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「ニィーティスト」  作者: ニィーティス亭 夢★職
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第一章 地獄篇 #6 謎の招待状

                      6


現金キャッシュですかー!! 現、金..があればー! なんでもー! 買、え、るうー! ひゃっ! フフフ、ハハハ..こんにちはジャッペーン! まーやこと、平本摩耶インダーハーウス! うぇ~い! 本日はあたしが名誉バイトリーダーをつとめさせていただく、ええっと、覚えられなかったんで読みまっする。日払いの振り込み手数料とー! 交通費全額支給の有る無しこだわったー! 困ったときの頼みの綱、お前らの総合求人誌、「バイター」新創刊イベントへようこそ! ワイもこれから創刊記念企画「まーやがお前らの代わりにバイト試用期間に挑戦!」で、人生初のバイトにハッスル! ハッスル! ガンバルンバー。それでは最後に、あたしが芸能界での目標にしている、憧れの森田まりこ先生の物まねをしまっしゃ。うほ、うほ、うほ。プリプリ。投げたらアカンやろ! からの、人類の進化! まーやでした、バイビー!」


 スクリーンに、深紅のワンピースを着た、深窓の令嬢のような、息を飲むような美少女が現れ、初めて見

るような、独自の個性、特殊な語り口でしゃべり、動き、フレームの外へ消えていきました。


 なんなんだ今のは..


 会場内が、水を打ったようにしずまりかえった、その時でした。


 それは一度見たら、二度と目をあわせたくない、クールジャパンを象徴するような、異次元の男でした。


 北九州市成人式の出席者が、地味で普通に見える、超がつく極彩色の、暴走族の特攻服と、荒れる成人式の金銀の袴、その不快さ気持ち悪さすべてを合体させ。


 アニメキャラ、謎漢字で埋め尽くし、クールジャパン仕様に昇華させたような。


 不気味で気持ちのわるい応援服を着用し、髪の少ない頭に「平本摩耶愛屍逮 修身超患 内海啓一」と、無駄に達筆で染め抜かれた、応援服同様、漢字らしいということ、最後がしめている男の名前であるらしいこと。


 それ以外は、どこの国の、どういう意味の言葉なのか?!


 まったく意味不明な応援団風鉢巻をしめた、ボリューミーな体格の中年男が、最前列中央の席から静かに立ち上がると、


 ぱん! ぱん! ぱん!


 神社の参拝儀礼のように手を叩きました。

 

どうも、謎美少女のVTRによる開催宣言への、儀礼的な拍手のようなのですが、本来ならこれが呼び水になり、会場をうめた満員の参加者から、お義理の拍手が続くはず、なのですが..


「境界線上のまーや」、「おくすり娘」、ハロワならぬ「今すぐ病院へ逝け!」等、クールジャパンに通じたマニアたちの間でも、


「いいかげんにしろ!!」


「さすがの俺もキレた!!」


 等々、どこまでが正気の天然なのか、疑問視する異論が絶えないまーやですから、会場を埋めた何も知らない高齢参加者たちは、初めて被弾した、謎の美少女に困惑、凍りついたように身動きひとつしませんでした。


 それでも頭髪のさびしい、小太りの男は、自分の役目は果たした。


 満足したようにうなずき、また静かに席につきました。


 特異な応援服を着たその男が、「まーや帝国民No.1の男」であり、かつては「ネットビジネス業」を自称し、ニートだった過去を認めて改心した今は、バイト探しの浪人者として活動する、内海啓一くん35歳で

あることは、いまさら説明するまでもありません。


「平本摩耶さんありがとうございました。えー、本日はお忙しい中、お前らの総合求人誌、「バイター」新創刊記念公開シンポジウム、「実家住まいの大人待機児童よバイトやらないか」にご参加いただき、まことにありがとうございます。本日、司会、進行をつとめさせていただく、フリーアナウンサーの森田瑞枝です。わーありがとうございます。それでは短い時間ではありますが、最後までおつきあいください」


 まーやの挨拶に続いて、美人ですが、お高くとまったような局アナとは違った、庶民的な親しみやすさのある森田アナが、正気の笑顔で常識的に登場すると、水を打ったように静まり返ったまーやとは違い、「みずりーん!!」、愛称を呼ぶ声も出るなど、会場はほっとしたような大拍手に包まれました。


                     ( ´_ゝ`)


「なんだってー!!」


 さかのぼること三週間前、平日の正午を少し回ったとき、鍵のかかった啓一くんの秘密の部屋に、お約束のすっとんきょうな大声が轟きました。


{溶かしすぎた君ら! 実家で大人待機児童なう! なお前ら! バイトやらないか! 困ってる男のピンチ打開系総合求人誌「バイター」新創刊! 全国大型パチスロ店 有名健康サウナで 一生懸命「無料」配布予定!」


 啓一くんの家の近所にある、宮殿のようなパチスロ店の広告塔。


 その靴下を履かないことで知られる、かつてのトレンディー俳優が、クー顔でガッツポーズをしている隣で、愛するまーやも同じ顔、同じガッツポーズをしている広告写真が、インスタグラムにアップロードされていました。


 その下の説明文には、名誉バイトリーダーに選ばれたまーやが、求人誌の創刊記念シンポジウムで、VTR出演での開会宣言を行う。


 告知なのでした。

 三週間前の、まだいきっていた啓一くんは、自分は「ネットビジネス業」であり、「大人待機児童」などとは無縁だ。


 けれど、責任ある立場である、「まーや帝国民No.1の男」として、まーやのVTR出演を、現場で見届けなければ、俺の愛するまーやへの仁義が立たない。


 はげしい葛藤があったのですが、それも過去のこと。


 「バイト探しの浪人者」の今、まーやに導かれてのシンポジウム出席はもはや運命。


 なによりこのシンポジウムの招待状が、なぜか啓一くんの自宅に届いたのです。


 まーや帝国NO1の男として、ぜひまーやが「名誉バイトリーダー」をつとめる、このシンポジュウムに参加されたし。


 様々な理由が重なるこのシンポジュウム出席はもはや自分の運命。


 啓一くんは「勝負服」に身を包み、会場にはせ参じたのです。


「それでは、ここからはフリーター歴30年、200種以上のアルバイトに実際に従事し、現場をしりつくした経験から、今、大人待機児童にどんなバイトが適しているのか。それを突っ込んだ見地から教えてくださる、本日のゲストをお呼びしたいと思います。それでは大きな声でご唱和お願いします! 3年ニート組!」


 あらかじめ説明があったので、会場の高齢参加者も大きい声で唱和します。。


金魂ゴールドソウル先生!」


「それではお迎えしましょう、3年ニート組金魂ゴールドソウル先生こと、本日のゲストパネリスト、「バイター」総合アドバイザーでもある、プロバイト集団、「ストリートバイター通」代表、月尻いき雄さんです!」


 これを見にきた、聞きにきた!


 啓一くんはぐっと身をのりだしました。



                       ( ´_ゝ`)


 お尻を突き出すような、腰を低くした姿勢で、スポーツ刈りで筋肉質、「ストリートバイター通」の、バンドTシャツならぬ、バイトTシャツ、短パンにスニーカー姿で、いかつい顔の中年男が登場し、真っ白い歯を見せて、にこやかに森田アナと握手して席につきました。


「それではまず、本日のゲストパネリスト様の、経歴紹介から始めさせていただきます」


 森田アナはプロのアナウンス技術、持ち前の美声で、進行表の経歴を朗々と読み上げます。


「月尻いき雄、19××年埼玉県生まれ。17歳で学業を放棄し、自分探しの旅に出ることを決意。その資金稼ぎで始めたバイトが転機となり、50歳になる今年、前人未踏のフリーター歴30周年を達成。ベテランフリーターとしての、確かな経験と実績を元にし、大反響を呼んだバイトブログが、「フリーターはつらいよ」として書籍化。その後も、自身のフリーター人生を振り返った自叙伝「非正規バカ一代」、派遣先で出会った愉快な仲間たちとの交遊を、ファンタジックに描いた実録ライトノベル「バイトリーダーと時給の囚人たち」等、多数の著作を上梓。フリーター界の現役レジェンドとして不動の地位を築く一方、時給の職場を極めた、キングオブ非正規として、今も実際に現場で働く傍ら、バイトフィールドワーカーとしても精力的にWワーク中。また最近では、大人待機児童問題に関する、気鋭の論客、3年ニート組金魂ゴールドソウル先生としても知られるなど、八面六臂の活躍中。今日は普段お会い出来ないような、別世界のすごい方とお話出来るということで、私も緊張しております」


「いえいえ! 僕の方こそ、こんな中卒、非正規のおっさんが、真面目に勉強し、有名大学を出て、女子アナウンサーとしてご活躍されている雲の上の方と、同じ立場でお話させていただいていいものかと」


「そんな、とんでもないです! えー、ま、それはそれとして、時間も限られていますので、さっそく本題に入りたいと思います。皆さんもご存じだと思いますが、本日はアへ真TVでの生配信もあるということで、シンポジウムに先立ち、皆様から広くお悩み相談を募集したところ、家族に大人待機児童をお持ちの高齢の親御さんたちから、実家でぶらぶらしている大人待機児童に対し、これ以上黙って見ていられない。もう親が「責任を取る」しかないのか。といった、ユー、やっちゃいなよ! な内容の、大変思い詰めた、切実な相談が多数寄せられました。まずその中の一通を紹介し、月尻さんに解決策、打開策をお聞きしたいと思います」


 森田アナは進行表をめくると、送られてきた切実な悩みを読み始めました。


「73歳、年金暮らしの無職の父親です。息子は中一で不登校になって以来、35歳になる今日まで、一度も職についたことのない、ひき、いえ、大人待機児童です。といっても、日に一度は散歩に出かけ、近所の公園で、女児を含む、子供たちを見ていたとして」


 森田アナが、どこかで聞いた覚えのある、寒々とした逸話を読み上げていたその時でした。


                ( ´_ゝ`)


「なんだってー!」


 啓一くんの家の、二階の間取りは、階段を上ってすぐが施錠された秘密の部屋、その隣は、今は結婚して家を出た、弟信二くんの部屋です。


 本人もいいといってくれているのに、老妻はいつ離婚して戻ってきてもいいように。


 信二くんのいない空き部屋を、頑として使わせてくれません。


 仕方なくその隣の、3畳ほどの納戸。


 そこを改装した、一家の主としては寂しい書斎に、啓一くんの父修二さんの、すっとんきょうな大声が轟きました。


 修二さんの趣味は、定年退職後に始めた、庭の花壇作りのほかは、今も昔もパチンコです。


 といっても、年金暮らしで無職の今は、月10000円までと上限を決め、たまに大勝ちしたときは、そのお金で一人、ふらりと浅草に出向き、競馬飲みをするのが楽しみの、ささやかな気晴らしです。


 ある日、いつものように、近所の宮殿のようなパチスロ店に出向くと、店前に「バイター新創刊!」。


 巨大な看板が立ち、店の広告塔の俳優と、見知らぬ女の子が、並んでガッツポーズする横に、本日のシンポジウム開催の告知がありました。


 「秘策」こそあれ、わざわざ悩める父として、交通費をかけて出向くほど、長男を心配する気持ちも、愛着する思いもない。


 ですが、司会進行が朝4時からの、ニュース芸能番組の女性キャスター。


 この森田瑞枝を最後のオンナに出来たら、俺はおくすりで心臓をいわして、そのまま死んでも悔いはない。


 真剣に思い詰めるほどの老いらくの恋。


 修二さんは自然に目が覚める午前4時、いそいそと居間のテレビをつけ、森田アナの愛敬のある笑顔、朝刊一気読みで背を向けた時の、


(このデカケツがたまらねえんだよな..)


 背後に妻が立っていても気づかないほど、森田アナにぞっこんなのでした。


 本来なら今頃、「何か啓一の今後に役立つかも」云々と、妻にうそをつき、いかがわしい目で生森田を視姦しているはずでしたが、いそいそと向かった最寄り駅では、何だかの事故の影響で、池袋方面の上り電車は運休、復旧のメドは立っていない。


 繰り返されるアナウンスに、やはり啓一は「秘策」にたくす運命なのか。


 泣く泣く駅から引き返し、


「70の手習い、ボケ防止」


 昭和の男ですから、いちいち理由をつけて始めた、ノートパソコンを開いて、


 森田アナも、年齢的にフリーでは限界です。アラサー突入を目前にして、生き残る道は隠れDカップを解禁、ソフト系AV出演も考慮せざるえない、危機的状況といわれています(テレビ局関係者の話)。


 啓一のような、ごくつぶしどもが巣くっているとかの掲示板で読んだ、週間J話の記事は本当なのだろうか?


 やきもきしながらネット中継を見ていると、どこかで聞いた覚えのある、寒々とした逸話、それが自分の投稿であることに気づいた次の瞬間、修二さんは思わず悲鳴をあげました。


 切り替わった画面に映し出された客席。


 皆、映るのを恥ずかしがって、後ろの席に固まっている中。


 ただ一人最前列中央にいて、険しい表情で腕組みしている、73歳の修二さんには、何を主張しているのか見当もつかない、この世の地獄を体現したような扮装をした小太りの若禿げ。



 そのどす黒い顔色をした中年男が、どう見ても自分の息子、啓一くんだったからです。


                      ( ´_ゝ`)


「こういう大人待機児童って、本当にいるんですね」


 投稿を読み終えた森田アナが、戦慄した表情でうめくと、ゲストパネリストの月尻氏も大きくうなづき、


「いわいる現実の恐怖のテラーハウスの住人ですね」


「テラスではなく、テラーですか」


「かなしい現実ですが、頂点もあれば底辺もある。そういうことです」


「では、この22年ひ、ニー、いえ。なんだっけ..ああ、大人実家待機している、35歳のKくんは、これからどうしたらいいんでしょうか?」


 月尻氏は、会場を埋める、大人待機児童を持つ高齢の親御さんたちを、意味ありげに見回すと、


「有志を募って、海外ドラマのFBIのように、子供部屋に太くて固い棒をぶちこみ、強行突入して裸一貫にして家から追い出す」


 月尻氏が不敵にいうと、わざわざここまで来て、結局、「世間一般の常識」か。


 やはりそれかとうなずく高齢者の中、啓一くんが一人がっかりしていると、


「それダメ!!」


 月尻氏は立ち上がって、大きくバツじるしを作って見せました。


「やけくそになったお子さんが、街中で一般人に「大それたこと」を実行し、別のテラーハウスのひきこもりとなり、残されたご家族は、転職や引っ越しをせざる得ない。それが望みなら、確かにこの方法が最適です」


「違うんですか?! いや、あたしもそういう事案を耳にするたびに、どんなに環境がわるくても、頑張っている人はいる。親が甘やかすから、実家待機が治らないんじゃないか。腹がたって、よく匿名でやほーや

あの掲示板に投稿..はしませんけど」


「実は僕も17からハタチまで、ここでいう実家待機児童でした。それからフリーターになり、今日まで社会の底辺で、様々な若者たちを見てきました。暴力的な非行に走る子は父親、内向的な実家待機になる子は母親。精神のゆがんだ大人による、自分の所有物である子供に、なにをしようが親の自由。しつけと称した虐待の結果である事実を、我々、大人は、21世紀の今、受け入れなくてはならないんです」


「悪いのは実家待機している本人ではなく、その境遇に追い込んだ親だと?」


「そうです。それを親が認め、子供を自分の精神的な奴隷から解放したとき、初めて実家待機児童の、社会復帰への道が開けるんです」


                      ( ´_ゝ`)

 

 場内はまた静まり返りました。


「ただこれだけはハッキリさせてください」


 空気を読んだ顔で、月尻氏は続けます。


「自分も十代の頃はそうでした。もう大人待機児童などといった、まわりくどい呼びかたはやめましょう。今日は誰がお子さんをニートひきこもりにしたか? その犯人探しをするために皆さんにご足労いただき、不肖月尻が上から物言いをつけにきたわけではありません!! 森田さん、うつ病って本人の甘えだと思いますか?」


「いえ、さすがにそれは」


「うつ病の人に必要なのは、休養と適切な投薬ですよね? どうしてうつ病になったかではなく、どう本来の健康な精神状態に戻すか? それがまず先決でしょう? ニートひきこもりも同じなんです。ニートひきこもりは甘え、本人の責任。どうしてそうなったか知るよしもない、「世間一般の常識」とかの、手あかのついたいつもの責めことば。それでニートひきこもりが治りますか? 外に出て働き出しますか? うつ病の人に、お前は甘えてるだけで、辛くても頑張っている人は大勢いる。そういって何が起きますか? それと同じで、ニートひきこもり状態になった子を、根性論で脅しても無意味なんです」


「確かにいわれてみれば..実体験に基づいたご意見、説得力がありますね」


 森田アナが、今度は感心したようにうなると、月尻氏もまだまだいいたいことはある。


「なによりまず親御さんが肩の力を抜く。自分たちが死んだら誰がこの子の面倒をみるんだ。人間はそう簡単には死にませんよ。うちの親父は今年80ですが認知症のにの字もない。ただ昨年、大きな心臓発作を起こした。でも助かりました。年齢を考えたら奇跡だと、医者も驚いたほどです。なぜ助かったかわかりますか? 50にもなっても、バイト暮らしで独身の息子が心配で、僕を見捨てて自分だけ死ねなかったからです」


 会場内から安堵共感の失笑が起きました。


「本来ならスーツを着て毎日会社にいき、結婚して子供もいるはずの息子が、働きもせずにずっと部屋にひきこもっている。そのことが、真っ当な世間一般様に対して顔向け出来ない、親として恥ずかしいことだ。まずそんな考えは捨ててください。だって、世間一般の社会人って、そんなに立派ですか? 政治家は税金を不正流用しても、反省もせずに開き直っているし。会社ではパワハラ、セクハラが横行し、権力を持った者が悪の限りを尽くしている。働いている人間の大半は、正直、ろくでもない、八百長人間ばかりじゃないですか。そんな腹黒い社会人に、息子が労働も納税もせずに申し訳ない、おわびする必要なんてないんですよ。むしろ、うちのニートのおかげで、老骨の心身に気合いが入り、無病息災でいられる。まず同居する親御さんが気持ちを切り替える。逆転の発想ですよ。押してもダメなら引いてみる。そこからお子さんの脱ニート、ひきこもりからの社会復帰の道がはじまるんです」


「たまにテレビなどで、説教BBAみたいのが、部屋に強行突入して、みたいのをやってますが、あれは逆効果だと?」


「逆効果以前に、ああいうのは人の弱味のつけこんだ詐欺、単なる金目当てのやくざのシノギです。ただ高額のお金をむしりとられるだけで、なんの解決策にもなりません。よくネットを切断すれば部屋から出てくるなんていいますよね」


「はい、仕方なくなんて」


「中には出てくる子もいますよ、刃物を持って親を刺しに。僕は逆にこう提案したいんです。ネットを切断する必要などない、むしろニートひきこもりにこそ、親がスマホを買い与えろと!」


                 ( ´_ゝ`)


〈四番 バイター 

 日払い 

 交通費 有り

 ワー!

 ぶーちこめ! ぶーちこめ!〉

 

 なぜ無為徒食のごくつぶしに、スマホを買い与える必要があるのか?

 

 啓一くんの家の、二階の3畳の書斎で、父修二さんがぐっと身を乗り出すと、突然、画面が切り替わりました。


 ウグイス嬢の熟練のアナウンス、野球場の歓声、応援団の鳴り物、観客の声援。


 それらにのって、「バイターズ」のユニフォームを着たまーやが登場、打席に立ち、予告ホームランのポーズを取ります。


 CMは応援団の楽しげなトランペットマーチにのり、


〈♪今日は バイター 


 ウキウキ 日払い


 稼ぐぞ 補填だ


 ぶちこめ ウフフ!〉


 男の裏声コーラスに合わせ、まーやが〈俺は折れない〉と書かれた金属バットを振り上げながら、警備員、土木作業員、ティッシュ配りなどに早変わりする、


 若者のいう、イラッとするというのはこの気持ちか。


 修二さんが、二番、三番と、延々と歌が続くCM画面に顔をしかめていると、自宅ローン完済済み、厚生年金満額支給の余裕で買った、真新しいスマホが鳴りました。


〈間違いない兄貴だ((((;゜Д゜)))〉


 今日は祝日なので家にいるはずだ。


「70の手習いで、このスマホを買ったんですが、美代子さん、ひとつLINEというのを教えてもらえませんかねえ」


「あー、あたしのスマホ、LINE出来ない機種なんですよねー」


「お、親父、俺が教えるよ!」


 日曜家族会で交換した、次男の信二から、LINEの返信がありました。


「秘策」は必要なくなったか..


 修二さんは唯一鍵の掛かる、机の一番下の引き出しを解錠しました。


 引き出しの中は、沢山の付箋がついた、「ザ•殺人術」というハウツー本、荒縄、ナイフ、スタンガンな

どです。


 自分が75歳になって、啓一がまだ同じ無職のニートだったら、ニッポンの侍の一員として、潔く製造者としての「責任を取る」。


 修二さんは、昭和の漢として、密かに覚悟を決めていたのです。


 問題はどこで「責任を取る」かです。


 家の中で決行したら、苦労してローンを完済した、夢のマイホームの資産価値が下がり、売るときに損をしてしまいます。


 ならば、近所の公園で、女児を含む、子供たちを見ている隙に背後から。


 ですが、それだと「世間一般の常識」に照らすと、もう「親が責任を取るしかなかった」息子に。


 自分の罪の情状が酌量されて執行猶予がついても、目撃したお向かいに住む町内会長、殿塚のBBAが騒いで、この家には住めなくなるかもしれません。


 理想はスタンガンで失神させた啓一くんを、人里離れた山中に連れ去ってですが、家族で唯一運転免許を持っている信二くんに頼むわけにも、タクシーを呼ぶわけにもいきません。


 しかし、啓一が参加しているという事実は、自発的に働く気になったということか?


 なら、この「秘策」も不要ということだが。


 しかし、なんちゅう格好で人前に出とるんだ。


 CMが終わり、画面が客席の啓一くんを映しながら、壇上の二人に戻るのを見ながら、修二さんは改めてうめくのでした。


                    ( ´_ゝ`)


「それで、最終面接に残ったのが五人で、結局、局アナになれたのが三人。落ちたもう一人ですか? さあ、今は何をしているんですかね」


 画面はシンポジウムに戻り、森田アナと月尻氏が、打ち解けた様子で、雑談をしている様子が映し出されました。


「はい? オッケーですか? えー、お待たせしました。先ほど月尻さんから、大人自宅待機児童にこそ、親がスマホを持たすべきだというお話がありましたが、具体的にはどういうことでしょうか?」


「はい。第一に先ほどの22年ひきこもり、今も現役ニート35歳のKくん。彼がいきなり正社員として週5会社にいける可能性。決してゼーロ..ではありませんが、もっと現実的な対処法を取るべきだと思うんです。例えば、街中でスーツでティッシュ配っている人たちがいますよね」


「はい、マンションとかのですよね」


「22年ひきこもった子に、いきなり週5、1日8時間働けというのは、ハッキリいって無理です。でも、ああいうティッシュ配り、バイト用語でサンプリングというんですが、7時間の場合もありますが、1日、2、3時間の短時間もあるんです。しかも、短時間のは1日だけなうえ、平日が多くて、大人自宅待機児童が入りやすい。なおかつ、配るメンバーが固定ではなく、その場かぎり。わずらわしい人間関係がないという利点もある。この募集が結構ひんぱんにあって、自宅待機しながら、週に2、3日だけ短時間バイトをする、いわいるマイルドニートと呼ばれる子たちが、最近増えているんです。いきなり無理をさせて挫折し、かえって重度のひきこもり、リターンニートになるより、僕はこうやって身体と心を、実社会にならしてからの方がいいと思うんです」


「うんうん、そこでどうスマホが、ですよね」


「今は、こういうバイトがある、メールできて受けるならメール返信で申し込む。それなら自分のパソコンでと思われるかもしれませんが、駅から現場まで地図アプリで検索して、現場についたら到着メール、終わったら配った数をメール。スマホがなかったら、もうバイトも出来ない世の中なんですよ」


「確かにそうですよね」


「あとね、スーツにネクタイに革靴。これがあれば完璧です。今は服装自由の短時間バイトは少なくて、ティッシュ配りも看板持ちもスーツ着用が条件です。ニートだったからといって、自分を罰するような汚れ仕事をする義務などない。逆にネクタイ締めてスーツでも着れば、バイトでも気持ちの持ちようが違います」


「うーん、でもスマホにスーツとなると、お金もかさみますよね」


「社員のじゃありません。バイト用のスーツです。お父さんのお古でいいんですよ。サイズがあわなければ、チェーンのリサイクル書店の系列店で、古着で買えばいい。そこなら5000円もあれば上下に靴も買えます。スマホも格安のでいいんですよ。使用料はバイトするようになったら、後から請求すればいいんです」


「そうすると、次は派遣バイトの登録説明会、という流れになりますよね」


「履歴書不要、募集要項には書いてありますが、実際は登録会で、申込用紙という形で書かされます」


「その場合、22年ひきこもった、35歳の現役ニートKくんは、事実をありのまま書くんですか?」


「派遣なんていつでもやめられる、いくらでも別口がある、何もしてない社保完備に、時給以上の額を抜かれて、我々働く側が何を遠慮する必要があるんですか。社会復帰への自主トレだと、こちらも利用するつもりで、名前と住所、電話番号とメールアドレス。それだけ本当のことを書けば、後は東大卒、財務省勤務とか、あり得ない設定でなければ、突っ込まれることはありません。Kくんでしたら、偏差値40くらいの高校卒業後、有限会社自分の名字勤務、そんな設定で充分です。向こうも多頭飼いというか、登録者は多い方がいいんで、そこらへんは暗黙の了解です。あとバックレた時に備えて、架空の住所書く人いるんですけど、給与明細送るために、向こうも住所確認するんで、バレて恥かきますからそれダメ、です」


「仮に親御さんがスマホとスーツを用意したとします。どういう風に22年ひきこもった、35歳現役ニートに手渡し、働くように仕向けたらいいんでしょう」


「とにかく大騒ぎしないことです。部屋の前に黙って一式置いて、なにもいわず見て見ぬふり。22年もひきこもったなら、それが23年、24年になろうと、たいした違いはない。腹をくくるんですよ。気づいたら週に3、4日バイトに出掛けている、スマホも使っている。小さなことからコツコツと。それだって、何もせずに家にひきこもっているよりは、全然いいじゃないですか。将来は、老後は。そんな遥か先のことは神のみぞ知るですよ」


「さあ、22年ひきこもったKくんが、週に3日、短時間のバイトを始めました。親御さんはどういう態度でKくんに接してたらいいでしょう」


「黙ってゆるやかな回復傾向を見守ってあげましょう。ニート、ひきこもりを一番恥じているのは本人です。35歳にもなって週3短時間バイトなんて、本人だって不本意で楽しくなどありません。だから、いくら親として嬉しいからといって、赤飯を炊いてはやし立てたり。22年もひきこもってそんなバイトか。親としてではなく、人として恥ずかしい、心ない暴言を浴びせたり。そういうのは絶対にNGです。世間一般は、甘えてるひきこもりに、そこまでする必要があるのか。あざ笑うかもしれません。でもねえ、たった一人のあなたのお子さんじゃないですか! 親らしいことをしてなにがいけないんですか! この子を残して自分がいつ死ぬかじゃないんです、生きているうちに、よそさまの子とは違う、不運の星の下にうまれた、たった一人の自分の子になにが出来るか、それを考え、実行するのが親のつとめじゃないですか!」


 森田アナは口を押さえ嗚咽をもらし、大きくうなずきながら絶句、会場内からもすすり泣く声、それをかきけす大拍手が鳴り響くと、画面は急に暗転し、「トイレ休憩」の文字になりました。


                ( ´_ゝ`)


 ばん! テーブルを叩くと、昼寝から起きたばかりのざんばら髪を、ノンノンノンと振り乱し、すっぴんのほうれい線をつり上げては、


「ったくいらつくわ!」


 タブレット端末に吐き捨て、これが飲まずにいられるか!


 昼間から、夫の晩酌用の発泡酒をあおる、森田アナと同世代の、アラサー間近の女性。


 さあ、今は何をしているんですかね。


 NPO法人「大人の暴力から子供を守る会 代表 内海美代子」..


 わなわなと震えながら、またテーブルを叩き、


「ググれカスだ、ボケッ!!」


 オフラインだと勘違いし、油断してつい本音が出た、局アナファイナリストで、森田アナと共に、仲良く

最終で落ちたもう一人が、誰あろう、啓一くんが大嫌いな弟嫁、内海美代子さんなのでした。


 たまの祝日は、母として主婦としての休養日。


 そうもっともらしい理由をでっちあげ、夫の信二くんには1000円渡し、娘の彩香ちゃんと夕方まで児童館にいるように命令、いえ、お願いしてあります。


 このネット中継を見るのは既定の事実だったが、まさか司会が「あの女」だとは・・


 ファイナリスト落選者二人のうち、自分は潔くアナウンサーをあきらめて出来婚し、今は新たな牙を研ぎ直す浪人期間。


 そんな野望系ベテラン女子の美代子さんを苛立たせるのは、いなければいずれは自分たちの所有物になる。


 はずの旦那の実家に、35歳の今も無職で寄生する不肖の義兄(ニート)のほかに、最終面接で落ちたあとも、往生際わるく、フリーアナ専門のプロダクションに派遣登録し、女子アナにしがみついたあの女。


 アルバイト同然の身分で、ティッシュ配りの時給仕事などを掛け持ちしながら、結婚式の司会などで細々と自称フリーアナをしている。


 プークスクス。


 それが..


 今では二人して落ちた局の、早朝帯ニュース番組の司会、バラエティー番組のアシスタントなど、下積み経験の長い苦労人、確かなアナウンス技術と庶民的な愛嬌美人、オッサンたちを中心に、俺たちのみずりんなどと、静かな人気の森田瑞枝アナウンサーその人なのでした。


 ツイッター、インスタグラム、自分とはフォロワー数、いいねの数が、どちらも二けた違うみずりん。


 タメですから、森田アナの容姿の劣化状態の比較、彼氏がいて幸福なら、肌の艶が違いますから、それらのチェックと。


 早朝の関東ローカルとはいえ、在京キー局の朝のワイドニュース芸能番組、そのメインキャスターに大抜擢され、最終面接落ちにリベンジした。


 どやっていても、パチ屋でタダで配っているような、こんな底辺向け求人誌の、場末仕事も受けなければ食っていけない、しがない契約フリーアナなのか?


 一振、溜飲をさげたあとの、暴言被弾。


 それも不愉快ですが、美代子さんは22年ひきこもったKくんがどうとか、どこかで聞いた覚えのある話のたびに、なぜか画面に大写しになる、険しい表情で腕組みしている中年男。


 「世も末」としかいいようがない、目を覆いたくなるキモオタ服を着た、どす黒い顔色の小太り。


 それが自分で描き、夫が太鼓判を押した、あの手配書の似顔絵の、伝説の22年ニートにそっくりなのです。


 美代子さんは、即座に児童館にいる夫にLINEしました。


 絶対権力者の妻として、今まで「主任として部下の悩み相談につきあい中」、事実は、「相談相手の部下」が二十歳の女性派遣で、場所が居酒屋の個室。


 密会を隠ぺいするため、名前、性別をわざと曖昧にし、かえって美代子さんがピンとくるような、頭隠して尻隠さずな返信が必ずあったのに。


 美代子さんは日常茶飯事ですが、夫のいわいる既読スルーは初めてです。


 アへ真TVの、森田瑞枝司会のシンポジウム会場の、客席最前列にいるキモオタは、実家のネットビジネス業か?


 おびえたような三度の既読スルーの後、夫から届いたLINE。


「電波状態がわるくて見れない」


 間違いない! 


 あいつが娘の敵No.1、未来の性犯罪者、伝説の半魚人ニートだ!


 フフフフ、アハハハ、ハーハッハ!!



                      ( ´_ゝ`)


 みずりん目当てで見たが、こいつは拾い物、まさに目からうろこだ。

 

 修二さんは、ノートにびっしり書き込んだ、「啓一、ニート脱出方法」を、改めて指でなぞりながら、ため息をつきました。


 確かに自分は昭和の企業戦士として、啓一が物心つく頃は、帰宅はほぼ午前様、休日も接待ゴルフなどで留守にしていて、家のことは房代に丸投げだったな。


 しかし、どんなに環境がわるくても、頑張っている人はいる。


 同じ環境で育ったはずの信二がいい例ではないか。


 自分は仕事人間で、気がつくと独身のまま、今の啓一と同い年となり、上司の紹介で行き遅れの房代と見合いをし、晩婚ながら家を建て、二人の息子にも恵まれた。


 この年まで添い遂げた妻を、心から愛している..


 かといえば、正直、よくわからない。


 としかいいようがないが、自分はいまさら妻と別れるのも面倒くさいし、妻も熟年離婚を申し立てるでもないのだから、どちらかが先にくたばるまで、このまま平々凡々と夫婦生活は続いていくのだろう。


 今まで、妻に愛情表現をしたことも、感謝の気持ちを伝えたこともないし、まして子育てに関わった記憶などまったくない。


 それも仕方のないことで、営業という職業柄、休日同様、夜の街での接待も日常茶飯事。


 サラリーマンは会社のために、自分を殺して清濁あわせのむのが宿命だ。


 大口契約の接待で、自分も同じ穴のむじなに落ちて、夜の風呂で、嬢と一戦交えることもしょっちゅうだった。


 てっきり内海さんは、うんと若いお嫁さんをもらって、デレデレになるのかと思ったら、年の近い大人の女性と、常識的な結婚をして見直した。


 会社のいきおくれBBAどもに、自分でも気づかない方向から、政略結婚を絶賛され、


「ばか野郎!! 出世の役に立てば、結婚相手なんて誰でもよかったんだ!!」


 血気盛んだったあの頃。


 よほど本音をぶちまけてやろうかと思ったが、サラリーマンが会社でつまらぬ波風を立てては損。


 そんなうっぷんを、接待でいった夜の風呂で、入店したての一番若い嬢を指名することで晴らした、ちょうど啓一が妻の腹にいた頃。


 これは浮気じゃない、れっきとした業務だ。


 嬢の若さを満喫し、腹のでかい女房の待つ家に、深夜タクシーで帰宅すると、


「どこかでお風呂でも入ったんですが、いい匂いがしますよ」


「ばか野郎!! こんな時間まで仕事をして、お前と腹の子を食わせている俺に、そんな言いぐさがあるか!! 企業戦士の妻なら黙っていろ!! 俺の腹の虫を怒らすな!!」


 それが男が会社で、一流の仕事をするために、家庭で銃後の守りをする、企業戦士の妻の心得。


 心を鬼にし、妊娠中の妻を、頭ごなしにきびしく叱った夜。


 女の、「甘いものは別腹」同様、男にも、


「嫁と風俗嬢は別下半身」


 武士同様の、「企業戦士道」をきびしく守り抜き。


 仕事と家庭、毅然と線引きをして、同じように会社の金を支払い、同じ行為をし、同じ液体を出しても、妻と風俗嬢とは、気持ちの持ちようがまったく別だ。


 だからこそ、たまに下半身の病気をもらった時も、これは仕事上の労災、名誉の負傷だと、妻には理由を一言も告げずに、黙って夫婦生活を断ち、一人、孤独の病院治療をした。


 あれから35年、貫いた企業戦士道の結果が、22年引きこもり中の長男だとは。


 この世には神も仏もいないのか!!


 本当に無念で情けない限りだ!!


 修二さんは、改めて「責任を取る」ための道具類を見ました。


「根性論をいっても無意味、まず親が気持ちを切り替えるか。必要なのは格安スマホにスーツ。時代は変わったんだなあ」


 修二さんは腕組みし、昭和の頃はよかったなあ..


 しみじみとして、どこか遠くを見るのでした。


                       ( ´_ゝ`)



「兄さん、粋な服装なりしてなさるが、どこかの名のある金筋(筋金入りの極道の意)のお方かい?」


 同じ頃。


 休憩中のシンポジウム会場、その客席最前列では、啓一くんが険しい表情で腕組みし、微動だにしません。


 ですが、最後方の立ち見で、ちょっとした出来事がありました。


 扉脇の壁に、参加者の邪魔にならないよう寄りかかった、「諸行無常」、シンプルに一言、金の糸で縫われた、真っ赤な特攻服。


 リーゼントヘアーに渡哲也サングラス。


 昭和でコーディネートした金兄に、清掃員の制服を着た、帽子を目深にかぶり、大きなマスクをしたおばさんが、話しかけたのです。


「いや。今はただの浪人者だけど」


「自転車置き場の、あのチャンプなバイクは、あんたのかい」


「ああ、あれできたんだ」


「兄さんも仕事探しでここに来たのかい?」


「ああ、ツレが行くっていうんでな」


「あたしでよければ、紹介できないこともないが?」


「そっちの仕事からは、もう足を洗ったんだ」


「また、どこかでお会いしたら、いい返事を聞かせておくれ」


 おばさんが立ち去ると、入れ替わりに壇上に森田アナ、月尻氏が出てきました。

 


                 ( ´_ゝ`)


「さて、本日はゲストパネリストである月尻氏より、より現実的な、ニートひきこもりからの脱出法をお伺いしました。ここからは日本で唯一無二といっていい、ニートひきこもり問題の気鋭の論客、3年ニート組金魂ゴールドソウル先生こと、月尻氏のニートひきこもり問題にに対する持論、またご自身の人生観などを、じっくりお聞かせいただけたらなと思うんですが」


「僕は高等教育を受けていないので、大学の教授の論文のようなことはいえません。ただ、青春を勉強に捧げて失った悔しさを、学歴や肩書きを武器に利用して、タレント文化人、政治家などになって、金、名声、権力で埋め合わそう。そんな卑しい野望もありません。皆さん遠慮して、さすがに面と向かって聞かれたことはないのですが、50歳、中卒、非正規、独身。絵にかいたような負け組であることに劣等感はないのか? 興味あると思いますが、ハッキリいってありません」


「それは最初からないのか、あったのを克服したのか? 実はあたしも正社員ではない、一年契約、派遣のアナウンサーであることに、内心、ずっと引け目を感じていて」


 森田アナが下を向くと、月尻氏は指をふり、


「ノンノンノン、最終で落ちたもう一人が、あっさり負けを認め、今は音信不通の行方不明状態なのに、諦めなかった森田さんは、長年の努力が実を結び、こうして天晴れなリベンジをした、堂々たる勝ち組じゃないですか」


「うーん、ですかね..あたしもアラサーじゃないですか。女子アナとしてはもう若くない。いくら理屈をいっても、現実は若い子に席を奪われる..最終面接落ちしたもう一人、もう名前すら思い出せないんですけど、自分もいずれ失速して、その子みたいに生死不明の失踪人扱いの、あの人は今状態になるのかなって。家に帰って一人になると不安で、つい強いお酒をがぶ飲みしてしまって」


「これは僕の持論なんですが、日本には欧米のような神への信仰がないじゃないですか」


「そのくせ、どこかで最終面接で落ちた二人は、日頃の行いがわるくての、神の思し召しで、なんて思ったりするんですよね」


「キリスト教徒にとって、ゲイは罪であるということになっています。なぜなら信徒の人生のルールブックたる、聖書にそう書いてあるからです」


「外国映画の文芸ものなどで、その悩みへの葛藤をよく見ます」


「聖書の通りに罪だと思うのと、ゲイ差別はいけない的な、アフリカの子供が死にそうだから、至急、その子にではなく、我々に現金送れ。人の善意につけこんだ、差別反対運動もある。僕はここに、ニーチェの箴言、「神は死んだ、私たちが殺したのだ」をつけ加えたいんです」


「いきなり難しくなりました」


「いえいえ、中卒でもわかる話ですよ。人間、身体が病気になれば医者に頼るように、生き方にも心が病んだり悩んだときに、ルールブックのようなものがあれば楽だし、それに頼りたくもなる。生き方のマニュアルがあれば、何事もその通りにすればよく、人生もはかどるはずだ。欧米の人生マニュアルが聖書であり、神への信仰がうすい日本では、それが「世間一般の常識」と呼ばれる、誰が作ったのか分からない道徳観念です」


「なんとなくわかってきました」


「聖書的にはゲイは罪であるけど、人間の性指向を変えるのは現実的には困難です。その時、神という存在を自分の中で殺してしまえば、もう聖書に従う必要もなくなり、ゲイは罪ではなくなります。それと同じことで、今の僕の立場も、「世間一般の常識」に照らし会わせば、恥ずかしい、劣等感を覚える負け組かもしれない。でも神同様、僕自身が「世間一般の常識」を殺して葬り去り、自分の独自ルールで生きれたら? もう羞恥心もコンプレックスも感じる必要はなくなる。僕のニーチェの箴言の解釈が、学術的に正しいか? そんなことはどうでもいいんです。今現在「世間一般の常識」では、恥ずかしい、社会の汚点だと決めつけられ、差別されて部屋から社会に出れないでいる、ニートひきこもりと呼ばれる子たちにも、ぜひこの考えを実践して、世の中ではなく自分を変えてほしい。僕はね、ニートこそ芸術家になりなさい。そう提言したいんです」


「芸術家ですか?」


「突拍子もないですよね」


「ご説明お願いします」


 自分みたいな人間は一人じゃないんだ..


 そうして自分のような人生にも、どこかに必ず救いがあり、決してあきらめてはいけないんだ!


 啓一くんは月尻氏の言葉に感動し、胸がいっぱいになって、瞳にはうっすら涙がにじんでいました。


 そして、この同じ志しを持つニートの大先輩、月尻いき雄氏から、このあと、今までのニート人生が激変するような、それは空前絶後のバイトのお誘いがあるなど、啓一くんはまだ知るよしもないのでした。



 ネトゲ30万課金息子をめった刺しにして殺した、高学歴でも子供頭なお父さんは。池袋の院長同様、自分も事務次官経験のある「上級国民」だから、息子を殺しても事情聴取程度で済むのではないか? 


 働かずに老親に暴力を振るうひきこもり像を強くアピールすれば、情状酌量され自分は服役せずに済むのではないか?


 なにかとんでもない勘違いしていたのではないか? 


 10数億円の資産があるのであれば、親が死んだ後もなんの心配もないのに。


 モンスター化した息子を消し、家も自分も顧みない夫は刑務所。


 犯罪の影に女あり。最後に完全犯罪を成し遂げ、自分は無傷で被害者顔。すべての富を収得をしたのは?


 松本清張なら、大胆な推理で小説化したかもしれません。


 家庭も妻を顧みず、外で好き放題に遊んでる夫へのうらみ、この子が巣立って他の女の物になることへの恐怖。

 

 それが幼い息子への精神的肉体的虐待へつながり。


 いじめをすることに何の罪悪感も持たない害獣の群れに放り込まれ、母親に植え付けられた暴力への恐怖で何も反撃できず・・


 啓一くんはその経験から今にいたりました。


 こうなったのは逃れられない運命で、決して啓一君のせいではないのです。


 よく、自分も元事務次官だったら、同じことをした。


 愚かなことを胸を張って公言したり。


 通り魔、放火犯などの大量殺人犯に対し。


 こんなことせず一人で死ね!


 無理なことを繰り返しいう子供頭おじさんの心理は。


 確かに自分は家のことは妻に丸投げで、自分は不倫したり好き勝手していた。


 でもお前ら(自分の子供たち)が同じことをするのは許さん!


 お前らに俺の名前に泥を塗ることは絶対に許さん!


 という意味だとしか思えません。


 自分が追い込んでおいて、何かあったら子供のせい。


 大人が責任を取らない世の中だからこそ・・


 元政治家のように、自分が何をしたかを知っている子供頭おじさんはまだましです。


 一番危険なのは、元事務次官や、啓一くんの父、修二さんのように、自分が何をしたかわかっていない、天然系子供頭おじさんなのです。


 さあ、抹殺危機を脱した啓一くんは、このあと一体どんな運命が待ち受けているのでしょう?


 こうゆう物語を読みたかった。


 はみだし者の、ぶっ飛んででいっちゃっている本作を喜んでくれる、どこかにいる同志とつながりたい。


 引き続き、愛読、ネットなどでの拡散、ポイント付与等、ご協力をお願いします。



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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして。本題とは関係ありませんが 「修身超患」とは(人間界のことばと仮定して)「終身長官」ですか。 夜露死苦とかと違って元々漢字のあるものに敢えて字を当てるのが気合の入っているところで…
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