第三章 躍動篇 4-1 まーや帝国民NO1ミィーティング スペシャルゲストあり
拝啓。まーや帝国民NO1の男、内海啓一さんにおかれましては、時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
さて、大変急なお願いで恐縮なのですが、このたびの「いくぜまーや東名阪弾丸ツアー」に際し。当日、会場で「不測の事態」等がおこらぬよう、同じステージでまーやを盛り上げてくれる、「まーや帝国民NO1」の皆さんに。あらかじめ弊社指定場所までお越しいただき。前もって打ち合わせ、ミィーティングを行い、「お客様の安全」を確保したいと考え。本日、まーや帝国民NO1の皆様にだけ・・
メールは私信で、それも公式ファンクラブ、「まーや帝国民」事務局からのものでした。啓一くんは震える指でマウスをスクロールさせると、白目を剝いて、弾けるように立ち上がると、
「なんだってー!!」
人類にこんな大声を出せる男がいたのか? 啓一くんはギネス級の素っ頓狂な雄たけびをあげました。
すると、さすがにたまりかねた。
ドタドタドタ! 階段を大急ぎで駆け上がる音に、ダンダンダーン! 啓一くんの部屋のドアを激しく叩く音に続き、
「おい啓一、何事だ?! しっかりしろ! 「はやまって」お父さんたちに迷惑をかけるなよ!」
啓一くんのあまりの大絶叫に。35歳になってようやくバイト(笑い)を始めたものの。22年に渡って染みついて抜けない「怠け癖」。それがもう出てしまい、バイトをクビになったのではないか?
父修二さんは、同じ家で寝食を共にしているのに。ここ10年ほど、啓一くんと二言以上の会話をしたことがありません。ですから、啓一くんがどんなバイトをしているのか? 一度派遣会社から電話がありましたが、固定電話では履歴は残らないし、35歳の長男のバイト先を調べるほど、俺は暇じゃない。
それはいいとして、あの鍵のかかる子供部屋には、いったいどんな「装備」が隠されているのだろう? 修二さんは、そっちが気になって仕方がありませんでした。新聞、地上波テレビの世代ですから、「ニートひきこもりは危険な犯罪者予備軍」。
自分が「製造者」であることも忘れ、ワイドショーの「識者」に脅されるたびに。バイトをクビになった35歳のひきこもりが、「大それたこと」をしでかすのに、うってつけの武器などを、啓一はあの子供部屋に隠し持っていないだろうか?
修二さんの脳裏に、ちょっと待ってください! 30分以内にお申し込みの方に限り、この「超よく切れる刃物」を、もう一本、無料でおつけします。テレビ通販の名調子が甦ります。そういえばあいつ、通販でなにか怪しげなものを買っていたな。母さんが甘やかして、無職のごくつぶしに、小遣いなど与えるからいけないんだ。
俺が思うに、啓一は勇んでバイトに行ったものの、22年も怠けたツケ、能力不足ですぐにクビになり。自分に嫌気がさして人生に行き詰り、今更、元のひきこもりには戻れない。絶望して正気を失った啓一が、自分の「怠け癖」ではなく、まっとうな労働者たちが住む「一般社会」を逆恨みし。密かに鍵の掛かる子供部屋に集めた、大量殺戮道具をフル装備し。今から夜の街に飛び出して、「大それたこと」を決行する、その決意の雄叫びではないのか?
修二さんは、悪天然の勉強バカならではの妄想をたくましくすると・・
啓一、人様を巻き込むな! 死にたきゃ自分一人で死ね!
子供頭お父さんお得意の、いつものキメ台詞を心中で叫ぶと。自分の穏やかな老後を、「不肖の長男」のせいで台無しにされたはたまらない。慌てて駆けつけてきましたが。
「何も謝ってねーよ!」
それどころではない啓一くんは、はやまるを謝る。しっかり聞き間違えた上に。うっかり返事までしてしまうほど、我を忘れ、取り乱してしまいました。なぜならそのメールの続きには、
当日はまーやもミィーティングに参加し、皆さんとお会いして、意見交換することを、今から楽しみにしていると・・
「ハアハアハア・・」
啓一くんは元々ボリューミーな恵体ですから、初姐に追いかけられた時のように、無理な運動等で過呼吸になること。それはよくありましたが、今日の息苦しさは、それとはまったく別物でした。
「ゲホゲホゲホ!」
気持ちと体を落ち着かせようと、机の下のマイ冷蔵庫からコーラを出して流し込んでは、炭酸にむせるなど。啓一くんは七転八倒しながら、「まーや帝国民NO1の外国人」、モケルセン牧師のことを思い出し。
「何が神は俺が殺しただ。俺が甦らせたんだ! だから俺は、まーやという「神」に直々に呼ばれたんだ」
勝ち誇ったように叫びました。
なぜなら、メールの文面にさりげなく入れられた、「不測の事態」「お客様の安全」は。クールジャパンから派生した「オタ芸」。その中で一人だけ大気圏外に君臨する、通称、「内海魔王」の唯一無二の超必殺魔技、「魔王咆哮芸」をさしているのはあきらかだからです。
東京のまーやファンは、記念すべきまーやのファーストライブで。無防備に被弾してしまった、「魔王咆哮芸」での、阿鼻叫喚の大惨事を知っていますし。今は客席ファンの、喉も裂けよのまーやコールで、啓一くんの美ならぬ、「魔声」をかき消して。そのことで生まれたファンの一体感、そこへ満を持してまーやが登場し・・
「暗黙の了解」「お約束」を知っていますが。
「でも、だぎゃーや、なんやねんのワンフは、俺の本当の恐ろしさを知らないからな・・」
ようやく危険値から、普通のどきどきに心拍数が戻ると。啓一くんは不遜な態度で、名古屋、大阪の大きいお友だちを。「まーや帝国民NO1の男」としての、上から目線で心配するのでした。
そうさ、俺は「選ばれた男」なんだ。何も誇るもののない男の唯一のよりどころ、それがネト・・などというコピペがありますが。啓一くんの唯一の心の支え「まーや帝国民NO1の男」。以前はずいぶん素っ気ない、軽い扱いだったが。ようやく運営も「俺の偉大さ」に気づき、態度を改めたか。啓一くんは35年生きて来て、こんなにテンションがあがったのは初めてだ。これからは「まーや帝国民NO1の男」として、まーやの顔に泥を塗るような、恥ずかしい行為はご法度だ。
啓一くんは、押し入れから防虫紙に包まれ、ビニール袋に入れられ。家にあった桐の箱に厳重にしまわれた、自作の「まーや応援服」を出してみて。
「この応援服に相応しい、真の「NO1の男」に俺はなる!」
一般人には珍奇で正気の沙汰には見えない、ド派手な原色の応援服と謎文字の鉢巻。小学生の頃、「家庭科の神童」と呼ばれ。マイミシンを駆使して、器用に服を縫い上げては。将来は服飾関係に進みたい、その夢は叶わなかったけど。暴走族自体は嫌いだけど、あいつらの気合だけは真似したい。押し入れでほこりをかぶっていた、マイミシンで自作した。昭和の裏日本文化の象徴たる特攻服を、現代の「クールジャパンアレンジ」で再生した、唯一無二「まーや応援服」
「だが俺は、まだこの応援服を着こなせていない・・この「まーや応援服」には、まだ俺の魂が乗り移っていない。まさに「戦闘力不足」だ」
35歳、初めてバイト同様、真の「まーや帝国民NO1の男」になるための努力。それを始めるに遅いことはない。
啓一くんは自作の「まーや応援服」を抱きしめると、感涙にむせびました。
「生きていてよかった・・」
このことでした。
啓一くんは決意も新たに、メールの続きを読みました。
日時 ○月×日(土曜)
場所 下北沢リハーサルスタジオORA
集合時間 13;00時 ORA入り口集合 ※担当者にお声がけください
解散時間 未定
当日は簡単な軽食、お飲み物の用意もございます。
参加 する しない
明日までにご返信がない場合、欠席扱いとさせていただきます。
啓一くんは土曜日はプラのバイトがあり、すでに仕事を受けると返信してしまいましたが。
○月×日(土曜)のプラカードのバイトを受けると返信しましたが、本業の方の緊急ミィーティングが・・
啓一くんは、参加するとマッハで返信し、そのあとゲーマンプロジェクトにキャンセルのメールを入れました。バイトより夢、派遣会社の社員の給料は現場のバイトが払っている。啓一くんは心痛むことも不安を感じることもなく、一連のPC作業をすますと。
俺はもう「いくぜまーや東名阪弾丸ツアー」の客じゃない、「キャスト」の一員だ。プライドを胸に大きくうなずくと。
ステージ上で過呼吸などを起こして、まーやに恥をかかせたら、それこそ「まーや帝国民NO1の男」の名折れだ。よし、今日からライブ当日まで。毎晩、ジョギングをして心身を鍛え、ライブに備えよう。
啓一くんが鼻息も荒く、勇んで玄関まで駆け下り、未来へと続く第一歩に駆けだそうとすると。
ブーン! ブーン!
「老いて弱ったら歩かないかん」の文字が入った、老人ウォーキング会のジャージ姿の修二さんが。「人生に絶望した」啓一くんが、やけになって夜の街に駆け出し。「大それたこと」を決行し、一般人を大量殺戮する気なら。
父として「こういう息子」を世に送り出した責任を、俺は「侍精神」に則り。啓一をこの場で撲殺してでも大量殺戮を阻止し、親としての責任を取る! 子供頭お父さん全開の険しい顔で、金属バットを玄関に向けて構えては、フルスイング素振りを繰り返し。啓一よ、俺は一歩たりともお前を野に放たんぞ! 玄関先を死守しているのです。
( ;∀;)




