精霊
「おい!ユウ!こっちに来い!」
ある程度回復し、仕事に復帰したらすぐに、
ギルに呼び出された。
「オラ!呼ばれたら、すぐに来い!
このノロマ野郎!」
ドカッ!
まるで挨拶がわりだという様に、
蹴りを喰らわされた。
「テメー、あれぐらいで寝込んでんじゃねぇぞ!
テメーのせいで、父上に怒られたじゃねぇか!」
ドカッ!バキッ!
蹴りや、拳が雨あられと降り注ぐ。
ギルは18歳で力も強い。
とてもではないが、8歳も下の10歳の子供にする仕打ちではない。
私でなければ、すぐに身体が壊れてしまうだろう。
私は、呼吸法や体捌きで、この程度の攻撃なら無効化して、
上手くやられたフリが出来る。
「はぁはぁ、またやり過ぎて父上に怒られるのは嫌だからな。
このぐらいにしといてやるよ。
じゃあ、また明日な!出来損ない君!」
気が済んだみたいだな。
今は、前世の技術でなんとか誤魔化しているが、
身体能力の向上が必要不可欠だな。
とはいえ、仕事やギルの相手で体力や筋力を鍛える時間もない。
どうしたものかと、悩んでいると、声が聞こえた。
「ほー!あんだけ、クソガキに毎日痛めつけられて、
今日もボコボコにされとんのに、ケロッとしとる!
中々、打たれ強い奴やで!」
うん?前世の世界で馴染みのある方言が聞こえたぞ。
何処から聞こえるのかと、辺りを見渡せば、
狛犬の様な、得体の知れない物体が庭の木の上で、こちらを見下ろしていた。
「子供のくせに、見どころあるやんけ!
うん?こいつ、俺の姿が見えてる?
明かに、俺を見つめてるやん!」
狛犬みたいな物体に話しかけてみる。
「おい!」
「なんやねん!ビックリするやん!
兄ちゃん、俺を認識するとはなー!
人と話すのは、100年ぶりやで!」
「おまえ、何者だ?
なぜ、狛犬が喋っている?」
しかも、なぜ関西弁なのだ。
狛犬みたいな物体は、やたら饒舌に話してくる。
「おいおい、兄ちゃん、
狛犬てなんやねん!
俺は、この家と土地の守り神みたいなもんやで。
精霊といった方が分かりやすいかなー。
精霊って知ってる?まぁ、今の若い子は知らんかなー?」
「精霊?精霊とはなんだ?」
「精霊っちゅうのは、この世界を作った神々の眷属や。
たまに、気に入った人間と契約を交わして、力を貸したりしてんねん。」
「ほう。力を貸してくれたら、何が出来るんだ?」
「めっちゃ強力な魔法が使えるで。しかも、俺の姿が見えるぐらいやから、
いろんな精霊と契約を交わして、たくさんの魔法を扱えるんとちゃうか。」
「魔法?魔法とはなんだ?
お前と、契約を交わさないと魔法は扱えないのか?」
「魔法を知らんのかい!
たく、最近の若いもんは。
よっしゃ!見せたるで!」
そういうと、犬は何もない空間から、
火の玉を作り出した。メラメラと火の玉が浮かんでいる。
そして、それはすぐにフッと消えた。
「どうや!こんな感じやで!
凄いやろ!特に俺は、精霊の中でも力が強いからな!」
「確かに凄いな。
初めて魔法をみたが、何もない空間から火を出すとは大したものだ。」
「そうやろ!ただ、空間は何もないわけじゃないで。
マナっちゅう魔法を扱う素があるんやで。
精霊達は、マナを扱えるのが非常に上手いんやで!」
「精霊達と契約しないと、魔法は使えないのか?」
「そんな事はないで。
スペルを唱えたり、書いたりすれば扱える。
精霊と契約すれば、そんなメンドイことせんでも、
頭の中でイメージすれば魔法を扱えるんや!」
「それは凄いな。
守り神と言っていたが、この家の者達ともう契約しているのか?」
「そんな訳ないやん!
何代か前の当主がオモロイ奴やったから、
お前の子孫と家を守ったるわって、約束したからここにいるだけやで!」
「じゃあ、私と契約してくれないか?
この家から逃げ出したいのだが、今は力もなければ金もないのでな。
藁にでもすがりたい所なんだ。」
「ええやろ!
兄ちゃん見所ありそうやし、一緒におったら退屈しなさそうやしな!
力を与えても、変な事には使わんやろうしな!」
「良いのか?
この家との約束は大丈夫なのか?」
「ええで。
約束言うても、300年前の話やし。
結構、面倒も見たし、暇つぶしでおったぐらいやしな。
それに、ここ最近の当主や家のもんの横暴さに呆れとった所やで。」
「そうか、力を貸してくれるのならありがたい。
これからよろしく頼む。
私の名前はユウだ。」
「ワイは、火を司る精霊や!
火以外にも使えるけど、またそれは教えるわ!
これから宜しくな!」
精霊と契約をすることが出来た。
なんとか、逃げ出す方法が見つかりそうだな。