第二章 曙光篇 #6-2 誰がためにバイトする
「ダイナマイトコミ障!」
ソウル! ソウル!
先ほどまでの有志による、本当にここでいいのか? 悲壮な不安顔から。ここでいいんだ。ホッとした安堵感の、弾ける笑顔の女子たちを煽る、グラマラスな若い女性。
「俺らダイナマイト中卒、ニート、ニートにとっては。唯一の救い、二次元の破壊者たるギャルは、普段なら天敵ですが」
叫ぶたびにゆっさゆっさ揺れる。あの満の姉ちゃん、ロマンスビクトリー小百合の巨乳とデカ尻は、俺に絵の幼女とは違う勃起力を授けてくれますよ。俺ら中卒、元ニート、現マイルドニート。野球選手でいえば、打てない、守れない、走れない。三拍子揃ったド底辺には。あのビィャ~ッチに、話しかけることすらできませんけど。今夜のおかずはあれで決まり! ですよ。
「なんて、口に出していうのは、レディに失礼ですからネ」
昭和のスポ根漫画で、お話を説明して進行させる、スポーツ記者役みたいな矢野くんは。啓一くんに、コピー用紙の裏に書いた、ひわいな妄想を読ませると。
「俺らひきこもり系ネット民は、セクハラ一つするんでも、いちいち何かに書き込まなきゃならないんだから草ンゴねえ」
破顔一笑し、啓一くんから「プリペイドチャージ番号 領収書」の紙裏に書かれた、便所の落書きを回収すると。
♪ チャッラッララーラー!
設営が万事整い。ホーンセクションにギター、ベース、ドラムのバックバンド、DMズがのりのいい、ソウルフルな曲を、豪快かつ高らかに奏でると、ドラムロールが鳴り響き。
「誰だって好きでいじめられるんじゃない。誰だって好きで不登校になったんじゃない。誰だって好きでニートひきこもりになったんじゃない。誰だって好きで親を刺して逮捕された、35歳無職の長男になったんじゃない」
♪ パッパッパッパパー! DMズが小百合さんの煽りを盛り上げると。
「誰だってー!」
好きでコミ障になったんじゃない!
♪ パッパッパッパパー!
横で、ただ抜くしか出来ないだけ。悲しい「しごきバカ一代」のマイルドニート二人が、自分たちだけの欲望の赴くままに、ひわいな目でガン見しているのにも気づかず。小百合さんと客席女子たちは、啓一くんたちとは違う、自分たちだけの世界で、コール&レスポンスを繰り返すと。
「ニートに嫌気がさしてマイルドニートになった、マイルドにニートに行き詰まり、人生の森羅万象を知り、グレートリターンニートになった・・でもー!?」
コミ障には歌う以外なーい!
「ドリームジャンボ!」
満!
「ドリームジャンボ!」
満!
コールに合わせ、MKズが、真打登場! 気持ちが高ぶるような、プロレスの入場テーマのような曲を奏でると。ひらひらのついた、陰形くんとお揃いの芸能人スーツ姿の子供が三人、黄色い悲鳴、歓声の中。元気よくステージに駆けて来て、客席に深々と一礼しました。
「あのガキどもが「悲しい兄弟たち」ですよ、コミュ障の兄という「宿命」を背負った」
小学生とおぼしき男の子三人が所定の位置につくと。どこからともなく。
「そいつはニート・・無職なニート・・そいつが踊れば地獄を呼ぶぜ」
キャーッ!! 悲鳴と大歓声の中、ドリームジャンボ満こと、陰形くんが。大盛り上がりの野外ステージで、一人だけ「新築一戸建て販売会」。看板を持って突っ立っている啓一くんの横から。
「・・・・」
おとなしい平時と違い、ステージに駆け上がった途端、後ろを向いて高速ムーンウォークを決め。スタンドマイク前まで一気に行くと、即座にまた割り。伸びあがるように、そのまま立ち上がって。急に早くなった、MKズのソウルフルなインストに合わせ。三人の兄弟たちと、女性を子宮からしびれさすような、激しいダンスを一糸乱れず踊ると。
客席の女子たちは、皆、無我の境地に入った顔で、それぞれの熱狂、興奮のるつぼから、叫んだり飛び跳ねてたりしています。
「これが「満オンリー状態」ってやつですよ。いいですよね、「磨けば」光る才能のある奴は。「俺たち」みたいに、これでもかと、日々、きびしく自分を「しごいて」も。ただ虚しくなるだけの輩とは、きっと先っぽではなく、「根本」が違うんでしょうね」
矢野くんは素直に嫉妬して見せましたが、啓一くんはそれどころではありませんでした。これが真の「芸術的パフォーマンス」というものなのか・・3分以上、全力で踊り続けても息一つ切れず。時に切れ味鋭く、時に激しく、時にユーモラスに。変幻自在に踊り続ける陰形くんに。みんなが持っているものを、何一つ持っていない俺は。その代わりに信二とかが望んでも絶対に手に入らない、特別な何かを持っているはずだ。そうしてそれが「まーや帝国民NO1の男」であり、世界中で俺にしか踊れない、「魔王咆哮芸」だ。ずっと信じていた・・
いや、それだけが俺を、いわれなき中傷、地獄のニート暮らしから、「両親を刺した無職の長男(35)を逮捕」、にならぬよう、救ってくれていたのだ。
だが俺の「魔王咆哮芸」など、ドリームジャンボ満の、この本気ダンスの前では、ただのこけおどしの一発芸。ドリームゼロ地獄にすぎないじゃないか。まーやへの気持ちなんて、俺が宇宙飛行士になって、火星に行くくらいの、遠く届かない片思いだけど。今はそうは思わないが。でもまだ、社会のダニのごく潰し。自分を卑下していた時。こんな俺でもまーやを喜ばせ、見に来た同志たるまーやファンと、同じ思いを共有することは出来るはずだ。懸命に考え、必死に練習したけど。
ゴッドファーザーオブニート対ダイナマイトコミ障。同じ日に派遣登録した、生きるハンデを背負った似た者同士の、一回り年下のバイト仲間。なのに、完敗どころか、俺は陰形くんの足元にも及ばないじゃないか。バイト先で一緒だったのに、ひとことも口きかない感じ悪い年下。たとえそうでも、これだけの圧倒的ダンスパフォーマンスで、大勢の人を心底魅了している姿を見せつけられたら。俺は「バイトリーダー」として、彼を認めざるえないじゃないか。
つかみの演奏、激しいダンスが、ぴたりと止まりました。
みっつん! みっつん! 客席の女子は無我夢中で叫びながら、なぜか皆、客席に向けて手を出しています。陰形くんは、光の乱反射で目が見えない、謎眼鏡のつるに指をかけたまま。斜め下を見た決めポーズで、「悲しい兄弟たち」と静止しています。
「ソウル! ダイナマイトコミ障ソウル!」
♪ パッパッパッパッパー!
MKズが沈黙を破り、バンマスの小百合さんのバリトンサックスソロに合わせ。「悲しい兄弟たち」が踊り出すと。陰形くんはマイケルのように高速で一回転すると、
ヤー!
口は閉じたままなのに、どこからともない掛け声一閃。光を乱反射させながら、謎眼鏡が矢のように空気を裂いて飛ぶと。
「なんだってー!」
素っ頓狂な声と共に。謎眼鏡は啓一くんの、つぶらな瞳にすっぽりはまるのでした。
「いいなあ、「満の謎眼鏡」。それもらっていいんですよ? 超ラッキーじゃないですか」
「満の謎眼鏡」は、コミュ障の持病のある陰形くんが、人前でキョドっているのを見透かされた。ような強迫観念委襲われ、さらに緊張しないよう。陰形コミニケーション社長で、工学博士でもあるお父さんが。息子のために開発した特殊素材の眼鏡で。実際にかけて見ると、相手からは自分の目が見えなくても。自分からは相手の顔色が読めるという、すぐれものなのです。
「ゴッドファーザーオブニート、なんかダイナマイトコミ障がこっちを見てますよ」
演奏するDMズ。踊っている「悲しい兄弟たち」放置で、
「・・・・」
眼鏡を取ると、きりりとした古き良き日本の美青年。それは整った、きれいな顔をした陰形くんが。「満の謎眼鏡」をかけた啓一くんを、意味ありげにじっと見ているのです。
♪ パッパッパッパッパー!
バンマスはお姉さんの小百合さんでも、グループ自体の全権リーダーは、看板スターの陰形くんなのか。眼鏡を取った超美青年が、さっと拳を振り下ろすと。MKズは即座に演奏止め、「悲しい兄弟たち」も踊りをやめました。
ろくに喋れもしないコミ障が、踊れはしても歌えるのか? 啓一くんの疑問は、すぐに驚きに変わりました。陰形くんは、まっすぐ啓一くんを見ているのは、決して偶然ではない。すっと啓一くんを指さすと。
♪ そいつはニート 無職なニート そいつが踊れば地獄を呼ぶぜ
うんこ代わりにキーボを叩きゃ ネットパヨクも逃げ出すぜ
「なんか、「俺たち」のこと歌ってません?」
矢野くんは驚いたようにいいましたが、啓一くんは初めて聞いた陰形くんの。絹の手触りのような、上品で甘い歌声。そんな超いい声をして、歌う曲がこれか? 色々な意味で驚いてしまいました。全てが予想外、想像の斜め上。啓一くんはその時はまだ知る由もありませんでした。陰形満ことドリームジャンボ満が、これから幾多の名勝負数え歌を繰り広げる、啓一くんの若き好敵手だとは。
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