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「ニィーティスト」  作者: ニィーティス亭 夢★職
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第三章 始動篇 1-4 すべて裏返してみろ

「新築マンション販売中でーす。モデルルーム随時見学可能でーす」


 今日は1プラカーダー、1サンプラー。持つ人と配る人のコンビですが、


「内海さんにどんなナンパされるのか楽しみ」


 プラカードを持って立っている啓一くんの横に、加奈子さんが配るティッシュの段ボール箱が置いてあり、補充に戻るたびに、啓一くんは若い加奈子さんに煽られました。


 なんの知恵も哲学も覚悟もない。かつての王様ならぬ、裸のネット番長兼ビジネス業の頃に。いきなりこんな状況に追い込まれたら?


 パニックになってバックレるか、年下の小娘が目上に対して生意気だ。昭和な説教でもしたでしょうか?


 ですが今の啓一くんは、以前の啓一くんとは別人です。こいつ(加奈子さん)が俺をからかって養分にしようとするなら、俺はそれを逆手にとって裏返し。こいつ(加奈子さん)をチューチュー吸ってパワーアップさせてもらいますわ。ギャグなのかオヤジの妄言なのか分からないことをぶつぶつとつぶやくと。


「こんな(加奈子さん)、今夜はワシの肉の海に溺れて、股間のP毛もんゲットしたらどないだ」


 今の啓一くんは、無茶で自分勝手な別世界からの挑戦にも、ひるむことなく受けて立ちます。啓一くんはテッシュの補充に戻った加奈子さんを、精一杯気取った声でナンパしました。


「それ、ナンパじゃなくてセクハラ。不合格、やり直し」


 敵もさるもの。勇躍、出港した啓一丸はあえなく撃沈、逆難破させられてしましました。


「君(加奈子さん)、僕の臭いとこダサいとこキモいとこ。全部、君に駄目だしさせてやるよ。だから黙って俺についてこい」


「黙っていたら駄目だし出来ないでしょ? じゃあ夜職のお店に来てよ。お金とってたっぷり駄目だししてあげるから」


「そこのハニー(加奈子さん)、くれちゃるけん、ワシのタマ取っちゃれや。タマいうんはワシの命や」


「命取ったら死んじゃうでしょ? それナンパじゃなくて依頼殺人」


「まーや帝国民NO1の男、いきまーす!」


「は? どこ行くの?」


 マウントならぬ、バックの取り合い。レスリングのように裏返そうとしては、はぐらかされたものの。


 なるほど「天国案件」だ。一人で立っているのと時間の立ち方が違う。保夫叔父の手紙に書いてあったけど。君の両親が普通の親でないのと一緒で、クソ毒母、クソ学年主任、クソ弟嫁と。俺の被弾したオンナが全部悪だっただけで。現実世界のこの矢野くんの親戚女子は、一見、とっつきにくいけど、話してみると辰&砂よりよっぽど大人じゃないか。


 俺は今まで無知蒙昧で、不向きなバイトが社会のすべてだと誤解していた。社会があって俺がいるんじゃない。俺がいて社会がある。仕事でも生き方でも、選ぶのは俺自身なんだ。


 などと、啓一くんが決意を新たにしていると。


「内海さん、もうすぐお昼だけど、休憩どうします?」


 加奈子さんの希望は1時からなので、啓一くんはお昼なるとプラカードを置き、お祭りの公園に行きました。


「よう啓ちゃん。来てくれたんか?」


「その制服、決まってるじゃないですか」


「オンナが用意してくれたけん、着ないと怒られるんよ」


 金兄はダボシャツを引っ張って苦笑いしました。


「ひとつ、ください」


 お弁当はありますが、気持ちです。買っておいて、家に帰ってから食べればいい。啓一くんは、交通費以外は使うまい。保夫叔父から頂いた、給料日までのつなぎ資金から、お金を出してやきそばを買いました。


「啓ちゃん、明日、身体空いてるか?」


「なんでです?」


「野豚さんの看板持ち、こっちの用で出れなくなっての。頼みたいんじゃ」


「いいですよ」


「うん。でな、出来たらそのまま引き継いでほしいんじゃ。つまらんバイトやけど、辛抱すれば日払いで五千円、現金でもらえるけん。でな、来週から経費節減で、火曜木曜、土曜日曜の週2づつ。土日は時給が50円あがるけ、じじいがワシがやるいうてきかんけど。啓ちゃんにはこっちの土日があるから、ちょうどええやろ? 決めてくれたら、この場でワシがブルドックに電話して話つけるけん」


「お願いします」


 これでマイルドニート卒業だ。バイトとはいえ、週4日働けば、もう誰に何をいわれることもない。


「ああ権田やけど、ワシの引継ぎな、前に一足違いでじじいに看板取られた、ぽっちゃりした子おったやろ? え? また一足違いでじじいの友だちに取られた? え? え? つまらん冗談いうなボケ! ならそういうことで、明日からいくけん頼んだど。オーケーや、啓ちゃんも頼んだで」


 ということは、明日もバイト、4連勤。まあ、明日は私服・・いや、あのアニメ柄シャツに短パンでは「社会人」としての「仕事に対する態度」を疑われるだろう。保夫叔父さんの金で、なんかまともに見える服買うか。チノパンにチェックのシャツとか。体が入ればだけど。


 かき入れ時の金兄と別れ、公園の野外ステージそばを通りかかると。


「ゴッドファーザー!」


 矢野くんがプラカード置いて、スキップしながら啓一くんのもとに来て、


「ウルトラニー!」


「Hi!」


 お約束の挨拶をしました。


「どうですか「天国案件」は?」


「なんだよ、彼女、親戚なの?」


「バレましたか。いやー、昨日は顔合わせてへこみましたよ。悔しくて見栄を張りましたが、あれなら男の方がましですよ。そう思って、今日は現場チェンジさせてもらいました」


「え、どうやって?」


「簡単ですよ。こういうバイトが行きます、写真付きの手配書が、クライアントに出回っているわけもないし。今日は僕が内海さんで、内海さんが矢野くん。入れ替わったって、クライアントは気にもしないし、ゴッドファーザーも「天国案件」で、ウィンウィンじゃないですか」


 仏の啓一くんも、何の相談も報告もなく、勝手なことをされ、さすがに怒った顔でいいました。


「ちょっと待ってよ。それじゃ今日の僕の、エアーバス代はどうなるの?!」


「そっちかーい! 無論、内海さんが備考欄に書き込んでください。おっとご心配なく」


 矢野くんはポケットから手帳を出すと、<備考欄にバス代420円請求のこと>すらすらと書くと。


「ちゃんと見せときますから」


「頼んだよ」


 今時の若者は、油断もすきもない。こんなことを思うなんて、俺も歳を取ったな。ぶつぶついいながら、今日の現場に戻り、加奈子さんと交代しました。


「これどうぞ?」


 楽しい現場のお礼に、やきそばをあげようと思いましたが、好き好きもあるし、屋台の焼きそばなんて不潔。そう思って迷惑かもしれない。


 啓一くんは、親切にしてくれるのは、あくまでバイト仲間だからで、俺に好意があるわけじゃない。そういうところは、みょうに聞き分けがいいので、加奈子さんを黙って見送りました。


 一人でプラカードを持ってみると、自分の部屋に一人でいる時には感じない、孤独感に包まれました。金兄だって、今はこっちに片足突っ込んでいるから、俺なんかとも仲良くしてくれるけど。露店の仕事が忙しくなり、彼女に子供でも出来たら? お金のやりくりはなんとかなった。週に一万円現金でもらえれば、ライブの先行申し込みに当たっても、即座に入金できる。でも、あっちには愉快な仲間なしの、完全ぼっち。ライブ後も、とりあえずこのバイトを続けて。


 孤独、ぼっち、今のバイト、将来の食い扶持。俺は、ただその表面だけを見て、不安に怯えて絶望してちゃ駄目なんだ。裏返して中身を精査し、頭で考えれば。ここから抜け出す突破口が必ずあるはずなんだから。


 ニートひきこもりは裏返して、精査し、ぶっ壊して突破した。


 次に裏返すものは? 精査してぶっ壊すものは?


 仕事か、孤独か・・


「お疲れ様でーす!」


 そこへ加奈子さんが休憩から戻ってきました。


                     (*'ω'*)

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