母と爺
「は…は、うえ…」
次の日には、何とか指先、口は動かせる様になっていた。
「ユウ!あぁ、神様!
ありがとうございます!」
「坊ちゃん、あぁ、良かった!
すぐに、何か飲み物を持ってきます!
昨日から、何も口にしてないでしょうから!」
母と、爺は物凄く感動していた。
特に母は、ずっと傍で手を握り続けていたのだろう、
目の下にクマが出来ており、ますます、やつれている様に思える。
「坊ちゃん、スープです!
ゆっくりで良いので、少しでも飲んでください。」
そう言うと、自分の体を少し抱き抱える様にして、
スープを口の中に運んでくれる。
暖かい…
スープの暖かさだけでは無く、人の暖かさというものまで、
感じることができた。
少し、辺りを見回してみる。
どうやら、物置小屋を生活できるように改善した様な部屋だった。
前世でも、私はこの様な小屋で生活をしていたので、分かってしまう。
「父上様が、ご健在であれば…
この様な生活を送らなくて、済んだのに…」
「爺、泣き言を言っても仕方ありません。
命があるだけでも、ありがたいのですから。」
母は嗜める様に言う。
「ですが奥様、この館の主人ジャスと
公爵のブレイクがご主人様を嵌めて、
破滅に追いやったのですぞ!」
「爺!滅多な事を言うではありません!
誰かに聞かれたら、貴方まで殺されます!」
「元より、この命はご主人様に捧げていたものです!
今更、命など惜しくはありません。」
「貴方が居なくなれば、私達を助けてくれる人が誰もいなくなります。
貴方の存在は、ユウが生きていくのに必要です。
昨日も、貴方が居なければユウは死んでいたことでしょう。」
「奥様…
あぁ、私にもっと力があれば!」
なるほど、
父親はジャスとブレイクという奴らに嵌められ、殺されたのか。
でもなぜ、母や爺や私が仇の館に居るのだろう。
「ジャスは、私の体を好きに出来ないのが気に入らないのでしょう。
奴隷としてジャスに買われたとはいえ、意思や体まで自由に出来る訳ではありませんから。
ただ、ジャスに反抗できなくなるのも時間の問題かもしれません。
ユウが、ここまでされるのが続くともう…」
そういう事か。
ジャスに奴隷として買われたから、ここに居るのだな。
「奥様!最後の誇りまで失ってはいきませんぞ!
この次は、爺が命をかけて坊ちゃんを守りますから!」
「ありがたいですが、そうすると爺が死んでしまいます。
あの人以外の男に、手を触れられるのは我慢なりませんが、
ユウの為なら…」
「奥様…」
これは、想像以上に、ややこしい事になっているな。
この事情を知ってしまった以上は、一刻も早く身体を治し、
母と爺を守れる様に、ならなければ。
そう思うと、私は自己回復の呼吸を、これまで以上の集中力で行うのだった。