教会での生活
「こちらが聖女様のお部屋になります」
案内されたのは城には及ばないまでも豪華な部屋だった。
神官たちはいい暮らしをしているようじゃのぅ。
「聖女様にはこれから聖務をしてもらうことになりますが、それ以外はこちらでお過ごしください」
「聖務とな?」
「はい、毎日の祈りの他に、礼拝者への祝福をしていただきます」
「マジか」
「ええ。マジでございます」
祈りはともかく礼拝者にいちいち祝福を与えていたらとんでもない数になるんじゃないか…?
わしが教会にいるという話は遅かれ早かれ広まるじゃろうし……
ところがこのわしの予想はいい意味でも悪い意味でも裏切られた。
今日のところは移動で疲れているだろうということで聖務の翌日からになった。
翌朝わしは年を食った神官に起こされた。
「なんじゃの?朝飯かの?随分はやいのぅ…」
「聖女様朝のお祈りの時間でございます」
神官は言った。
祈りの時間は長かった。体感で30分くらいかの。
ユウクアウラヌスめを称える言葉をつらつらと吐く羽目になった。
ぐぬぬ。思い出しただけでも腹立たしい。
お祈りを済ませた後朝食になった。そこでもまたユウクアウラヌスを称える言葉を言わねばらなかった。
なぜ飯を食うだけで彼奴に感謝せねばならんのだ……
わしはその後しばらく暇になった。
なので礼拝堂の様子を見に行くことにした。
じゃが、途中で思い改めた。礼拝堂は居住区から見ることが出来たのだが、
礼拝堂へと続く道に人々が長蛇の列をなしていたのだった。
「こ、これはまさか全員に祝福を与えねばならんのか……?」
と、そこに一人の神官が現れた。
「聖女様。こちらにおられましたか。聖務のお時間でございます。無垢なる民に祝福をお与えください」
ぎくっ。
「わ、わしちょっと用事を思い出したのじゃ……」
「いけません。面会室はこちらです。ご案内します」
「面会室じゃと?礼拝堂ではないのか?」
「はい。面会室です」
わしは面会室とやらに連れてこられた。
そこには何やら金持ちらしき服装の男がいた。
「おぉ。聖女様。どうか私めに祝福をお与えください」
読めたぞ。これは寄付金集めの一環なのじゃな。
おそらく高額の寄付をした者だけがわしの祝福を受けることが出来る。そういうからくりなのじゃろう。
まぁよい。中世?社会の教会などこんなものじゃろう。
わしは祝福を授けた。といってもちょっと数日体の調子がよくなるとかその程度のものじゃ。
「おぉ。体が軽い!まるで若返ったようです!聖女様、ありがとうございます!」
「うむ」
金持ちは喜びかえっていった。
そして次の客(金づる)がきた。
今度は商人風の男だった。
わしはさっきと同じように祝福を与えた。
男はさっきの金持ちと同じように喜び帰っていった。
そうしてさらに数人の人間にわしは祝福を与えた。
その語昼飯を食うた後。またしてもお祈りの時間になった。
「またかの。めんどくさいのぅ…」
その後またしばらく暇になった。
「聖女様。聖務の時間です」
そしてまた呼び出された。
聖務と言いう割にはやってることは悪徳な金集め。これでは聖女も形無しじゃの。
教会での生活は基本的に暇だった。
一日3度のお祈りに、午前午後併せて十数人程度に祝福を授けるという感じじゃ。
それ以外は暇だった。
わしはさっそく後悔した。わしは退屈も面倒事も嫌いなんじゃ。
そういうのは下々の人間がやればいいと思う。
これというのも全てユウクアウラヌスが悪いのじゃ。
そして数日が過ぎた頃わしは我慢の限界を迎えた。