魔法の授業〜魔力感知編〜
いよいよ魔法の授業です!
そこから、約束通りオルクス先生は今の私のレベルに合わせた授業をしてくれた。
授業といってもまだ6歳なので、週に3回2時間程度やるだけだ。これから徐々に増やしていくらしい。
ただ、算術に関しては、この世界の文明だと遅れているようで、すでにアカデミー高等科卒業レベルまで達しているので教えることがないと言われた。
その分授業時間が余った訳だが、代わりに魔法の授業を強く強く勧めておいた。
あまりの熱量にオルクス先生が少し引いていた気がするが、私はもう待ちきれないのである。せっかくファンタジー世界に生まれたというのに、6年間も私は大人しく待っていたのだ。むしろ褒めてもらいたいくらいだ。
そして、待ちに待った今日!ついに魔法を教えて貰えるのである!
私は朝からソワソワと落ち着きが無かった。
オルクス先生が来るまで部屋の中をウロウロ歩き回っていたが、先生が来た後、私はなにやら真っ白な部屋に連れて行かれた。
だだっ広い部屋で、遠くに的なんかも見える。
「先生、ここはどこですか?」
「王族用の魔法修練室です。とても頑丈に作られていて、軽い爆発程度ではびくともしません」
「へぇー」
「王族の魔法は威力が高いですからね。普通の魔法でも下手をしたら部屋を壊しかねないのに、魔力暴走でもしたら城を吹っ飛ばしかねません」
「王家の魔眼……ですか」
「ええ」
今世の私の容姿は、母譲りの艶やかな黒髪に、父譲りの碧眼で、とんでもない美少年だ。 どのくらい美少年かというと、あまりにも整いすぎていて人間味が無く、自分でも時々鏡を見ていると人形なのではと思うくらいには美少年だ。
その中でも特に目を引くのが瞳だ。
私の瞳は、銀色の光がまるで星雲のようにキラキラと光っている。一つ一つは細かい光の粒子が、ゆらゆらと不規則に瞳の奥で煌めいているのだ。
王家の直系だけが受け継ぐ魔眼で、まるで瞳の奥に星空が広がっているかのように見えるため、星眼と呼ばれている。
星眼は王家の象徴であり、歴史だ。王家の誕生と共に現在まで脈々と受け継がれ、人々は星眼の美しさに魅了され、崇め、そして畏怖してきた。
父や兄もこの瞳を持っている。
最初に鏡でこの瞳を見た時は、少女漫画の主人公並に瞳がキラッキラ光っているので、何事かと思った。
「王家の魔眼…星眼は、魔力量の多い魔法を行使すると、その属性の色に瞳の中の光が染まり、魔法の威力を増大させます。また、魔力の量や属性を視ることができます。そのため、普通の魔法使いなら経験などから肌で感じる相手の魔力量や親和性の高い属性などを、正確に知ることができるのです」
「魔法威力の増大と魔力の視認ですか。思ったよりも便利な眼なんですね」
魔眼というからにはただ綺麗なだけではないんだろうとは思っていたが、如何せん魔法関係の情報は制限されていたので、そんな凄いものだったとは知らなかった。
「ヴェルトラウム王家の方々は、皆総じて優れた魔法使いでいらっしゃいます。ユーリエル殿下も、優秀な魔法使いへと成長されることでしょう」
私も優秀な魔法使いになれるのだろうか?
……いいや、せっかく異世界に来たんだ。思う存分魔法を楽しんでやろうじゃないか!
「では、本日はまず魔力を感知するところから始めましょう。私の魔力を殿下に流しますので、殿下は集中して魔力の流れを感じ取って下さい」
オルクス先生と両手を繋ぐと、そこから何か暖かいものが私の体の中に流れ込んでくるのが感じられた。
これがオルクス先生の魔力だろうか?
「……暖かいものが流れ込んでいます」
「それが私の魔力です。これで魔力の感覚がなんとなく分かったと思います。では、次は自分の中にある魔力を感知してみましょう。集中して、今感じた力と似た力が自分の中に満ちているのを感じてください」
目を閉じて自分の体の中に意識を向けてみる。オルクス先生の魔力と同じものが私の体の中にあることを想像して、体の隅々まで感覚を広げるが、いまいちよく分からない。
……。
…………。
………………………。
5分ぐらい経っただろうか?
なんとなくお腹の奥から暖かいものが湧き上がっているような感覚がある。
そこに集中して意識を向けてみると、今度ははっきりとオルクス先生の魔力と似た、しかし微妙に違う力が感じられた。
「これが私の魔力でしょうか?自分の中にさっきと似た暖かい力が感じられます。しかし、微妙に違うのはなぜですか?」
「おや、思ったよりも早かったですね。私の魔力と微妙に違うのは、人によって魔力は千差万別だからです。魔力は血縁関係にある親子や兄弟に似ますが、全く同じ魔力というのはこの世に一つとして存在しません」
前世でいうところのDNAみたいなものだろうか?
「しかし、こんなに早く自分の魔力の感知ができるだけでなく、私の魔力との違いまで感じられるとは。魔法使いとしての将来が楽しみですね」
「大袈裟ですよ。普通はどのくらいかかるものなんですか?」
「そうですね……。適正の高い子でも5日はかかるかと。苦手な子は一年かかったという話も聞きます。他人の魔力の感知はどの子もすぐにできます。自分の中に異物が入ってくるわけですから。感知するのは容易い。しかし、元々自分の中にある力を感知するというのは難しいのです。自分の中に力がある状態が普通なのですから。普段、自分の心臓が動いているかなんて意識しないでしょう?それと同じです。胸の上に手を当ててみて、初めて心臓が常に鼓動していることに気づく」
「私も最初は全く自分の魔力の感覚が分からなくて、このままずっと分からないままかと思いました」
集中しても集中しても全く魔力の感知ができない上に、目に見える成果がないから、このまま一生分からないままなんじゃないかという考えが一瞬頭をよぎった。
「殿下くらいの年頃の子供にとって、魔力感知はとても苦痛を伴うものです。動きたい盛りの、集中力なんて無いに等しい子供に、何もせずに集中していることを強いるわけですから。まぁ殿下は子供とは思えない集中力であっさり習得できてしまったわけですが、普通の子供は魔法を学ぶ上でこの魔力感知が最大の鬼門となります。先ほど一年かかったという話を聞いたと言いましたが、それは取り組んだ場合です。結局、感知する作業が嫌で取り組まずに、成人間近になるまでできなかった人もいます」
「そんな人もいるんですか……」
オルクス先生、さらっと要求していたが、魔力感知、鬼難易度だったらしい。
「ちなみにオルクス先生はどのくらいかかったんですか?」
「私は2日かかりました」
あれ……?さっき適正の高い子でも5日はかかるって言ってなかったか?
私の物言いたげな眼差しにオルクス先生は爽やかな笑顔で答えた。
「私、こう見えても結構すごい魔法使いなんですよ?まあ、陛下には及びませんが」
オルクス先生、実はすごい魔法使い、らしい。