表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「ニィーティスト」  作者: ニィーティス亭 夢★職
43/59

第三章 始動篇 1-3 すべて裏返してみろ

 まさかこんなことが起こるなんて。


「昨日、ウルトラニー、ハイが、内海さんも僕と同じみたいなこといってましたが、結構、長くやられているんですか?」


 突然の三次元の洗礼でした。毒母、メゾネット魔狐。身内に憎むべき三次元オンナはいても。加奈子さんは同じ三次元オンナでも堅気、一般人です。池谷さんではないですが、非正規よ紳士たれです。


「うん、今年で22年目」


 敬語ではかえって俺のキャラ的に、相手をビビらせてしまう。啓一くんは、ワイドショーのコメンテーターをする時の、掲示板創始者スマイルで、あけっぴろげにいいました。


「22年も看板持ちされてるんですか?!」


 そっちかよ・・


「あ、ああ。このバイトは五回目かな」


「ですよね。矢野ッチに、看板持ちを30年続けている、非正規のレジェンドがいるっていわれて。あれ、マジじゃなくて、かましですよね?」


「さあ、どうだろ。矢野くんとは親しいの?」


「親戚なんですよ。あっちが叔父さんの息子的な」


 それでか・・「ニーサーの姫」なんて、よほどの篤志家か、アホの子しかやらんだろうし。


「それって矢野くん的には秘密なの? 昨日も他人みたいにいってたけど」


「あいつは自分の「キャラ設定」に異常にこだわりますからね。秘密にしておきたいこともあるんじゃないですか?」


 別クライアントのモデルルームまで、ギャルっぽい今時女子と二人で歩きながら。所詮、俺はまーやと二次元しか愛せない男。「天国案件」でもちっともワクテカしないけど。こうして普通に会話できている現実。やれば出来る! 新たな発見じゃないか。それに今日は、本来なら辰と砂田。あの無言兄弟との「修行」だったはずじゃないか。こんな別の「修行」なら、あいつらより俺には有益だし、バイト三連勤最終日の、「一服の清涼剤」じゃないか。


 啓一くんが最後に生身の女性と会話したのは、不登校になったまま迎えた中学校卒業式当日。狐顔で非情な女性学年主任と、「卒業証書も卒業アルバムもない、君はもう当校と関係ないからそのつもりで」。なんのいじめ対策も、啓一くんの心のケアもしなかったくせに。まるで学校の恥、迷惑分子ような扱いの電話で冷たくいわれ。35年の人生で一番傷つき、人間不信になり、長期ひきこもり化のきっかけになった時以来でした。


 あの頃に生まれた子が、今、俺と一緒にバイトを・・感慨深いというより、俺も気づかないうちに年を取った。いずれ俺も、よくて池谷さん、最悪だとN犬になるのか・・戦慄していると。


「あのー、間違っていたらごめんなさい。内海さんて、「まーや帝国民NO1の男」ですよね?」


「え?」


 まーやは啓一くんの中では「神」でも、世間一般の認知度はまだまだ。その他大勢にすぎません。知っているのは一部のマニアだけです。


「あたし、昨日、矢野ッチに、なんでしたっけ「ニーサーの姫」でしたっけ? 頼まれた時、そんな金にならないことをやるほど、あたしは篤志家でもアホの子でもない。帰ろうと思ったんだけど、あれあの人って思って」


「え、まーやファンなの?」


「はい。最近知った「にかわ」ですけど」


「それ、「にわか」。初心者的な意味の」


「ははは」


 なるほど「天国案件」だ。こんなところで「帝国民」と会えるなんて。思い返してみれば、俺は他のNO1に対し、自分の境遇を恥ずかしく思うばかりに。マイルドニートの辰、ヴィーガン砂田さんと、同じ態度を取ってしまっていた。そうか、あの時の俺のブーメランが「辰&砂」なんだ・・


 よし、次に別のNO1と会った時には。ダンスオヤジに、看護師なのにタバコ吸ってるおばさん、いまだ行方不明のモケルセンとも、気さくに挨拶できる男になろう。何より愛するまーやに、帝国民NO1の男として、ワンサイズジャンボになった姿を見せてやろう。啓一くんが殊勝なことを考えていると。


「でも、まーやって絶対くすりやってますよね。ヤクで死んだイギリスの女性歌手(エイミー)と同じ目をしているもの」


 突然、加奈子さんは探偵のような目で、啓一くんが期待していたのとは真逆の、まーやディスをはじめました。


「挙動不審、支離滅裂な発言、ジャミラの着ぐるみ。くすりの副作用じゃなければ、「医師の適切な処置」が必要な子じゃないですか? なんで周囲は隔離しないで放置しているんですかね・・だって本人のためにならないじゃないですか?」 


 なるほど「にわか」だ。帝国民が口にしてはいけない、絶対的な禁句を。簡潔に三行にまとめて口に出して、どれだけ帝国民の心を逆なでする暴言を吐いたか? 自分では気づいてもいない。


「内海さん、なんですか、その手つき」


「え?」


「なんか、パソコンのキーボード叩く仕草しているじゃないですか?」


 しまった。長年の掲示板漬けで、面と向かってディスられたことがないから。無意識のうちにキーボードを叩いて、エアーネット反論しているじゃないか。


「でもさ」


  いやまて。ここで天然物ウナギが、ステージという桶の中ではねているだけの元気姿。その根っからアーティスト体質が、いつものまーやなんだよ。おいお前、ヤク中なんて失礼なことをいうと○すぞ! 通報しました。そんなやりとりをしても、俺に何の得があるんだ。バイト先のにわかくらい、加齢に、いや、華麗にスルー出来ないでどうするんだ?


 俺はニートひきこもりという、地獄の井の中の蛙池での。無知と恐怖に支配された同類との、マウントの取り合い合戦から、一抜けしたんじゃないのか? この怒りを己の養分に変換してこそ、俺は外に出るとろくなことがない。それを裏返した勝ち組になれるんだ。


「最初はみんなそう思うらしいね。確かにそういう見方もある。でも短い時間だけど、間近でまーやに接したことがある身としては。まーやは天然なだけで、薬物とは無縁な子だと思う。すごい努力家で、中身は繊細な照屋さんだから。わざとああいうキャラで自分を守っているんじゃないかな」


 そうか・・まーやも「裏返して」いるんだ。あの攻撃されやすいキャラを、あえて己に課すことで、攻撃してくる敵を養分化して、己を鍛え強くする道具として逆活用しているんだ。負けるが勝ち。そういうことなんだ。啓一くんが天啓に打たれていると。


「内海さん、合格です!」


 加奈子さんが親指を突き立てました。


「え?」


 実社会の、生身の人間と接することは、なんと苦労や意表を突かれることが多いのでしょう。啓一くんは合格ということは、自分は何かテストされていたのか? 思わず声が裏返ってしまいました。


「うつみん、「カルト」の定義ってわかります?」


「うん。ラーメンに入っていると嬉しい具でしょ?」


「それは「ナルト」!」


「うーん「カルト」って、自分の宗教とか政治思想に狂信的な人のこと。で、いいのかな」


「ですね。自分の考えに固執して、他者の意見や考えを受け入れられない。そういうカルト人種はあたしと同じ次元で生きていてはいけない。バイト現場であれ、目の前にいたら即ブロックします」


「どうやって? ツイッターなら昨日もされたけど、現実ではエンターキー、ターンってわけにはいかないだろ?」


「簡単ですよ。こうやって、こうすれば」


「なんだってー!」


 お約束の雄たけびが出ました。加奈子さんは金歯がプリントされた、初姐と同じマスク。その上にあの「満の謎眼鏡」をかけました。


「ブロック完了。喋らぬギャルの威圧、ドリームジャンボラーカナ!」


 しまったー! タイマー録画しとくのを忘れてた。な、日曜日の人気朝アニメの。なぜ、長々と口上を述べてゆっくり変身しているすきに、悪はさっさと討ち入ってやっつけないのか? つっこみどころの決めゼリフ風に、加奈子さんはいいました。


 顔や髪型はギャルでも、男女ともスーツ着用が義務付けられたバイトです。加奈子さんもローヒールにパンツスタイルのスーツ姿。それに変マスク、謎眼鏡。これでは「辰&砂」の方が、外見が普通なだけまだましです。


「分かったから、ブロック解除して」


 モデルームっぽい建物が見えてきました。こう連日度を越えた「愉快な仲間」と、クライアントを訪ねるのは、「バイトリーダー」として荷が重すぎます。


「内海さん、アタシ、みっつんのバイトチャレンジブログ、「コミ障バイトリーダーへの道」を読んで、初めて「まーや帝国民NO1の男」を知りました」


「僕のことが書いてあるの?! え、どんな風に?」


「ググれカスだバカ野郎!!」


「す、すいません」


 叱られると、反社的に謝ってしまう、虐待気質で。いきなり怒鳴った加奈子さんに、啓一くんが頭を下げると。


「うちらドリームジャンボラーは、みっつんがどれだけ苦労し、汗をかいて、あのバイト現場までたどりついたか知ってます。内海さん、あなたフリーライブのあと、ネットのファンコミで、大ひんしゅくをかっていたの知らないでしょう? せっかくのみっつんなのに、ステージ横にいるデブの看板持ちのせいで、みっつんの世界にひたれきれなかったって」


「そ、そう。それは気づかなかったな。でも僕も仕事だから」


「バイトでしょ? でもその夜、久々にみっつんがファンコミに降臨して。あれは「まーや帝国民NO1の男」だって。みんなはあ? 誰やねんですよ。でもみっつんが名前を出すなら、それ相応の男だろう。うちらググって、「魔王咆哮芸」でしたってけ? 何も知らずに詐欺ならぬ、クリック被弾して、みんな嘔吐、失神しました」


「ご、ごめん、タイトルに「超閲覧超注意」って書いてなかったかな?」


「うつみん、結果はともかく。あんたある意味「インフルエンザ」だよね?」


 これは一概に「間違えている」とはいえません。


「ドMとして見逃せないんだよ。うちらを嘔吐、失神させたガチ勢うつみんに、あたしもみっつんに負けない「チャレンジ」をさせてやりたい。ヤンキーとギャルは、自分たちの流儀や主張をおしつけて引かない生きものだから、断れないからそのつもりでいて。うつみん、一回だけチャレンジチャンスをやる。あんた今日、あたしをナンパしてみな。チェンジは出来ないからそのつもりで」


 それよりマスクと眼鏡を外してくれ。


 次々と啓一くんの身に降りかかる、事件はネットの掲示板でおきてるんじゃない、バイト現場で起きてるんだ! に、啓一くんの顔も青くなる一方なのでした。


                       (*'ω'*)


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ