便利な道具
ガヤガヤと賑わう居酒屋で久々の再会を果たした三人の男。
そのうちの一人が神妙な顔をし、声を潜め言った。
「……なあ、便利な道具が一つ手に入るとしたらどんな物がいい?」
「あん? それってあれかあのほら青いロボットの……。
あーダメだ、もうおっさんだな。名前が出てこない。あ、ビール一つ追加ね!」
「ふふ、高校生の頃も俺たち似たような話してなかったか? あ、水割りお願いします」
「まあな、で、便利な道具なんだが」
「あー俺はあれだな。ほら、どこでも一瞬で行けるやつ。あれだ、ドアな。
まあ別にクローゼットでもなんでもいいけど、入って出たら目的地に着くみたいな」
「俺は飲むと一生眠らなくても疲れない薬だな。
ドアだのなんだのは壊れたらそれまでだからな」
「おいおい! 一生ってアリかよ! じゃあ俺はやっぱ不老不死の薬だ!」
「あー、一生ってのは無しにしようか。壊れる可能性も込みで」
「じゃあ、やっぱりどこでもド……いや、便利すぎて人に知られたら
殺されて奪われかねないな。金を製造できる道具とか」
「税務署は怖いぞ。俺は空を飛ぶ道具なんかいいな。
移動手段に使うだけじゃなく散歩も楽しめる」
「いや、それこそ目立つだろ。それに空中で壊れたら事だ。
あ、人生やり直す道具とかあったろ」
「おいおい、その話を膨らませたら、おっさんの俺らには効きすぎるぞ」
「そうだな……じゃあ透明薬だ! 服込みでな。
冬が辛いのは勿論、夏だって全裸だと蚊に刺されちまう」
「おいおい、犯罪の匂いがするな。じゃあ、俺は人を操る道具か人の記憶を消す道具だな」
「お前のほうがエグそうだな」
「あー、二人とも。犯罪系はなしで頼むよ。あと、そうだなもう少しスケールを小さくな」
「あー? そうは言ってもな……何でも物をコピーできる道具とか」
「それだと、いっそコピーロボットがいいな。仕事を手伝ってもらう」
「んーもう少し現実的なやつで頼む」
「んんー? じゃあ疲れが吹き飛ぶ薬とかな」
「足が速くなる靴、もしくは疲れない靴とかな」
「ああ、あの靴下知ってるか? ちょっと高いけど丈夫で足が疲れないとか」
「ああ、聞いたことあるな。気にはなっているんだ。実は最近ウォーキングを始めてさ。
やっぱこの歳になると健康に気を――」
「はあぁぁぁぁい! そんな二人に紹介したい商品がこれ!
この装置に水をセットし、スイッチを押すと音波が発生し
水の中の邪悪な成分を完全に除去! 人間の細胞を活性化させる命の水に早変わり!
これで疲れない! よく眠れる! 体の痛みが無くなるなどさまざまな効果が!
さらに風呂用と言った関連装置も充実!
今なら専用の水も含めて、値段がなんと……ああ! 待って!
会員になればもっと安く! それに勧誘すれば報酬も! あ、帰るな! おーい!」