好き。
夜想
猫だけが好き
なにをしても好きにならない
おまえのことなんて、もうにどと
猫だけが好き
あとは知らない
あたしは人間だから
世界のことをかたったりする
なにも考えてないくせに
世界がそこに無いのなら
猫だけが好きな
あたしはガラスの花も好き
そして
猫だけがいちばん好き
になる
たとえば
おまえが猫じゃないくせに
猫があたしを好きだというのなら
猫はそんなカンタンな猫じゃなく
あたしの首筋に牙を立てる
吸血猫だったりするのかも
そんな猫だから
猫だけがいちばん好き
でもガラスの花も好き
なんだけど
猫は猫だから
猫でしかないから
そっと世界に身を守ってもらって
生きてゆくしかないから
世界がやさしい空気じゃなかったら
生きてゆくことが
辛くもなるかもしれない
あたしは人間だから
なにも考えずに
ずんずん歩いてゆけたりする
すこし引きつるほど
ガサツな声と歩き方で
おまえのことなんて、もうにどと
好きにならないなんて
じぶんのこころを
知ったかぶりでかたる
三日月よりも細くちいさい
ガラスのカケラみたいな月が
今夜は空に刺さっていて
きっとその狭い狭い月面には
触れれば砕けるだけみたいな
ガラスの花が咲いている
よる想うのは
あたし、猫だったら
どんなに嬉しかっただろうか