ファームのSEXシステム
「それじゃあ、二人が気になってるSEXのシステムだけど……」
涼子は、二人が最も聞きたいであろう話題から話し始めた。
「まずは、ファームにおいて、SEXする男性側のことをサイヤー、女性側をブルードメアというから覚えておいてね」
「柊さん……さっき、ブルードメア採用担当って……」
「そうね。つまり私は女性側を見つけるのが仕事ってこと。ちなみに、サイヤーは種馬、ブルードメアは繁殖牝馬のことよ」
「馬…なんですか?」
思ってもみなかった方面からの話に、迅はすこし戸惑う。
「あんまり良いイメージがないかもしれないけど、ファームのシステムはサラブレッドの繁殖がベースになっているの」
「だから、ファーム……」
「そうね。サラブレッドは牧場で生産するってこと」
「人間を家畜と同じように扱うってことですか?」
迅は少し不機嫌に反応する。
「ま、そういう反論はよくあるけど、この国の現状が、そんな建前を気にしてられないほど、かなり危ない状況ってことね」
「そうだよ、迅。今は柊さんの話を聞こうよ」
「……すみません。続けてください」
「はい。じゃあ続けるわね。まず、桐生さんが春からココに所属した場合、すぐにSEXをさせられる訳ではないの」
「え?そうなんですか?」
迅の目に輝きが戻る。
「そう。正確には、SEXしてもいいし、しなくてもいい。桐生さんは、大学に進学希望だったわね?」
「はい。星林大学に受かっていれば、ですが」
ほぼ100%受かってるとは思うが、一応謙遜して陽菜は答えた。
「それなら、四年間はSEXしなくてもいいの。在学中に妊娠したら困るでしょう?」
「そうですよね!休学しなきゃいけないもん!」
俄然、鼻息を荒くする迅。
「そう。もし休学したとしても、それ以降はほとんど妊娠してる状態が続くから、大学に復帰できるのは10年以上後になるの」
「例えば、浪人や留年しちゃった場合はどうなるんですか?」
「その場合は、その都度申請してもらって、委員会の方で判断するわ。1年くらいの延長は可能だけど、2年は厳しいわね。大学院の場合は修士まではOKで、博士はNGね」
「医師は?」
「医師は、実質NG。正確には、六年間で医学部卒業は可能だけど、それ以降の研修期間が必要だから」
「それって、職業選択の自由とかに反さないんですか?ファームに入った時点で医師になるのは諦めてってことですよね」
「そうね。でも、フルタイムの正社員で働いている人が、医者にもなりたいですって言ってるのと一緒よね。それが嫌なら、ファームを出て医者を目指せばいいだけだもの」
「あ、そうか」
「就職先が企業じゃなくてファームということ。そして、その仕事が子作りと子育て、と思ってくれればいいわ。あくまで大学に通うのをOKしてるのは、後々子育ての役にたつっていう判断からなのよ」
「……その後は、SEXしまくる感じですか?」
「ふふふ、そう、しまくり」
迅の興奮を感じとると、涼子は若干のいやらしさを込めて微笑んだあと、冷静に続けた。
「といっても、妊娠期間はできないし、妊娠していない期間も自分の体調に合わせてキャンセル可能。あまりにもキャンセルが続けば、医師の診断を求めることもあるけど。それは、一般の企業に就職するのと同じでしょ?」
「それで……誰とSEXすることになるんですか?」
1番肝心な話になかなかならず、陽菜はすこしイラついているようだ。
「あぁ、マッチングね?マッチングには、個人の希望を踏まえた上でAIが判断するわ。男性側、つまり種馬の中から当日割り当てられるの」
「当日ですか?」
「そう、実際には、ドアを開けるまで誰かは分からないわね」
「それ、結構怖くないですか?乱暴な人だったら嫌だし」
陽菜の一番危惧する点は、そこだった。
——SEXするのは構わないけど、乱暴されるのは嫌
それは、女性誰しもが抱く感情であり、陽菜以外の候補者からも必ず聞かれる質問であった。
「それは……まあ、実際やってみないとわからないと思うけど、そんなことはありえないのよ」
「え、なんでですか?」
「まず、SEXした翌日マッチング相手の詳細なレビューを提出しなきゃいけないの。もし乱暴なことをしたら、自分の評価が下がって、最悪の場合、ここにいられなくなるわ」
「それは、男性側も女性に対して評価するんですか?」
「もちろん。男性だって、あんなこともこんなこともしてくれる、積極的な女性の方が嬉しいでしょ?ね、桜井君?」
「そ、そうっすね……でも、エッチが下手って言われたら立ち直れないかも……」
「一応、AIの判断材料になるだけで、自分の評価は見れないから、次の日に評価を見て落ち込むってことはないけど、あまりに酷かったら、改善を求めることはあるかもね」
「ある日、呼び出されるってことですか?怖ぇ〜」
「まあ、そうだけど、でも、そんなことはほとんど無いの」
「ホントですか?」
「だって、基本的に男性の方は芸能人かってくらいイケメンだし、その上SEX講習を受けてて、実技試験に合格してる人達なのよ。今のところ全員がほとんど満点近く評価されてるんだから。私だって本当は……」
「え?」
「いえ、なんでもない。……それに、部屋にはAIカメラが付いてて、なにか乱暴されたらアラームが鳴るようになってるから、評判のいい人がいきなり乱暴になることも考えにくいのよ」
「え、部屋にカメラがあるんですか?誰かに見られてるってことですか?」
焦る陽菜。性被害を抑える為とはいえ、自分のSEXしてる姿が残るのはさすがに容認できない。
「いえ、カメラはAIが搭載されたスタンドアローン型で、ネットワークには繋がってないの。何かあった場合は大きな音でアラームが鳴るだけ。その音を部屋の外で感知して、警備室に連絡が行く仕組みなの」
「……まあ、それなら、安心かも」
「あと、一番の安心できる理由は、男性が種馬になるために、莫大なお金を支払ってるってこと」
「莫大って……どのくらいなんですか?」
「年間6000万円。つまり、月額500万円」
「500万!20代で、そんなに出せる人いるんですか?」
陽菜も、男性側にお金がかかるのは知っていたが、さすがに月額数十万程度だと思っていた。
「もちろん、個人で支払える人はほとんどいないわ。ほとんどが、身内や企業に出してもらってるの」
「え?身内は分かるけど、なんで企業が出してくれるんですか?」
「企業側にメリットがあるからよ。具体的には、将来の人材確保ね」
「それって、子どもってことですか?」
「そういうこと」
「まさか、子種を残せば残すほど、その子が自分に出資してくれた会社に入るってこと?そんなの、その子の人権的に問題なんじゃ……」
「うーん、そう思いたくなるのも分かるけど、違うわ。ファームは基本的に関わった人が幸せになるようにできてるのよ。血やDNAは関係なく、あくまで就職先もマッチングなの。企業側が得られるのは、枠だけ」
「推薦枠が与えられるってことですか?人気のない企業だったら、行かない人もでそうだけど……」
「正直まだ先の話だから、どうなるか分からない所あるわ……。でも、他の就職先より幹部候補として就職できる先があれば、入りたいって思わない?」
「幹部候補……それは思うかも……」
「ファームの教育って、莫大な予算を使った最新の教育法を取り入れているから、どんなにお金持ちの親が個人で良い学校に入れて、良い習い事させるよりも、優秀な子供が育つ可能性が高いって期待されてるのよ」
「生まれながらにしてエリートってことですか?」
「そう。選抜された優秀な親から産まれた優秀な遺伝子を持った子供が、最高の教育を受けるんだから……。私たちスタッフの予想では、今から20年後以降は、この日本のファーム出身者が各業界を席巻していくと思ってるの」
「思ったよりも、壮大な話なんですね……」
「そうね。私は、今の日本を立て直すにはこの方法しかないって思ってる。だからここで働いているのよ」
涼子の瞳からは、覚悟と希望が感じられた。
確かに、少子化の問題を解決する為に、優秀な人間を安定的に生み出せるこの方法は理に適っている。ただ、なんとなく心がザワザワするのは何故なのか。
——陽菜が他の男とSEXするのが嫌だから
迅のこの単純な嫉妬心は当然としても、他にも、別の要因が隠されている気がするのだった。
「で、話を戻すと、莫大なお金かけてもらってて、美女とSEXしまくれて、そんな環境を捨てるような真似をする男がいると思う?」
「あ、乱暴する人はいないって話ですね」
「そう。だから、桐生さんが危惧してることは当然なんだけど、そんな当然でるであろう問題は流石に対応済みなのよ」
つづく