第三章 躍動篇 3-2 絶望に希望と嘲笑を
「16歳になった僕が真っ先にした、血まみれの悪行」
「な、何をしたの? いよいよ本格的な、血しぶきが飛び散る、計画ほにゃらら、少年法無敵ヴァージョンとか?」
啓一くんはバイトに来ている、その就業中である。本分を忘れて、すっかり話にひき付けられてしまいました。話の相手がひき助くんだけに。
「先輩、聞いて驚かないでくださいよ」
ひき助くんは口にすることすら恐ろしい。青ざめた顔でいいました。
「驚くかもしれないけど聞きたい」
「16歳になった僕が真っ先にした、血まみれの悪行」
「うん」
「先輩、聞いて驚かないでくださいよ」
「だから何をしたの?」
「16歳になった僕・・先輩、音飛びじゃないんで、頭、叩かないでください! ちょっと、ファミコンじゃないんだから、耳をフーフーしないでください!」
「だから何をしたの! 今度繰り返したら怒るよ?」
「先輩、聞いて驚かないでくださいよ」
「やかましいわ!」
「なら黙ります。この話はなかったことにします」
「いやいやいや」
「しょうがない、「まーや帝国民NO1の男」の称号に免じて、先輩にだけ教えます。16歳になった僕が真っ先にした血まみれの悪行。ドュルルルルル!」
ひき助くんは、ドラムロールの口真似をして、もったいつけていいました。
「僕の邪悪な血を、他人の血管に注入、体内を循環させる、血まみれの悪行。その名も「献血」をしたんです・・どうです? 今、心底、僕にビビり、震え上がったでしょう」
「おーい、山田くん、こいつの座布団全部取り上げて、す巻きにして川にでも放り込んであげて」
ひき助くんは、啓一くんの落胆にも気づかず続けます。
「その他にも、試合をしてない無人のサッカー場での、代表ユニ着用での一人ゴミ拾い。適当なガードレールへの無意味献花。老人ホーム慰問での、ジジババとの、お金を賭けない健康麻雀対決。口を聞いたこともない元同級生への一方的絶交宣言。バイト現場へのアポなし集合からの無言ただ働き。今にしてみれば、あの頃が僕の「青春」ってやつだったんですね・・」
ひき助くんは、キメ顔で遠くを見ながらいうと。
「世の中を悪で染め上げるためだけに生まれてきた、スタイリッシュでキレッキレッのバッドボーイも。18歳になって思いました。僕もそろそろ落ち着かないといけないってね」
「で、その落ち着き先が子供部屋で、始めた仕事が自宅警備?」
ひき助くんは頭をかきました。
「いやあ、さすがですよゴッドファーザー。やはり「業界」を牛耳る「重鎮」の前では、僕など豚ににらまれた子豚、持ってる看板が野豚さんだけに。で、その頃、たまたまテレビで見たんですよ。社会問題化するひきこもりって特集を」
ごくり。啓一くんはまた生唾を飲みました。こいつ、いろんな意味でただものじゃない。ていうか、一般人じゃないだろ。啓一くんは、紙一重系の浮世離れした新人類に、違った意味で震え上がり。バイトではなく、この場からバックレたくなりましたが。五千円をゲットするまでは、この場を死守しないとなりません。
「その特集で僕はひらめきました。ひきこもりで起業しようって」
「ど、どうやって?」
ひき助くんはまたへっへっへと不敵に笑うと。
「ひきこもり‥当時はニートという外来語はまだありませんでした。つまり子供部屋から外に出ず、日がな掲示板に張りつき、アニメを見ているだけのひきこもりの、なにがいけないのか?」
「存在、生き方、そのすべてだろ?」
「ゴッドファーザー・・語りますねえ・・「自画自賛」ですか?」
「いやあ、ちょっと「謙遜」しただけさ」
今度は啓一くんが頭をかきました。
「ニート、ひきこもりの致命的欠点、それは「金にならない」これでしょう?」
「そりや、働いてないんだから、金はもらえないよ」
ひき助くんは。ポンと手を打ちました。
「それです! その時、僕は思ったんです。「働く」ってなんだろう、「仕事」ってなんだろうって。動物園の珍獣、近所の可愛い野良猫。こいつらの「仕事」はなんで、どういう「労働の対価」でメシをくっているんだろう? でも奴らは動物、我々は人間。「本能」の他に「知恵」というものがあるはずだ。その時に目に留まったのは、いわいるひな壇芸人です。あいつらより面白い掲示板のカキコはいっぱいあるのに、ひな壇芸人は大金を稼いでいる。なのに掲示板カキコ人は無償で底辺扱い。管理人の莫大なアフィ広告収入をアシストしてるだけ。この構図を逆転させることが、僕の「男子一生の仕事」だ。そう天啓を受けて、僕はひきこもりになったんです」
啓一くんは、平日の昼間に。30過ぎの男が働きもせず、五個上の元ニートの、しょーもないバイト現場にまで来て、何を場違いな壮大な夢を語っているんだ。ぶっちゃけ思いましたが、五千円の現金をゲットするまで、看板を放り投げてバックレるわけにはいきませんでした。
「僕は人間としての知恵をしぼりました」
ひき助くんは、啓一くんの気持ちなどおかまいなしに続けます。
「石の上にも十年。よし、僕も十年ひきこもろう。キャラ立て箔付けのため、一切の労働はしない。僕は昼夜逆転、掲示板1日10時間、アニメ鑑賞2時間、エロサイト巡り1時間。1年、そのノルマを自分に課した僕は、大変なミスに気づきました」
「そ、それはどんな?」
「震え声」とはこのことか・・啓一くんは、毒母の体罰、低能同級生のいじめ以来、久々にビビる、怯えるという感情を覚えました。
「バカ、恵一のバカ! お前、せっかく子供部屋にひきこもってるのに、掲示板、アニメ、エロサイトだけで。「未来の犯罪者予備軍」を猛アピールするのに絶対に必要な、「暴力的で残酷なテレビゲーム」を、お前はまったくしてないじゃないか! ようやくその失策に気づいたんです」
「お、おう・・」
「でも失敗は成功のもとっていうじゃないですか? その時、ひらめいたんです。俺のニートひきこもりのキャラ立てに、二十歳すぎてひきこもりになり、テレビゲームほしさに家庭内暴力をふるった。この過去を演じるのはいつ? 今でしょって。 僕はそれまで、現実がオープンワールドの人生ゲームだったから、テレビゲームになんかまったく興味がなかったんです」
「だろうね、はは」
「でもただ殴る蹴るでは芸がない。僕は母に手紙を書きました。将来、将来、ニートひきこもりとして名を売り、立身出世するためには。二十歳でひきこもった無職の長男が、暴力的なテレビゲーム欲しさに母に暴力をふるった。その「勲章」が絶対に必要だ。だから殴られたことにして、お金だけくれって」
「いくらくれたの?」
啓一くんが思わず身を乗り出すと。
「そっちかーい! 母はちょっとヤンチャで、ほんの少し個性的で、芸術家肌の僕に寛容でした。というより、あの親にしてこの子あり。母も馬鹿だったんでしょうね。3万円くれて、父が帰ってきたころは、頭に包帯をまいたり、杖をついたりして、僕の壮大な計画に協力してくれました」
「いいお母さんだね。俺もそういう話の分かる、息子の幸福のために労力を惜しまない、自己犠牲の精神のあるお母さんのもとに生まれたかったよ」
「あれから苦節10年。当時、毎月3日にりぼんなかよしを買っていた、大人漫画雑誌から抜け出たような幼女の妹も。今では二十歳。経験人数二桁越えの、立派な中古になりましたよ」
「いや、そういう豆知識はいらないから」
「僕はね、本当のニートひきこもりからの脱出、卒業というのは、テンプレのバイトを始めるではなく。ニートひきこもりという立場を活かした、起業だと思うんです」
「それはどういう?」
啓一くんが思わず身を乗り出すと、どこからともなく、「ウルトラニー! Hi!」聞き覚えのある声がし、啓一くんたちに近づいてきました。
(*'ω'*)




