終章付記 『円城家のお正月 ~2022年元旦~』
ずいぶん寝坊した。夜遅くまでおしゃべりしていたし、お酒も残っている。散々飲んでいた兄とロッテはまだ寝ている。
リビングに入ったら、お父さんがお正月のテレビを眺めながら一人でワインを飲んでいた。テーブルに並んだ、お母さんお手製のおつまみ。クラッカーの上に半熟ゆで卵スライスと黒オリーブ。ほくほくのポテトサラダ。カルパッチョは色味から見てたぶん真鯛……どれもお酒に合いそう。
「みんな起きてきてから、お節は出そうね」
台所で重箱に料理を詰めながら、お母さんが言った。
「美味しそう。私も一つもらうね」
横からクラッカーをつまんでぱくり。味わいながら、お父さんの顔を見て驚いた。しょんぼり、と顔に書いてあるみたいだ。
「……お父さん?」
「……もう、家族でこうして年越しするのも……最後かもしれないと思ってな」
「何気の早いこと言ってるの。まだ私、大学二年だよ」
五つ上の兄には付き合って四年になる綺麗な彼女がいる……お父さんもきっとお母さんから聞いて知ってるはず。
「お父さん昨日から泣き上戸なの。お兄ちゃんもあなたも結婚して、家から出てっちゃうって。朝まで一人でグズグズでね……」
外では偉くて、厳しいお父さん、と聞いている。
でも、家では本当に家族が好きなお父さん。
私のことになるといつも空回りする位……優しいお父さん。
「いい正月だな咲耶。ほんとに……こんなのも、もうおしまいになるかもしれないと思うと、お父さんな……」
ぶつぶつ言いながらワインを飲むお父さんの横に座った。
私もグラスを一つもって。
「ね、お父さん、一緒に飲もう」
注いでくれた赤ワインの色が綺麗。
「お父さん、私まだ二十歳なのに、気が早すぎない?」
「……だって、辰巳くんは、もう三十二だぞ。そんなに遅くってわけにも……いかないじゃないか」
「それは……うん。ずっと先とは言えないけど。でも、結婚したってきっとお正月は、帰ってくると思うし」
「辰巳くんの実家だってあるじゃないか。こっちにばかりってわけにもいかないだろ」
「……お父さん、変なところちゃんとしてるんだから」
まだ、先だよ。ね。元気だして。
そう言って、お父さんを慰めたのだけど。
……割とこの後、すぐ……になっちゃったのよね……
『円城家のお正月』 了