第三章 躍動篇 5-2 NO1ミーティングへの道
「まーや帝国民NO1ミィーティング」当日は、啓一くんの前途を祝すような快晴でした。
ハローワークのような、職歴のない啓一くんのような不遇者には。行ってもろくな奴しかいない、ろくでもない仕事しかない底辺施設とは違い。下北沢なる、名前くらいしか知らない若者街で行われる「NO1ミィーティング」は。魚屋のオヤジと看護師のババアは別にして。きっと不動産屋の正社みたいな、高学歴で穏やかな大人が暖かく迎えてくれ、自分も「一角の人間」として扱われ。俺の心にも涼風が吹き抜けるはずだ。
まーやに会える! 口が聞ける! かもしれない・・想像するだけで胸は高鳴りましたが、その反面。なにかろくでもないこと、NO1の男はく奪、強制引退とかを、面と向かって宣告されるんじゃないか? 不安も拭いきれないのです。迷惑なだけな毒母を除けば、まーやは日本で唯一、啓一くんを不審者扱いも、キモメン扱いもしない、かけがえのない女性です。「一緒に頑張りましょう!」出番前の一瞬のハイタッチ。啓一くんはそのためだけに生きているといっても過言ではないのです。
興奮と不安。昨夜はろくに眠れず、啓一くんはえんじ色三つ揃い、通称「ボススーツ」の元の持ち主、焼上甲次郎さんのことを調べてみました。
焼上甲次郎
~○×年4月30日急性心不全で没。享年44歳。
焼上甲次郎は日本のオタ芸ヤー。ゲーヤー名「暑宮~デーブ~晴男」。また推しのライブに特異な格好で現れるため、ファンの間では「マミイ師範代」と呼ばれていた。
簡単ではありますが、ウィキペディアにも記載があります。親父とは今後は相互フォローした、フェラス女子大一年「矢野君江」として、ネットを通じてやりとりすればいい。ただ家で不遇を嘆き、悔しさをネットで晴らす。ひとりぼっちのニートひきこもりだった俺の、今までのどん底行き詰まり人生も。これから壁に徐々に穴が開いて大きくなり。いずれぶっ壊れて道が開けるんだろうか?
「まーや帝国民NO1の男、いきまーす!!」
すでにいつもの応援服に着替え、頭にはきりりと鉢巻を巻き、まだ朝の六時ですが。体が火照ってしかたがねえし、ゲーマンプロジェクトへ面接に行った時のような、無駄な不安、心労はもうごめんだ。早めに出て一番乗りをし、俺のやる気をアピールしよう。
部屋を出てしっかりと施錠し、のしのしどすどすと下りて行くと。
「なんだってー!」
廊下で頭に「殺!」と書かれた三角巾を巻き、両手に刃物を持った、白装束姿の修二さんが仁王立ちしていたからです。
「啓一、今日はバイトの日ではないのか! 焼上くんが会社の激務に倒れ戦死した時に着ていた、男の勝負服を三日で脱ぎ捨て。お前はそんなちんどん屋みたいな恰好で、バイトにも行かずどこへ行くんだ!」
「まーや帝国民NO1の男」の男しての義務で、今日はバイトを欠席し打ち合わせに行く。説明したところで、親父が納得するどころか、理解できるかすら怪しい。
「お前を今日まで甘やかし続けたお母さんなら、泊りがけで「フェミニズム研究会」の勉強会に行っていて留守だぞ。人の罪悪感につけこみ、自分らのわがままを、もっともらしい詭弁を駆使して。楽して強制的に男に従わそうとする、おそろしいカルト集団の集会にな」
やっぱり前倒し行動を取って正解だった。これなら駅前でヤンキーに絡まれる方がまだましだ。しかし、この親父、まじで頭がおかしいのか?
修二さんにしてみれば愚の三冠王で、長年ひきこもった息子に、耐えに耐えたあげく。辛抱しきれず「自ら責任を取った」。日本中の仕事にかこつけて、夜遊び不倫などで家庭を顧みず。息子をニートひきこもりに追い込んだ、子供頭お父さんたちが。自分の本当の姿を体現している息子を、己の恥を隠ぺいするためだけに、もっともらしい詭弁を駆使し。次々と後に続いて殺戮し、「ニッポンの侍 内海修二」の名は、後世まで語り継がれる。
そう思っていても。息子で子供頭お父さんのせいで、ひどい目に遭わされた啓一くんにしてみれば。人生の唯一光、希望をこいつに消された上に。「心神喪失」で無罪にでもなられたら、俺は生まれ損、死に損。ペットショップのケージの中の、でかい犬より悲惨じゃないか。
修二さんは一歩前に出て、両手持ちのよく切れそうな出刃包丁を、啓一くんに突き付けていいました。
「啓一、お互いもう生きていても仕方がない。お前には死ぬ勇気などないのだろう? ならお父さんがお前をあの世に送り返してやる。啓一、来世というものがあるなら、今度は怠けたり甘えたりせず、しっかり精進して、定職について納税をするんだよ。心配するな。お父さんは「ニッポンの侍」として、たとえ執行猶予がついても、その期間は罪を憎んでお前を憎まず。お遍路でもしてお前を弔い、15年か20年後に、お前の元に行くことを約束する」
「馬鹿なこといってんじゃねーよ!」
憤然と横を通り抜けようとして、
「啓一、さらばだ!!」
いきなり切りつけられ。外に逃げようとよろめたところを、ずぶり!
背後から刺されて、あとはもう滅多刺しにされて絶命・・
有名人などが早死にするたびに。代わってやりてー、なんで俺の命を奪ってくれねーんだよ。内心思っていましたが、今日という大切な日に。こんなところでバカ親父に殺されてはたまりません。ですが家には二人きり、ツイッターで矢野君江さんに止めてもらうわけにもいきません。
「キエーッ!!」
修二さんは、啓一くんが思わず飛び上がる奇声をあげ、出刃包丁を持った手を突き上げると。
「いーち! にー! さん! ダーッ!!」
律儀にカウントダウンすると、両手出刃包丁を突き出し、文字通り啓一くんに殺到して来ました。啓一くん絶体絶命のピンチです!
いやだ、こんなところで、親父に殺されるのなんかごめんだ!
「ターッ!」
啓一くんはアクションスターのように身を投げて一回転すると。飛び込んできた修二さんを間一髪交わし。居間に逃げ込むと窓を開けて庭に出ました。
「小癪な! おい啓一、往生せい!」
庭の隅に追い詰められ、啓一、もうお前の逃げ場はないぞ。修二さんが庭の中央で仁王立ちした、その時でした。
「魔王咆哮芸!!」
出刃包丁の代わりに、いつものまにかサイリュウム二本持ちの「まーや帝国民NO1の男」は、サイリュウム乱舞は省略し。70歳の動体視力では追いきれない、高速カニ回りをしはじめると。一度聴いたら、頭が爆発しそうになる、魔声で愛する人の名を叫び出しました。
「はい。庭に白装束を着たおじいさんが、両手に出刃包丁をもったまま倒れています」
五分後、勘違い殺人犯を返り討ちにした啓一くんは。この姿の自分が立ち会うのは厄介だし、親父よりまーやのが大事だ。近くのコンビニから公衆電話で通報すると、自転車を飛ばし、駅近の図書館の駐輪場に急ぎました。
\(゜ロ\)(/ロ゜)/




