第二章 曙光篇 #7-1 バイト鬱に負けるな!
「お帰り~ お風呂わいてるわよ~」
馬鹿かこいつは!
啓一くんが失った時や、無駄にした実人生を思い知り。泥の心、棒の足でようやく帰宅すると。バイト先での無駄な精神疲労、いや、元々しなくていい苦労をさせた元凶。俺をこんな立場に追い込んだ「真犯人」が、まだ被害者である息子チャンはあたしと一心同体。幼稚園児の5歳の時も、無職の35歳の今も。変わらずママを愛してる、好きでいる。
真剣に信じ込んでいる態度に。これだけ気持ちの悪い毒母もいない。ほとんど狂人の領域ではないか? 啓一くんは、もし今、この気持ち、この感情で。「ニィーティストの知恵」なしに、このクソオンナに被弾したら。テメーのせいで俺がどんだけ自分の人生無駄にし、これからも地獄みたいな人生を送らされると思ってんだ! もう我慢できない、この場で決着をつける!
母親を滅多刺し! 殺人の容疑で無職の長男(35)を逮捕。
掲示板の同類たちを、自分もいずれこうなるかもしれない。いつもの無知ゆえの恐怖ハイで、自分を無駄な同族嫌悪に走らせ。こんな便所の落書きでも、すがっていないとやりきれない。また朝までスレが積み上がるのだろうけど。
本当に一日でも早く、悪いのは「無職の長男(35)」ではなく。長男に刃物を持たせた毒母、子供頭父の狂気の二重奏だという事実を、白日の下にさらし。これ以上の無駄な親子間の「刺しつ刺されつ」をなくすべきではないのか?
弟信二は実家を出禁になって幸運だ。本当に危険なのは二階に潜む、「ニートひきこもり」の俺ではなく。いつ血しぶきが飛んでもおかしくない、このホラーの館を支配する、狂気の毒両親二人なのだから。こんなことを思っていると、きっとこうツッコまれるだろう。いやなら出て行けば? 35歳のいい大人なんだからさ。家を出て日払いのバイトして、ネカフェで暮らせばいいじゃない?
なら、いってるお前がまずやってみろ! 自分が出来もしないことを、「仲間」にいって何になる! 共食いして何が変わる! 毒親どもの思うつぼじゃないか!
同族嫌悪の虚しさ。俺が今この状態で、もしこの家を飛び出たら? 比喩ではなくマジでのたれ死ぬだけだろう。なんでこんなクソ人生で、全ての理由が分かってまで、「世間一般の常識」に則って、俺は犬死しなくちゃならないんだ? 仕組まれているんだよ、狂気の毒母に、俺がもうここから逃げられないよう、何十年も前から。そして手錠を掛けられて以外、ここから出る道なんてない。ここにとどまるしか「俺たち」には道はない・・だったら、俺は生きてやる。何も言い返せない、ストレス発散のいけにえだと、この俺を思っている輩らを怒鳴りつけ、ビビらせてやるためだけにでも。
啓一くんは自分の部屋に戻ると、ベッドに崩れ落ちました。外で被弾し、家でも被弾し、啓一くんは心身ともに、くたくたに疲れてしまいました。外に出て、短時間のバイトでもすれば、俺の気分も変わり、周囲の俺を見る目も変わる。そう夢見ていましたが、現実はかえって悪くなっただけのように、啓一くんには思えてなりません。なにより・・
こんな地獄が、明日も、明後日もまだ続くのか? でした。
明日から次の週末まで、また夢のマイルドニート生活に戻れるならまだしも。今週は三連休で、あと二日も同じ現場で、今日とはまた別の、「まだ見ぬ強豪」たちと、出会わないといけないのです。
料理のしょうゆ、みりん、砂糖みたいな。絵で抜き、暴飲暴食をし、ネットでイキる。
「ニート黄金律」は、よく考えてみると、本当に理に叶っていて、実によく出来ているよな。外でしょーもないバイトして気疲れをするより、子供部屋でそうしていたほうが、自分の健康にいいし、精神の負担も少ないもの。
「啓一~、ごはんおいたわよ~!」
二階の階段から、母親(71)を蹴り落した無職の長男(35)を逮捕。母親はろっ骨を折る大けが。
また事案が発生するところだった。どうしたらこの母親は、俺がお前なんて大嫌いで、キモくて仕方がない。俺はお前の恋人でもペットでもない、信二のような母親以外の女が好きな、もう母親の手をはなれた成人男性なんだ。気づいて分際をわきまえ、距離を置いてくれるのだろう? 計算づくで俺を子供部屋に閉じ込め、すべて俺が悪いことにし、こうして逃げられなくした狂人だから、常識や正論は通じないのだろう。
寝返りを打つと、抱き枕のまーやの笑顔があった。
オンナ。女性なんていえる立場じゃないし、「歩く凶器」「アニメ柄シャツの不審者」として。まずまんさんの方から嫌われている俺だけど。抜くのは絵の幼女だし、癒されるのはまーやの笑顔、キレッキレのふりと歌だ。俺が保夫叔父さんちの子供に生まれていたら、まーやみたいなあか抜けた芸能人ではなくとも。街中華店を営む仲のいい御夫婦みたいな、同じ目線の女性と仲良く農業に従事し、子供だっていたかもしれない。
取らぬ狸の皮算用じゃないけど。22年引きこもった狸腹の、中卒若禿げ無職の俺に、今更、恋人など出来る可能性などないだろう。握手会の不気味なおじさんたちが、ネットとかでとやかくいわれるけど。握手会に行くにはそれ相応の金がかかるだろうし。どういうところかは想像はしても、前を通ったことすらない、行くと人生が変わるとかの風俗の、いわいるクソ客だって。一応、お金を払っているからクソでも客、無銭性交の犯罪者ではないのだから。見た目はあれでも、定職についてそれなりの収入があるということだろう。
だとしたら、見た目は同じでも、俺は最底辺の一番下の男ということになる。
啓一くんは以前、自分が男になれるのは買春しかない。思いこみ、事前リサーチをしておこう。お店や、お店に実際に行ったことのある客のブログを読んだりし。広い世の中には、信二と同じ定職につき、いい収入がありながら、結婚して子供を持ったりもせず。盆暮れには、日本全国風俗旅を、18きっぷで乗り鉄しながら謳歌し。グルメ、観光、嬢、サウナ。人生を楽しんでいる「男の達人」もいるんだなあ。感心してブログの「師匠の」が感銘を受けた、すご腕風俗嬢のツイッターを無言フォローしたり。こんなクソ客に遭遇した。RTしたツイートの元ネタ嬢を、さらに無言フォローしたり。いもづる式に集めて無言フォローした、嬢やその関係者のツイートを。「これは一服の清涼剤だな」、ネトウヨ活動の休憩中に読みふけり。お気にの嬢のインスタまで無言フォローしては、犬の散歩や旅行写真にいいね!を押したりしました。
抜いて、食って、ネトウヨする。何も考えない、悩まない。あの頃(二週間前)は本当に良かった。ニートひきこもりは行政が強制介入するのではなく。「子供頭被害者法」を制定し、国が天然ならぬ、毒親の「因縁記念物」として保護し。月々の被害救済金、住居補助費、訪問ヘルス介助等。「大それたこと」をしないよう守り。そのためにこそ消費税を使うべきなのではないか? 俺も金と地盤とコネさえあったら「ニー党」でも結成して、この政策を強く訴えたいところだ。
とはいえ現実は、買春する金も勇気もない。もしまーやが俺が風俗経験があると知ったら、同じように「まーや帝国民NO1の男」でいさせてくれるだろうか? そもそも、そこまで俺のことを意識してくれているのだろうか? ドリームジャンボ満とまーや帝国民NO1の男は、まーやの中でどういう存在で、どっちが・・ていうか、まーやの眼中に俺はいるのだろうか?
それにしても今日はショックを受けた。俺はずっと、声優としてファンであり、歌手としても応援している。つもりだったけど。同じバイト仲間の陰形くん、いや、同じ「パフォーマー」として、ドリームジャンボ満を通じて気づかされた。俺はファンでも応援しているんでもない。一人の男として、ただまーやが好きなんだってことに。
このどうしょうもない気持ちは、喜ばしいことでも、素敵でもない。絶対に叶うことなどない。抜け出すことのできない、ニートひきこもりの泥沼以上の、この世の地獄だ。
啓一くんは、何度もパソコンに手を伸ばしてはひっこめました。もしネットの中に、俺が立ち入ることすら出来ない天空の彼方に。まーやと同じバイト仲間の陰形くん、ドリームジャンボ満がいたら? ただ友人同士としてでの記念写真だとしても。
35歳中卒22年ニート若禿げ狸腹の俺には、若い美男美女に割って入る権利も資格もない。分かってはいても、嫉妬で気が狂いそうになるだろう。
外になど出るんじゃなかった。
絵で抜き、暴飲暴食し、ネットイキる。分際をわきまえていれば、こんなさらなる地獄に足を踏み入れることなどなかったんだ・・
啓一くんは、かつて感じたことのない恐怖に襲われました。リターン、グレート。格差はあってもニートには簡単に戻れても。叶わぬ女性を好きになるという、予想外の罠に陥り、妄想嫉妬地獄から抜け出せないのではないか?
ニートひきこもりが外に出た時。そこには時給以外、もう自分には手に入らないであろう、恋、友情、夢、未来を持ったまぶしい若者たちがいて。その若さ、「希望」に目がくらんでしまい、啓一くんは社会復帰を目指した元ニートひきこもりが陥りやすい、「バイト鬱」になってしまったのです。
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