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She and I・・・(上)

作者: 130

逢いたい・・・


逢えない・・・



どんなに逢いたくても、


二人は逢えない



時空を越えた


超遠距離恋愛




「I and She・・・」


最後まで読まずに

タイトルの本当の意味を


あなたは見つけることができるでしょうか?


■ 献辞 ■

武者小路実篤先生

ジョー・ホールドマン氏

に捧ぐ




「I and She・・・」



■第1章 ■

●1節

「I and She・・・」


これは私と彼女の物語だ。


私が私自身のことを、まだ「僕」と呼べた若い頃のこと・・・


●2節

To:チナツ

From:イタル

Sub:

僕は君を少しも愛してはいない。

宇宙の大きさと同じくらい・・・


To:チナツ

From:イタル

Sub:


僕はとうとう電波の届かないところにきてしまったのだろうか。


君から返信がなかった。


昨日のメールを怒ってる?


わかってると思うけど、


愛してないと言ったのは嘘だよ。


僕は君を愛してる。


宇宙の大きさと同じくらい。




だって、昨日は嘘をついても良い日だったから、


どれだけ君のことを好きか


伝えたかっただけなんだ・・・


でも、人を傷つける嘘はいけないんだったね。

ごめん・・・


しかし、

その後も返信はなかった。

僕−−奈良至(ナライタル)−−は本当に電波の届かないところにいるらしい。


僕を乗せた船は、どんどん僕の彼女−−千夏−−から離れていっているのだから仕方ないのかもしれない。


それにしても・・・


彼女に大好きだということを伝えようと、


エイプリルフールだからといって、


愛していない


なんて書いたものが最後のメールになってしまうなんて・・・。


嘘だとわかっていても気分が悪い。


今更、


後悔しても遅いか。


後悔といえば、僕はなんでこんな船に乗ってしまったのだろう・・・


●3節

僕が初めて彼女に会ったのは、大学に入って上京した年の夏だった。


夏休みに入る直前、


大学の大宮先輩に自宅へ来ないかと誘われた。


入学してから、


大学とアパートの往復だけのような生活を送っている僕をみて、


そのまま故郷へ帰してはかわいそうだと思ったのだという。


僕は自分自身いっこうにかわいそうだとは思っていなかったが、言われるままに誘いに乗った。


この年は、故郷へ帰るつもりもなかったので、夏休みに入ったら故郷へ帰るというのも先輩の思い込みでしかなかった。


それでもこのころの自分の性格からすると、他人の家に行くというのはあまり考えられないことだった。


この誘いを受けたこと自体が、なにか――運命――の導きだったのかもしれない。



せっかく上京したのだから、こっちの普通の家というものも見ておいたらいい。


と先輩は言っていたが、都心から一時間ほど電車に乗る郊外に先輩の家はあった。


車窓からの景色に緑が多くなってきた。


首都圏のなかにあっても、田舎のような景色はあるのだと驚いた。


大学とアパートの周辺しか知らなかった僕は、それがわかっただけでも来て良かったと思い始めていた。


先輩から聞いていた最寄りの駅でおりる。


駅のまわりはさすがに故郷よりはにぎわっていた。


待ち合わせの時間にはまだ少し時間があった。


その時、携帯電話が鳴った。


先輩からだ。


「君のことだからもう駅にいるのだろう?」


そうですと答えると、


申し訳ないが、思ったより買い物に手間どってしまったうえに駅と家との反対方向にいる。


時間がかかってしまうので、悪いが一人で家に向かってくれ、と言う。


そしてバスの乗り方と降りるバス停を教えてもらった。


バスになんか乗るのなら、まだどれだけの時間がかかるのだろうと思いながら、教えてもらった交番の前のバス乗り場に立つ。


時刻表を見てまた驚いた。


故郷のバスとは比較にならない程の本数があった。


さして待つことなくバスに乗った。


みっつめ


と聞いていたバス停留所は、


あっという間だった。


バス停とバス停の間隔も故郷とは違うようだ。


そもそも、これくらいの距離なら歩けないことはない。


ただし、道を知っていたら、だ。


先輩も道を説明する手間を省いたのかもしれない。



降り立ったバス停のベンチに、参考書から眼をあげた少女がいた。

高校生くらいだろうか?


こっちを見て、

すっくと立ち上がり


「失礼ですが、

奈良さんでしょうか?」


と尋ねてきた。


はい。


と答えると、


「大宮です−−」


「−−大宮冬雄の妹です」

と言った。


失礼なことに、僕は「はあ」とかなんとか言葉にならない返事をして彼女を頭から爪先まで眺めてしまった。


きれいなコだ。


「兄に頼まれてお迎えにあがりました」


そう言われて、はっと我にかえった。


「それはすみません。助かります」


取り繕うように答える。


それが彼女との出会いだった。


●4節

「また彼女のことを考えていたんだろう?」


クリスに話し掛けられて、浸っていた思い出から帰ってくる。


最近はこんなことばかりだ。


僕たちは、


ある者は人との繋がりを確かめるように自分の身の上話を他のクルーにし、

ある者は自分の殻に閉じこもり、

多くの者はその両方を繰り返した。


僕は、どちらかと言えば殻に閉じこもりがちだった。


特に彼女については、あまり話さなかった。


自分だけの思い出として持ち続けていたかった。


クリスは、この船の操縦士だ。


僕より年上で妻帯者。


というより新婚ほやほやの時にこの船に乗った。


逆の言い方をすれば、この船に乗ることが決まったことが結婚の時期を決めたのだった。


ある意味では、クリスと僕は一番共感できる立場にいるのかもしれない。


あの時、どこにむけていいかわかない怒りと失望をぶちまけていた彼の姿は、


まさしく僕の姿だった。


僕は表に現せなかっただけだ。



静かにやって来たあの時・・・・


この船−−


”宇宙”探査船「ホワイトエクスプローラー号」


−−は、ある任務を課せられて出航していた。


ごく最近になって発見されたある宇宙空間の性質を接近調査するのだ。


航行する距離的には従来の宇宙探査ミッションの中でも、目立って長いということもなかったが、ベテラン揃いのクルーだった。


艦長のサレンパーカーを筆頭に、


操縦士のクリス


副操縦士のダン


航海士のサラ


整備士のアンヌ


船医のドクター、通称ドク


皆、経験豊富なクルーだ。


さして難しい任務ではないはずだった。


もしかしたら・・・


ひょっとしたら・・・


という考えはあったのかもしれない。


だから念には念をいれて、宇宙探査局はそういう人選をしたのかもしれない。


宇宙探査局に入局したばかりの僕は、本来であればまだ当分は実際の任務につくことはなかったはずだ。


ところが適性テストやトレーニングの過程で重機オペレートに特別の才能があることがわかり、今回の探査に大抜擢されたのだった。(本当は特別な才能というより別にも理由があったが・・・)


先に入局していた大宮先輩が指導上官であり、推薦者でもあった。


その推薦が通ったように、わずか数年で大宮先輩は局内で認められる存在になっていた。



大抜擢は嬉しかった。

宇宙への夢と希望を抱いて選んだ道であったし、いずれ宇宙へ出ることは、自分の人生の中で当たり前の出来事になるはずだった。


しかし、その時の僕は心の準備ができていなかった。


その背中を押したのは大宮先輩だ。


「・・・心配せずに行ってこい−−」


必ず良い経験になるから、と。


そうして、

僕はこの船の一員になった。


任務−−


星からの観測で不思議な空間が見つかった。


しいて例えるなら、それは”穴”のようなものであると予測された。


遠距離から確かめることは出来なかった。


近くまで行って加速度状態にない観測球を”置く”という探査方法が検討された。


宇宙空間に”置く”という行為が難易度が高い。


サポートする装置もあったが、最後は人間の操作による微調整が要求された。


そこでオペレートの腕を評価された僕が、このミッションに加わることになったのだ。


ただ観測球を置いてくるだけのミッションに通常以上の危険はないはずだった。


だから、僕が探査任務に未熟であっても大宮先輩は推薦できたのだとも言える。


念には念をいれて、僕以外のクルーをベテランスタッフで固めてくれさえした。


そう、豪華な布陣は僕の為でもあったのだ。


それでも、


トラブルは起きた−−


目的地まであとわずか、


しかしながら地上との交信−−映像・音声−−圧縮信号その他すべて−−が不能になってすぐのことだった。


航海士のサラがサレンパーカー艦長に告げた。


「艦長、座標不明です。ナビゲーションシステムがダウンしてしまったようです」


艦長が即座に反応した。


「クリス、全ての操舵を緩やかに停止。進行方向に変化を生じさせないようにだ」


「了解」


「イタル、ダンをたたき起こして来い」


「了解」


僕は、操縦室を後にしダンのプライベートルームへ向かった。



部屋のブザーを押す。

二度。

三度。


「誰だ?」

やっと不機嫌そうな声がスピーカーから流れる。


「イタルです。エマージェンシーです」


「エマージェンシー?」


ほぼ同時に扉が開く。


半裸で寝起きのダンが現れる。


「何が起こった?」


「わかりません。艦長が呼んで来いとだけ」


「すぐに行く。先に戻っていてくれ」


「はい」と振り向いて、

戻ろうとした腕をつかまれた。


ぐっと引き寄せられる。


目の前に顔があった。


「ク・・・誰かの身に起こったトラブルか?」


睨むように訊いてくる。


「そういうことではないと思います」


「・・・わかった。行ってくれ」


「はい」

今度は本当にダンを後にする。


そして本当はどういうエマージェンシーなのかわかっていなかった。


誰かの身に何か起こっているのか、


いないのか・・・



操縦室に戻ると整備士のアンヌもあがってきていた。


機器のチェックが行われていた。


しばらくしてダンもやって来た。


操縦室を眺め誰がいるのか確認して、

「勤務に戻ります」

と艦長に告げた。


「シフト外にすまない」

副操縦席にダンが付くのをまって、艦長が状況を説明する。


−−イタルも聞いてくれ。


他の者も自分が把握している事態と違いがないか確認のため聞きながら作業を実行して欲しい。


この船の現在地情報が不明になった。


簡単に言うなら、


我々は宇宙で遭難したということだ。


ナビゲーションシステムが座標の表示をしないのだ。


アンヌが機械的なチェックをしている。


クリスには遭難した位置から動かないように指示を出した。


即座に実行してくれたが、どうやらこの船の制御に関係なく移動してしまっているようだ。


「・・・ようだ」といったのは、

これが事実かどうかわからないからだ。


もし、ナビゲーションシステムが故障したわけではなかったのならその可能性は高くなるが、それもどこまでいっても推測でしかない。


我々は事態を正確に把握するすべを失ってしまったのだ。


すくなくとも、


クリスの腕で進行方向を変えずにすんでいるという前提で事態に対処していきたい。


そこで、


ダン


君はクリスと入念に打ち合わせをして、

データの共有をしてくれ。


今後とも一切進行方向に変化を生じさせないようにだ。


しばらくは二人体制で操縦にあたってくれ。


イタルは、


物資の在庫を確認。


質問がなければ、

すぐにとりかかってくれ−−

質問が思い付かない。


遭難?


誰が?


どこで?


どこでかがわからないから遭難。


ということは?


宇宙を漂流・・・・


永遠に・・・・





「我々は無事に帰れることを目指している」

艦長が僕の考えを見透かすように言う。

「今、出来ることに全力であたって欲しい」


ダンと視線が合った。同時に、

「了解」

と答えていた。


ダンは、早速クリスと打ち合わせに入った。


僕も倉庫に向かった−−


●5節

−−彼女と初めて会った日・・・

バス停に迎えにきてくれた彼女。


「行きましょうか」

促されて歩きだす。

半歩先に行きながら彼女が話し掛けてくる。


「奈良さんは、何を研究なさっているのですか?」


「まだ、研究というほどのことはしていません。入学したばかりなので基礎の勉強をしているところです」


「分野は兄と同じなんですよね?」

「そうです。大変お世話になっています。今回もお言葉にあまえてしまいまして・・・」

「そうですか・・・」


ホラ、と言いながら彼女は手にした参考書の背表紙を見せてきた。

彼女の手にある参考書の背表紙には、


僕の大学の名があった。


「私も兄と・・・」

一度地面に視線を落とし、


次に少しはにかんだ表情で、


「そして、奈良さんと・・・」


「同じ道を志望しています」


はっきりと宣言するように言った。


驚いた。


女性でこの道を志す人はそう多くはいない。


「来年受験ですか?」


「いいえ。まだ高校2年生です。今からでも間に合うかどうか・・・。受験の難関校ですものね」


「あなたなら大丈夫でしょう」


「あら。私のこと何も知らないのに」


「すみません。大宮先輩も宇宙探査局への入局が、ほぼ内定しているそうですし、何よりお父様がこの分野の第一人者の大宮教授じゃないですか。だから、あなたもきっと優秀なのだろうと・・・」


「私自身には関係のないことです」

内容はきつかったが言葉は柔らかかった。


僕はこのはっきり意志を持った女性に惹かれ始めていた。


「すみません。軽はずみなことを言って。確かに僕は初めて会ったあなたのことを何も知らないです」

「千夏です。大宮千夏」

しっかりと僕の瞳を捉えて彼女が言う。

「私のほうこそ、初対面の方にすみませんでした」

頭をさげる。


再び頭をあげた時の笑顔に僕はもうやられていた。


彼女は、大宮先輩の妹でも大宮教授の娘でもなく、大宮千夏という一人の女性として僕の中にインプットされた。


「では、千夏さん、と呼んでいいのかな?」


「奈良さんが私に敬語を使うのをやめたら、そう呼ぶのを許します」


「わかりました・・・・いや、わかった」


「では、堅苦しいのは無し。二人の時は」


「二人の時は?」


「さあ、我が大宮家に到着です。奈良先輩」

住宅街を案内されながら当初の目的を忘れかけていた。


表札に”大宮”とある邸宅は、大豪邸とは呼べないかもしれないが周りの住宅の中では比較的大きな家だった。



通りに面して1階部分に3台は停められそうな車庫があり、その横の階段が2階にある玄関へと続いていた。


一緒に階段を上り、彼女が自分の家のチャイムを鳴らすのを後ろから見ていた。


しばらく、待ってみたが内側からの応答はなかった。


「まだみたい。私たちの勝ち」


彼女は鍵を取り出す。


「今、開けますね」

といいながら鍵をさそうとする。


「いや、僕は外で待つよ」


彼女と二人だけで家に入るのが躊躇された。


「そう。では庭で待ちましょうか」


建物の横手を周り、裏側にでると広い庭があった。


「表の道とこちらでは地面の高さが違うの。だからこの庭は裏の道と同じ高さよ」


木戸があり、そこからも出入り出来るようだった。


背の低い庭園灯と小さな池、白いベンチ。

ちょっとした公園なみだ。


小さな池といっても埋め込み型の水槽のようなものだけど。

カメがのんびりと泳いでいた。



「座りませんか?」

ベンチの横で彼女が言う。



木戸を背に座ると池をはさんで、建物を向かいに見る形になる。


二人で並んで座ってちょうどの大きさのベンチ。


ちょっと近すぎる気がした。


なるべく端に座る。


「大きな家に広い庭だね」


「父と母と兄と私の四人には広すぎるくらいだわ。でも、父の本がたくさんあるから図書館にしては小さいかもね」

「図書館か。それはすごいね」


「分野にいささか偏りがあるけど」


「もちろん、宇宙?」


「ええ。宇宙と名がつけば科学的でなかろうと子供向けであろうとおかまいなし。ものごころついた頃には小さな宇宙博士になっていたわ」


「そのまま大きな宇宙博士になるんだね」


「ええ。目指しています。だけど”大きな”はどうなの?


それに”宇宙博士”というのも馬鹿にしてない?」


「ごめんごめん。”小さな宇宙博士”をそのまま成長させてしまったよ。悪気はないんだ。ほんとごめん」


「あまり謝らないで。悪気がないのもわかっています」


「うん。実際、千夏さんは・・・」

(いいの?という感じで)眼を見ると彼女は頷いた。

「・・・千夏さんは、何を専攻するつもりなの?」


「人類が宇宙に出ていくにあたっての必要な周辺技術について。コロニーでの生活とかね」


「へえ。おもしろい見方だね」


「ええ。私、素直じゃないから。奈良さんは?」


「僕は、ストレートに少年の夢、宇宙飛行士」


「奈良さんらしい」


「僕のこと、良く知らないのに?」


「もう知ってます。あまり人と交流しないのは、照れてるだけ。素直な少年がそのまま大きくなっただけだから」


「人と交流しないって、なんで・・・」


「兄がね・・・」


「おもしろい奴がいるんだけど、地方から上京してきたせいかガードが固くてなかなか地を出さないって言っていたの」


「面白い奴って僕?」


「あちらもこちらもたいして変わらないんだってわかれば、もともとの性格が出るはずだって」


「それで・・・」


「私はうちが”普通の家”なのかどうか疑問だったけど。でも兄の言う面白い人に興味津々だった。だから、迎えに行くように言われた時は嬉しかったわ」


「そんなことがあったのか」


僕は上京してきてから肩肘をはりすぎていたんだろうか?

その時、突然家のほうから声がした。



「そんなところにいたのか、あがっていれば良かったのに」


買い物袋をぶら下げた大宮先輩が建物の脇から現れた。


「おじゃましています」

即座に立ち上がっていた。


「おかえりなさい。早かったわね」


彼女も立ち上がり、歩み寄りながら言った。


「外でお待ちになるとおっしゃるので、ご一緒していました」


「思ったより遅かったくらいなんだが・・・。まあいい。奈良君も家に入ろう」


「はい」と言って彼女を追って駆け寄った。


自然に買い物袋の一つに手を伸ばす彼女をみて、


「私も持ちます」と言ったが、


「君はお客なんだから」と渡してもらえなかった。


玄関の前に立つと、ちょうど階段を一人女性があがってきた。



「ただいま」

とその女性は言った。


「母さん、奈良君です」

「奈良君、母です」

と先輩が二人にお互いを紹介した。


「はじめまして。奈良です。本日はお招きありがとうございます」


「冬雄の母です。こんな遠くまでごめんなさいね。あげくにぎりぎりまでお買い物なんてしてお恥ずかしいわ。」


これから食事を作るから、たくさん食べてくれというようなことをいいながら先に家に入っていった。


「きれいな方ですね」

それにかなり若く見えた。彼女と姉妹といっても通じるのではないか、というくらい。

故郷の丸々とした母親の姿が一瞬浮かんで消えた。


「奈良さんて、そういうことスラッと言えちゃうんですね。少し意外です」

彼女がツンとした感じで言う。


「本人に面と向かっては言えませんよ。きれいなお母さんでいいですねってほめてるんです。正直に」


「良く言われます」

表情を見ると本当に怒っているわけではないのがわかる。


「親子だけに似てますね」


「それも良く言われます」


「何年後かにはあなたも・・・」


「三十年後の姿なんて勝手に想像しないでください」

しまった。一言余計だった。


「やあやあ、待たせている間もこんな調子で奈良君を困らせていたのでなければ良いのだけど」

先輩が割って入って来た。

「いえ、すみません。僕が千夏さんの気に障るようなことばかり言うのがいけないのです」


先輩がまあまあ、とかなんとかその場を取り繕いながら、続いてみんなも家に入った。


リビングルームに通される。


ソファーを勧められ、腰をかけた。


先輩と彼女は、手に持った買い物袋をキッチンに運ぶようだった。


「先輩」と呼び止め、持って来たかばんからビニール袋に入れた手土産を渡した。


「すみません。こういうこと初めてで。どうしたものかわからなかったのですが、ちょうど故郷から届いたものがあったので持ってきました」


「え。すまないなあ。気にしなくても良かったのに。とは言えありがたくいただくよ」


ビニール袋の口を開く。

「ありがとう。ところで何をいただいたんだろう?」

兄さん、と彼女に小声で叱られながら中身を覗いている。

「”かまぼこ”、というかこちらで言う”かまぼこ”ともまた少し違うんですけど・・・練り物なんですが」


「さつま揚げみたいだな」


「そんな感じです。」


「うん。おいしそうだ。よし、あとでみんなで頂こう」


その後和やかに少し遅い昼食をとった。


大宮教授は急用で不在だったので、先輩とお母さん、彼女と僕の四人だったが会話もはずみ、僕は上京して以来こんなに話をしたことはないという位、話をした。


子供の頃は、近所にたった一台だけあったUFOキャッチャーばかりしていたことまで話したりした。


美味しいデザートまでごちそうになり、一段落したころ先輩が、


「実は君に見せたいものがあるんだ」


と言った。



比較的こじんまりした部屋に通される。


個人の家に中にある部屋としては殺風景というか、研究室といった方がしっくりくる部屋だった。


少し大きめのモニターのついたパソコンの前に座らせられる。


「なんだかわかるかい?」


モニターに映し出された情報は、知っているものに似ていたがインターフェイスはだいぶ異なっていたので、なんとも言えなかった。


「学校にあるロボットアームのシミレーターと基本的には同じものだよ。君の得意な」


それで見知っているものに似ていたのか。


「ただし、こちらは開発中の新型だ」


「新型・・・」


「さわってみるかね?」


「いいんですか?」


その時閉めていた部屋の扉が開いた。


「遅くなってすまない」

一人の紳士が入って来た。


「父さん」


父さん・・・ということは、あの有名な−−


「大宮です」

と教授が名乗った。

立ち上がり、

「奈良です。お邪魔しています」


「いいんだ。続けてくれ」


先輩から基本的な操作法を教わり、早速いじってみた。


慣れるまでにそれほど時間もかからず、だいぶ思うように操れた。


「さすがだな」

先輩が感心したように言う。


「さんざんUFOキャッチャーで鍛えましたから」

冗談のつもりで言うと、

「そういうことも関係しているかもしれないな」

と妙に真面目に応対されてしまった。


先輩が後ろで見ていた教授の方を振り向いた。


「うむ。おもしろい」


「面白いですか」

今日はよく面白いと言われる日だ。


「いや、面白いではなくて興味深いという意味の”おもしろい”、だよ」


「はあ」としか言えなかった。


「実は船外活動用のロボットアームの改良を手掛けていて、テストオペレーターを息子にやらせていたのだが、冬雄がもっとふさわしい人物がいるという」


二人が僕を見た。


「そういうことなら、是非会ってみたいと冬雄に今日のセッティングさせたんだ。とんだ急用が入ってしまったが間に合って良かった・・・」


「・・・君は実に素直なオペレートをする」


意識したことはなかった。


「どうだろう。学業に支障が出ない範囲で開発に協力してもらえないだろうか」


「協力とおっしゃられても・・・」


「なに、難しいことはないんだ。重要なのは守秘義務を守ってもらうことくらいで、ソフトがバージョンアップされたらここに来てシミレーターを操作してレポートを作成してくれるだけでいい」


”ここに来て”という教授の言葉で彼女の顔が何故か浮かんだ。


「実機の試作機が仕上がった場合にもテストオペレートしてもらうが、それはそれほど頻繁ではないだろう」


「とにかくたまに遊びに来てくれるような感覚でいいんだ。今日のように」


「わかりました。是非やらせてください」


とても意義のあることのように思われた。


何より、ここにまた来る”口実”が出来た・・・

なんの?



「もうひとつ頼みがあるんだ」

今度は先輩だ。


「妹の家庭教師にならないか?」


−−実は今までは僕が千夏の勉強をみてきたんだ。


彼女は塾のたぐいが苦手でね。


ところが僕はご存知のように宇宙探査局への入局が内定している。


あくまで内定であって、このあと正規の試験を受けねばならない。


父親のおかげで入局できたのだとは思われたくないので、試験ではしっかりと点をとりたいと考えている。


だから自分の勉強で手一杯になるから、千夏にまで目がまわらないと思う。


我々の学校は現役生が独学で入るのは、少し難しいだろう?


今年入学した君は、受験を突破したばかりだし、むしろ僕よりも最新のノウハウを知っていると思うのだが−−


「どうだろう?」


先輩はながながと僕にやってほしい理由を述べたけど、本当はそんなもの必要なかった。


「僕につとまるのなら、ご協力させてください」

断るつもりはなかったからだ。


「そうか、ありがとう」


−−こうして僕は、ロボットアームのテストオペレーターになり、大宮千夏という女性の家庭教師になったのだった。



彼女の勉強を見て、家庭教師など必要がないほど彼女は優秀だとすぐにわかった。


実は、大宮先輩が僕に家庭教師をさせたのには別の意図があったのだった。


後になって教えてもらったのだが、彼女の家庭教師に僕をつけたのは、彼女の為ではなく僕の為だった。


大宮先輩が言うには、


−−君は成績は優秀だし、マシン類のオペレートにも長けていた。


しかし、人付き合いが下手だった。


宇宙空間に出ていくにあたって、絶対に必要なもの


”コミュニケーション能力”


に不安があった。


しかし、もともと君は本当に人付き合いが苦手なんだろうか?


そこがわからなかった。


それで試しに家に招待してみた。


断られることもあるだろうと予期してみたが、来るという。


おまけに妹とうまく話せているみたいだ。

ああ見えて妹は打ち解けない相手には、非常に冷たい態度を取るのだ。


これは、と思って、

もともと頼もうと思っていたオペレーターに併せて家庭教師を頼んだんだ。


上京を機会にひっこんでしまった君の社交性をとり戻せるかと思ってね。


宇宙飛行士にはチームワークは不可欠なんだ。


あのままでは、いくら成績優秀だとしても宇宙飛行士にはなれなかっただろう−−



●6節

−−そうして僕は宇宙空間にいる・・・


それに宇宙探査局で採用しているロボットアームは、僕も開発に携わったものであり、操作の腕を評価されたというのはある意味当然のことだった。



今回推薦してくれたのは外ならぬ大宮先輩だし、

僕が宇宙飛行士になれたのは大宮先輩のおかげだ。




トラブルに遭遇した今、とても複雑な気分だ。


何より無事に帰って会いたいと思う彼女−−千夏−−に引き合わせてくれたのも、大宮先輩なのだから・・・


−−倉庫でのチェックは、はかどらなかった。


自分が何処で何をしているのかわからなくなるような感覚に襲われた。


彼女のことばかりが思い出される。


それでも在庫リストになんとかチェックを入れ、操縦室に戻った。


「在庫確認終わりました。リスト通りです」


報告を聞いてサレンパーカー艦長が頷く。


「みんなも聞いてくれ−−」


−−我々が現在位置情報を見失ったことは先程伝えた通りだ。


アンヌからの報告によると機器には異常がみられない。

ということは我々は未知の空間にいる可能性が高い。


一方、物資は在庫通りであることを、イタルが確認した。


物資は当初航行予定期間の1年間の倍、


つまり2年間分積んである。


3ヶ月分はすでに消化している。


我々は無事に帰還することを目標とするので、


帰路の分として最大、1年分は確保したい。



やみくもに動いて位置情報をさらに不確定なものにするより、現状維持をクリス、ダンに指示しているが、


この消極策も、最大で9ヶ月・・・


いずれにしても、いつかはなんらかのアクションを起こさねば帰還することはできない。


私も最大限の努力をする。


皆も、何か良い策があれば提案してくれ。


今は以上だ−−


状況はなんとなくわかってきた。


ただただ、待機しているしかないということか。


9ヶ月後には、一か八かのなんらかの行動を選択しなければならない。


それによって、確実に帰れるようになるわけでもないのなら、それは今も同じではないのか?


何故、いま駄目でもともとでも何かの行動に出ないのか?


駄目でもともと・・・


”駄目”というのは帰れない、ということか。


物資にも限りがある以上、いつまでもこの船で生活出来るわけではない。


そうか・・・


帰れない、というのは、


”死ぬ”


ということか。


死ねば、


二度と彼女に逢うことができない・・・


生きていても帰れなければ、


彼女に逢うことはない。


逢えないなら、生きている意味がない。



やっと


やっと自分のおかれた状態を理解した・・・



なんとしてでも、帰らねば。



しかし、その後


事態は膠着した。


打つ手のないまま数日が経過してしまった。


専門のパイロットであるクリスとダンだけに操縦を任せているのも限界に達し、二人を交代制にしてサブに僕やサラが入ることをサレンパーカー艦長は決めた。


一応、操縦はクルー全員が出来るが、あくまでも操縦士はクリスかダンであることには変わりがなかった。


彼らの精神的負担は大きかった。




その日は−−


静かにやって来たその日は−−


クリスと僕のペアで操縦を担当していた。


船が進行方向を変えないようにする操縦とは、実際は各計器の確認がほとんどだった。


自ら動きに変化を与えていないか監視し、微小な変化は相殺した。


細かく地味な作業と、


その作業こそが、


クルー全員の命運を握っているという


緊張と重圧は、大変なものだった。


−−何故、こんな船に乗ってしまったのか−−


−−何故、こんな船に乗ってしまったのか−−

と後悔しながら、彼女のことを考え、

副操縦席に座っている僕の横で、クリスは一人戦っていた。


端正な顔立ちのクリスは、実際の年齢より若く見られがちだが、30歳を少しばかり越している。


若手というよりベテランの域に達しているが、現役のパイロットとしてエースだった。


性格も明るく後輩の面倒見の良い男だ。



そんなクリスから明るさは消えていた。


もちろん、


それはクリスに限ったことではなく、


帰ることが出来ない


という恐怖−−死に繋がる恐怖−−


と戦っている今は、誰もが明るくなどいられなかった。



「イタル、ちょっと代わってくれないか」


穏やかな口調でクリスが言う。


もちろん今までにも交代したことはあるのだが、どこか違う気がした。


それでも了解すると、


操縦室を見渡せる位置にある艦長席にクリスが歩み寄った。


「艦長。もう耐えられません」


サレンパーカー艦長は、

航海士席にいたサラに、ダンを呼びに行かせた。


「すぐに旋回して戻りましょう」


クリスが言う。


「私の腕で必ず全員無事に帰還させます」


それに艦長が答える。


「もちろん君の技術は信用している」



「だが、今はその時ではない」


「では、いつ”その時”が来るのですか!」

クリスが声を荒げた。


「必ず来る。それは今ではない」


「僕は帰らなきゃいけないんだ!」

それはもういつものクリスではなかった。


−−待っている人がいるんだ!


結婚なんてしなければ良かった。


必ず帰るという約束のつもりで、わざわざ出航の前に結婚したんだ。


危険な仕事だとは知っていた。


しかし、


本当に、


本当にこんなことになるなんて。


なんでこんな船に乗ってしまったんだろう−−



サラがダンを連れて戻ってきた。


「クリス」

ダンがクリスを見つめる。


「いったい・・・」


「僕は臆病者だ。笑うなら笑えばいい」


「誰も笑いはしない。みんな同じだ」


「早く帰らせてくれ!」


艦長席の前から操縦席の方へ動くクリスを、ダンとサラが掴まえる。


「放してくれ!」


その間、僕は必死で計器類の監視をし、微調整を行った。

クリスの叫びが痛いほど胸の中で響いていた。


クリスの叫びは僕の叫びだ。


待っている人が、


いる−−



サレンパーカー艦長が、艦長席を降り、


押さえられているクリスの正面に廻って立つ。


そして、頬を打つ大きな音がした。


「目は覚めたか?」


逃れようとするクリスの動きが止まっていた。


艦長がゆっくりという。


「結婚したのは間違いではない。必ず帰るという約束を果たすのだ」


「そのために出来ることをする」


「今のイタルのように」


「そして休むときは休む」


「各自が任されたことをこなすことで、帰る道が開けるのだ」


「わかったら顔を洗って、任務に戻れ」


そしてダンに向かって言う。


「済まないがクリスが戻るまで、イタルに代わってくれ」


了解するダンをクリスがさえぎり、


「大丈夫です。実際に”顔を洗う”必要はありません。目は覚めました」


「艦長の一発で。本当に済みませんでした」


ダンに向き直り、

「ダン、休憩中に済まなかった」

また艦長に、

「ダンはダンのすべきこと−−休憩−−に戻してください。本当にもう大丈夫です」


じっとクリスの表情をうかがっていた艦長が、

「わかった。皆、今すべきことに戻ってくれ」


そしてクリスが、

「それに、イタルはもう我々パイロットと同じレベルにいますよ」

とつけたした。


クリスの一言でシフトが変わった。


操縦士のポジションをクリスとダンだけで廻すのではなく、僕も加わった三人で交代する体制に艦長が変更した。


たまにクリスやダンと組むこともあったが、自分が操縦席に座った時には今まで並んだことのない人とも一緒になった。


サラと最初に組んだ時は、クリスが感情を爆発させた時の話になった。


「正直おどろいたわ。短い付き合いではないけどクリスのあんな姿、初めて見た」


サラはクリスより何歳か年上で、クリスの新人時代も知っているベテランの航海士だ。


美人という表現は当たらないかもしれないが、魅力的な女性だった。


「僕も驚きました。でも・・・」



「でも? ・・・でも、良くわかる?」


「はい」


「あなたにもあなたを待っている人がいるのね」


「えぇ」


「あの時、冷静に操縦を続けていたあなたに感心したわ」


「いえ。クリスと同じ時間は耐えられなかったと思います。彼はずっとプレッシャーと戦っていました・・・」


「・・・きっと最初からいろいろなことがわかっていたのでしょう。だけど僕は事態を正確には理解していなかった・・・」


「・・・本当は今でも、これは現実の出来事ではないのではないかと思ってるんです・・・」


「・・・その違いじゃないでしょうか」


「・・・だから、僕は冷静だったわけではありません・・・」



「・・・もう彼女に逢えない、なんてことが信じられないだけなのです」



「そうね。その気持ちはわかるわ」


「私には待っていてくれる人はいないの。そう、家族の他にはね。だけど・・・」


そう言ってサラは自分の経験を教えてくれた。



−−もう何年も前の話よ。


私の夫・・・になるはずだった人もパイロットだった。


そう、エースパイロットだった。


今のクリスのようにね。


その頃、若いクリスはまだトレーニング中だったわ。


ちょうど今のあなたとクリスのような関係ね。


仲が良さそうでちょっと妬けたわ。


私と彼は恋人同士だったけど、婚約はしていなかった。


お互いの気持ちの中では、いつか結婚するつもりでいたけれど。


まだ時間はたっぷりあると思っていたの。まだ早い、

と。

急ぐ必要なんかない。


それとも明確なきっかけがなかっただけかも知れない。


むしろ、気持ちは夫婦のつもりでいたくらいよ。



彼が1年間の航行予定で探査の任務へつくことになって、

「帰ってきたら結婚しよう」と言われたわ−−


サラが大きく息を吸う。


「ところが、それっきり」


「それっきり?」


「彼の操縦する宇宙船は、帰ってこなかったの」


「・・・」


−−今の私たちのように宇宙の漂流者になってしまったのか、何かの事故にあったのか・・・



その頃はまだ予備の物資を積む習慣も余裕もなかった。


帰還予定日を過ぎて、彼は亡くなったという扱いになったわ・・・

記録上は。


それでも私は待ち続けた。


私は信じられなかったの。


必ずここへ帰ってくると


笑顔で出航した彼が帰ってこないなんて。


だから、彼を待ち続けた。


あまりに長い間だったから、

正直、なんで帰ってこないのかと恨んだこともあるわ。


でも、あなたやクリスを見て思ったの。


彼もきっと帰りたかっただろうって。


必死に帰る努力をしただろうって。


だから、こんな年齢になるまで一人で待ち続けたことを良かったと思えたわ。


必死に帰ろうとした、彼に恥ずかしくないって−−


「−−きっとあなたの大切な人も待っているわ。だから、なんとしてでも帰るという気持ちを捨てずにがんばりましょう」


そう言うサラはとても美しく見えた。


この女性(ヒト)はまだ、その帰ってこない彼に恋しているのだと思った。


●7節

To:チナツ

From:イタル

Sub:


このメールも届かないのかな?


クリスの一件の後は、不思議なほど穏やかな日々が過ぎている。


みんな自分の為すべきことをする


という気持ちで一つになったのかもしれない。


かく言う僕は、


あいた時間をみつけては、ロボットアームのシミュレーターでトレーニングをしてる。


もう、必要のないこと


に思われるかも知れないけど、


考えて見れば、

僕はこの腕を評価されて、

この船にいるのだ。


発揮する機会はなくなってしまったけど、


それで僕のこの船での存在価値がなくなってしまうのなら、


なんで君とこんなに長い期間離れてまで、

こんなところにいるのか?


という思いで、気が狂いそうになる。


気が付けば君のことばかり考えている。


出逢った日のことや、君が来た歓迎会の日のことも。


あの日のことは、

今思うと自分のことを情けなく思う気持ちと、あの時の君のことを微笑ましく感じる気持ちと両方の感情で思い出される。


無事に入学した君は、僕のいる研究サークルにも入って来たね。


歓迎会で歓迎する側の在校生は、何かパフォーマンスをしようということになったけど、


僕は気のきいたことは何も出来なかった。


「早くやれ」だの「シラケるじゃないか」だのという野次の中でも、下手な歌を歌えるでもなく、


僕は「そんなこと急に言われても・・・」と、まごまごしていた。


場の空気が悪くなりかけたころ、


「私が代わりにやります」


と君が急に立ち上がった時は驚いたよ。


歓迎会の雰囲気がパッと変わり、

もう誰も僕のことなど気にかけず、


君に歓声を送っていた。


それまでおとなしくしていた君を


君のことを知らない男たちが、


ちらちらと気にしていたのに気付いていた?



僕も君の様子をうかがっていたから、


ひそかに君が注目の的になっているとすぐにわかったよ。


みんなが君の魅力を認めているようで嬉しくもあり、


自分が先に知っていた君が、みんなに知られる存在になったことを嫌なことに思えたりした。


自分から立ち上がったことで、ひそかにではなく一気に本当に注目の的になってしまったのも、


原因が自分のせいだと思うと自分のことが腹立たしかった。



君が名前を名乗ると、

場はさらにザワザワしたね。


その前の年までサークルにはお兄さんもいたし、お父さんも有名だからね。


おお、彼女が大宮先輩の妹か。


という声も聞こえた。


君と同じ新入生たちは大宮先輩のことは知らないから、なんのことかわからない顔をしていたけれど。


でも、そんなことは関係なく、


そう


君は君自身の魅力で


みんなをひきつけていた。


誰の娘でも


誰の妹でもなく、


一人の大宮千夏という女性として。



そこでしたパフォーマンスがまた僕を驚かせた。


当時流行っていた女性お笑い芸人のネタを上手に真似するなんて。


とても上手かったから、会場は笑いに包まれたし、君の才能に感心していた。


僕にはとても可愛く見えたのを覚えている。


とにかくそれで歓迎会は一気に盛り上がり、


他の新入生もパフォーマンスしながら自己紹介したりして、実に楽しいものになった。




後日、窮地に陥った僕を救ってくれたお礼をしようとしたら、なかなか逢ってくれなかったね。


情けない姿を見せてしまったので、嫌われてしまったのかと落ち込んだっけ。


結局、しばらくして逢ってくれたからお礼に食事に誘うことが出来、そこからその後つきあうようになっていったのだから、


すべてはあの日のあの時の君の大胆な行動のおかげだね。


つきあうきっかけとなる出来事だった――






●8節

時にはサレンパーカー艦長自らが副操縦士席につくこともあった。


艦長は、現役の宇宙飛行士の中で宇宙空間の最長滞在時間を記録している大ベテランだった。


今回も僕たちの理解していないところで、その知識と経験を生かしてこの窮地に立ち向かっているように見えた。


「イタルは24歳だったかな?」

艦長が年齢を尋ねてきた。


「はい」


「若いな。私と君の年齢差よりも、君と私の息子との年齢差の方が少ないのか」


「息子さんがいらっしゃるのですか?」


「ああ。やっと高等学校に入ったよ」


「おめでとうございます」


「ありがとう。君は知らずにおめでとうと言ってくれたと思うが本当にそうなのだ」


「・・・・」


「厳格に育てたつもりだったのだが、その反動か中学の時はずいぶんと荒れたんだ−−」


どう返事をしていいものかわからないまま、艦長の話は続いた。


−−幾度もの探査任務で艦長を務めたよ。


艦長は船の全責任を負うし、


君のように若い宇宙飛行士がいれば、正しく成長するように導くのも仕事のひとつだ。


もちろん直接指導にあたることは少ない。


クリスが君に教えたように、近い上司がその役目を受け持っている。


だが、クリスからは報告を聞くし、

自分の目でも確認しながら情報を加えていく。


何が出来るようになったのか。


何が苦手なのか。


体調は?


悩みはないか?


真面目に任務に取り組んでいるか?


向上心はあるのか。


何人もの若い宇宙飛行士を一人前に育てあげたよ。



だが−−


−−自分の子供を育てるのは同じようにいかなかった。



言うことを聞かない。


反抗的な態度をとる。


何度同じことを注意してもなおらない。


親を尊敬しない。


ほとほと困り果てた。



我が子の成長を見守る親のようなものだと思って育てている部下たちは、どんどん優秀になっていくのにだ。


何が違うのかを考えた。


決定的に違うのは、


部下に接するときにこちらは子供に教えるようにと思っていても、教えられる方には子供としての自覚はないことかもしれないと考えた。


親子ではないからこそ、


言うことを聞くのだ。


部下だという自覚が強くなればなるほど反抗しないのだ。

仕事がどういうものか理解するようになれば、それを立派にこなしている年長者を尊敬出来るのだ。


自分が仕事の上で成長しようと思っている者は、注意に耳を傾けるのだ。


受け手の立場がまったく異なることにようやく気が付いた。


部下は我が子ではないし、


我が子は自分の部下ではないのだ。


そう思ってからは、


部下に対しては、

まず自分が社会人として、立派であろうと心掛けた。


我が子に対しては、

家庭人として、懸命になることを心掛けた。


背中を見て育つ、という言葉があるが


自分の背中を自信あるものにしたかったのだ。


子供は親の言うことをきいて当たり前−−


などというのは


親の勝手な思い込みだ。


子供はそんなことを少しも考えてはいないし、


成長しよう


とさえ思っていないことが多い。


大人への道筋にいることを


自分自身で気付いて初めて、


向上心が生まれて来るのではないかな。



だから、私が特別に何かをしたわけではないのだ。


息子−−ジュニア−−が、自分自身で自分の道を歩きはじめたのだ。


そう、でもそれは


「おめでとう」と言ってもらえるに値する出来事かもしれない−−


「良かったですね」


艦長は頷いた。


「ところで息子さん−−ジュニアはどういう道を選んだのですか?」


「入学した高等学校自体は普通の学校だが、将来は宇宙に関連した職業に就きたいようだ」


「父親の背中をしっかり見ているじゃないですか」


「宇宙飛行士のように危険な職業を志すようになったら、複雑な心境になるのだが」


「ジュニアはもう宇宙飛行士を志望しているのですか?」

「いや、まだそこまでは考えていないようだ。しかし−−」

−−そう君たちは我が子ではなく部下なのだ、とも言ったけれど、それは上司として接している時に自分を律するための考え方だ。


仕事場であっても、個人としての感情はあるし、そういう時はやはり君のように若い人を相手にすると息子のように思えてしまう。


だから、実際にこのようなトラブルに遭遇して−−


自分のことよりも君たちを危険な目に遭わせていることに非常につらい思いがある。


ある意味我が子のように思っている君を、もう危険な目に遭わせているのだ。


−−だから−−


私は帰還することを諦めない。


私自身の為であり、


私の家族の為であり、


君たちや


君たちの家族の為に。


私は父親であり、艦長である。



私はその全責任を負っているのだ−−


−−僕は艦長の言葉を聞きながら、


艦長の言う「君たちの家族」に千夏は含まれているのだろうか?

などと考えていた。


僕は自分自身の為ではなく、


千夏の為に帰りたい。


なんとしてでも・・・


●9節

To:チナツ

From:イタル

Sub:


いつか、


いつか、二人にこどもが出来たら、


どんな名前にしようか


考えたことがあったね。


あれは、


あれは、二人で電車に乗って、


どこかに出掛けたときだっけ?


二人の座ったシートの向かいに


かわいい男の子が


おとなしそうな父親と


優しそうな母親のあいだに


ちょこんと座っていたね。


まんまるい瞳で


じっとこちらを見つめていた。


なんてかわいいんだろうと、


二人で話したね。


自然と、


こどもが生まれたら、


どんな名前にしようか



ってきいていた。


まだ結婚もしてなかったのにね。


●10節

「帰ったら勝負しよう」


ダンは体制が変わって、僕がパイロットのシフトに入るようになってから、そう言うようになった。


僕が操縦席につくようになってからも、


クリスかダンと組むことがあったが、


僕は、副操縦士席に座るようにしていた。


だが時々ダンは僕に操縦席につかせ、そう言うのだ。


そして、

「俺について来ることが出来たらお前の勝ちだ」

と言う。


帰ったら勝負というのは、飛行機による勝負のことらしい。


ダンについて行くことが出来ればというのは、

かなり厳しい条件だ。


「俺はまだおまえを認めたわけではない−−」



「−−クリスの言葉を信用しているだけだ」



空軍に配備されている世界最速の戦闘機によるトレーニングが宇宙飛行士には課されていた。


ダンはもともと空軍のエースパイロットだった。


そこで宇宙探査局から研修に行ったクリスにこてんぱんにやられたらしい。


しばらくしてダンは宇宙探査局に中途採用で入局してきた。


「民間にもすごいパイロットがいた」

と驚いて興味を持ったかららしい。


その噂を聞いたクリスは、

「僕の師匠の方が数倍うまかったけどね。それに、ここも民間じゃないし」

と言ったという。


これは他人から聞いた話で、本人達に確認したことはない。


だいたい、いつも不機嫌そうに見えるダンに、

「クリスに負けたって本当ですか?」

なんて訊けない。



しかし、

負けん気の強いダンが


クリスを信用している


と言っているのだから、


似たようなエピソードはあったに違いない。


いずれにしても、二人は探査局のトップクラスのパイロットなのだ。


その一人に認められ、もう一人からは勝負を挑まれているのは喜ばしいことなのだろうか?


そんなダンの問い掛けに、

いつもは頷いていたのだが、あるとき返事をしてみた。


「あなたにかなうわけないじゃないですか」


「当たり前だ。だからハンデをやっている」


「・・・」


「だが、一つ教えておく−−」


−−戦う前から


かなわない


なんていうものじゃない。


俺達は腕で生きてるんだ。


技術に自信の持てない者は、


技術の世界を去れ。


うまくなりたい


とう気持ちだけが、


技術を向上させる原動力なんだ−−


そして最後に、


−−見込みのない奴にはこんな話はしない。


だが、ハンデをやったからには俺も絶対に負けない。


だから−−


「絶対に帰って勝負をするんだ」


「はい」と本気で答えていた。


「この船には最高の技術者ばかりが乗っているんだ。絶対に帰れるさ」


とダンは言った。


●11節

To:チナツ

From:イタル

Sub:



バイクのエンジンをたまにかけてくれるようにと

友達に頼んで来たけど、

彼は忘れずにやってくれているだろうか。


時々そんなことを考える。


いつも千夏のことを考えているのではなかったのか、

と怒らないでくれよ。


同じことなんだ。


千夏とバイクの思い出は、

僕の中では繋がっているんだから。


都会の生活では必要ないだろうと、

僕は故郷で乗っていたバイクを処分していた。


大学生活は汲々としていたが、その処分したお金を元手に新しいバイクを手に入れた。


夏休みの初めの大宮家訪問で


君の家庭教師になることが決まり、


きっとこれからは必要になると

思ったからだ。


最初の頃は電車で通っていた君の家に、

初めてバイクで行ったことを覚えてる?


君は眼をまるくして驚いていたよ。


きっと君の周りにはバイクに乗る人がいなかったのだろうね。


僕は幼い頃から、操縦するものが好きだったから、

すぐに免許をとったけど。


でも、本当は君のお兄さんも免許は持ってるよ。


「おやじには内緒で免許だけはとったんだ」


と言って免許証を見せてくれたことがある。


そんな家に育った君が、


乗せてくれと


せがんだって、僕は「うん」とは言えないだろう?


それでも君は、


「じゃあ、受験が無事に終わったら後ろに乗せて、どこかに連れて行ってよ」


と言う。


僕にとっても魅力的な提案に思えた。


「志望校に合格したらね」という条件はつけさせてもらった。


「約束だよ」

と言って微笑んだ君の顔を、

僕は一生忘れないと思った。




それからは、

君の家の裏道に着くと、


君が木戸を開けてくれて、


庭にバイクを停めた。


いつしか、


勉強を始める前に庭のベンチで、


話をするのが習慣になっていったね。


色んな話をしたなあ・・・・


●12節

奇妙に安定した生活が3ヶ月も続いてしまった。


いつまでもこの生活が続いていくような気さえしてきていた。


どんな結末を迎えるにせよ、

結末はやって来る。


永遠なんてないのに。


千夏がそばにいない人生なんて、

どこでどれだけ続いたところでおなじようなもの・・・



その時、


シフト外だった僕は、

ブリーフィングルームにあるフライトシミレーターをいじっていた。


基本的には、この船の操縦をシミレーション出来るものだが、ソフトを変えるといろいろな飛行機を試せる。


世界最速の戦闘機だって、可能だ。


僕はシフトについているか、


ロボットアームのシミレーションをしているか、


フライトシミレーターで戦闘機に乗っているか、


そうでなければ寝ている


という生活をしていた。


その全ての時間のかたわらに千夏はいなかったし、


心の中にはいつでも千夏がいた。




「熱心だね」


とアンヌが話しかけてきた。


「他にすることがないですから」


「クリスや・・・ダン、が君を認めているのがわかる気がするよ」


「ダンに勝負しようって言われてるんです。・・・帰ったら」


「へえ。可愛がられてるんだね」


「そうなんでしょうか?」


「当たり前だろう?見込みのない奴の面倒は普通見ないよ」


「あ、それ言われました」


「・・・少し妬けるよ」


「え?」


「なんでもないよ」


”少し妬ける”ってホントは聞こえてた。


サラからも同じセリフを聞いたなって思っていた。


「・・・サラの婚約者さん、って知ってます?」


「知らないよ〜。私のこと幾つだと思ってるの?」


改めてアンヌのことを見る。整備士である前に若い女性だった。


「ちょっと、じろじろ見ないでよ。何歳だと思っていてもいいからさ」


「すみません」


「うん。こっちこそごめんね。本当は知ってる−−」


そうしてアンヌは教えてくれた。


−−私は確かに君よりはちょっと年長だよ。


だけど、だから知っているんじゃないんだ。


私の家−−カトウ家−−は、代々整備士の一家なんだよ。

もう一族郎党。


だから、宇宙探査局にはカトウがいっぱいいてさ・・・


そんなことはいいんだ・・・。


もちろん私の父親も整備士でね。


良く腕のいいパイロットの話を聞いてたよ。


腕のいい奴らは機械にも優しい


ってね。


そんな中でもとびっきり上手いのは、


ロイだ


って言ってた。


会ったこともあるよ。


小さいときから、父親についてたまに仕事場に行っていたからね。


高校を出るか出ないかの頃かな。


私もいっちょ前に進路に悩んでね。


一族の仕事を選ぶのに気恥ずかしさもあったし。


でも、実際こういうことが好きだった。


それで迷いながらも久しぶりに整備場へ行ってみたんだ。


白い機体に黄色と黒のラインが入ったロイの専用機がちょうどドックに入ってた。


手摺りにもたれて、その機体をうっとりと眺めてた。



「きれいだろ」

って話しかけてきたのがロイだった。


「お前の親父さんさんが、こうして整備してくれるから俺達は安心して飛べるんだ」


って。


とびきりの笑顔で振り返ったら、


隣にきれいな女の人を連れてた。


ロイはワイルドな魅力があって、

ちょびっと初恋かな、

なんて思ってたけど、

あえなく失恋。


でもその時この道に進むことを決めたんだ。



その時に隣にいたのがサラだよ。


本当にきれいだったんだ。


今ももちろんきれいだけどね。


内面からわいてくる魅力だよね。


絶対勝てないって思っちゃったんだ。


今思うと、今の私くらいの年齢だったのかなあ・・・




「ここにいたのか」

ダンがブリーフィングルームへ入ってきながら言った。


それまで話していたアンヌがビクンとしたのがわかるほど驚いていた。


切迫した様子のダンに僕も驚いたけど。


「二人とも操縦室に上がってくれ」


アンヌと顔を見合わせながら、ダンの後を追った。


操縦室に行くと、


クリスが操縦席にいて、


サラがナビゲーションシステムのモニターを見ている後ろから艦長が同じように覗き込んでいた。


入ってきた僕たちに、艦長が気付いた。


「アンヌ、イタル。状況が変化した」


「どうしたんです?」アンヌが答える。


「モニターの表示が回復したの」


とサラ。


「え?直ったんですか」と僕が言うと、


「ナビゲーションが壊れていたわけではないのよ」とアンヌが怒ったように言う。


「その点はアンヌと十分にディスカッション済みだ。ことによると予想の範囲内の出来事だ・・・」


「・・・さて諸君」

と言いながらサレンパーカー艦長は、

艦長席へ戻った。


「ナビゲーションシステムの機能は見事に回復したとも、していないとも言える。そうだね、サラ?」


「はい。艦長。表示は戻りましたが、恥ずかしながら一体どこにいるのかわかりません」


「諸君。そういうことだ。状況は変化したが宇宙で遭難していることに変わりはないのだ・・・」

みんなを見渡す。


「ただし、クリスやダンを筆頭に諸君の努力のおかげでひたすらまっすぐに遠ざかってきた・・・」


「・・・そして、現在所在地は不明なままではあるが、ナビゲーションシステムの機能を使用出来る状態がやってきた・・・」


「・・・クリス、今こそ待ちに待った”引き返すべき時”ではないかね?」


「はい」


「そこで可能なかぎりまっすぐに来たことが意味を持ってくるのだが、Uターンをして、やって来た航路を戻ろうと考えているのだが、諸君に考えはあるかね?」


みな艦長の語ることを理解しようとしているようだった。

「・・・これは賭けなのだ」

艦長が補足する。

「全ての作業がうまくいったとしても、何事もなかったかのように無事にもどることが出来ると私は約束することは出来ない・・・」

言葉を区切り、伝わっているか確認するようにゆっくりと語る。

「私は帰還を目標とすることを諸君に告げた。その覚悟に変わりはない」


「少しでも帰還できる確率の高い選択をしたいのだ」


そこに一人の人物が操縦室に上がってきた。

「艦長の指示に従わん者はこの船にはおらんじゃろ」


船医のドクだった。


「そうじゃろ?」

一人一人の顔を見る。


「わしは事前に艦長から説明を受けちょったから、事態がわかるが、みんなは一生懸命に理解しようしているだけじゃ。みな艦長を信用しとる」


僕は頷いた。みんなも頷いていた。



それを見た艦長が続ける。


「ありがとう。では簡単に説明だけしていく・・・」


「・・・表現が幼稚で申し訳ないのだが、我々は意図せずして”高速道路”に乗ってしまい見知らぬ土地まで来てしまったようなものだと私は考えている」


「高速道路・・・」クリスがつぶやく。


「帰る方法は一つ、この高速道路にまた乗るしかない・・・」


「ところが我々は知らぬ間に乗っていたので、乗り方を知らない」


「・・・だから可能なかぎり正確に方向転回をしたいのだ」


「でも、座標がわからないままでは・・・」

サラが口をはさむ。


「基準となる星があればどうだね?」


「それは、可能ですが・・・どれが基準に出来る星なのかもわかりません」


「クリスはどうだ?航海士の助けなしでは出来ないか?」

「あるにこしたことはありませんが、やってやれないことはないと思います」

クリスが答える。



「では、サラとクリスに尋ねよう・・・」


「位置や方向を確認するための基準があり、ナビゲーションシステムが機能した状態で航海士がしっかりと力を発揮したら、パイロットは正確なターンが出来る確率はあがるかな?」


「はい」と二人が声を揃えて返事をした。


「そこでだ、イタル」

艦長が僕の方に向かって言う。


−−イタル、君の出番だ。


先程、サラからのモニターの表示が正常に戻ったとの報告を受けてすぐ、


クリスにはこの船を停止させるように指示をした。


いずれ完全に静止したら、



観測球を”置いて”くれ。



もともと君のやるはずだった任務だ。


その観測球を基準に転回する。




サラ、可能だな?


「はい艦長」


「クリスは?」


「はい艦長」


そして、


艦長がじっと僕を見る。


「イタルは?」



その意味するところは重大だ。

僕の作業がすべての基準になる−−


僕次第−−


「・・・やってみます」

やっと答える。


「やってみます、じゃない。やるか、やらないか、だ」


ダンが怒るように言う。





「まあいい。まだ完全に静止するまで時間がある。イタルはそれまで休んでいなさい」

艦長が僕の顔に眼差しを注ぎながら言った。



「・・・はい」

とだけ答えて操縦室を後にした。


僕はブリーフィングルームで放心していた。


全責任を負ったような気がした。


自分の作業が基準−−


自分が基準−−



もちろん今までの航海での操縦も、

大きな責任を負ったものだった。


しかし、

喜ばしき帰還への第一歩は、

失敗すれば永遠に帰還出来なくなることの決定打になるのだ。


永遠に帰れない−−


それは僕だけの問題ではない。


この船にかかわる人々、


すべての運命が


僕の作業にかかっている−−


「全責任を負った気にでもなっちょるのか?」

ドクが入ってきた。


自分でも固い表情をしているのがわかった。


「全責任を負うのは艦長じゃ。おまえさんじゃない」


「でも・・・」


「では、尋ねよう。もし、クリスが操縦を誤ったら君は責めるかね?」


「いいえ」


「サラが座標を読み違えてクリスに伝えたら、サラを責めるかね?」


「・・・あるいは。しかし、サラはミスしないと思います」


「何故そう思う?」


「何故でしょうか・・・。でも信用していますから」


「それはサラだけかね?」


「いえ、みんなを信用しています」


「同じように艦長も、いや、みんながおまえさんを信用しちょる」


「・・・」


「その信用を信じないなら、おまえさんは誰も信用しとらんことにはならんかね?」


「それは・・・」


「ダンが怒ってるのはそこじゃよ。彼はおまえさんとクリスとサラの連携の中には入れない。技術者として悔しい想いをしちょるじゃろ。だけど、おまえさんの腕は信用しちょる。それなのに、おまえさんがああいう態度ではな・・・。若いから仕方がないが・・・」


「・・・おまえさんはこの長い旅の中で、それだけの信用をかちえたのじゃ」


「自信を持て。そして、慎重にやるんじゃ」


「はい」


「艦長は、このトラブルにおちいってから、こういう事態も想定しておったようじゃよ」


「え?」


「おまえさんにアームのシミレーションを怠らないようにさせようとしたら、すでに自主的にやっておったと嬉しそうにしとった」


「僕は自分のすべきことがわからなかっただけです」


「それでもいいんじゃ。何の為に船に乗ったのか考え、その目的を達成できなくなった後も、その為に努力する。そういう姿勢が信用につながっていくんじゃ」


「わかりました」


「おまえさんにまかせた艦長を信じることじゃよ・・・」

船が静止した。


それだけだって難易度の高い操縦技術なのだ。


改めてクリスの腕の良さがわかる。


僕は呼び出されてロボットアームの操作盤の前に座った。

「イタル、準備はいいか?」

艦長が尋ねる。

「はい」


「よし。ミッション開始」


「はい」


大きく深呼吸をした。


格納スペースから、ロボットアームを船外にだす。


アームの手には観測球を持たせてあった。



アームを伸ばしていく。


宇宙空間での慣性を相殺する動きはオペレーターが意識することのなく出来るようにプログラミングされていた。


アームを半分ほど伸ばしたところで、サラが声を出す。

「観測球の信号をモニター上で確認しました」


「了解」


「イタル、うまく”置いて”くれ」


「はい」


ゆっくりと観測球をアームから離す。


「動いています。静止しません」

サラの声。


自分の見ている操作用の外部モニターでもそれは確認できた。



「回収します」

と言って、

観測球を捕まえる。


リトライだ。


息を止める。



慎重に。


自分に言い聞かせ、もう一度離す。


ゆっくりと。


しばらく待って、


「動いています。静止しません」

再びサラ。


また回収する。



「回収します、あっ」


なんと、回収しようとしたアームで観測球を弾いてしまった。


機体から観測球が遠ざかっていくのがわかる。


「回収失敗。観測球逃げて行きます」

サラの声。


モニター上で遠ざかっていく観測球に千夏の姿が重なる。

逃がすわけにはいかない。


思わず通常モードを解除して、急速にアームを動かす。


自分でも人間業とは思えないスピードと正確さで操作していく。


グーッっとアームが伸びて行き、ギリギリで観測球を確保する。


「すみません。回収しました!」


ほうっと息を吐き出す声があちこちでした。


みんなも息を止めていたのだ。


「リトライします」


そのままのモードで、

かちゃかちゃと忙しく多くの操作をしながら、観測球を置いた。


「・・・10・・・20・・・30」


「・・・1分・・・・・5分・・・」


10分までカウントしてサラが観測球の静止を報告した。


「よし、引き続き観測球を基準にしながら反転開始。クリス、サラと連携して慎重に」

艦長が指示を出す。


「了解」というクリスとサラの声。


「イタル良くやった」という艦長の声を最後に、僕の耳から操縦室のざわめきが遠くなっていった。


●13節

「イタル・・・」


−−誰?


「イタル・・・」


−−なに?


ぼんやりと浮かぶ顔は、千夏のようだった。


−−千夏なのか?


千夏なのに千夏ではないような−−


「・・・イタル・・・逢いたかった・・・・」


――千夏・・・

●14節

「・・・んな、聞いてくれ」

艦長の呼び掛ける声でどこかに飛んでいた意識が操縦室に戻って来る。


「諸君のおかげで第一ステップは成功した・・・」


「我々は我々に可能なことの中で最良の選択をして、最高の行動をとれたと言えるだろう・・・」


「だが、すまない。次のステップは・・・」

艦長がみんなを見回す。


「運を天に任す、しかない・・・」


自分の飲み込んだつばがのどでごくりと音をたてる。


「人事を尽くして天命を待つ。我々はできるかぎりのことはした。天を信じよう」


「つまり、”高速道路”は一方通行の可能性があるということですか?」

クリスが現状の説明を受けた時に聞いた”例え”を持ち出して質問する。


「その可能性もある。入口に辿り着けない可能性もある。どんな可能性もありえるだろう。全ては推測を基にした作戦でしかないからだ」


「艦長!」

サラが二人の会話を遮る。

「どうやら”高速道路の上り路線”にのれたようです」


「なに?」


「ナビゲーションシステムの表示が再びなくなりました。来た時と同じように・・・」


「そうか・・・」


「天はまだ私たちを見放してはいないようですね」


「うむ。・・・”もし”行きと同じであれば約三ヶ月後にはその答えも出るだろう」


三ヶ月・・・


絶望的に長い気がした。


「いずれにしても、行きと同じ空間に入れたと今は考えるしかないし、その推測に従って進んでいくしかないのだ。最大限の注意を払って監視、操縦にあたってくれ」


クリスから始まるシフトで任務にあたるように艦長は指示を出して、シフト外の者には操縦室を出ても構わないと言った。


自分のすべきことをする


という精神はすでにみんなに行き渡っていたので、


休憩にあたっている者はみな休憩に入った。


最初に休憩にあたって良かったと思っていたが、ロボットアームの操作は思った以上に精神を高揚させていて眠りにつくことがなかなかできなかった。


こんなことなら、操縦室で何か仕事をしていた方が良かったかもしれない。



少し落ち着いて来ると、

意識が飛んでいた間に出逢った千夏のことが思い出された。


僕の知っている千夏より、どこか大人びていた。


千夏−−


宇宙で遭難したとわかった時は、

もう二度と逢えないのかと絶望した。


いまだに遭難していることには変わりはないが、

少なくとも


”帰り道にいる”のかもしれない


という一筋の光明があった。


それが唯一の心の支えとなった。


千夏−−


もうすぐ帰るよ−−


●15節


−−僕は、故郷からひとつ面白いものを持ち帰っていた。

近くになるとエンジンを切って惰性で走って来るのに、彼女は何かを聞き付けて、いつも木戸のところまでやって来る。


木戸を開けて、庭にバイクを押し進めて停めた。


「お帰りなさい」


と彼女は言った。


「ただいま」

と言いながら、ここは自分が”ただいま”という場所なんだろうかと思い、大宮家の建物を眺めた。


最初に訪れてから、一年が過ぎていた。


二度目の夏。


今年は夏休みに入ってすぐに帰郷して、親に顔を見せた程度で戻ってきた。


なにせ、受験生の家庭教師なのだから。


受験生にとって勝負の夏。


勝負の夏を無駄に過ごす訳にはいかない。


僕は日毎に大きく育つ彼女への気持ちを押し隠しながら、彼女から見た”兄の後輩”という立場を必死で守っていた。

「暑いでしょう?早く家に入って」


「その前にここで渡すものがある」


「なになに?プロポーズの指輪?」

顔が笑っている。どこまで本気で言っているのだか・・・。

脱力するとともに、気持ちを押さえているだけに少し怒りの気持ちも沸いて来る。


またその様子を見て、


「あれ?怒った?何で?」

と無邪気な顔で訊いてくる。


・・・憎めない。


ウエストポーチの中から、タオルで緩くくるんでいたモノを取り出す。


「お土産」


「え?」


「いなかで捕まえた」


「生きてるの?」


「うん」


手の上には甲羅に閉じこもったカメがいた。


「うわー。ありがとう。一人でかわいそうだなと思っていたの」


「けんかしないといいんだけど」


「広いからたぶん大丈夫」


そう言って彼女は僕の手からカメを受けとった。


「名前つけていい?」


「いいよ。お土産だし」


「じゃあね、ヤマトにする」


「オスかどうかわからないよ?」


「いいの。きっと男のコよ。ヒメのお婿さんになってもらうの」


ヒメとはもともと大宮家にいるカメだ。


「そのうちこの池では狭いくらいにカメでいっぱいになるかも。ヤマトとヒメの家族で」


そう言うと彼女はカメ−−ヤマト−−を地面に下ろし、ベンチに腰掛けた。


見上げているので、僕も隣に座った。


二人並んで黙って見ていると、

しばらくしてヤマトが甲羅から首を出した。


ゆっくりと長く首を伸ばして、あたりの様子をうかがっている。



またしばらくじっとして見ていると手足を甲羅から出して池の方に歩みはじめた。


水面に顔をつけて、少し飲んだあと、ぽちゃんと池に入った。


彼女と顔を見合わせた。


「ここで暮らすことに決めたみたいだね」


「突然連れて来られて驚いてるかしら?」


「そうだね。僕に捕まった時点で彼の運命が決まったんだ」


「そうかしら。運命なら最初からここに来ることになっていたのよ。奈良さんに捕まる運命だったの。きっと」


「ここに来る運命・・・か」


「そう。・・・人と人の出逢いも運命よね・・・」


そう言って彼女は僕の顔を見つめた−−


●16節

−−寝つけないと思っていたのに、いつの間にか眠っていたようだ。


懐かしい夢をみていた。


僕は、再び大宮家を訪れることは出来るだろうか?


そして、

千夏の

「お帰りなさい」

の声を聞くことは出来るだろうか?


まだ自分のシフトまで時間があったので、ブリーフィングルームへ行った。


シミレーターには先客がいた。


ダンだ。


だが、ダンがいたのはフライトシミレーターの前ではなく、ロボットアームの前だった。


お疲れ様です、と声をかけるとじっと睨むように見つめてくる。


しばらくした後、ダンが口を開いた。


「良くやった」


「ありがとうございます」


だがまだ睨みつけられていた。



「お前、何をした?」


「え?」

とは言ったが、本当に驚いていた。自分でとっさにとった行動を冷静に考えると、そう訊かれてもおかしくないことに今気付いたからだ。


でも、そう訊いてくるのはダンだけかもしれない。


「俺はあんなアームの動きは見たことがない」


「・・・」


「気になってモニター出力されていた映像を録画したものも再生してみた」


「・・・」


「今、シミレーターで実際に操作もしてみた」


「・・・」


「だが、出来ない。何故だ?」


僕は隠すつもりはなかった。


−−ロボットアームの操作ソフトは−−


オペレーターが出した一つのコマンドに対して、


実際には、いくつもの動作を複合的に行って、オペレーターの要求する結果になるようにマシンが動作するようにプログラミングされています。


宇宙空間でうまく簡単にオペレート出来るようにです。


オペレーターの操作にソフトの補正が入る、

ということです。


通常はそれでも問題はありません。

というか、問題などないしうまく操作する為のプログラムです。


しかし、補正しながら動いている分、

マシンの最大限のスピードでは動いていません。


観測球を弾くというミスをしてしまった僕は、


その少しの時間差も惜しくて、


そのモードを解除したのです。


なんとか、観測球を捕まえてみると、


補正が入らないほうがうまく操ることが出来るような気がして、そのままのモードでプレースしました。


今、考えると


とても冷静な判断とは言えません。


でも、その時は絶対出来ると思いました−−


またしばらくダンは睨み続けた。

「絶対に出来ると思ったなら、おまえの判断は正しかったのだろう。結果もそうなっている」


「ありがとうございます」


「普通は、そんなモードでそれだけの自信は持てないと思うがな」


「マシンの動作が正確かどうかを点検するためのモードなんです」


じっと考えるダン。

「だから、オペレーターのコマンドとマシンの動作が1対1の関係になり、シンプルな分オペレーターの意のまま正確に動くということか」


「はい」


「良く研究していたな」


ダンは感心している様子だった。


思わず謝っていた。

「すみません。誉めていただけるようなことではないのです。むしろ観測球を弾いてしまったミスの方が恥ずかしい」


「どういうことだ?」



−−本当は守秘義務があって話せないのですが・・・


この船に搭載しているロボットアームは、


僕も開発に協力したものなんです。


テストオペレーターとして。


だから、マシンのすべてを知っているし


誰よりも多くの時間、実際にオペレートしているでしょう。


宇宙空間では初めての経験でしたが・・・


もちろん点検モードでの操作も、

開発中には一番最初にやることです。


そこで正確に動かなければ、ソフトでの補正もより難しくなります。


そのソフトの開発にも当然関わっているので、

結果的に補正を切ったことは僕の敗北でもあるのです−−



「・・・なるほどな」

ダンの顔の険しさがちょっとやわらいだ気がした。


「それで納得した・・・」


「・・・だが、おまえがうまくやりとげたことには変わりはない。良くやったよ」


「ありがとうございます」

今度は本気で言えた。


「テストオペレーターだからって操作に習熟出来るとは限らない。そのチャンスがあるだけだ。おまえはそのチャンスを生かして、知識と技術を自分のものとして習得したんだ。そのことは誇っていい」


「はい」


「だが守秘義務は守れよ。俺も他言はしない」


「わかりました−−」


どうなるのだろう

という不安はあったが、


気持ちは充実していた。


ロボットアームのオペレーターとして乗船して、


その目的を達したからだ。


乗った意味があった。



本当の意味での任務は達成していなかったが、


腕を評価されたことへの答えは出せたと思っていた。


あとは無事帰るだけだ。


千夏のもとへ。


気を抜かずにまっすぐ帰らねば。



帰路へつけたことに、


自分も貢献できたことが、


うれしくもあった。



少しでも早く帰りたい。

想いはそれだけだった。


少しでも早く進んでくれ


とその時私は思っていた。


でも、それは早く進めば良いという問題ではなかった。


これは後々の話だ。

日一日と少しずつだが、

気分は明るくなっていった。


千夏から遠ざかりながら、

なんでこの船に乗ったのかと後悔しながら過ごしていた後ろ向きな日々にくらべ、


例え現在逢えていなくても、

千夏にのいる方向へ向かっているという前向きな時間。


時間が経つのが非常に遅く感じられた。


千夏のもとへ帰るのだ。


帰れるのだと、

思い込む心が、

気分を軽くさせていたのかもしれない。


自己暗示の力である。


もはや、

僕は千夏が目的地の旅人と化していた。


そのせいか、クリスの様子がおかしいのに気が付くのが遅かったようだ。


ダンにクリスを注意してみておくように言われたのと前後して、サラからも

「この間のようなことはないと思うけど、気をつけていて」

と言われた。


久しぶりにクリスと並ぶシフトになった。


会話をかわすまでもなく、様子が違うことがわかった。


挙動不審というのとは違う。


クリスのまわりだけ黒いもやにおおわれたような、

暗い影があった。


その中でクリスは黙々と仕事はしている。

着実に。


とにかく暗いとしか表現のしようがなかった。



とはいえ、

この船に乗っている者で、

心の底から明るくいられる者などいなかった。


みんな、

明るく振る舞うことで、

心の均衡を保っているのだ。



だからクリスに限らず、みんなが暗くなったり少し元気になったりを繰り返していた。


その中でもクリスが一段と沈んで見えたのでみんなが心配していた。


だが、意外にも話しかけてきたのはクリスの方だった。


クリスは僕の年齢をきいたあと、

サラのことをどう思う?と言った。


「どう?って・・・」


「女性としてどう思うかっていう質問だよ」


「そんなこと急に言われても。どうしたんです?」


「いや、深い意味はないよ」


「そうですね・・・。素敵な女性だと思いますよ」


「そうだな。じゃあ自分の母親と同じ位の年齢の女性と恋愛出来るか?」


「本当にどうしたんです?」


「深い意味はないんだよ。参考までに教えて欲しい」


自分の母親と同じ位の年齢の女性、と聞いて自分の母親ではなく千夏の母親の姿が何故か浮かんだ。


「・・・年齢に関係なく素敵な女性はいると思いますよ」


「うん」


「・・・恋愛感情を持つこともあるかもしれません。でも・・・」


「でも?」


「それだけ人生経験を重ねた大人の女性が、子供のような相手を恋愛対象に選ぶでしょうか?そちらの方が疑問です」

なんのことだかわからないが、思っていることをそのまま伝えた。


「おもしろい見方だ」


「でも一方で人生経験と実際の年齢が一致するものかどうか、僕にはわかりません」


と言ったらクリスは考え込んだ。


「なるほどな。例えば実際の年齢が17歳でも精神的には大人のひともいれば45歳でも中身は子供というのもいるわけだ」


とクリスは言ったが、僕はクリスが何をどう納得ししたのかわからなかった。


それでも、クリスをおおっていた霧が少しだけ薄くなった気がした。


●17節

To:チナツ

From:イタル

Sub:

目覚めるたびに

ここはどこだろうと思う


窓のない閉じられた空間で過ごしていると


広大な

何もない

宇宙で

ただひとり

さまよっていることなど

とても信じられない


ここが知らない街なら

飛び出して

列車に乗って

君のもとへかけつけるのに


ここが海の上なら

どんなに遠くても

泳ぎきって

君のもとへ帰るのに


自分のアパートで

目覚めたのなら

いつものように

階段を降り

バイクにまたがるだけで

目を閉じていても

君のもとへたどりつけるのに


ここはどこだろう


●18節


春と言うにはまだ肌寒い日の続く頃、

彼女は無事志望校−−僕の通う大学−−に合格した。


僕の家庭教師の力というよりは、

彼女の学力が充分に高かったからだ。


それでも、大宮家の人々は非常に感謝してくれた。


彼女を囲んだ家族だけの合格パーティーにも招待された。


一方で僕のかかわったロボットアームの開発は順調に進み、その件で大宮家に行くことは少なくなっていた。


受験前に集中的に通った大宮家には、それ以来の久しぶりの訪問だった。


チャイムを鳴らす前に彼女が玄関から飛び出るように現れた。


「いらっしゃいませ」と彼女は言いながら、僕を上から下まで眺めた。


「おかしい?」

スーツとまではいかないが、着慣れないジャケットで一応のこぎれいな格好をしてきたつもりだった。


「全然おかしくないよ。でも、普段の格好で良かったのに」


「お祝いだからね。はいお土産」


といいながら買ってきたケーキを手渡した。


「ありがとう。オートバイじゃないのはこの為?」


「それも、ある」


「わかった。飲むつもりだ」


「大宮先輩からも電車で来るように言われた」


「兄さんが?さては私のお祝いというのは言い訳で、もとから二人で飲む気だったな」


「そんなことないよ」


などと話していると、奥から彼女の母親の声がした。

「そんなところで話していないで、はやくあがっていただきなさーい」


はーいと彼女は言い、

少し顔を寄せて僕だけに聞こえる声で、


「約束は忘れてないよね?」

と言った。


「約束?」

と言うと彼女はふくれた顔をして、すたすたと先にあがってしまった。



リビングに勝手に行くと、すっかり準備は整っていた。


彼女は、母親の手伝いに戻っていた。


大宮教授と先輩に挨拶をすると、席につくように促された。


「何かお手伝いしましょうか」

ときいたが、

「なに、お祝いとは名ばかりで今日は君に感謝する日だから座っていたまえ」

と言われた。


彼女はにこやかに動いていたが、こちらを見ようとはしなかった。


テーブルに料理も並び、彼女も母親も席についてパーティーは始まった。


教授が、娘にお祝いの言葉と僕に感謝の言葉を言って乾杯した。


僕はビールを飲んだ。


教授が、君もそんな年齢になったか、我が家との付き合いも長くなったなというようなことを言った。


彼女と出会ったのが大学に入った夏だから春生まれの僕はその時19歳だった。


2年近い歳月をここ−−大宮家−−に通ったのだとあらためて思った。


日ごとふくらんだ彼女への想いが、良くも破裂しなかったものだ。


この想いは、どれだけ大きく育つのだろうか。

「君も就職活動だね」

教授が話しかけてくる。


「はい」


「もちろんうちへ来るのだろう?」

先輩が言う”うち”とは宇宙探査局のことだ。


「はい。こちらでテストオペレーターをさせていただき、開発にも興味を感じたのですが、やはり宇宙へ行きたいです」


「わかった。がんばりたまえ。僕も内部で道筋はつけておこう。とはいえ、僕も入局間もないからたいした力にはなれないが」

先輩は謙遜しているが、実績を着実にあげて局内で評価されているのは見聞きしていた。


「ありがとうございます」

頭をさげる。


「私も推薦の準備をしておこう」と教授が言うと、

話を聞いていた彼女が


「奈良さんの評価はずいぶん高いのね」

と言った。


「もちろんだ。彼なら安心して推薦できる」


「それだけ信頼なさっているのだから、奈良さんの乗るオートバイなら、乗せてもらって出掛けてもいいわよね?」彼女がとんでもない方向に話を振った。


教授は、それまでの教授の顔から父親の顔に戻って、ドギマギしているように見えた。


「いや、それとこれとは・・・」


「父さん、大丈夫ですよ。奈良くんの運転なら。それこそ僕が推薦しましょう」

先輩が”助け舟”をだす。


「そういうことではなく・・・」


僕も意を決して、

「教授、実は受験の前に志望校に合格したらという約束をしていました。安全運転に徹します」

と言った。


「あら、いいわね。私もあと少しだけ若かったら・・・。あなた、別にかまわないわよねえ」

とそれまで話を聞くだけだった、彼女の母親が言う。


教授は仕方なさそうに

「奈良くん。よろしく頼む」


と言った。


「なにもお嫁にやれって言ってるわけではないのよ」

母親は冗談めかしてそう言ったが、教授は真面目な顔で僕の顔を見ていた。


「はい」

と僕も真面目な顔で答えると、



「お父さん、ありがとう。遠くへは行かないから」


と彼女が教授に言った。

そのあと、話題は移り変わったが、彼女が一度だけ僕にしかわからないタイミングでウインクしてきた。


僕はうまく答えることが出来なかった。


話も料理もお酒も尽きることもなく、パーティーはなかなかお開きにはならなかったが、


僕はあまり夜の遅くならないうちに帰ることにした。


玄関先まで彼女が見送ってくれた。


「約束忘れてなかったね」

無邪気な顔で言う。


「無理矢理思い出させられたような気がするけど」


「ひどい。うまく話を切り出したのに」


「うまく?」


「まあ、ちょっと強引だったけど・・・」


「ちょっと、ね」


「でも、父に内緒で行くつもりはなかったんでしょ?」


「うん」


「でも、面と向かっては頼めなかった。約束も忘れていたわけではなかった。どうしようかな、と思っていた」


見事に言い当てられていた。


「うん。そうだね。助かったよ。ありがとう」


「次は助けないぞ」


「次?」


「僕にお嬢さんをください!」


「え?」


「なんてね。・・・大丈夫?酔ってない?帰れる?」


立て続けに質問されることで、その前の会話の流れが止められていた。


「そんなに飲んでないから大丈夫。楽しいパーティーありがとう。ごちそうさまでした」

僕は帰りの挨拶をした。


「じゃあ、また」


「また」


大宮家を後にして、僕は酔っていることを後悔していた。

自分の気持ちは酔っていない時に伝えたかったから−−


●19節


アンヌもクリスを心配していた。

「一緒のシフトになってもさ、一言も話さないんだよね」

「そうですか。僕はこの間、話しましたよ」

と言って、クリスとの会話の内容をアンヌにも話した。


アンヌは、

「それじゃあ、クリスも・・・」

と余計に心配そうな顔になった。


「どうしたんです?」


「いえ、なんでもないわ」

アンヌは明るい顔で言ったが、作ったような笑顔だった。


ダンも操縦席に並ぶとすぐに、クリスの様子を尋ねてきた。


みんなクリスを心配しているのだ。


クリスとの会話を伝えた。

ダンは途中から顔をしかめながら聞いていた。


そのあと、アンヌにクリスのことを伝えた時の反応を話すと、

しかめていた眉がぴくりと動いた。


「ほう」


と一言だけ言った。


感心した、見直したという感じの言葉が続きそうな”ほう”だった。


僕には想像のつかない何かが進行しているのか?



早く帰りたい一心の僕も、少し不安になってきた。


「何かあるんでしょうか?」


「おまえはないのか?」


「・・・無事に帰れるかどうか不安です」


帰れるかどうかじゃない。

帰るんだ。


という叱責がとんでくるかと思ったが違っていた。


「誰もが不安だということだ」


はぐらかされた気がした。


「ダン、あなたには不安はないのですか?」


「クリスやおまえのように、俺は誰かを地上に待たせているわけではないからな」


「待たせていなければ不安ではないのですか?」


「・・・不安だ。地上を離れてもうすぐ一年が経とうとしている。待たせているだけでなく、こちらも孤独に耐えているのだし、今は確かなことは何もないのだから・・・」


そしてふと思い付いたように、


「・・・アンヌはこの船に誰か好きな奴がいるのか・・・」とつぶやいていた。


それはあなたですよ、とは言えないので黙っていた。


ダンは自分がクリスより落ち着いていられるのを、

地上に待たせている人がいないからだと分析していた。


アンヌが何かを知っているとわかって、落ち着いた態度に感心していたようだった。


自分の分析をあてはめて、アンヌにはこの船に好きな奴がいるのか、とつぶやいた。


それはダンにもこの船に好きな人がいるということだったのかもしれない。


そして、


「今は確かなことは何もないのだから・・・」


の続きが


「・・・だから、俺も不安だ」


ではなく


「・・・だから、気が付かない奴には話せないのだ」


だったことに、その時は思い至らなかった。


そして、気が付かなかった奴というのは・・・私だけだったのである。


●20節

彼女の志望校合格のご褒美−−バイクに乗せる約束−−は、なかなか実現しなかった。

バタバタと入学式も終わってしまい、新入生歓迎会の後しばらく連絡の付かない時期が過ぎ、梅雨をさけるともう夏休みだった。


夏休みに入ってすぐの天気の良い日、

バイクで大宮家に迎えに行った。


彼女と最初に出逢ったのは、2年前のこんな日だったと思いながら、いつもの裏道ではなく玄関の側にバイクをとめた。


すぐに玄関から彼女が現れ、少しあとに彼女の母親も出てきた。

教授はいないのか出てこなかった。

少しほっとしてしまった。


彼女は僕に言われた通り、長袖の上着を着てジーパンを穿いていた。

「かっこいい?」

と彼女は訊いてきた。

普段の彼女のスタイルとは違っていたから見慣れない感じだったが、ボーイッシュな格好も良く似合っていた。

「うん。似合ってるよ」と言いながら、ヘルメットを渡した。


彼女はヘルメットをかぶり、今度は母親にむかって

「かっこいい?」

と訊いていた。


「はいはい」

と彼女の母親は娘に軽く返事をした。


「しっかりつかまって、そして身体の力を抜いて」

と彼女にいい、腰につかまらせた。


いつも隣に並んで座るベンチとも違って、ドキドキしたが母親に見られていることのほうにドギマギしていた。


「奈良さん、よろしくお願いしますね」

と彼女の母親は僕に言った。


よろしくお願いされてしまった僕は、

「無事に戻ります」

としゃちほこばって言い、そそくさと出発した。


事前に


海か


山か


二者択一で訊いたら、


「山」


と彼女が答えたので、


郊外にある大宮家からさらに郊外の山間部に向けて走り出した。


30分ほど走ったところで、まだ山あいには至っていなかったが、

バイクを喫茶店の駐車スペースに入れた。


降りながら彼女が、

「どうしたの?」

と訊いてくる。


「とりあえず、一回落ち着こう」

「わかった」


二人はヘルメットを脱ぎながら、店の中へ入った。


「二人でこういうところ入るのも初めてだね」

席につくなり彼女がにこやかに話しかけてくる。

「そうだね」


「デートみたい?」

デートではないのか?

良くわからなかった。


店員が注文をとりにきたので二人ともコーヒーをたのんだ。


「それより大丈夫?」

初めては喫茶店よりもバイクだろうと思ってきいた。


「うん。でもヘルメットって重いんだね」


「そうだね。このまま走っても平気?」


「痛くはないから大丈夫。首が太くなったらいやだなあ」


「ちょっとかぶったくらいじゃ、ならないでしょう」


「えー、ちょっとなの?せっかく奈良さんがヘルメット買ってくれたのに?」


そうなのだった。

バイクの後ろに乗るのは合格のお祝い

ヘルメットは入学のお祝い

ということにして、

一緒に買いに行ったのだ。


「最高の安全基準のヘルメットなんだけど」


「知ってるよ。選んでるところ見てたし」


ちょうどコーヒーが運ばれてきた。


一口飲んでから、

「うちの方がおいしいよね」

と彼女は言った。


「君のところはいい豆にいい水を使っているみたいだからね」


彼女は一度眼を伏せてから、僕を見つめ直して言った。


「最近になって、やっとわかったよ。大事にされてることとか」


「うん」


「教授の子だって言われるのが嫌だった」


「うん」


「いいことをすれば、教授の子だからと言われ、悪いことをすれば教授の子なのにって言われた」


「ひどいよね」


「反発したわけじゃないけど、人間不信気味になっていたわ。他人に対して少しとんがっていたかも」


「僕と出逢った頃も?」


「そうね。少し。でも治りかけだったから良かったのよ」

「きっかけがあったの?」


「特には思い付かないわ。単純に年齢を重ねたからかも。でも、奈良さんと出逢ってからは完全に回復傾向」


「へえ」


「うちでテストオペレーターをしている奈良さんに指示を出している父の姿を見たり、自分が受験に向かって高度な勉強をするのにしたがってね」


「お父さんの凄さがわかってきた?」


「入学してからは余計に実感したわ。この世界で生きていくのに父の影響からは逃れられない・・・」


「うん」


「そして、やっと自分は可愛がられて育ったと知ったわけ。ばかな娘だわ」


「気付いたのだからいいじゃないか」


「こう見えても奈良さんには感謝しているの」

二人ともカップのコーヒーを飲み干していた。


「出逢ったころから、完全に千夏ちゃんのペースだけどね」


二年の間に


千夏さん


から


千夏ちゃん


に呼び方は変わっていた。


少しは、近い関係になっているのだろうか。


あからさまに思わせぶりなことを言う彼女の本心はどこにあるのか。


僕が彼女を想っているように、


彼女は僕を想っていてくれているのか。


僕はわからなかった。


ただ、


今日は酔っていなかったし、

僕はもう彼女の先生ではなかった。


「生意気だったよね。なんでも許される気がしたの。奈良さんになら」


「どういう意味かな?」


「んー。そういう意味」


フフフと彼女は笑った。


喫茶店を後にする。


僕の腰に廻した彼女の腕の力がさっきまでより強い気がした。


山間部へと続く道は、

車線の数を減らしながら少しずつ市街地から遠ざかっていった。


大きく登ったり、

少し下ったり、

緩やかなカーブを繰り返しながら、

いつの間にか峠道を走っていた。


路面の状況を注意深く判断しながら、これ以上はないというくらい安全運転に徹した。


時折、道の片側が完全に開ける度に

見下ろす景色がきれいに広がり、

高度も増していくのがわかった。



何度かそんな景色を繰り返したあと、

中腹の見晴台に到着した。


バイクから降りて、

ヘルメットをとった二人は屈伸運動をした。


目の前には雄大な景色が広がっていた。


「ごめんね。疲れたよね」


と彼女は言った。


「うん。めちゃめちゃ緊張したし」


えっ

という顔を彼女がした。


−−そんなことないよ−−


という返事を予期していたのかもしれない。



「一番大切な人を乗せてるんだから緊張するよ・・・」



「・・・千夏ちゃんは、僕の一番大切な人だ」



彼女の顔を見つめる。


彼女は息をのんでから、

「ありがとう。うれしい」

と言った。

「座ろうか」


ベンチに腰掛ける。


僕はもう彼女の方を見ることができず、前方に広がる景色に目をやっていた。


彼女は首を横にして、僕の横顔を見つめているように視界のすみで感じていた。


「ねえ、大切なだけ?」


え?


言われたことがよくわからなくて思わず横を向いたら、見上げて来る視線と目があった。


「大切なだけ?」

もう一度彼女が言う。


「一番大切だよ」


「好きじゃないの?」


・・・そういうことか・・・


「・・・好き、だよ」

恥ずかしくて仕方なかった。大事なことだとはわかっていても口にするのは難しいことだった。



「ちゃんと言って」


「ちゃんと?」


「千夏、愛してるよ、って」


「・・・」


「愛してないの?」


「・・・愛してる・・・」


「ちゃんと言って」


「・・・千夏・・・愛してるよ・・・宇宙で一番」


「ありがとう。私もイタルさんのこと好きです」


なんか負けた気がするのは何故だろう。


「ホントにありがとう。宇宙で一番って言ってくれて。『千夏愛してるよ』は私が言わせたんだもんね」


「そんなことないよ」


「優しいね。帰りもよろしくね。イタルさん」


「帰りだけじゃない」


「え?」


「帰りだけじゃない、一生、君を守る」


「それ、プロポーズ?」


「そういう気持ちはあるけど、それはまたそういう時期が来たらきちんとあらためてするよ」


「約束だよ」


「約束する」


「新しい約束だね」


そうだね・・・




一生守ると約束した千夏を後ろに乗せ、


帰り道も丁寧な運転を心がけた。


まだ明るいうちに大宮家に戻って来た。


千夏のお母さんが出て来た。

朝も出てこなかったから先輩や教授はいないのかもしれない。



「あがっていかないの?」

と千夏のお母さんはきいた。


「ええ、今日は帰ります」

集中して走ったのでクタクタだった。


ガチャと玄関が開き、大宮教授があらわれた。


「無事に送りとどけてくれてありがとう」

と教授は真面目な顔で言った。

教授はずっと家にいて帰りを待っていたのだろうか。


「いえ、ご心配をおかけしました」

頭を軽くさげる。


「帰り道もじゅうぶん気をつけて帰りなさい」


「はい、ありがとうございます」


「今日は、ありがとうね」

千夏が笑っていた。

ちょっと疲れて見えた。


バイクにまたがりなおし、

「また」

と言うと千夏はウインクしてきた。


他の人にわからないようにウインクするのがうまい。


教授やお母さんの方に会釈をして、バイクをスタートさせた。



眉間のあたりで集中力が高まり、

教授の声がこだましていた。


・・・帰り道もじゅうぶん気をつけて帰りなさい−−


●21節


−−宇宙で遭難し、

現状を把握できないまま

一か八かの方向転換を成功(?)させ

ひたすら未知の空間で耐えること3ヶ月、


その帰り道も、

あとわずかのはずだった。


帰り道も充分気をつけられただろうか・・・


教授、もうすぐ帰ります。



千夏、


帰ったら約束のプロポーズだ・・・


第1部終了

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