5 やがてくる戦乱の前の平穏、終わりの見えない戦いの始まり
敵の来襲まで数百年。
縮まる事はあっても、延びる事は無い。
人型兵器の予想はそんなものだった。
それまでの間に対策を立てねばならない。
操縦士は人型兵器の中からこの事を人類に伝えていく。
脳に直接情報を送り込めるのだ。
この機能を使って瞬時に全人類に伝えていく。
2億数千万の人類はまたらされた情報に驚いた。
疑う者ももちろん出た。
そういった者達も、人型兵器が姿をあらわすと納得した。
これ以上ない証拠があるのだ。
信じられなくても信じるしかない。
なお、多くの人間が殺された事は特に問題にもならなかった。
もともと問題を起こしていた連中だ。
消えて安心したという者ばかりである。
生き残りが被害者ばかりというのも大きい。
そんな彼らにとって、危険な存在が消えたのは安心する材料でしかない。
それを行ってくれた操縦士と人型機械には感謝がよせられた。
あえて文句があるなら、「俺の手でやりたかった」というようなものくらいだ。
他の誰かが片付けたのが心残りのようだった。
おかげで多くの者達が操縦士に協力的だった。
人類はやってくる脅威に向けて出来る事を始めていく。
人型兵器から知識を手に入れ、必要なものを作っていく。
効率的に作業を進めるための手順も築き上げていく。
自分達の生死がかかってるのだ。
怠けるような者はいない。
そもそも怠ける者もいない。
足を引っ張る者もいない。
そういう輩は既に死滅している。
生き残ってるのはやるべき事を誠実にやる者だけだ。
人数は減ったが、作業効率は格段に上がっている。
どれだけ人数が多くても、邪魔をする者がいたら意味がない。
作業効率が大きく落ち込み、逆に仕事が進まなくなる。
人型兵器もこのあたりを計算し、「以前の人口よりも今の方が進みが早い」と計算している。
事前に人を減らしたのは正解だった。
そんな人類は二つのものを作っている。
一つは、迫る敵を迎撃するための備え。
もう一つは、地球人類を脱出させる宇宙船。
敵を迎撃して殲滅出来れば良い。
だが、それも難しいので新天地へ向けて脱出する方法も用意しておく。
今度は記録や知識を失わないようにして。
こうしているのは、敵の撃退が失敗する可能性が高いからだ。
文明再建に失敗してるのが地球だ。
それを今からかつての文明と同等の水準まで戻すのは不可能に近い。
だから、地球から脱出して新天地で再起をはかる方がマシだと結論が出た。
それでも迎撃の用意をしてるのは、少しでも脱出の時間を稼ぐため。
あわよくば敵を撃退するためだ。
なんにしろ、少しでも成功率を上げるためである。
操縦士はそういった作業を人型兵器の中から眺めている。
必要な情報を提供すれば、あとはやる事がない。
科学の発展も様々な使節・設備の建築も、宇宙船の建造も。
これらは地球人類全員で行わねばならない。
強力ではあっても人型兵器だけで出来る事ではない。
なので、必要な情報を提供したらやる事がなくなる。
重量物の運搬などで協力する事があるくらいだ。
暇な時間の方が多くなる。
その暇な時間を、操縦士は冷凍睡眠で過ごすことになる。
肉体の老化を停滞させ、長期間の保存をしていく。
こうする事で、操縦士は寿命を大きく延ばしていく。
敵の襲来が来た時に起き上がり、人型兵器で戦うために。
敵に対抗できるのは人型兵器だけ。
その為に操縦士を確保しておかねばならない。
なので、長期的な保存がどうしても必要になる。
子孫を作って残す事も考えたが、敵の襲来までに血筋が途切れる可能性もある。
それを避けるとなると、操縦士を確保しておいた方がよい。
そうして操縦士は文明が発展するまで。
あるいは敵が来襲するまでのほとんどを寝て過ごすことになる。
途中経過を知るために、何年かに一回は起き上がるくらいだ。
おかげで地球の発展を断続的に見る事になる。
操縦士にはそれが急激な成長に見えていた。
その間、操縦士は人型兵器に自動操縦をさせていた。
あらたに生まれて来る者達の間引きを。
かつて自分を虐げていた者達。
社会を損なう者達。
そういった要素を持つ人間がいたら、瞬時に抹殺するようにと。
寝てる間に再び害悪が増殖したらどうにもならなくなる。
文明の発展が停滞し、敵への対処どころではなくなる。
内憂外患のうち、内憂だけは自分の手で処分していった。
おかげで、生まれた瞬間に問題は処分されていく。
残るのは誠実に物事にあたる者だけ。
そういった者達によって、地球文明は着実に発展していった。
そうして数百年の時が過ぎる。
地球はかつての文明に近い水準まで発展した。
既に星系間航海すら可能となっている。
その科学力で来襲する敵の迎撃と、地球脱出を進めていく。
発展しても、現段階ではまだ敵に対抗出来ないと判断したからだ。
人型兵器がもたらした情報、科学知識。
それはかなり追いついてきている。
全体の97パーセントは我が物としていた。
しかし、残り3パーセントがまだ手つかずである。
その3パーセントの差で敵に及ばない。
たった3パーセントの差で敵に負ける。
それが分かってるから脱出を優先していった。
既に地球上に残ってる人類は少ない。
ほとんどが他の星に脱出している。
残ってるのは、最終撤去作業に従事してる者。
防衛のために残ってる者。
そして、例えここで滅びるとしても、生まれ育った地球で死にたいと願った者。
それ以外の多くの人類が地球から比較的安全な他の星へと脱出した。
脱出した者達は、あらたな居場所で文明を発展させていく。
敵に対抗できるように。
反撃して敵を殲滅出来るように。
失うだろう地球を再び取り戻せるようになる為に。
そんな地球文明圏を眺めながら、操縦士は敵の来襲に備えていく。
いまだに地球側の最強戦力である人型兵器。
その操縦士として。
また、操縦士の予備として、念のために子供ももうけた。
幸いにも、操縦士の子供を産みたいという女とも出会えた。
今は子供も三人いる。
家族関係もそう悪いものではないはずだった。
人型兵器の探知能力を使い、相手の気持ちや考えも確認している。
口先だけの「愛してる」ではない。
こういった事も含めて最悪の事態に備えている。
何があっても損失の穴埋めが少しでも楽になるように。
そういった心配をしないで済むのが一番だが。
今はそうも言ってられない。
確実に最悪は迫ってるのだから。
制御コンピューターの軍勢は探知可能な範囲に入ってる。
太陽系の外にまで進出してるのだ。
当然、敵のいる方向に警戒網を敷いている。
監視装置を設置し、絶えず敵の発見につとめている。
その監視装置は既に敵を発見している。
いずれ戦う事になるのは確実だ。
到着まであと数年。
その間に可能な限り戦力を揃えねばならない。
他の星でも生産体制が作られ、兵器の増産に入ってる。
それらも地球に向かっている。
合流すれば迫る敵を少しは食い止める事が出来るだろう。
勝てはしない。
だが、負けもしない。
そんな戦いをまずはしていく。
兵力が優る敵にはそうするしかない。
そうして時間を稼いで更に文明を発展させる。
兵器の質を上げ、敵に対抗できる戦力を作っていく。
負けない状態を続け、勝ち目を少しでも増やしていく。
負けない、負けられない戦いになる。
地球方面に逃れた人類の未来がかかってる。
そんな地球と制御コンピューターの戦いは、予想通り数年後に始まる。
いつ終わるともしれぬ、延々と続く戦い。
最終的に各方面に脱出した人類が手を取り合い勝利を得るが。
その為に長い長い時を費やす事になる。
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