ぼくとホモにいさん
女なんて良いもんじゃないぞ
兄さんが口癖の様に言っていた言葉だ。
母親は『近付いてはダメ』と口うるさく言っていたが、兄さんの部屋には漫画やゲームが沢山置いてあり、子どもからしたら天国の様な場所だった。
隣の家なのを良いことに、俺はベランダからこっそりと兄さんの部屋へと入り込み、よく漫画を読んでいた。
「お兄さん、仕事は何してるの?」
「……この前クビになった」
子どもながらにその時は『クビ』の意味が解らなかったが、バイト先の女の子に酷くフラれて女の子が辞める話になり、その子は店の看板娘だから兄さんが辞めさせられたと言うわけだ。
「女なんて要らねぇよ……」
その時の兄さんは椅子に体育座りをしながら拗ねた子どもの様に丸くなっていた。けど次の日には別なバイトを見つけたらしく、暫くはウキウキとしていた。きっと別な人を好きになったんだろう。子どもの俺は深く気にせず漫画に没頭していた。
「またフラれた……」
兄さんは女の子にフラれると、ビールを飲みながらスルメを食べてくだを巻くのがお決まりだ。俺もスルメを貰って食べながら漫画を読んでいた。漫画がイカ臭くなるから箸で食べてたけど……。
「優子ちゃんが好きだから同じバイト先にして趣味や家まで調べて、ギターが好きだって言うから中古で買ったのに……!!」
兄さんの部屋に飾られているギターはいつでも綺麗だったが、弾いているところを聞いたことは一度も無かった。
「決めた! 俺……ホモになる」
何を考えているのか分からないのが兄さんの難点だったが、行動力の高さは兄さんの長所でもあった。
次の日、珍しく兄さんの部屋はカーテンで中が見えず、俺はいつものようにベランダから兄さんの部屋の窓をノックした。
「お兄さん……?」
窓が開くのには暫しの時を有したのを今でもハッキリと覚えている。それ程にその時の兄さんは脅えた顔をしていたのだ。
「ど、どうしたの!?」
「フラれたんだ……しかも男に」
「どゆこと!?」
昨日の続きを手に取り、俺はお気に入りのビーズクッションへと腰掛ける。
「youはFuckするに値しない……ってさ。ハハハ……」
「…………」
兄さんは寂しい顔でビールを飲んでいた。
「やっぱり、お兄さんには女の人の方が良いんじゃ無いかな?」
「そ、そうかな……そうだよな!」
次の日、新しいバイト先でフラれた兄さんは、そのまま姿を消した…………
「あの時は焦った焦った……」
「懐かしい話……」
「それじゃあ今ではワタシ達のお姉さまなんだもの」
「や~だぁ!可愛い妹達に囲まれて、し あ わ せ~~!!」
確かに兄さんの言葉通り、女は要らない。何故なら俺達が女になったからだ…………。
読んで頂きましてありがとうございました!!
(*´д`*)