卒業式後 ボクとキミの一幕
澄み切った青空。3月の暖かい日差し。
ボクは屋上から、左胸に黄色のコサージュを付けた、生徒の波を眺めていた。
「えっと……。あ、いた」
中庭で、友人と楽しそうに写真撮影をしているキミを、ボクは発見した。
厳かな卒業式を終えた後の穏やかな時間。ゆっくりと流れる優しい刻を、今日この学校を巣立つ生徒達は満喫している。しかし、これは一時的な夢に過ぎない。数時間もすれば、しゃぼん玉のように消えてしまう。だからボクは──
「電話しよっと」
ボソッと呟くと、ボクはキミに電話をかけた。キミをこの屋上へと呼び出して、告白しようと思って。
「電話? げっ……」
キミは無情にも、ボクからの電話を切った。その表情は、随分とげんなりしている。
諦めの悪いボクは何度もキミに電話をかけたが、その度に電話は切られた。そんな攻防を随分と行った後、キミの鋭い視線がボクを捉えた。
「ちょっと! 何度も電話しないでよ! こんな近くにいるんだから、用があるなら直接言いなさいよね!」
「え〜? だって、電話で呼び出したくてさぁ。屋上に来てって」
「屋上って! 本物に失礼だから、そこを屋上と呼ばないでって、そう何度も言ってるでしょ!」
キミは力一杯叫んだ。そんなに大声でなくても、十分聞こえるのに。
とにかく土地が広い。それだけが、この学校の誇りであった。広い土地を活かして、校舎は全て1階建て。上下運動をしなくて良いのは、学校生活を送る上で大きなメリットであった。しかし今は、その利点がとても忌々しく感じた。
ボクは窓から青空を見上げて、そして溜息を吐いた。ボクが屋上だと言い張るこの場所は、体育館の2階部分であった。ボク以外の生徒からはギャラリーと呼ばれている。校内で1番標高の高い場所だが、空はボクから随分と遠かった。
「ちょっと!」
「あれー? 来てくれたんだ?」
「こ、ここに……来てほしかったんでしょ!」
キミは、息を切らしながら言った。そして、ボクからぷいっと顔を背けた。キミの赤く染まった耳を見て、ボクは微笑みを浮かべる。
キミは理想の告白を、友人に話していたよね。確かハマっている漫画に、屋上での告白シーンがあったとか。出来るだけキミの理想通りに、告白したかったんだけどなぁ。
「なにぼーっとしてんのよ! 言いたいことがあるなら、早く言いなさいよね。わ、私も暇じゃないんだから!」
ボクは歩みを進めた。キミの目前まで。黄色いコサージュが、小さく揺れた。
この穏やかなヒトトキは、間もなく終わってしまう。それでもボクとキミの時間は、いつまでもいつまでも続いてほしい。
ボクはひとしきり祈り終えると、1つ、深呼吸をした。




