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「ニィーティスト」  作者: ニィーティス亭 夢★職
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第二章 曙光篇 #6-3 誰がためにバイトする

♪ 女は夢中さこの俺に ただし限るさこの俺は


  女は夢中さこの俺に ただし喋れば口説ければ


  コミ障 コミ障 今夜もぼっち コミ障地獄で しごく俺


 神に与えられた唯一無二の美声を使い、幼い弟たちと一糸乱れぬダンスを踊る。ドリームジャンボ満こと陰形くんは。客席で半泣きの女子たちの、大声援を一心に浴びながら。バイトの休憩時間を有効活用し、次々と身も蓋もない歌詞ばかりの、「ダイナマイトコミ障ソウル」を熱唱しました。


「いやー、歌詞に共感してつい泣いてしまった、ですね~。どんなに顔がよくても、女子と喋れなければ意味ないなんて。「俺たち」みたいに話しかけたら、通報、事案になる、ウルトラニィト! Hi! ちょっとゴッドファーザー、合わせてくださいよ? 俺ら愉快な仲間たちでしょ?」


「で、でも、バイト中だから」


 飛び上がって空振りした手を見せて、元ニートひきこもりとは思えない明るさの矢野くんが、口をとがらすと。小心者の啓一くんはいいわけして下を向きました。ステージは小休止で、陰形くんは給水したり、「悲しい兄弟」たちは汗をふいたりしています。


「超イケメンなのに、コミ障で女性と喋れない。女性ファンが「独房の三次元イケメン」「恋愛廃止確約アイドル」として、自分たちの勝手な夢を妄想を、壊さないではなく壊せない。そこに撃たれるほっとけない。熱狂するのも分かりますよ」


 不憫なみっつんを私がなんとかしてあげたい。客席はまさに、泣いている子もいるんですよ状態です。


「あいつ、ただコミ障なだけじゃないんです。姉のロマンスビクトリー小百合が、最凶の小姑とでもいうのか。弟を溺愛してオンナを寄せ付けないよう、常に見張っているし」


 矢野くんは「悲しい兄弟たち」を指さし。


「ねえゴッドファーザー。なんであんなガキンチョが、満と一緒にステージに立ってるか分かりますか? 満と兄弟たちの母親が、酒浸りで育児放棄しているからなんです。姉のロマンスビクトリー小百合は、その名の通り、昼夜問わず男狂いしていて、幼い兄弟たちなど放置。だからああやって、口は聞けずとも目は届くよう、満が一緒に歌って踊っているんです。ただね、満も音楽だけは自分が自信を持てる唯一のもの。理想が超高いから、それについてこれないと、たとえ幼い弟たちでも、容赦なく「しごく」んだそうですよ」


「それで「悲しい兄弟たち」か。てか、矢野くん、なんでそんなに詳しいの?」


「まあいいじゃないですかそんなことは。しかしせっかく俺らが、悪いのは自分ではなく毒親。家に引きこもっていたのは、無実の罪での間違った懲役刑。そう自画自賛・・えっと、とにかく過去は忘れて前に進もう。そう明るく決意した時にですよ、「どんなに辛くても頑張ってる人はいる」みたいのが、急に目の前にドーンと出て来ると。なんか邪魔で超ウザくないですか?」


 確かにそうだ。なんだかんだ理由をつけ、自分を叱咤して、ようやくバイトに来たのに。同じ「バイト仲間」に、こんな異次元の才能を見せつけられては。脱ニートひきこもりへの第一歩を踏み出した、167センチ80キロ35歳の立つ瀬がないではないか。


「あ、プラカーダー剛がつぶやいてますよ。実母(83)の年金で昨夜買った、スーパーの半額弁当で昼休憩なう。人は人、自分は自分。人のふり見て、我がふり直せず。自我を確立した「大人の非正規」は、俺ら駆け出しの若僧とはちがいますよね。まあ、電話で呼んだ女性をしばいて刑務所送りになるクズなんかより、俺、剛さん、ゴッドファーザーに満の「しごき隊」には、これからきっといいこと・・なんてないんでしょうね」


 筆者は音楽好きで、ライブにもよく行きますが、曲と曲との間に。客席でこんな長話が出来るほど、小休止する演者は、正直、見たことがありません。まさか矢野くんと啓一くんの話が終わるのを待っていた。わけでもないのでしょうが、ようやくステージ上に動きがありました。

 

「内海さん。ここからが本当の地獄ですよ」


 矢野くんが、さも恐ろし気にささやく中。みっつん! みっつん! 大歓声の中。ドリームジャンボ満こと、陰形くんはマイクに向かいました。


「え、MCするの?」


 啓一くんが思わず叫んでも。まあ、見ていれば分かりますよ。矢野は謎の笑みを浮かべるだけです。


 気持ちの問題で、身体に問題があるわけではないのですから、手話というのも妙な話です。あらかじめ用意したカンペを、読むのではなく客席に見せる。スマホをかざしてからつぶやき、ファンがスマホでツイートを読む。啓一くんが想像できるのはそれくらいでしたが。


「なんだってー!」


 陰形くんのドリームジャンボぶりは、啓一くんの想像のはるか上、天空の彼方まで逝っていました。


 今日はシークレットライブに来てくれて本当にありがとうございます。突然の告知で、場所も、水、池、野外ステージのある公園。それだけなのに、こんなに大勢の人が来てくれてうれしいです。他人と上手に喋れない、目を見るとテンパってしまう。家にひきこもり働きもせずに無駄飯を食い、匿名をいいことにネットでコミ障よりマシ。ひどい誹謗中傷をして、親と刺したり刺されたり。死んだ親を放置し年金だけは。僕らはそういう人たちとは違うんです。行政の強制介入が絶対に必要な・・まあ、僕は彼らとはちがい、社会のダニのゴミニートくそひきこもり。なんて人の悪口をいうことはしません。僕の夢は、せめて子供部屋から出て、底辺でいいからバイトして小銭を稼ぎたい。そんな情けない、もし自分がそうなら、潔く自ら命を絶つ。そんな人たちとは違うんです。僕の夢はただ一つ、愛する人の目をみて、心を込めていいたい。あなたを愛してますと。


 客席女子から、それをいわれるのはあたし。今日一番の悲鳴のような大歓声があがりました。


 おかげさまで僕が提唱して始めた、コミュ障のコミュ障によるバイトチャレンジ運動。少しづづですが成果が出ています。バイト先で緊張せずにすむコミュ障補助機器、「満の謎眼鏡」の貸し出しも好調です。僕もいつかこの闇を抜け。音楽以外でも素顔で、誰とでも気さくに喋れるナイスガイになりたい。そのためには!


 ♪ パッパッパッパッパー!


 ダイナマイトコミ障!


 ソウル! ソウル!


 字にすると、何がコミ障で口が聞けないだ。理路整然かつ、ツッコミどころまで入れて、えらい上手に喋っとるやないかい? ですが。


「まったくおそろしい魔技ですよ」


 巻き戻すと、陰形くんはドリームジャンボ満としてマイク前に立つと、まず両足を開き、両拳を腰に当てる王者のポーズを取りました。


「・・・・」


 無言、無表情のまま、幼い兄弟たちがマイクを口の位置から、お腹の位置に下げると・・


「口で上手に喋れないなら歌えばいい。歌う時に客にMCが出来ないなら・・逆転の発想で、日本の第一人者、ビッコク堂に弟子入りし。自分自身を生きる腹話術人形に魔改造して編み出した、フランケンシュタインMC。まったくどうかしている・・いや、だったら普通に喋れる練習を・・とにかく、あのドリームジャンボ満だけは、敵に回してはいけない、日本一恐ろしい男ですよ」


 だから、なんでお前はそこまで詳しく知ってるんだ? 疑問すら忘れるほど、こん棒で頭をぶん殴られた。現実に殴られたら死んでしまいますが、啓一くんはそれくらい衝撃を受けてしまいました。どんなに立場が悪くても、頑張っているひとはいる。頑張るというのは、嫌な仕事を辛抱するのではなく、なりたい自分を創造し、近づけていくことなんだ。


「怪しい二人がバイトテロでもしていないか、こっそり見回りに来たら、これにはさすがの僕も参ったぜ・・」


 いつのまにか隣にいた、不動産会社の若い社員も、ドリームジャンボ満に惜しみない拍手を送りました。


 今日はありがとうございました。僕は二時から「個人的な用事」があるので、次で最後の曲です。またお会いしましょう、ドリームジャンボ満と悲しい兄弟たちウィズDMズでした! ラスト「脱ニートなんてお前には無理」! ヒットミー!


 一言で「アニメ声」というには足りない、歌う時のベルベットボイスとは違う。犯罪者からかかって来る、エフェクトしたような変声で。腹話術人形よろしく、自分の口をパクパクさせながら、お腹から声を出してMCすると。DMズの演奏に合わせ、高速ステップからトリッキーなダンスで客席を魅了しながら。


 ♪ むりむりむりむり お前にはむり


   すぐ嫌になる すぐ嫌になる


   子供部屋ってすばらしい 天獄 地獄が揃ってる


 呪文のような最後の曲を熱唱していると。あまりのスキルの高さに、呆然とする啓一くんに。矢野くんがさらに追い打ちをかけるような、信じられない現実をささやきました。


「ねえゴッドファーザー、あそこにいるのまさか・・」


「なんだってー!」


 矢野くんが指さした、自分たちとは反対方向のステージ下手。陰形くんの、スタッフ、関係者の中に。「満の謎眼鏡」に喉をいたわるマスク姿。そこまではごく普通・・なのかは分かりませんが。


「あのジャミラの着ぐるみ服着た子、あれまーやですよね?」


 啓一くんはプラカードを持ったまま、時給を発生させたまま、石になってしまいました。

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