第三章 躍動篇 3-3 絶望に希望と嘲笑を
「♪ ウルトラーニー! Hi! ウルトラニー Hi!」
矢野くんは「満を持して登場した」、「キャラが揃って今から何かが始まる」オーラを、全身から漂わせては。人差し指を天高くつき上げ、決めゼリフをシャウトし続けながら、啓一くんとひき助くんに、のりのりで近づいてくると。
「なんだってー!」
啓一くんのお約束を虚しく残し、矢野くんはそのまま二人の前を華麗にスルーし。「野豚さんのH館」へ向かうと、振り返ることなく中へ入って行きました。
「まったくアプレだな、あいつは!」
「アプレってなに?」
予想外の肩透かしに、ひき助くんの謎の言葉、啓一くんはただただ驚くばかりです。
「アプレゲール、第二次世界大戦後に、それまでの道徳や考え方にとらわれない生き方をする、いわいる今時の若い奴は、ですよ」
「じゃあ、矢野くんはここまで何しに来たの?」
「少なくとも我々に会いにではなく、「己をしごき」に来たんでしょうね」
「じゃあ、矢野くんは偶然ここを通りかかって、俺らをガン無視で行ってしまったってこと?」
「掲示板の仲間同様、ニー友なんて、何の役にも立たないもんですよ。とくに矢野ッチみたいな「アプレニート」は。我々みたいに、怒り苦しみ呪詛して、日々、命を無駄に浪費していることに焦り、苛立っている、古き良きニートとは違う」
「ニートひきこもりの世界にも、「次世代」が爆誕しているってこと?」
「どうですかね。だって「俺たち」には横のつながりがないじゃないですか。サークルもなければオフ会もないし」
「いや、俺は矢野くんとよっちーさんと加奈子さんと、「ワロタピーポー団」を結成したし。メールアドレスも交換した。それに矢野くんは、三人と一人で団結した時、涙まで流していたよ?」
啓一くんは納得がいかず反論しました。
「熱しやすく冷めやすい若者ですよ、一時の興奮が冷めたらすぐ忘れるような。でもこれでキャラが揃いましたね。新人類アプレニート、現役ひきこもり、ゴッドファーザーオブニートの三銃士が」
「ちょっとひき助くん、細かいことだけど、僕は今年三十五だよ!」
「ええっと・・とにかく、ゴッドファーザーが解脱しつつある元ニートで、僕が今も迷いの泥沼にいる正統派現役ひきこもり。そして矢野ッチが、今時の最新鋭ニート。この三人で「ニート新選組生涯ひきこもり団」ですよ」
「なんかありがちな名前だな」
「ワロタピーポー団なんて、「世間一般の常識」になめられますよ。だって我々は日本人じゃないですか? そんな「英語表記」、だめですよ」
「で、その」
「長いんで「NSSH団」です」
「で、我々三人で何をするの?」
「ニートで一儲けするんですよ」
「どうやって?」
「僕はね、影響あるひきこもり、インフルエンサーオブニートになりたい。現役のニートひきこもり、それも10年、30歳までやりとげ、今も現役ばりばり。この確かな実績と経験を元手に、同じ非正規でもマスコミ業界で、太く稼ぎたいんです。最初はいつ「大それたこと」をしてしまうか、もう自分で自分を押さえきれない、現役ニートひきこもりの気持ちを聞いてほしい。テレビ局SNSの、現場写真クレクレ、取材させてクレメンスの、ニュースアカにDMする。地上波の夕方のニュース特集に取材させてやる。その時、30歳、職歴なし現役ひきこもり、悪いのは毒親クソ教師を公言し。外見は167センチ80キロの恵体に若禿げ、アニメ柄シャツに迷彩ズボン。「世間一般の常識」どもが、うわあって僕に引っかかった時。僕はここぞとばかりに、「大それたこと」をしたい理由を、顔出しオーケーでぶちまけるんです」
ひき助くんは、よほど自信があるのか。何も始まっていないのに「計画通り」。キメ顔で叫びました。
「この国のだめな大人たちのせいで僕はニートに追い込まれ、10年もひきこもって、収入は親からの自宅警備代、20歳の妹からの介護代行費用の計月2万円、日本終わってますよね? 僕は国から死ねっていわれているみたいですよ。でもその前にこの国に復讐したい。僕はこれ以上、自分を押さえる自信がないんです!」
ごくり。啓一くんは思わず生唾を飲みました。すでに「ニィーティストの知恵」があれば、こんなざっくりした、日本の誰が終わっているのか? 国の誰から死んでくれといわれているのか? そんな曖昧で意味不明な言葉遊びは、「悪天然」の「勉強バカ」世界でのいつもの千日手。堂々巡りで終わりのない、不毛の議論にすぎないからです。
「それを逆手に取るんですよ。テレビを見れば金と出世しか興味がない。雰囲気知識人がそういう枠で出て知名度を得て、似たようなことをいって稼いでいる。本屋に行けばそいつらが書いた自己啓発本が山と積んであり、ラノベにまけないくらい売れている。あの山師社会に新たに「ニート枠」を設け、奴らと共に我々も儲けられたら? 僕の壮大な釣り針を、そこから抜ける知識のない、掲示板の足踏み族が、暇にまかせて鋭利で大きな釣り針に育ててくれる。そこに箸下やロケットモンといった有名人が、僕の釣り針に食いついてくれたら? テレビやマスコミが求めているものが何か分かりますか? 人の目を引く「見出し」、尺と視聴率を取れる突飛な内容なんです。僕はあえて「ありきたりのひきこもり」を演じただけです。大物がつれたら売名に走るだけ。「世間一般の常識」どもの、格好のディスられニート、その仮面を脱いで本性を現す。広告収入を望める動画サイト、アフィブログでそいつらや有名人を完全論破して、我々の名前を売る、有名になる、有名になればそこに市場が生まれ、テレビ出演や自己啓発本出版、講演会などで金が稼げる。僕が考える本当の「脱ニート」はこれなんです」
啓一くんは、ひき助くんとおそろのアニメ柄シャツ、外見、頭髪で。「野豚さんのH館」の看板を持ったまま、がくりとうなだれました。
「参った。その発想はなかった。君は天才か? 世の中には自分の立場、現実を裏返して石ころを宝石に変える、ひきこもりの錬金術師、「ニィーティスト」がこんなにもいたなんて。そうか、バイト始めた、えらい、ガンバレなんて、掲示板内だけで褒め合うより、もっと大きな「脱ニート」をしろか」
「僕も三十です。いい加減、男として立たないといけない。このテクノならぬ、「ニィーティストブレイク」を起こすことが、現実オープンワールドの人生ゲーマーたる僕の、新たな野望、これからの目標なんです」
「すごいな・・まずどこから攻めるの?」
「お台場が僕を待っている気がしています」
「うってつけだよ・・あそこはつかみとしては、最高の場所、知名度だ」
「赤坂も「釣り堀」としてはねらい目です。釣られやすいでかい魚がうようよいますからね」
啓一くんは、素直に頭を垂れました。
「俺にはひき助くんみたいな、前向きというか、外に開いて何者にもおそれない根性はないな。うらやましい限りだよ」
ひき助くんは、いいえ。啓一くんに力強く首を振りました。
「なかったら借りればいい。「指示待ち」はニートひきこもりの、最大の特技じゃないですか?」
「お、おう」
「三本のニートですよ。一本なら折れてしまうが・・」
ひき助くんが、有名な武将の逸話をいいかけた、その時でした。
「♪ ウルトラニー! Hi! ウルトラニー! Hi!」
矢ならぬ、三本のニートが一体になり、鋼のニート錬金術師に、俺たちはなる!
そういう空気をむんむんと漂わせながら、矢野くんが今度は両こぶしを突き上げながら来て。
「・・・・」
無言で見送る二人の前を、きめゼリフをシャウトしながら通り過ぎ、そのまま駅へと消えていきました。
(*'ω'*)




