも侮辱されたけど、俺の家が金持ちで力あるって知ってて、殴ろうとしたり両親を侮辱したやつは、次の日、目が黒くなって俺の前でビビってた。


黙れって脅して、法的や学校のトラブルを避けた。俺からの小さな脅しでも、「もう一度絡んだら死ぬよ」って響いた。


私立じゃ、相手も社会的地位が俺と同じくらいだったから無理だったけど、貧しい家庭の公立の生徒にはめっちゃ効いた。


「開始。試験時間は4時間。」


4時間。うわ、この試験の厳しさがわかるね。まあ、ラムって子が全問正解してくれるといいな。バックアッププランもあるけど、使わない方がいい。俺は普通の生徒、普通の生活。昔の人生は捨てなきゃ。


よし、始めるか。


ふむ… 100問か。


名前を書いて、最初の問題を読んだ。


あ… お… うん、うん… あ… この出来事は何年? わからん、歴史ってめっちゃ退屈だった。


どれ…


歴史10問。


言語と文学10問。


生物、物理、化学40問。


数学40問。


あ… この学校、スポーツや芸術が得意な人には不公平だな。まあ、知ってる限り、この学校はビジネスや科学のキャリアを目指す生徒向けで、スポーツや芸術はあんまり重視してない。


あ、うわ、うわ。


サイク、気絶するまで勉強したのは無駄じゃない。ほら、覚えたこと思い出せ。





「1問も答えてないよ、サイク、もう1時間経った。答えいる?」


俺はゆっくり頷いて、諦めた。


ああ、俺ってほんとバカ。1問も自分で答えられなかった。


「ふふ。任せて。」


ユキは去った。


俺が自分で試験に答えて、努力が報われたか確認してる間に、ユキはラムって生徒の答えを写して、忘れないように屋上でノートに書いて、俺が諦めたら教えてくれる。


ああ、俺ってほんと役立たず?


ママ、パパ、なんで俺こんな役立たずなの? あなたたちみたいだったらよかったのに。




「答えは:1,797.54。」


よし… よし。


もうすぐ終わる。


ユキはみんなの試験をチェックして、答えを比較してる。


ラムは天才かもしれないけど、念のため、ってユキが言ってた。


「最後の答えは:1,689。」


「ふむ…」


ユキ、見た目より頭いいな。ズルの方法を思いついた:みんなの答えを比較して、一番選ばれてるのを教えてくれる… たぶん大丈夫だろ。


怪しまれないように、最後の方で試験を提出した。




学校を出て、ユキのご褒美のキャンディーを買いに店に向かったけど、 certain idiotが邪魔してきた。


「ふふ。ほんとに4時間全部使った? 半分でも答えられた? ハハハハ!」


…マジで、この知らんやつ誰?


「サイク、行こうよ。後ろ見て、リムジンだよ。金持ちだ。こんなやつとトラブルは危ない。あ、ボディガードもいる!」


「めんどくさいな。なあ、マジで知らないんだ。誰? さっぱり—」


俺は彼の拳を掴んで、股間に膝蹴りした。殴ろうとしたな?


「んんん! ぐぐっ!」


地面で悶えて泣いてる。うわ…


「だから、誰だか知らないって。」


彼は地面で痛みにうめいてて、ボディガードが飛びかかってきたけど、俺が誰か気づいて止まった。


「私はサイク、ドクター・サムの息子。」


彼らは止まり、頭を下げて謝った。


「ご主人の行動を深くお詫びします。彼の両親にこの異常な行動を報告し、適切な罰を受けさせます。」


「え?」とユキが、見たものを信じられないって感じで言った。


「何?! 俺が被害者なのに、バカども! 俺の言うこと聞け、くそ—! んんん!」


彼らは口を塞いで無理やり連れて行った。


「二度とこんなことはありません。良い一日を。」


そのデブを車に乗せて、走り去った。


「え? そんな簡単?! サイク、君の家ってそんなにすごかった?!」


俺は歩き始め、ユキは隣で浮かんだ。


「たくさんの家が母に恩義があって、命さえ救われた人もいる。だから、彼の家も母に恩があると思ったんだ。それを利用してそのバカを追い払った。だって、命や恩義を負ってる女の息子を殴らせるバカがいるか?」


「なるほど、なるほど。金持ちの中でも、恩を受けた人を敬う名誉があるんだ。」


「町のみんなに愛される野良犬を蹴るようなもん。恨みしか買わない。金持ちで力ある家にとって、他の家の尊敬は生き残るために大事なつながりだ。」


「うん、わかる。たくさんの金持ちに愛された女の息子に手を出したら、そのデブの家は価値のない裏切り者に見える。誰がどんなに良くしてくれてても裏切るってね。」


「その通り。だから、ボスに迷惑かけないようにその知らんやつを止めた。あのデブは、俺がもう金持ちじゃないからって、怖がらずに絡めると思ったんだ。」


「ふふ。そのバカ、君が金持ちの家とのトラブルを恐れて反撃しないと思ったんだね。ハハハハ! 今思い出すと、股間への膝蹴りがもっと気持ちいい! そういえば、サイク、君まだ金持ちだよ。家でかいし、めっちゃ金ある!」


「学校、めっちゃ高い。3年間の学費で金の95%使う。残りで少なくとも3年は暮らせる。」


「そんな高い?! み、見た目が優雅で洗練された人しかいなかったわけだ。ほんとエリート校だね。でも…」


「でも?」


「その、ただ… 学校でかいけど、億万長者の学校っぽくない。普通の高校みたい、ただちょっと大きいだけ。億万長者の学校って、町くらいのサイズで、個人の寮とか、サッカーや野球のスタジアムがあると思ってた。わかるでしょ。」


「寄宿学校のこと?」


「そう! なんで億万長者が子どもをこんな普通の学校に?」


「ほら、億万長者には2種類いる:謙虚な人と自己中心的な人。豪華で高い食事や、ダイヤモンドより高い服で贅沢に生きたい人は、子どもを町サイズの寄宿学校に送る。そこで他の億万長者の子と交流する。そういう億万長者は見た目と名声しか気にしてない。でも、自分のことより他人を大切にする子どもになってほしい億万長者は、この学校に送る。」


「え? なんで?」


「この学校、優れた教育を提供するけど、資金はメンテナンスとスタッフの給料にしか使われない。残りは公立校や慈善事業にいく。だから学校はそんなに大きくない。必要ないから。」


「待って、待って。じゃあ、優しい億万長者は、金の力で子どもが傲慢にならないようにここに送るってこと?」


「たぶん。ぶっちゃけ、厳しい学校って知ってここに決めたから、それ以上調べなかった。他にも理由があるかもしれないけど、知る気もない。」


「ふむ。興味深い。伝統と関係あるのかな?」


「さあ。ほら、パンみたいなもん。」


「パン?」


「ジャムや豆、なんでも塗れるけど、結局パン。味は違うかもしれないけど、パンだ。教育も同じ。寄宿学校や億万長者の学校は豪華かもしれないけど、教える内容はここと同じ。子どもが親の金は自分のものだと思わないように、やりたい放題できないように、飾り気のない学校に送って勉強に集中させ、親が億万長者で自分じゃないってことを思い出させる。金欲しいなら、自分で稼げって。」


「わかった。持ってるものを大切にすることを学ぶんだね?」


「努力で稼ぐってこと。この学校は、そういう価値観を持ってる人とつながれるように、他人を見下さない人向けだ。」


「欲しいものを努力で得る価値を教える学校。なるほど。」


「まあ、ただの推測。他に知らない理由があるかも。知ってるのは、エリート校で、技術や知性のある人が卒業するってこと。退学率が高いから、俺の興味を引いた。」


「うわ、退学。学歴にでかい汚点。ふふ。君、すでに汚れてるけど。」


「いや、学年落としたことない。小学校の後、2年間学校行かなかったけど、キャンプにいたから。落第はしてない。」


「え? 賢い子。他の学校に入るのに金使って学年落とさないようにした?」


「いや、正式な退学じゃなく、転校させて本当の退学を避けた。」


「それ、ズル! 君の家、社会的地位を利用しないって思ってた。」


「親じゃない。俺が校長を脅してやらせた。」


「脅、脅迫?」


「調べ上げて、犯罪の証拠集めて、公表するって脅した。金があれば、最高の探偵雇える。」


「…サイク、金持ち怖い。」


「俺を怖がるな、ユキ。学歴守るためだった。」


「そ、その話やめよう。2年も続くキャンプって何?」


「まあ、比喩だよ。ノビックのパンデミック覚えてる?」


「パンデミック?」


「5年前だから、君が死んだ後だろう。空気感染の病気で、肺が閉じて呼吸困難、腹痛、めまい、発熱とか。隔離が宣言されたとき、両親、母の友達の家族、犬、俺が、休暇で古代文明の遺跡見に第三世界の国にいて、そこで足止めくらった。たぶん… オンペルクK56(ペルー)ってとこ。」


「うん、知ってる! 8歳のとき、母と行った。隔離中、勉強できなかった?」


「オンライン授業はあったけど、隔離中にそんな勉強嫌だった。両親を説得して、隔離が終わるまで学校待って、その間自分で勉強するって。学校生活無駄にしたくなかったから。両親は、ちゃんと自分で勉強するならって認めてくれた。残念なことに、その犬が俺を真似して、2年間のバケーションを台無しにした。ずっとそばでウザかった。」


「犬?」


「子どもの頃、俺をいじめた女。話したくない。」


「ふふ。君みたいなやつもいじめっ子いたんだ。想像もできなかった。」


「その女、母の友達の娘で、母の友情壊したくなかったから、反撃しなかった…」


足音が聞こえて止まった。止まった瞬間、男のグループが通り過ぎて角を曲がった。ぶつかりそうだった。余計なトラブルは避けたい。早く家に帰りたい。


「ケブス、ケブス、俺にもくれよ!」


「おい、俺の! だから自分で買えって言っただろ!」


「ケチんな、くれよ!」


「俺も欲しい!」


「これ以上デブにならないためだ!」


「うん、うん、君のためだ! くれ!」


「わ、わかった、揺さぶるのやめて!」


…うわ…


「ふふ。嫉妬してる、サイク?」


「嫉妬?」


「デブでブサイクなやつがハーレム作ったんだよ。ハハハハ!」


「恋愛に興味ない。ただ、こんなやつが女に囲まれてるの見て驚いただけ。たぶん利用されてる。」


「金目当てで近づいてる。認めたくないけど、かなりありそう。あの男、めっちゃブサイクでデブなのに、女の子たちは可愛い… まあ、一人、太っててちょっとブサイクな子いるけど。」


歩き続けて、道を渡った。


「ユキ、見た目で人は決まらない、忘れるな。でも、この社会がめっちゃ見た目を気にするのは否定できない。見た目は社会で大事だけど、俺は性格の方が好き。人を見た目で判断すべきじゃない。」


「はい、はい、人生の教訓ありがと、パパ。」


「兄貴の方がいい。」


「可哀想、利用されてるね。」


「もしくは、本当に友達で、ちゃんと友達として見てくれるのかも。知らないのに判断すべきじゃない。興味ないから、考えないけど。」


「うん、そうだね。」


あ、店。キャンディー買う時間。


通りでケンカしてる子たちを無視して店に向かった。


「昼間っからケンカって野蛮。でも見て、サイク、あの男、一人で3人もやっつけた!」


うん、すごいけど、俺もできる… 嫉妬した? ユキに愛着湧いてきたかな。


「今、謝れ」と、通り過ぎるときにその男が言った。


首をつかんでる相手に言ったから、俺は歩き続けられる。


「み、許してください、カエコ、またやりません!」


「その方がいい。」


彼を放して、歩き去った。


うわ、うわ。認める、スタイルあるね。女にモテるタイプかも。イケメンで喧嘩もできる。マジで女殺し、たぶん。ユキも見つめてる。


「うわ。ほとんど傷ついてない。ね、サイク、喧嘩できる?」


「まあまあ。ところで、ユキ、今日、よくやったな。」


「うん! めっちゃ頑張った! ふふ。知ってる、知ってる、すごいでしょ。家で俺にひざまずいて祈ってもいいよ」と、腕組んで胸張って誇らしげに言った。


謙虚さどこいった、ユキ? まあ、冗談だから、許す。


「はい、はい。」


頭をなでた。


「キャンディー、値するよ。」


「キャンディー…」


よだれ垂らしてる。うわ。めっちゃ可愛い。超かわいい。


コンビニに入って、キャンディーめっちゃ買った。少なめに買うつもりだったけど、ユキの可愛さに負けた。


袋持って店を出たら、イケメンがボコったやつらがびっこ引いてる。うわ、うわ。


ま、興味ない。


「ひ、一つ取っていい?」


「キャンディーが浮いてたら、みんなビビる。もう少し待って、すぐ家だ。」


ユキ、俺の腕につかまって歩いてる。なんで浮かばなくなった? 俺といて安心してるのかな。


ボコられたやつ見て怖かった? うん、幽霊でも、ちっちゃい女の子だ。


心配すんな、ユキ、誰も君を傷つけさせない。俺といつも安全だ。


だって、君は今、俺の唯一の家族だ。俺は君の… いや、君の唯一の家族じゃない。君にはまだ母さんがいる。


母さんの居場所を調べてくれって頼まれたけど… 本当のこと言った方がいい?


昨日、情報見つけたけど、言うべきか… いや… サイク、彼女は知るべきだ。偽りの希望を与えるな。信頼を得たければ、正直でなきゃ。母さんのこと、隠さない。


「ユキ、君の母さん調べた。見つけたよ。」


「見つけた?! どこ?! 会いに行ける?! 母さんに見えるようにできる?!」


母さん見つけたって聞いて、めっちゃ興奮して喜んでるけど、長くは続かない。ごめん、ユキ、完全に正直に言うよ。


「ユキ、聞いて、母さんは生きてる、でも… 聞いて、これから言うのは受け入れるの難しいけど、本当のこと。」


「サイク、怖いよ。母さんに何があったの?」


「刑務所にいる。読んだ限り、麻薬取引や殺人みたいな違法なことに絡んでた。たぶん、君は復讐で殺された。母さんがライバルグループの誰かを殺して、その報復で娘を殺したんだ。だから、君を殺したやつは何も盗まず、襲わなかった。時間なかったか、そいつがそんな変態じゃなかったんだ。」


「…」


静かになって、歩きながら地面を見つめてた。


涙… 泣いてる…


「うん、受け入れるの難しい、わかる。時間かかるけど、俺、そばにいるよ、ユキ。見捨てない。」


「ママ… なんでそんなことしたの?」


「彼女の選択を判断する権利はない。たぶん、強制されて、君か彼女が殺されるのを恐れて抜け出せなかった。事情知らずに母さんを憎まないで。君、母さんのいいこと話してたよね。その思い出を大事にして、これで母さんの見方が変わらないように。」


ユキは頷いた。


「うん、わかってる…」


少しでも元気になってほしくて、頭をなでた。


「俺が面倒見る。兄貴みたいに思ってもいい… か、パパでも。好きな方で。俺は君の家族、君は俺の家族。」


「ふむ… ダメ。兄貴には見えない。成熟してないし… もっと笑ってよ。」


「君には幼すぎるか。」


彼女の顔に笑顔が浮かんで、俺を見上げた。


「でも、最高で唯一の友達って思えるよ」と、でかい笑顔で言った。


「友達… それもいいね。」


心の悲しみを隠してる。


悲しみを隠して、笑顔で進み続ける。


君の母さん、直接知らないけど、君を立派に育てた。恨みや憎しみを君に持たせなかったから、母さんは君を傷つけなかったと思う。いい母さん… 状況が残念だけど、できるとき、君を連れて会いに行くよ。


「家族じゃないから訪問できないけど、君が見えて話せる方法はある。」


「ありがと、でもまだ。今じゃない。数ヶ月後かな。まだ準備できてない。」


「わかった、事前に教えて、準備するから。」


「ありがと。」




家に入って、キャンディーをテーブルに置いた。


「よし…」


手を合わせて目を閉じた。


「このキャンディーをユキの魂に捧げる。ユキ、受け取って…」


目を開けて、テーブルに座った。


「できた、食べていいよ。」


「まだびっくりする、こんなのできるなんて。」


ユキはチョコバーつかんで、ガツガツ食べ始めた。


「美味しい!」


めっちゃ可愛い。早く元気になってほしい。


いまやったのは供養ってやつ。亡魂に物を捧げる伝説や伝統がある。それをやった。キャンディーをユキに捧げたら、彼女はそれを取って食べられる。俺の力で触れるようにしてるから、味を楽しめて、チョコを消化してる気分になれる… つまり、物理的な体があるみたいに。残念ながら、そのチョコ、いつかは出なきゃいけない。この能力の欠点の一つ。


「そういえば、サイク、今日、幽霊見なかった。なんで?」


「前に言ったろ、みんなが幽霊になるわけじゃない。」


幽霊がどこにでもいるって思うけど、そうじゃない。ごくわずかな人だけが幽霊になれる。


ユキはそんな稀なケース。


殺されて、生き続けたいって後悔したから幽霊になった。めっちゃ痛いプロセスだけど、だからこそ、本当に生きたくてその痛みを耐えた人だけが幽霊になる。


でも、殺された人みんなが幽霊になるわけじゃない。ある程度長く生きた人は、殺されても幽霊にならない。子どもの幽霊の方がよく見る。


幽霊が少ない理由は、忘れられるから。


「ユキ、幽霊は忘れられると消える。死者が幽霊になるのはめっちゃ稀で、なっても、家族や友達に覚えられてる間だけ幽霊でいられる。忘れられたら、幽霊じゃなくなって、天国か地獄に行く… って、他の幽霊から聞いた。」


「じゃ、じゃあ… 私、消える?」


「今は大丈夫だと思う… 俺、君のことしっかり覚えてるし、君の母さんも。母さんか俺が生きてる限り、君は幽霊のまま… それがいいか悪いかはわかんない。」


「いいよ! ユキ、もう一人じゃない! 君が年取って死ぬまで一緒にいるよ! 心配しないで、信頼のユキ、動けなくなったらお風呂入れてあげる。ふふ。」


もう一人じゃない… また一人になるのが怖いんだね、心配すんな、ユキ、俺は君を見捨てない… まあ、少なくとも勉強中は。卒業したら、君の家を見つけるよ、だって俺… ああ… 本当にそうする? まだ決めてない。寝て考える。


「…それは気まずい。遠慮しとく。」


「ふふ。恥ずかしがってる?」


「別に。」


「ぶー。笑わせられない、冷たいやつ。」


「ごめん。」


キャンディーつかんで、包みを開けた。


「でも、さ… 君、楽しくて可愛い子だ。死ぬまで一緒にいても悪くないかも。」


「…え? な、変なこと言わないで?!」


ああ、顔赤くなった。なんで? いいこと言って恥ずかしかった? 女の子ってそういうの好きだと思ったのに。


「君、俺のメイドみたいになるね。」


ユキ、怒って睨んできた。あ、冗談って気づかなかった。


「冗談… でも、皿洗いや洗濯くらいはやってくれよ。タダ飯食いじゃないから。」


「ま、まあ、それは公平だ。君の家だもんね。」


「俺たちの家。」


「え?」


テーブルから立ち上がって、頭をなでた。


「前に言ったろ? 俺たち、家族だ。この家、君の家でもある。ビデオゲームやるぞ。」


「う、うん… ありがと。」


家族… そんな存在が恋しかった… 信頼できる誰か。

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