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「ニィーティスト」  作者: ニィーティス亭 夢★職
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第二章 曙光篇 #8-3 どんなに環境が悪くても頑張っている人はいる

「その実験て、有給とかあるんですか? この日は行きたいライブがあるから休みたいとか?」


「内海はん、「バイト」ちゃいまんねん「治験」ですねん。自分の都合で任務のキャンセルなんかできまへん」


「でも、サボっても分からなくないですか?」


「こんなしょーもないバイトだって、社員はん見回り来るじゃないですか? 「ワロタピーポー団」も社員がバレないよう見張っていたり、防犯カメラハッキングしてチェックしたり。サボって任務完了せずに帰宅すると、鍵が開かなくて部屋に入れなかったり。グレートリターンニートして部屋にこもっていたら、急に停電になり、ネットもつながらなくなり、メシのデリバリーも来なかったり」


「やるしかないですか」


 自分なら、日常的にやっていることばかりなので、楽にこなせただろう。でも、この治験に参加したら、あの毒母との縁は切れるけど、まーやのライブにいけない。うまくいかないもんだな・・


「内海はん。本当の僕はね、こんな芸人さんみたいな、ファンキーガイやないんですよ。春を愛し、ハイネの詩を愛し、ドヴィッシーの音楽を愛する、ちょっとゲイっぽいシャイボーイなんです。昔の日本には、働かずに一生を終える男が大勢いた。「高等遊民」いう人たちや。うちは親が死んでも子供が困らんだけの土地家屋があるのに、親父が一人息子が35にもなって働きもせんなんて、世間様に申し訳ない。「世間様」って誰ですか? 福祉より悪質な税金泥棒の政治家ですか? 人殺しても逮捕もされない上級国民ですか? 働いてる悪人より、家で文化芸術を愛でる、ワシのがよっぽど立派で高級や」


 なるほど種明かしを聞くと、派手な服装や態度がかすんで、本当のよっちーさんが見えた気がしました。


「一番きつかった「任務」ってなんでした?」


 よっちーさん、それ聞くか? 思わず天を仰ぎました。


「ある有名人に、俺のマグナムを超ぶちこませろ。しつこくリプ、DM送って、お前いい加減にしろ! ケツの穴の小さい、キレやすい奴を怒らせろ。あれはキツかったな・・だって、もし写メ送れ、いつ会えるってなったらどうします?」


「どうなりました?」


「ガン無視ですわ。でもね、それでいいんです。だって、本気でそうしたいと願って送りまくって無視されたら悲しいじゃないですか? でも、ある意味脅されて、度胸試しでやったけど、ワシは以前のゲイっぽいシャイボーイ時代には、手がふるえて出来なかった「任務」を成し遂げた。ワシは一つ精神的に強くなった。その日の夕飯はうまかったですよ」


「ああいう微妙な文化人は、ある意味、ネット民のおもちゃですからね」


「それが藁田団長の狙いなんです。団長は田舎者の山師風情が、カルト少し上のおつむ相手に、政治経済語って、おいしい金儲けしてんのが不愉快なんです。下品な成金がせこい金儲けしやがって。あいつらの経済が自分にあったら、自分はもっと「俺たち」を救える。ニートひきこもりだったからって、なんで世間様の顔色うかがわないかんのです。ワシらかてもっと夢を持っていい。そうして、その夢を叶えるのは自分たちや!」


「でも、現実はこんなバイトに出て、平日は家でごろごろしている、マイルドニートが精々なんですよね」


「求めても与えられずくじけた。ならその逆もありや。マイルドニート待遇と引き換えに、任務を与えられて、何も求めず、ただやり遂げて達成した。我々に必要なのは、自分の人権の確立による劣等感の排除。これは「ニィーティストの知恵」を読めば誰にでも達成できる。あとは発想の転換による、精神修行。自分は自分以外の誰でもなく、全ての他者に侵されることのない、唯一無二の存在である。自己を確立する。そのために、ワシはわが身を犠牲にして、己の精神修行のためには、表から見たら恥ずべき事。でも、裏返して別角度、違う気持ちで挑戦すれば? それが己の精神力強化につながることをしてるんです」


「なるほどなあ」


 気が付くと、啓一くんはすっかり意気投合し、立ち止まってよっちーさんと話し込んでいました。


「僕が実際に、税金による福祉で生活しながら、ネトウヨ、アニオタ、声豚、撮り鉄、握手会荒らし、風俗嬢ネット粘着、エセ関西弁・・その道楽活動費不足分に充てるため、こうしてバイトに出てきた。本当の僕には、とてもそんな強靭なメンタルはない」


 よっちーさんは、埼玉弁に戻りました。


「でもそういう設定なら? 人生は舞台、主役はあなた。今日は「最低男」として、粘着してさらし者にされた嬢に会いに行くため、違法のバイトにきた。フフフ、これを見てください」


 よっちーさんはスマホを見せました。


「なんだってー!」


 思わずお約束の声が出ました。<【アイラブK国】ナマポヨッチー44【クールジャパン完全制覇】>、啓一くんの青春のすべてといっていい掲示板に、よっちーさんのスレがたっているのです。


「僕の「悪行」をディスるネット民たちの心にあるのはなんですか? 「不安」、これに尽きる。「世間一般の常識」しか頼るものがないネット民は、自分が出来ないことを同じレベルの奴がやっている。それがうらやましいんでしょうね。内海さん、「やらせ」というのは公共メディアだけの特権じゃない。個人が仕掛けたっていいんですよ」


 よっちーさんは、急に怖い顔になり、うっとりと自分のスレをスクロールさせます。


「ワシね、多重人格なんですわ」


「マジすか」


 何やら、急に雲行きが怪しくなってきました。


「でもあんなの、映画とかで見るもんや。ですけど、僕にはちょっとゲイっぽいシャイボーイの義雄もいれば。緑一色の元気、やる気の、ファンキーガイ、よっちーがいて。それに近い将来、日本のニートひきこもり界を変える天才、「ワロタピーポー団」を率いる、藁田団長もいるんです」


 ごくり。啓一くんはまた生唾を飲みました。日本には星の数ほどのバイト先があるはずなのに、なぜ自分だけが極端に不愛想か。振り切れすぎた濃い異次元の、すごい「バイト仲間」に遭遇するのだろう?


 その時でした。


「おつかれーっす! ウルトラニィト! Hi!」


 聞き覚えのある声の方向を見ると、矢野くんが空き箱をゆわいたカートを引きながら、ずいぶん啓一くんとは違う、ギャルのバイト仲間と、こっちに向かって来るのです。


                       (^O^)/

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