第三章 躍動篇 3-1 絶望に希望と嘲笑を
「それは駄目だよ」
恵一くんはニー山ひき助くんからの申し出を、きっぱりと断りました。
「どうしてですか? そんな自分がキモいなんて、勝手に決めつけて、冒険のチャンスを逃さないでくださいよ。広い世の中には好事家、マニアもいるんですから」
「そんな「枕営業」ごめんだよ。いくらひき助くんがニートから抜け出したくても、そのために妹の加奈子さんを、俺に「性接待」目的で差し出すなんて駄目だよ。心配無用、俺でよければ、喜んで無料相談にのるよ」
「フッフッフッフ、ハッハッハッハ、ハーハッハハハ! さすがはゴッドファーザーオブニートを名乗るだけのことはある。ネトウヨの困った時の論点ずらし、すっとぼけ。伊達に「掲示板用心棒の内海」を名乗ってはいませんね」
いや、名乗ってないし。
「悪天然、勉強バカ、子供頭。「三冠王」の我が家の箸下こと、口達者なだけで中身ゼロの親父が、口癖のようにいうんです。男は三十にして立つとか」
「ニートを断つの?」
「すっとぼけー!」
啓一くんの聞き間違いを、ひき助くんはギャグの決めゼリフのようにツッコむと。
「孔子の論語ですよ。我、14にしてニートを志し、30にしてニートで立つ」
「ど、どう立つの? それに孔子ってすごい昔の人でしょ?」
「私はアレゴンターレであーる。ですよ」
ひき助くんは病んだ目で手を上げて叫ぶと。
「脱ニートって、外に出る、バイトを始める。そう思いがちですよね」
「違うの?」
ひき助くんは、独裁国家の書記長のように手を叩き。
「それじゃあ、ニートひきこもりしていた時間が無駄になるじゃないですか。妹から聞いているでしょう。僕が荒れてる、焦ってるって」
「うん。それで心配して、手紙を書いたんだよ」
「それには感謝しています。それで今日、お礼にうかがったわけです」
「なんか妹さんのさんの話だと、今すぐ社会に「大それたこと」を実行しそう、親に「刺しつ刺されつ」待ったなしっていってたけど。でもそんな風には見えないし、そもそも気軽に外に出れる系なの?」
「じゃなかったら、このアニメ柄のシャツ、こうして着ているはずがないじゃないですか」
ひき助くんはへっへっへと、不敵に笑うと。
「僕はね、先輩みたいなガチ勢と違って、ある意味「ビジネスひきこもり」、「半ニー」なんですよ」
「お、おう」
啓一くんはそう返事するのが精一杯でした。
「僕は中二の時、このまま高校、大学を出て就職して、平凡な人生を送ることに疑問を感じました。要するに中二病になって学校にいかなくなった。僕に唯一特技があるとしたら物怖じしない、人見知りしない度胸。ドリームジャンボ満と正反対の男だと思ってください」
「ドリームジャンボ満ってそんなに有名なの?」
「陰キャ界の地獄の王子、闇世界から来た歌う腹話術人形。あいつも普段は無口ですけど、ブログとかでは愛を語ったりして、ビジネスコミ障疑惑も根強く囁かれてますからね。油断できませんよ」
「え、ググったけど、そんなの出なかったよ?」
「箸下、ロケットモン同様、「有料」なんですよ。うちの妹みたいな、情弱バカ向けの」
「でも、それを読ませてもらっているんだろ?」
ひき助くんは、ふてぶてしい笑みを浮かべていいました。
「それどころか、妹から月に1万円、お小遣いまでもらっていますよ」
「う・・」
胸を張るひき助くんに対し、啓一くんはうめくので精一杯でした。
「親になにかあった時、あたしがすぐに来れなかったら、お兄ちゃんがこれでなんとかして。「介護代行費用」みたいなもんですかね。僕もやろうで小説書いてるから、普段は「ネットビジネス業」を名乗っていますが、今のところは金になっていませんからね」
「・・・・」
「先輩、なに絶句してるんですか」
「いや、俺みたいな昔気質なひきこもりが知らない間に、ひき助くんや矢野くんみたいな。新世代、ニュージェネレーションニートが、いつのまにか台頭してきているんだなって」
「俺も年をとったな、ですか? ゴッドファーザー、あなたのような「ベテランの重鎮」がいてくれてこそ、我々が輝けるってものじゃないですか? それに矢野ッチはだめですよ」
ひき助くんは吐き捨てるようにいいました。
「どうして? 自分もあんなほがらかで明るいニートだったら、こんなに禿げないですんだのにって、つくづく思ったけど」
恵体が立ち続けるのは、細い人より疲れるのか。ひき助くんは、ハーとため息をついてしゃがみました。
「ゴッドファーザー。さっきのコピペじゃないですけど、ニートひきこもりも殺伐としてないとだめなんですよ」
「いつ「大それたこと」をするか? いつ親と「刺しつ刺されつ」するか? ぎりぎりの今を生きてる感あり的な?」
「僕は中二で不登校になった時、朝、「朝立ち」をしました」
啓一くんは初めて笑顔を見せ、大きくうなずきました。
「俺なんか今も毎朝だよ。でもあの頃と違って、近頃は終わったあとの虚しさがハンパなくてさ」
「それは「朝勃ち」! 僕のは政治家がリーマンや学生に演説する「朝立ち」!」
「お、おう」
「物怖じしない僕は、学校に行く代わりに、駅前に行き演説しました。おはようございます、不登校の矢野恵一です。僕は被選挙権を得るまで不登校を貫き、25歳になったら市会議員選挙に立候補します! その時は、どうか清き一票を、矢野恵一、矢野恵一にお願いします! 声を大にして叫んでいたら、日本は言論の自由のない国なんですね」
「どうしたの? 暇なじじいと口論になったとか?」
「警察に補導されました」
ひき助くんは、さも残念そうに首をふりました。
「派出所に連行され、お茶とお菓子を出され、大学くらい出てないと議員にはなれない。そもそも25歳でなにもしていないのは、「不登校」ではなくただの「無職」だ。完全論破されて政治家への夢は消えました」
「それは残念だったね」
「なにか前人未到のことをしたい。自分探しの旅は続きました。不登校を振り出しに、生徒が不登校しているのに、完全スルーの担任への抗議デモ。学校前でのハンガーストライキ。体育祭保護者席不法占拠による、組体操への全力「怪我しろ」コール。校門前での遅刻生徒への個人叱責。部活試合への私服乱入。女装での男子生徒校内逆ナン。逆ギレ登校拒否児童として、これなら非行に走ってくれた方がまだマシだ。校長から泣きが入ったほどでした」
「俺には想像も出来ない、ワンアンドオンリーの世界だね・・」
啓一くんが感心すると、ひき助くんは決め顔で遠くを見て。
「あの頃は僕も、ヤンチャしてましたよ・・」
と、いいました。
「そうこうしているうちに、元同級生たちは卒業してしまい。部外者になった僕は学校テロリストとして、校内に侵入するたびに警察に通報され、また補導されるようになりました。それでもう俺もヤンチャする年じゃない。僕は新しいことをすることにしました」
「何をしたの?」
啓一くんが、怖いもの見たさと好奇心で聞くと。それはさぞ恐ろしいことなのか、ひき助くんはまた決め顔で遠くを見ると。
「聞いて驚かないでくださいよ」
前置きしてから「荒れた10代」、青ならぬ「凄春の思い出」を、また語り始めました。
(*'ω'*)




