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「ニィーティスト」  作者: ニィーティス亭 夢★職
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第二章 曙光篇 #6-1 誰がためにバイトする

 届けこの思いとばかりに、参戦スタイルのお姉さんは、ステージ上から地声で、喉も裂けよと叫び続けましたが。啓一くんの「魔王咆哮芸」同様、3分もすると息が切れてしまい。客席の温かい拍手、ねぎらいの掛け声の中、ステージを降り。やっと終わったか。啓一くんがぬか喜びしたのもつかの間。また別の有志がステージに駆け上がり。


「ダイナマイトコミ障!」


 ソウル! ソウル!


 きりなく連呼する横で、啓一くんは正直、ああうるさい! へきえきしていましたが、バイト中なので離れるわけにもいきません。本来なら今頃はまだ寝床で、まーやの抱き枕にしがみついて、のんきに爆睡していたはずなのに。毒両親や弟が、俺が全て肩代わりしてやったお前らの不幸。その代償たる、みかじめ料と、義援金を。もっとはずんでくれていたら、俺はこんな苦界で辛い目に遭わなくてすんだのに。


 ニートひきこもりは社会のダニ、お荷物。思い込まされていた頃は、悪いのはすべて自分・・潔く頭を下げるのがニッポンの侍。無知勘違いゆえに反論も出来ず、ただ下を向いて歯噛みしていた、まだ青かったあの頃とは違い。悪いのは毒両親を始めとする、子供頭おじさんおばさん。そいつらが作り上げた虐待、いじめ、無責任教師を容認する負の社会構造で。自分は無実どころか、被害者だった。救われて目の前が開け、気が楽になると。


 俺に対する冤罪被害に、俺の幸福を着服した罪で。いわば「真犯人」同士、毒両親に盗人弟は、俺に対する「賠償金」を支払う義務があるのではないか?


 それなのに、これからはお前のお小遣いは自分で稼げ。お父さんたちは、今後はお前に一切援助しないし、信二夫妻は出禁だ。毒両親と、実家で「刺しつ刺されつ」する、無職の長男(35)の気持ちがホントよく分かるよ。


 働かずとも月30,000円に、「ネットビジネス業」の2,3000円の収入。気づかずにもらっていた、「冤罪被害」の賠償金でのんきに暮らしていればよかったのに。勘違いしてうっかりバイトなんかに出て、その全てを失ってしまった。「働いたら負け」って本当だったんだな。


「ダイナマイトコミ障!」


 ソウル! ソウル!


 俺が我慢できずに毎日抜いてる対象は、目の前で叫んでいる女性たちだけど。それはただ、俺が生物学的に男だからで、俺が幼女の絵でしか抜けないのも、心のどこかで・・ああ、公園の時計が正午を刺して、じゃない、差している。メシだメシ。啓一くんはプラカードをステージの壁の裏に置き、元気な三次元女子たちの前から離れました。


 以前のアニメ柄シャツに短パン、サンダル履きから。えんじ色の三つ揃いボススーツに着替えて。今朝、忘れていたように部屋の前に置かれていた、ハゲ隠しの同色ベレー帽をかぶり。サンダルでペタペタから、革靴でこつこつで歩くと。すれちがう一般人の目も、かつての「歩く凶器」から、「怪しい不審者」に、少し警戒度も下がったようでしたが。


 それでも啓一くんは公園の隅のベンチに腰掛けると。小心者らしく、警戒心を緩めず、通報されたりしないよな? キョどりながら辺りを見回し。働かない幸福と、働かないと手に入らない幸福。そこまでたどりつくための、バイト現場でのこの地獄。「まーや帝国民NO1の男」の称号を守るためだけに、俺はここまできたけど。


 だいなまいとこみしょう、そうる、そうるの女たちと、まーやだって結局一緒だ。それは覚悟しないといけない。まーやだって、いずれはイケメンか資産家のものになる。俺の恋心はそれまでの悲しい夢にすぎない。うちの毒母のように、自分の好きなもの欲しいもの。欲望の赴くままに生き、金に不自由しない、安楽な生活目当てで親父と見合い結婚し。結婚生活が自分が望んだ幸福なものではなく、夫も家族を顧みず好き放題している。自分の孤独と老後の不安を埋めるためだけに、長男、次男を育て分けた毒母。


 長男を計画通りにひきこもらせ。次男もうまいことエリートコースに乗せたはいいが、自分同様の毒女に洗脳され、乗っ取られたのはざまあだけど。まさかあかの他人の旦那の兄貴を、自分の欲望を満たすのに邪魔だから。そんなふざけた理由で、俺を「月尻いき雄バイトスクール」に人身売買した、メゾネット魔狐。


 ニートひきこもりは本人の甘え怠け。馬鹿の一つ覚えの子供頭清子叔母さんに、隣の家の殿塚の狐憑きババア。


 俺が知っている三次元の生身の女はそれだけだもの。性欲という名の子孫を残す、男の遺伝子放出本能がなければ。俺は異性のことで煩わされたり悩んだり、悶々としたりなどしなかったろう。俺は確かに中卒、ひきこもり歴22年、ゴッドファーザーオブニートかもしれないけど。その分、現実の自分を知っている、悪天然子供頭でも勉強バカでもないから。


 俺みたいな167センチ80キロ。35歳、実家住まい無職に。結婚はおろか恋人ができる可能性すらゼロなのは知っているけど。俺のこの性欲は当分、尽きないし。一度でいいから、きっとどこかにいるはずの、心優しい女性から。愛のようなものを与えてもらいたい。ありのままの、今のこんな俺では叶わぬ夢だけど。もし、それが金で買えるとしたら? 俺はよろこんで買いたい。けど、こんなしょーもないバイトを週2やっている限り、俺は目録すら読めないだろう。


 だからって、握手会で、ニートひきこもり同様、何も言い返せないだろう。確信犯で、大所帯アイドルの欠点や悩みを、相手がもっともいやがるように皮肉り。雲の上の人気アイドルを泣かせて、自分を馬鹿にし、傷つけたオンナに勝った気になる。心の卑しさが外見の醜さの、やらかし系のドルオタに落ちぶれるほど、俺はゲスでもクズでもないけど。


 バイトとはいえ、ニートひきこもりよりはまし。がんばれよ。「世間一般の常識」どもから、大人が子供を諭すような、超上から目線でいわれて。ハイ、がんばります! 今更、へらへら礼をいうほどガキじゃないけど。


 こうして休日の家族連れやカップルに囲まれ、一人、ベンチでポテチをかじり、気の抜けたコーラを飲む、35歳の自分を客観視すると。俺が今更どんなに頑張っても、月に15万以上稼ぐことは困難で。大嫌いな女への、憎しみより勝る性欲に悶々とし、俺は一生、家でもバイト先でも、こうして一人の孤独に苦しみ。こんなただ生きているだけの人生を、あと50年も続けなければならないのか。


 これなら気のすむまま暴飲暴食し、昼夜関係なく本能の赴くまま抜き。自分の心の汚泥を、恥と思うこともなく、嫌韓、反パヨクの名を借りて。匿名をいいことに、まるでクソでもするみたいに、ネットに俺自身の怒りを吐き出していた、ニートひきこもりの頃の方が。俺はよっぽど幸福だったんじゃないか?


 彼女いない歴死ぬまで。風俗行けない理由、外見と収入。趣味、深夜アニメとネット掲示板。これであくせく非正規でバイトしてたら。それは、ひきこもりを克服した漢じゃない。ただの「ブラックニート」じゃないか。誰にでも幸福になる権利があるなら、俺のような子供頭社会の亀裂にはまり、実人生を失った子供の救済策として。「ニートひきこもり」枠というのもあってしかるべきなのではないか?


 もうニートひきこもりには、俺は二度と戻らない。勇んでバイトに出てみたけど。こうして現実を知ってみると、ただのリターンの罠ではない。真の王者の帰還、「グレートリターンニート」する勇者もいるのではないか?


 

 私たちは社会は、ひきこもりに何が出来るんだろう。森田瑞枝アナウンサートとちがい、局アナに採用された女子アナが、通り魔事件の時にえらそうにいっていたが。てめえら子供頭社会に出来ることは、アフリカの子供たちにではなく。困っている日本の「俺たち」に寄付をすることだ。でないと「だいそれたこと」しちゃうぞ。


 啓一くんが、バイトは俺を哲学者にしてくれた。いや、そうならざるえないんだな。幸福なのかは分かりませんが、啓一くんから見たら。恋人や嫁がいるだけで勝ち組じゃないか。


 公園を行きかう一般人を、呆然と眺めていると。小心者ゆえ遅れないよう。スマホにかけておいたアラームが鳴り。以前より物事を深く考えるようになったが。考えても何も起こらないし変わらないけど。


 それでも現場に来て、自分が出来るバイトなら、最後までやり遂げないと。背を丸めて現場に戻ると。


「ダイナマイトコミ障!」


 ソウル! ソウル!


 ったく、うるせえな。無言の俺だってされたんだ、誰か警察に通報しろ! 啓一くんは不満顔でプラカードを出して、また元の位置に立つと。生まれた時から女を嫌うように仕向けられた俺、云々と。一時間近く、沈思黙想悩み抜き、己の哲学を論じながらも。こうして目の前の、20歳前後の女子たちの、若さと身体を見て、可愛い声を聞くと。


 バイトは恥の掻き捨て。たまには生身のオンナもいいだろう。今夜、俺に抜き倒してもらえる、えらばれし性奴隷はだれかな? ワッハッハッハ!


 まさかステージ横に、本能に知性がくじけてしまった、無職の性獣(35)が立っているとも知らずに。優秀なDNAをゲットしたい。こちらも女子本能の赴くまま、声を上げ、拳を突き上げるたびに。胸や短パンの足が躍動する客席女子たちが、一生懸命。


「ダイナマイトコミ障!」


 ソウル! ソウル! していると、突然。


 ♪バッバッバッバッバー! 低音の利いた、バリトンサックスが、コールに応えるように、ソウルフルに鳴り響きました。観客女子たちは、今までのコールをやめると、自然に手拍子を打ち出し。


「小百合! 小百合! 小百合!」


 名前コールの中、茶髪パーマに白のタキシード、ぴかぴかの金色のバリトンサックスを持った、若い女性が。割れんばかりの大歓声の中、ステージ上にさっそうと現れました。


「みんな待っていてくれて本当にありがとう! 本日のシークレットフリーライブ、ドリームジャンボ満と悲しい兄弟たちウィズDMズ、まもなく開演となります!」


 喜びの悲鳴に沸く客席に、啓一くんは騒音公害で通報するのを忘れ、飛び跳ねて揺れる女子たちの胸や足に見とれていると。


「中卒の非正規なんて、女子からみたら石ころ同然。なのに「俺たち」男は、つい見ちゃうんですよね」


 啓一くんの背後から、突然声がしました。


「しかし恐ろしい男ですよ、ドリームジャンボ満a.k.a陰形満は。バイトの休憩中にフリーライブを敢行する。誰も考えつかない魔公演を実現させるなんて。だてに「バイトチャレンジ」界の引田天功とは呼ばれてはいませんよ」


「や、矢野くん!」


 びっくりする啓一くんの横では、一致団結、本気、元気な女子ファンたちのお手伝いで、ドラムセット、アンプなどが次々と運びこまれ。バンドというより楽団員といった黒タキシードのメンバーたちも、楽器の試奏、調節に余念がありません。


「内海さん。どうやら今日、非正規の世界始まって以来のバイト革命、俺たちは目撃することになりそうですね」


 今日はオフなのか、啓一くんが思わずぎょっとした。アニメ柄シャツに短パン、サンダル履きの軽装とは真逆の。それは重い口調で、矢野くんは首を振りながらいうと。ごくり。生つばを飲みました。


                    (^O^)/

      



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