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SIDE カルム・オルクス

オルクス先生視点です。

私は王子の部屋を出て、そのまま王の執務室へと足を運ぶ。

「失礼いたします。オルクスでございます」

「ああ、オルクスか。何用だ?」

「第二王子殿下の初の授業が終了いたしましたので、ご報告に参りました」

「そうか!ユーリエルの様子はどうだった?」

王はペンを動かしていた手を止め、早く聞かせろと言わんばかりに身を乗り出す。

この愛妻家で子煩悩な王様は、二人の息子のことをとても気にかけていた。

「申し訳ありませんが、お人払いをしていただいてもよろしいでしょうか?」

「……わかった」


部屋の中にいた護衛が外に出ていき、中には王とオルクスの二人だけとなった。

「……陛下が第二王子殿下はご聡明だと仰っていましたが、まさかあれほどとは、私にも予想外でした」

「そうだろうな。あの歳で信じられない程に聡い。親の私でも驚かされることがよくある」


王宮では、第二王子殿下はとても聡明だという噂が流れていた。

とは言っても、第一王子の時もそうだったし、元来の性質か、はたまた代々優秀な血を取り入れてきた結果か、もしくはその両方かは知らないが、王族は皆、総じて早熟だ。

新しい王族が誕生する度に似たような噂が流れてきたので、オルクスも噂は当然のこととして受け入れていた。

しかし、自分を第二王子殿下の家庭教師にするとはどういうつもりか。

王族が早熟とはいえ、他人より成長速度が少し早い程度。まして相手はまだろくに教育を受けていない6歳の子供。専門的な知識を教えるのならば自分は確かに適任であろう。しかし、一から文字や計算を教えるのには向かない。

オルクスは本来、王子がもっと成長し、勉強の土台が出来上がってから家庭教師に着く予定だった。


「周囲をよく見ていますね。さりげない気遣いもできますし、人当たりも良い。とても6歳の子供がとる態度ではありません」

「ああ。他人を思いやれるとても優しい子だ。この前なんか政務で少し疲れていた時に『父上、少しお疲れではないですか? 少し休まれたらいかがですか?』って心配してくれたんだ!」

「お疲れなことに気付いたのですか!?」

「ああ。夕食で家族団欒の時間だったから気が抜けていたのもあるが」


王は、人前では弱った姿を見せない。王族として、幼い頃からそう教育されてきた。王がまだ王太子の時、学園に入った時からオルクスは側近と呼べる人間で王の手駒の一つだ。

ずっと他の側近たちと共に王を支えてきて、宰相補佐と言う立場になった今では少しは弱みを見せて私達を頼っていただけるようになったが、最初の頃などは全く弱っている姿を見せなかった。

彼が疲れている姿を見せたり弱音を吐いたりするのは、一人になった時か王妃様の前くらいだ。

それを気が抜けていたとはいえ気付くとは、優れた観察眼を持っているようだ。


「後で理由を聞いてみたら、『父上が好きなはずの肉料理にいつもより手がつけられていませんでしたし、他の料理も胃に負担をかけにような食べやすい料理を多く召し上がっていましたので』と言っていた」

「そうですか……」

「とはいえ、その日はまだ片付けなければならない書類が残ってたから仕事に戻ろうとしたら、『せめて30分だけでも寝てください。効率を上げるためにも、適度な休憩は必要です!』と怒られてしまった。諦めてベッドに入ったら、『国王という重責を担われているのは分かりますが、私にとっての父上は父上一人なんですから、体は大切にして下さいね』って言って額にキスをしてくれたんだ。その後も30分ずっとそばにいてくれて、起きる時も息子の優しい声で目覚めて気分爽快!その後の政務はいつもより遥かに早く終わって久しぶりに妻と夜ゆっくり話せたよ」

「それは良かったですね」


デレっとした顔で幸せそうな顔で話す王。せっかくのイケメンが台無しだ。いつもはかっこいいのに家族のことになるとちょっと残念になるのはなぜだろうか……。

しかし、殿下がそんな些細なことまで見ていたとは。食事の量で気付くとは、さすが家族だな。


「ちなみに、その時にユーリエルに言われたように温かいタオルで目を覆って寝たら、今までにないくらい熟睡できた。あれから疲れてる時にやってるんだが、効果抜群だ。お前も良かったらやってみろ」

それはいいことを聞いた。宰相補佐という立場上、徹夜で仕事をしたり、神経を尖らせて書類と睨めっこすることもあるので今度やってみようと思う。


「それはぜひ今度実践してみるとして……殿下は6歳の子供としては異常です」

「異常……とは?」


さすがは一国を担う者というべきか、先ほどまでデレデレとだらしない顔をしていたというのに、今は為政者の顔になっている。

「早熟という言葉では片付けられないほど優秀でいらっしゃいます。本日家庭教師として伺ったところ、すでに挨拶の作法を知っていらっしゃいました」

「そうか。兄がユーリエルに教えていたようだから、それで覚えたのだろう」

なるほど、あの挨拶はそれで覚えたのか。

「それだけではありません。その後、テストを要求されました」

「テスト?今日は初日だから自己紹介と簡単な内容だけやって終わるのでは無かったのか?」

王が訝しげに尋ねる。

「ええ、その予定だったのですが、殿下の優秀な様子に興味が湧きまして」

「お前なぁ……」


王の呆れた視線が突き刺さる。私が元々こういう性格なのは王も知っているだろうに、それを承知で家庭教師にしたんだから多少は目を瞑ってもらいたい。

「簡単な読み書きや四則計算からアカデミー中等部卒業範囲までの問題を出題しました」

「アカデミー中等部卒業範囲まで出したのか!?流石に解けないだろう?」

「それが解けていらっしゃるんですよ。私も今の実力をはかるために出題したので、解けるとは思っていなかったのですが……」

「解けたのか!?」

「ええ、初等部の内容は出来て当然というような感じでしたね。中等部の内容も危なげなく解けていました」

そうなのだ。殿下は特に苦戦することもなく、涼しい顔で全ての問題を解いていた。

「中等部の内容といえば平民の大人の一般教養程度だぞ!?それも我が国の教育水準が非常に高いだけで、小国なんかじゃ下級貴族に匹敵するんだぞ!?え、我が息子本当に6歳なんだよなぁ!?」

「だから異常だと申し上げたでしょう。物事を多面的に見る広い視野や理解力が必要になってくる地理の問題も深く理解されてましたし、あの様子だと高等部の問題も分野によっては解けるかもしれませんね」

「我が子が賢いというのは誇らしいことだが、ここまで来ると末恐ろしいな…」


「特に素晴らしいのは算術ですね。解くのがとても早い上に、時々面白い解き方をします。計算スピードは私よりも早いですね、あれは」

「お前よりも早いのか!?」

私は宰相補佐という役職についているだけあって、数字にはめっぽう強い。

その私よりも計算スピードが早い上に、アカデミー中等部を卒業できる学力があるとなれば、今すぐ城勤めが出来そうなほどの人材だ。

実際殿下が王子という立場でなければ、喉から手が出るほど私の補佐に欲しい。あの計算スピードがあれば、どれほど仕事の効率がよくなることやら。殿下がいれば徹夜することが大幅に減りそうだ。


「そうか、それほどまでにユーリエルの能力は高いのか……」

「気づいていらっしゃったのでは?だから私を家庭教師にしたのでしょう?」

そう、本来もっと王子が成長してから家庭教師になるはずだったオルクスを指名したのは、他でもない王自身だ。

「予定通りの家庭教師ではつまらないのではと思ったのは確かだが、まさかここまでとは思わないだろう!?」

「まあ、そうですよね」

「親としては嬉しいが、王としては素直に喜べんなぁ。将来、国にとって優秀な人材に育ってくれそうなのはいいが、継承位問題がめんどくさくなりそうだ。我が国は基本的に長子相続。だが絶対ではなく、下が有能ならばその限りではない。第一王子もこのままいけば王の器として十分な人間に育ってくれそうだが、ユーリエルが王位に興味を持てば……。あぁ、大切な息子同士で争うようなことはしてほしくないのだが……!」

「それなら大丈夫だと思いますよ。まあ、今のところはですけど」

「どういうことだ!?」


「テストが終わった後、釘を刺されましたので。野心のなさそうな人物でいれば面倒も減るだろうと言っていましたし」

「釘を刺されたとは……?」

「私のことを警戒していたようで、まあ意訳を言えば「子供だからといって好きに操れると思うな」と。隙のない完璧な笑みとともに」

「その年でそこまでの政治感覚を身につけているのか……」


あの時は背筋が冷えた。優秀だとはいえ、まだほんの6歳。あどけなく可愛らしい容姿とは相反して、まるで社会の綺麗な部分も汚い部分も見てきたような一人の大人と対峙しているような感覚にひどくアンバランスさを感じた。


「まあ、とりあえず王位に興味はないようで良かった。ユーリエルは兄を慕っていたし、このまま成長してくれれば兄弟で王位を争うようなことはないだろう。だが、ユーリエルのことは注意深く観察しておいてくれ。ほんの些細な変化でも報告するように」

「御意」

「はぁ、王とは面倒くさいものだなぁ。息子の成長すら素直に喜べんとは」


気苦労の絶えない王に少しの憂慮を抱きながらも、これからの日々が少し楽しくなりそうな予感に、オルクスは淡い笑みを浮かべた。


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