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「ニィーティスト」  作者: ニィーティス亭 夢★職
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第三章 躍動篇 3-4 絶望に希望と嘲笑を

「おう、お疲れ。なんか変なのが通らなかった? ウルトラなんとか、ヘイ! とか歌いながら歩いてるバカが」


「さ、さあ・・」


「こういうとこはさあ、普通、うつむいて恥ずかしそうにくるもんなのになあ。でも、図書館じゃねえから、静かにしろともいえねえしさ。あ、そこに名前書いて、ハンコなかったら親指・・うん、そう」


 啓一くんはその日。五時になると「野豚さんのH館《ハウス》」に戻り、ブルドック店長から白紙の領収書に、署名をして拇印を押すよういわれ。その通りにすると、バイト代として現金五千円をもらいました。


 ゲーマンプロジェクトのバイト代は、まだ先の振り込みなので。啓一くんは35年生きてきて、初めて自分で働いた代償たる、バイト代を受け取りました。


 ですが、感激した。というより、今日はニー山ひき助くんに圧倒された。というのが、正直な感想でした。


 ニートひきこもりというのは、社会のお荷物として、下を向いて隅で小さくなっているか。逆ギレしてネットで大暴れするか、最悪、街中で「大それたこと」をして、逮捕されるかしかない。啓一くんはずっとそう思いこまされ、勘違いしていたのです。


 自分の人生を、自分の意志で生きてきたのではなく。典型的なニートひきこもりの「役」を演じさせられていた。孤立無援で、ネットとテレビくらいしか情報源がなく、そこには俺に必要な知恵がなかったからだ。


 重い足取りで帰宅すると、バイトを始めた程度では、俺は納得しない。啓一くんの現在の元凶なのに、そのことに気づく心もない、えらそうな態度の父修二さん。啓一くんをいじめ→不登校→ひきこもりの最悪トリプルコンボに追い込んだ、計画虐待王、母房代さんの気持ちの悪い声。


 こんな夢も希望も未来もない俺の心に、塩をすり込むような態度を取らせるために、俺はバイトを始めたんじゃない。


 バイトから帰るたびに、啓一くんの心は痛み、怒りに震えましたが、そんなことに気づく両親ではありません。


 何より啓一くんが心配なのは、果たして残りの人生、自分一人でどうやって生きていくか? それが問題なのでした。家を出て一人暮らしするにも、週に四回、看板持っていてはとても足りません。親と仲が良ければ実家暮らしでも問題ありませんが、啓一くんは両親が大嫌いです。嫌いというより、他に替えがいない唯一無二の存在のはずの両親が。あまりにも自分本位で、自分のことを顧みてくれなかったのが悲しい。それが本音でした。親が悪天然、子供頭、勉強バカの三冠王で、啓一くんがこうなったのは自己責任、自分が産んだ子の所有権はあたし。子供の頃、お年玉をためたりして、父の日、母の日、誕生日に贈り物をして、子供なりの愛情表現をしても。大人であるはずの、たった一人の父と母は。仕事と称して遊びほうけ、その怒りを長男に向ける、報復行為でしか返してくれなかった。その虚しさ悲しさが啓一くんを絶望させ、怒りに震えさせるのです。


 啓一くんはよく同じ夢を見ました。


 それは休日に、嫁と子供をつれて実家に帰省し、かつての子供部屋を懐かしむ自分。そんな夢を見て涙して目覚めては。いまだ同じ実家の子供部屋で暮らす、無職の己の悲惨な現実に恐怖する悪夢を。


 看板を持って外に立っていて、息子たちと待ち合わせていた老親が、駆け寄る孫に破顔一笑する姿を目の当たりにし。子供をニートひきこもりにせずに、就職させ、結婚させ、孫までいる。この人は「勝ち組」じゃない、その上の、「人生の王者」だ。ねたみやひがみではなく、まばゆい現実に圧倒されたこともしばしばでした。


 また「バイトリーダー」として訪れた、クライアントの若手社員氏。悪もあれば「良天然」もあるわけで、どういう親や環境で育てば、あんな知的な目、穏やかな性格、自然な労働意欲が備わるのだろう? 自分のような底辺は冷たくされて、邪険にされる。そう覚悟していただけに。掲示板にはいない、何者も差別しない、思いやりのある暖かい人間性に。啓一くんは初めて「上級」を感じたものでした。


 家で苦しみに耐え、怒り、呪詛し。大人漫画雑誌、掲示板と、「己しごき」だけで限りある命、歳月を無駄に捨てていた日々から。


 ニートひきこもりには何の役にも立たないハローワーク。そこで出会った、まさにこの世の地獄の新戸親子、初姐といった「俺たちの世界」の悪人たち。


 いっていることは神様だけど、やってることは鬼畜の月尻氏。


 そのような、自分の親とかと同類の、それしか知らなかった「俺たちの世界」から。初めて出て知った外の世界。

 

 他のニートひきこもりが、一念発起してバイトに出ても。出会えるのはマイルドニートの辰かヴィーガン砂田氏が精々だろうけど。俺はパクリ月尻の元祖池谷さん、矢野くん、よっちーさん、そしてひき助くん。得難い仲間、同志と出会えた知り合えた。


 しかし、彼らと別れ、また子供ならぬ「地獄部屋」に戻ってくれば。こみ上げてくる感情は、激しい徒労感だけだ。いつまでこんなことを続けないといけないんだろう? 失われた時間や可能性を後悔し。親や教師といった、それらを奪った輩に怒りがこみ上げるのは。今の俺には夢も希望も明るい未来も、何一つ思い描けないからだ。


 もっといいバイトがあると見送っているうちに、40、50。N犬はどうしてんだろう。「野豚さんのH(ハウス)」の看板を見るたびに思い出す。俺も思い切らなかったら、N犬になっていたか、親に「子供頭処刑」されていたかもしれなかったと。


 でもなあ。明日休んでまたバイトか。俺は保夫叔父さんの家に生まれていたら、今頃、どんな人生を送っていたんだろ? 家族で仲良く農業していたのかな・・うちの親と違ってお人よしだから。俺に無理にアジア系の嫁とか連れて来て、土地とか家とか全部だまし取られて、親子で路頭に迷っていたりしてたかもな。


「夕飯ここおいとくねー!」


 35にもなって働きもせず、母親に三食子供部屋に運ばせるひきこもり息子。こんな「うわべだけ」をみて、被告にはやむえない事情があると司法判断され。情状酌量されて、殺人親父に執行猶予でもついたら、俺は死んでも死に切れんな。

 

 その時は、弟の信二も。俺を悪に売り飛ばそうとしたことなどスルーして。俺が死んだら、家や貯金といった親の遺産を独り占めできるから。裁判ではしれっと、「不肖の兄」を親父が刺すにいたった、「仕方のない事情」をでっちあげるのかな。信二も今までの「介護代行費用」を「兄拉致誘拐未遂慰謝料」にして。顔見せ出来ないなら。書留とか振り込みで、今まで通り毎月送金するべきなんじゃないのか? そういえば・・


 啓一くんは、まさか俺が犠牲になったからこそ今がある弟に。こんな手酷い裏切りに遭うなんて。ショックでトラウマになってしまい。その後の月尻バイトスクールのことは、見ない知らないふりをしていましたが。いまだに拉致、誘拐、性的暴行をしているなら。同じ経験をした仲間として、見過ごすわけにはいかない。震える指で月尻バイトスクールを検索してみました。


 ニートひきこもりをぶっ壊せ! 目指せ一発逆転! 月尻バイトスクール「研修生」大募集!


 古い木造アパート前に、月尻氏を真ん中に。20人ほどの「研修生」が集合し。社会のお荷物ニートひきこもりが、こういう罰を受けるのは仕方がない。勘違いしたままの、キメならぬ、ひきつった「あきらめ顔」をし。引っ越し業者のような、「月尻連合」のネーム入りユニフォーム姿で。腕をぐんにゃり突き上げて、整列している扉写真が目に飛び込んできました。さらにクリックすると。


「うわ!」


 啓一くんが思わず目をそむけた先には。パッツン白髪をまだら禿げにし、あの居酒屋の有名店員写真同様の。生気のない目、くぼんだ頬、殴られでもしたのか。欠けた前歯で無理な笑顔を見せる「N犬研修員リーダー」の写真がありました。


「20歳から35年ひきこもったN犬さん(55)も、今や研修員のリーダーとして先頭に立ち、愉快な仲間たちを盛り立てています、か・・」


 地元の県会議員も丸枠写真で載っていて、そこをクリックすると。県として企業に「ニートひきこもり枠」求人の協力を働きかけ、民間、行政一体となっての「ニートひきこもり」問題解決をはかりたい。これはもう駄目かもしれないねな、ヤホーのコメント欄に、子供頭が殺到しそうなことが。それなりに資金も集まったのか、立派な一流企業のホームページの体を成して、「親御さん亡き後の心配を信頼へ! 確かな経験と実績で「ニートひきこもり」を再生しクリエイトする、「月尻バイトスクール」。無料相談実施中! ※当スクールは「個人情報厳守」です。安心してまずはお電話を!」


 これに「親が死んだらどうするかじゃない! 親が生きているうちに何を出来るかだ!」このコピーを入れたら完璧だな・・


 自分で殺すより、金で「専門家」に解決してもらった方がまし。そんな啓一くんの父、修二さんのようなお父さんが。がっつり食いつきそうなでかい釣り針が、雰囲気知識人の自己啓発本と同じ、いやな空気感で垂れていました。


 これが詐欺で犯罪で、送られたニートひきこもり以外。関係者全員が知恵の足りない人非人なのは、一目瞭然だけど。今の俺には何もできない・・てか、まず俺自身の人生を立て直すのが先決だ。


 やる気、モチベーション、なんでもいい。悪が月尻氏で、善がひき助くんだとしても。二人にあって俺にないのは力、何かをやりとげようという戦闘力だ。


 なかったらある人について行けばいい。ひき助くんはそういっていたけど。


 なら、誘われたらついて行くか。俺は体育会系でも昭和でもないから、目上、目下なんて関係ないし、気にしない。何より月尻バイトスクールなんて、絶対に止めなきゃいけない。俺も本当の脱ニートひきこもりが何か? 自分で体験し、それを他の・・


 啓一くんが、新たな生き方を模索しようとしたその時でした。


「なんだってー!」


 これまでで最大級の素っ頓狂な声が、パソコンのメール着信を確認した、啓一くんの口から飛び出しました。


                       (*'ω'*)

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