第二章 曙光篇 #7-2 バイト鬱に負けるな!
今日はいとこの満おにいのフリーライブいってきたん。兄と妹みたいに育って、今は同じ歌の世界でガンバルンバーなおにい。カッコよかったンゴ、ンゴンゴ。相変わらず無口でガン無視だったけどw #ドリームジャンボ満 #バイトチャレンジ #フリーライブ
なんだそうだったのか。親戚だったのか。啓一くんはベッドに入ったものの、ドリームジャンボ満こと、同じプラカーダーの陰形くんが。自分が「まーや帝国民NO1の男」を務める、最愛のまーやと、一体どういう関係なのか? 気になって悶々として眠れず。起き出してパソコンを開き、なんだそんなことか。馬鹿だな俺は、いい歳をしてやきもちを焼いたりして。さて、安心したところで寝るか。明日もバイトだ、同じ「バイトチャレンジ中」の身、早く寝て明日に備えよう。啓一くんがまーやが待つ(抱き枕の)ベッドに入りかけたその時でした。
「なんだってー!」
素っ頓狂な声と共に、啓一くんは夢から覚めて飛び起きました。慌てて現実のパソコンに駆け寄り、昨夜は怖くて見れなかった、まーやのSNSをすべてチェックしました。いつもは、アサー! 太陽プリプリー! ヨルー! おやす~ミンミンミン! 毎日、二回、必ず投稿があり。いつもながら語感ヤバすぎです! CVまーやで脳内再生しただけで、ごはんドンブリで三杯いけます! 「熱心なファン」からのコメントが殺到するのですが、昨日に限って、
「朝だけでおやすみ投稿がない。まさかあの後、都内某所で打ち上げのようなものがあり。安いドラマによくある、性悪イケメンの非道レイプの手口。一緒にドリームジャンボになろう。満の腹話術による甘言に酔わされた隙に、飲み物に意識がラリパッパになるおくすりを入れられたまーやは・・
俺の愛読する大人漫画雑誌ではその後、ほとんどが合意の上ではなく。なんだかの悪の手練手管で、幼女はいつのまにか部屋で二人きりにされ。無敵変質者に本能のおもむくまま性の玩具にされ、すべてをうばわれてしまう。
「・・・・」
「満の謎眼鏡」に無言。おくすりラリパッパで身動きを取れないまーやに、早脱ぎスーツから素早く全裸になり。そこから10ページにわたって、大人漫画同様のあんなことこんなことを・・
ここ! いやまて。せっかく人類の未来を左右する、マイDNAを放出するんだ、ベストショットで。絵の幼女なら、立ったまま元気を失わないよう注意しつつ、せわしくページを繰り、脳内ブックマークするところだが。でもまーやは三次元、現実だ。
「・・・・」
あの「無敵無表情」が、無言、謎眼鏡で、まーやにあんなことこんなことを・・多用しすぎて脳内に焼き付いた、数々の大人漫画ベストショット。その絵の幼女の顔だけが、なぜかまーやにすり替わり。いつもの突き上げてくる昂ぶりに、啓一くんを誘うどころか。現実のまーやを汚される嫌な妄想をさせ、悪寒で震え上がらせ、恐怖のどん底に突き落とすのです。
なにより寒気を覚えるのは、こんな啓一くんの人生を左右するような、重大関心事があるというのに。臭い汚いなどいわれて、自分が傷つかないよう。午前7時には起きて身支度をし、8時には家を出て、しょーもないバイトに行かないといけない日曜の、今がまだ午前4時だということです。
以前なら、眠れないない。ならば、日本人の誇りに賭けて闘いますか、ネットで。パソコンを立ち上げ、時間無制限、ノーリミットで、ヘイト書き込みをし続け。自動でデリバリーされてくる食事をむさぼり食い。抜き、排泄し、寝る。こんなことしてちゃ駄目だ。あの時、俺はそんな無駄なことを思わず、悪魔がくれた、あの「無敵モード」をもっと楽しむべきだった。
昨日のバイトで、心身ともにへとへとに疲れている。はずなのに、啓一くんはベッドに横になっても、まったく眠れませんでした。バイトなんか始めなきゃよかった。あのままひきこもっていたら、俺はドリームなんとかなど知ることもなく、バイト中にあいつとまーやらしき影に被弾し。こんな大人漫画化決定な妄想に苦しむことなどなかったんだ。
外に出るとろくなことはな~い 外に出るとろくなことはな~い
「ああ! なんなんだこれは・・」
啓一くんの脳内に、CVドリームジャンボ満(腹話術Ver)で、同じ言葉がお葬式のお経のように、何度も何度も繰り返されるのです。
バイトの1分は遊んでいる時の30分。啓一くんは時給が付く午前10時の6時間も前、まだ夜明け前の自室のベッドの中から、すでにバイトモードに突入し。今日はいったいどんな不愉快な仲間と、ろくでもないことが起きるんだろう? 三連休だから、明日も俺は・・
まだ今日も始まっていないのに、すでに明日の心配をする啓一くんは。新卒でいうところの「新人の五月病」。ひきこもりでいうところの「脱ニート三日病」に掛かってしまったのです。
坊主と政治家は三日やったらやめられない。ですが、ニートがバイトを三日やったら即やめたくなる、これもまた真実。啓一くんの超えなければいけない壁なのですが。
「うわっ!」
悩み妄想に苦しみ、寝坊が怖くて、結局、一睡もできず。啓一くんは疲労感倍増でボススーツに身を包み。飛び込んだりせずに、電車に乗ったのはいいのですが、それ以前の乗客が電車と「なにかあったらしく」。遅刻するかもしれない、俺は今日もバイトリーダーなのに! 不安感まで加わり、やっと来た電車は、座れるどころか殺人ラッシュです。身動き取れない上に、オヤジ臭、加齢臭、おばさんの独特な香水臭。
俺が身ぎれいにしてきても、世の中には公衆でのエチケットも守れない、情けない子供頭のなんと多いことか! 自分の小心の反動で、啓一くんは他人の良識欠如に、腹が立って仕方がありません。
俺は、こんなところで、一体、なにをしているんだろう?
眠れず、早く家を出たので、また集合の1時間前にはついてしまい。啓一くんが到着してから通常運転になった、ネットではなく駅の掲示板を見て。「脱ニート三日病」の啓一くんは、思わずため息をつきました。
孝行を、したくない時、親がいる。世界の北野氏の、漫才師時代の至言です。しっかし、俺がバイトに出たことに対する、あの毒親二匹の悪天然態度は、マジでムカつくよな。てめえらのしたことは棚に上げ、二人揃ってあの態度はないだろう? 本来なら、あんな勘違い上から目線で、大人が子供にいうようなことをいう親父に。自分は何も悪くない顔で、更生した息子を喜ぶ母みたいな顔をする、狂気の馬鹿女には。俺は「日本の侍」として「自ら責任を取り」、短期のバイトではない、長期の「おつとめ」に行くべきだが。
保夫叔父のような、まともな大人もいるのだから。
そう思い直し、というか。俺はうっかりバイトに出たばかりに、「自宅警備費」「毒親介護代行費」全てを失い、バイトしなければ一円の小遣いもない身の上。
啓一くんはふと、別の寒気を感じました。
もし、まーやがツアーをせず、俺が金の必要性を感じず、「ニィーティストの知恵」にも出会うこともなく。あのまま「ニート黄金律」に溺れ続けていたら? あの悪天然で子供頭の毒親二匹が。もうこれ以上我慢できない。それはこっちのセリフだなことを考え。ネットを遮断し、小遣いを打ち切り、家から追い出そうとしたら? 俺は今まで堪えに堪えてきた怒りが全て逆流し、無知ゆえにブチ切れて我を忘れ・・
「背筋が凍る」とは、まさにこのことでした。
無実の罪で子供部屋に22年も幽閉させられ。俺は甘え怠けをこじらせたあげく、更生させようとした、罪もない両親を殺した罪で。今度は子供部屋ではなく、刑務所に収監されていたかもしれなかった。
あの子供頭の毒両親ならやりかねない・・ひょっとしたら俺は、「間一髪セーフ」だったのかもしれない。そうだと決まったわけでもない妄想に囚われ、うっかりファンをやめようとしたけど。やはりまーやは俺の守護天使で、俺を闇落ちから救ってくれたのかもしれない。確かに外に出るとろくなことはないかもしれない。でも中にいすぎて外から攻められたら、俺はもう自爆するしかなかったんだ。うん、バイトを続けよう。
そこへ、
「やあ、内海さん、オハッス」
「ウルトラニー!」
啓一くんは嬉しくなり、思わず飛び跳ねて、
「Hi!」
矢野くんとハイタッチしました。
「今日は一緒なんだ。よろ・・あれ」
喜びもつかの間、矢野くんは今日はロックなスーツではなく、黄色い業務用ジャンパーを着ています。
「ハハ、今日は王友不動産のサンプリング(ティッシュ配り)っすよ」
なるほどティッシュの段ボール箱を乗せたカートを引いています。
「内海さんのバディは、ほら、外のロータリーで、一人でたそがれてるオヤジがいるでしよう?」
見ると、これから飛び込もう。呆然と駅舎を見上げているような、くたびれたスーツのおじさんがいます。
「今日はヴィーガン砂田さんと一緒か・・キツいっすね」
「ど、どういう人?」
「リストラ燃え尽き系、動物性ゼロ属性の人でね。枯れ木がプラカード持っているのかと思った。それでプラカーダー剛が、「ヴィーガン砂田」と名付けたんです。あかの他人に失礼なあだ名をつける。俺ら最底辺の、数少ない娯楽の一つですよ。まあいいじゃないですか。バイトなんて一期一会、そう何度も会う人いないですから」
吐き捨てるようにいうと、矢野くんは急に顔をほころばせ。
「ねえ、駅ナカのコンビニに、同じ黄色いジャンパー着たギャルがいるでしょう?」
ギャル・・若いのに昭和な発音の矢野くんに釣られて見ると。なるほど煙草を買っている、お揃いの黄色い業務用ジャンパー姿の、茶髪の若い女性がいます。
「今日ね~、あの子と一緒なんですよ。俺ら中卒、ヤンならぬ元ニーでも、金払えばギャルと酒飲んだりできる。でもね、今日は「お金を貰って」ギャルとお話できる。久々の「天国案件」なんすよ。じゃ、僕はこれで」
矢野くんはそういうと、一目散にコンビニに駆けて行きました。啓一くんが反対の駅の外を見ると。
「・・・・」
今日の三分の一、ヴィーガン砂田氏が、同じ姿勢で微動だにせず駅舎を見上げています。集合時間まであと10分。もう一人はどんな人が来るのでしょう。
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