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「ニィーティスト」  作者: ニィーティス亭 夢★職
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第二章 曙光篇 #8-4 どんなに環境が悪くても頑張っている人はいる

「ウルトラニィト!」


「Hi!」


「お、お知り合いですか?」


 よっち-さんと矢野くんがなれた様子で、親し気にハイタッチしたので、啓一くんは驚いて聞きました。


「まあ、「狭い世界」ですからね。ニートひきこもりからフリーターになり、それを公言している「漢」なんて、そうはいませんからね」


「でも、矢野くんのウルトラニー、ハイ! には驚いたな」


「なんの「ワロタピーポー団」、藁田総裁には負けますって!」


「いやいや、 今のところ団員は僕一人だから、「団長」でいいよ」


「一人なんですか?」


 事件は掲示板で起きてるんじゃない、バイト先で起きてるんだ! 次々、驚愕の事実が明らかになります。


「うん、資金不足でね」


「でも、クラウドファウンディングで資金を募っているって」


「ああ、分かりやすく日本語でいえばよかったね、「仕送り」って」


 よっちーさんは片目をつぶり、てへっと弁解しました。


「ゴッドファーザー。藁田団長はお父さんへの家庭内暴力が激しすぎて、お母さんがこれ以上、「大それたこと」化しないよう、部屋を借りて隔離してくれたんですよ」


「出来たママや。親父も昔、血を分けた息子に向けた拳が、老いて自分にブーメランしてきた。痛みに耐えてよく頑張った。感動はせえへん。腹立つだけや。あいつだけは畳の上で死なせん。病院のベットの上でや」


「よっちーさんキター! おっと、あそこにいい感じの公園があるじゃありませんか。立ち話もなんだ、あそこでみんなでしゃがみましょうよ」


 ニートひきこもり。「世間一般の常識」に差別表現で侮蔑され、長く自身の心の闇に閉じ込められていた三人は。「ニィーティストの知恵」を知り、自らの闇が誤解、勘違いであることを知り、こじ開け、外に出て、こうして出会いました。


「ねえ、あたしうんこしたいんだけど。あそこの緑のファミレスじゃダメなの?」


「三次元の洗礼キター!」


「矢野くん、誰やこの子」


「こうして「サークル」が出来た以上、「姫」がいないとしまらないじゃないですか」


「加奈子でーす! 夜はここでバイトしてまーす!」


 啓一くんは生まれて初めて三次元の女性から、「ガールズバー やるき」の、きらびやかな名刺を貰いました。


「ゴッドファーザー、ただ見てないで匂いを嗅いでくださいよ」


 いわれた通りにすると、香水の匂いがしました。


「あ、そこの多目的トイレきれいそう。ちょっと出し尽くしてくるから、おまえらはそこらでしゃがんでろ」


「ええ、姫や。ちょっと、よっちーさんのエセ関西弁が移っちゃいましたよ」


 普通の男の集まりなら、ここで笑いが起こるところですが、そこはおとなしい「ニィーティスト」たちです。三人はだまってしゃがみました。


「あの、よっちーさんの多重人格の話、聞かせてもらってもいいですか?」


 彼女以前に友だちゼロ勢の会話ですから、空気のようなとりとめのない感じではない、質問形式です。


「内海はん、ワシは今年35、あんさんは?」


「同じです」


「なら敬語いらんでしょう」


「え、僕、誰かにボディガードされてます?」


「それ警護!」


 長年、読む書くだけで、近頃はテレビも喋ったことがテロップで出ます。啓一くんの耳は、生身の人との会話にはまだなれていないようでした。


「ゴッドファーザー、よっちーさんのビジネス多重人格、まじヤバいですから」


「矢野くん、ビジネスちゃうよ!」


「え、違うんですか?」


「ビジネスちゃうねん、八百長でんねん! 日本語でオケーや」


 よっちーさんは変なポーズで、おどけていいました。


「で、それはどういう」


 啓一くんは、あきらかに年下な矢野くんならともかく。妙に貫禄があるよっちーさんとのため口にもなれません。


「矢野くん、自分でいうと自画自賛になるから、君の口から説明してあげて」


「ゴッドファーザー。俺ら「ニィーティスト」は、基本指示待ち人間じゃないですか? こういわれたからこうした。それでくじけてこうなり、また復活した。でも、このフリーター兼マイルドニートが終点じゃ悲しいじゃないですか?」


 確かにその通りです。


「内海はん、親が死んだらどうするやない、親が生きているうちに何が出来るかや!」



「名言頂きましたー! おいKネディ聞いてるか? そのために必要なのは何か? 自分に指示を出してくれる上の人間なんですよ」


「ちょっとゲイっぽいシャイボーイ、だけど家庭内暴力上等ニートの義雄一人じゃ、僕はバイトにもいけない」


「そこで編み出した別人格が、緑の関西弁ファンキーガイ、よっちーなんですよ」


「ワシが覆面被ったり、くまどりしたのは、生活保護違反逃れのためやない。ワシが受けてるのは国の税金やない。親父がくたばったらまた一緒に住もう。愛するママンからの仕送りや」


 「母親」。ひとくくりにするから、論議が起きる。啓一くんの母親とよっちーさんの母親は、同じ「母親」という立場でも別人、別人格。自分の母親にもそう思えたらどんなにいいだろう。啓一くんは素直に思いました。


「じゃあ、バイト中に顔を隠す必要ない・・じゃん」


 啓一くんが頑張ってため口でいうと、


「誰か、うんこして、拭いて、洗ってない女子の生手の、匂い嗅ぎたい人いる? あと嗅がなくても、匂いがここまで届くよう。ドアも開けっ放しにしてきたけど」


 「ニーサーの姫」が戻ってきて、啓一くんの隣にしゃがむと、当然のように煙草をくわえ、火をつけました。


「ゲホゲホ」


 香水のもそうですが、煙草の匂いも、


「うわ、くっさ! 加奈子いつも何食ってんだよ!」


「男」


 女性のさまざまの匂いも含め、啓一くんには生まれて初めて嗅ぐ匂いでした。


「それで、なんでよっちーさんは、バイト中に顔を隠すんですか?」


 多目的トイレのドアをしめて戻ってきた矢野くんが話を戻しました。


「運がいいだけの愚民どもに、あのおっちゃん看板持って立ってるだけみじめ~、プ-クスされんためや!」


 なら、別のバイトをしたらいいんじゃ。啓一くんは思いましたが、いいだすタイミングがつかめません。


「なわけないやろー!」


 よっちーさんは、また変なポーズで叫ぶと、


「僕は対人恐怖症なんだ。君たちにみたいに、良くも悪くも心許せる、安心できる同志となら喋れるが。世間一般の人とは目も合わせられないんだよ」


「えー、ならカナとは? ほい兄貴、ワシの目を見ろ、なんかいえ」


「怒るでしかし! 眼鏡! 眼鏡!」


「いや最初から掛けてないし」


 よっちーさんは、また変なポーズで叫ぶと、矢野くんが感心したようにうなずきました。


「それで、誰とでも話せるよっちーキャラを自ら・・これはドリームジャンボ満の、歌と腹話術に匹敵する、21世紀最大の発明ですよ! 我々限定ですが」


「ネット番長時代のワシは、上場企業正社、副業でネットトレーダー。彼女ありセフレ持ち、車はレクサス。ああ、自家用ジェットも持っとったかな。でもな、そんなキャラ、ネットでしか通用せんじゃないでの?! 一歩外出て、自分は今の以下同文気分で歩いても、世間の目はただの義雄には辛すぎる。だからワシは腹をくくって、八百長多重人格者ロードを歩み出したんや!」


「すげーよく分かります。俺もウルトラニー、Hi! が好きでもない、むしろダサいと思っている本家から訴えられるまでは死ねない。そう腹をくくって、初めて外に出れましたからね。でもよっちーさんとはたまにお会いしますが、「ワロタピーポー団」の藁田団長とはまだお会いしたことないですよね?」 


 よっちーさんは遠くを見て静かにいいました。


「ワシも藁田団長とはまだお会いしたことはない」


「ないんですか?」


「ワシの夢は、「ワロタピーポー団」を現実のものとし、その初代団長になることや。ワシの親父はアホやが資産家でな。ウィークリーマンション一棟持っとる。半分は堅気さんに貸して、残りを昔の我々が、親と刺しつ刺されつせんで済む、専用避難所にする。「月尻バイトスクール」に拉致された時、「ワロタピーポー団」が救出してくれて今がある。ワシの「設定」を現実のものにするんや」


 実際に拉致されそうになったんじゃなくて、そういう「設定」だったのかよ。思いましたがよっちーさんの思いはガチです。


「♪夢中(ニート)で頑張る君に勇気を~」


「♪夢中(ニート)で頑張る君に勇気を~」


 よっちーさんに続いて、矢野くんも歌いました。


「♪夢中(ニート)で頑張る君に勇気を~」

 

 加奈子さんも歌いました。


 啓一くんは輪唱を聞くのは小学生以来でしたし、


♪「夢中(ニート)で頑張る君に勇気を~」


 歌ったのもそれ以来でした。


「そのためには、ワシはこれからもまずバイト。それからネトウヨ、アニオタ、声豚、撮り鉄、握手会荒らし、風俗嬢ネット粘着、エセ関西弁使い、ホラレモン煽り。たった一つの命、そして一度きりのこの人生。ワシは己の魂を鍛え抜き、浄化させ、いずれ何者にビビらない、無我の境地(ゾーン)に入るために。今いったこと以下同文修行を、厳しく自分に課すつもりや! 馬鹿になれ! そして馬鹿とネットは使いようや!」


 この人は只者じゃない・・神に使わされた真の聖人だ。「どんなに環境が悪くても頑張っている人はいる」。それはこの人みたいな偉人のことを指す言葉なんだ・・


 本当にそうなのかは分かりませんが、啓一くんが心の底から感動していると。


「あのー、なにされてるんですかね?」


 おまわりさんがが二人、不審者通報があって来ました顔で、割って入りました。


「僕たちは・・俺たちは、「ワロタピーポー団」初代団員なだけです!」


 矢野くんが弾けたように立ち上がり、感動の涙を拭おうともせず叫びました。


 「馬鹿になれ!」とはこういうことなんだ・・俺はまだまだ、いや全然修行が足りないんだ。俺は今まで、格好よくなろうとして、かえって不格好になっていた。同じ馬鹿をしても、考え方、気持ちの持ちようで、俺にもよっちーさんみたいな、「馬鹿師匠(マスター)」への道が開けるんだ・・親が死んでからどうするじゃない、生きているうちに何が出来るかなんだ!


 本当にそうなのかは分かりませんが、おまわりさんがあっけに取られて黙っている間、啓一くんは今までの自分を深く反省しました。


 その後も職務質問は続きましたが、終了メールを見せてバイト終わりであることが証明され。加奈子さんの原付免許証以外、誰も身分証明書を持っていませんでしたが。売れない芸人かなんかだろう。解散、撤収を条件に、おまわりさんは帰って行きました。


 駅で男三人、啓一くんの提案でLINEを交換することにしました。ですが、誰も使い方が分からず、メールアドレスだけ、同じように電送のやり方が分からず、紙に書いて交換しました。


 「まーや帝国民NO1の男」の扮装、「魔王咆哮芸」だけで、十分なっているはずなのに。


 俺はもっと「馬鹿」にならないと駄目だ・・己の精神を鍛え、磨き・・


 帰りの電車の中。えんじ色の三つ揃いボススーツの恵体は、ぶつぶつとつぶやき続けました。


 こうしてニートひきこもり扱いから、自身の「人権」を自分で取り戻し。バイトに出るまで社会復帰した啓一くん。彼の「ニィーティスト」としての活動は、これからますます激化していくのでした。


                       (^O^)/



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