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「ニィーティスト」  作者: ニィーティス亭 夢★職
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第二章 曙光篇 #4-4 バイトリーダーとマイルドニートの超人たち

「なんだってー!」


 昨日同様、お昼休憩をはさんでの、ただ看板を持って立っている、それは長い長い四時間が終わり。すっかりなれた、最後まで無言を貫いた辰野くんの、ロケットMNDを見送ったバイト終わりの現場に。啓一くんの素っ頓狂な声が轟きました。


 じゃ、俺はチャリなんで。え、家、近所なんですか? いい年ををして、牛丼一杯にも満たない交通費をケチる、実は超セコいゴッドファーザーオブニート。文句はいったものの、語呂がいいしなんかかっこいいので、実は気に入っていたあだ名をつけてもらっても。現実は羞恥プレー帰宅。ナウなヤングに失笑されるのを覚悟した啓一くんですが、ああいう元ニートひきこもりでも、根がシャレオツな若者は、俺のようなイケてない底辺との付き合いは、バイト時間内限定なんだな。


 いつの間にか姿が見えなくなった矢野くんに。気持ちは分かるが現実でシカトされると、案外、へこむな。でもまあ、恥をさらさなくてよかったか。一人寂しく駐輪場に行くと、啓一くんの自転車の隣に「ゲーマンプロジェクトプラカード矢野」。レシートの裏に殴り書きし、サドルに貼り付けて置いてある、似たようなママチャリを見つけました


「ハハハ、スタイリッシュな服装、キレッキレの言動。ウルトラニィト! Hi! な俺も、牛丼一杯に満たない交通費をケチる、貧困非正規だった。そうゴッドファーザーオブニートに誤解されたくない。それで内海さんが、ニートブラザー#1走りで姿を消すまで、姿を隠してましたが、張り紙しているの思い出しましてね。とんだうっかりミスですよ」


「え、矢野君は一人暮らしなの?」


「まさか。実家住まいに決まっているでしょ? 子供部屋なんとかいう自分が子供頭は、親と折り合いが悪くて実家にいられず、大家に貢いで困窮している、上級国民の馬鹿な養分どもでしょ? 俺たちを同じ困窮に陥れるための、根性曲がりの罠にかかるほど、俺はヤワじゃないですよ」


「そうだよね。俺ら別に生活に困っているわけじゃない。ただ支給されたバイト代を、より有効活用したいだけだよね」


「ですよね」


 虐待やいじめで不登校。からのひきこもりになって、実人生を奪われず、普通に学校にいって友だちがいるような一般人なら。ここで連絡先を交換し、今度、遊ぼうよ。うん、LINEするわ。自然な流れになるはずですが、そこはニィーティスト同士です。


「・・・・」


「・・・・」


 啓一くんもLINEはその名前こそ、芸能人のスキャンダル報道等で目にしたことはあっても、使ったこともなければ、使い方自体を知りません。矢野くんはLINEとかやるの? ですが、矢野くんは教えたくないではない、聞かないでくれエアーを出して、横を向いています。


「やっぱ俺らは掲示板っすよね?」


 しばしの沈黙、いや、暗黙の了解というべきでしょうか? 矢野くんが意を決したように啓一くんを見ました。


「うん。俺らバイトしている以外、ネットくらいしかすることないもんな」


 35年の人生で、今日で2日と1時間半のバイト経験ですが、啓一くんは「ゴッドファーザーオブニート」ならではの重みのある発言を、説得力のある恵体、顔でいいました。


「俺ね、ネット民と称する昔の俺に、クンロクいれてやりたいんですよ」


「くんろくってナニ?」


「警察沙汰にならない程度のおどし。まあ、歩きながら話しましょう」


 矢野くんの家は、啓一くんの家の隣の市でした。啓一くんは自転車を引きながら、矢野くんが考える、今後のネットでの「俺たち」に耳を傾けました。


「俺はね、なぜ「俺たち」属性のネット民は、ニィーティストにならないのか? それがもどかしいんですよ」


 俺には夢がある! ウルトラニィト! Hi! の矢野くんは、りりしい顔でいいました。秋田県ならぬ、秋田犬をもらった大統領はいいました。夢など見ている暇があったら、汗をかいて働きなさい。 独裁者が、お前ら俺の奴隷になれ、社畜になれ。勧誘しているような迷言ですが、矢野くんは汗はわかりませんが、働いての帰りですし、大統領でなくても、誰にでも自分の意見をいう権利はあります。


「だっておかしくないですか? なんで人間にはネトウヨとパヨクの二種類しかなく、何をされたわけでも、会ったこともない、他国や他国民を憎み、叩かなきゃいぇないんですか? なんでニートひきこもりだけで、ニートひきこもりが起こした事件を。現役ニートひきこもりが、わざわざ正社員やトレーダーに扮して、同志の犯行や罪を憎んで、嘲笑し、フルボッコしないといけないんですか?」


「だよね。俺も経験あるけど、ぶっちゃけ叩く相手は誰でもいいんだよ。ヘイト書き込みでも、同意してくれる、見えない誰かがいるとほっとする、なんか救われる、それでやめられなくなるんだよね・・」


 うらみ、ひがみ、怒り。それが啓一くんたちを、ネットでの「王者気分」、たとえ幻覚でも、一瞬でも。社会のダニ、犯罪者予備軍。「世間一般の常識」から誤解、同じうらみ、ひがみ、怒りからの誹謗中傷を受けても。その通りだ、俺は生きている資格のない駄目人間。ニートひきこもり呼ばわりを、甘んじて受け入れるしかなく、激しく落ち込んだ時。ネットで見つけた獲物を誹謗中傷し返し、一瞬だけ嫌な気分、悲しい気持ちを忘れるの繰り返し。そうして、ただ命を捨てるように過ぎていくだけの虚しい日々・・


「俺はねえ、ヘイト書き込みに断固反対。底の浅い人種差別反対を叫ぶ、左の政治家や、自分の私利私欲以外興味のない、テレビのチャラい雰囲気知識人のようなことをいいたいんじゃないんです。だって俺ら、ヘイト書き込みの当事者、最前線にいて、「ネット民」の正体が、「俺たち」だって知っているじゃないですか?」


「そうだよね。「俺たち」筋金入りネット民が、諸悪の根源だもんな」


「俺らは現場を知っている。例えばここに35歳職歴なしの、20年物のニートひきこもりがいたとする。彼がネトウヨパヨク同族嫌悪、なんでもいい。ただネットに張りついているだけで、その先を目指さなかったら? 彼の将来にあるものは何か? 死んだ親を放置して逮捕され、同じニートひきこもりの「ネット民」たちからの、同族嫌悪を一身に浴びる。そうですよね?」


「お、おう」


「僕はね、「俺たち」にネットしかないのは仕方がないことだと思うんです。心優しくて人を傷つけることなど出来ない「俺たち」が。虐待、いじめ、不登校、ひきこもりの、負のコンボ技で社会からKOされての今。それは今更変えようがない。俺たちをヘイト書き込みに駆り立てるものは、自分の現実への怒りと、将来への不安、その二つじゃないですか?」


「確かに死んだ親を放置して逮捕された、高齢ニートのスレッドとか見ると、自分も将来こうなるかもしれない。恐怖に駆られた、「正社員」「ネットトレーダー」と称する、「ネット民」の大量書き込みで、いつも祭りになるもんな」


「ネトウヨパヨク同族嫌悪の何がいけないか? 人権意識云々は「俺たち」には関係ありません。そんなことをしていても、一生パソコン前から離れられない、それどころか家からも出られない。だからネトウヨパヨク同族嫌悪は駄目なんです。「俺たち」がすべきは、まず自分をニートひきこもりだと思い込むのをやめることです。日本には基本的人権があり、成人男性がどのような生き方をしようが本人の自由。その自由を何人も犯してはならない。そのことを「俺たち」は肝に命じるべきなんです。無期限活動休止中でも浪人中でもなんでもいい、自分はあかの他人に罵倒される「ニートひきこもり」などではない。誰にでも今すぐできることでしょう?」


「俺もそう考えたら気が楽になって、こうしてバイトの現場までこれたよ」


「ええ。「ニートひきこもり」なんて幻覚にとりつかれ、ただおびえて家にこもって、掲示板にヘイト書き込みしながら、親が死ぬのをおびえる人生。そんなの時間の無駄じゃないですか? 「俺たち」は早く無知ゆえに騙されていることに気づいて、自分で自分の洗脳を解くべきなんです。あとはこうして週に数日、バイトにでも出られれば、もうニートひきこもりじゃない。親も親戚も世間も、もう何もいいませんよ」


「でもさ、そういう元「俺たち」は、家に帰ったら何をすればいいの? 彼女以前に友だちすらいないじゃん」


「ネットですよ」


 矢野くんは勝ち誇ったような笑みでいいました。


「ネット?! 通信教育受けて、資格取るとか?」


「それもいいですが、叩く、闘う、ヘイトする相手をチェンジするんですよ」


「結局、ネトウヨパヨク同族嫌悪に戻るの?」


「名づけるなら、「ネットリベラル」。右でも左でもない中道。そして叩く相手は「世間一般の常識」。どうせ何も言い返せないだろう。自分のくだらないうっぷんを、俺たちニートひきこもりに、ネットで匿名でぶちまけてくる馬鹿ども。俺たちに一円の小遣いをくれたわけでも、100円マック一個おごったわけでもない、赤の他人の社畜のゴミどもを。俺の書き込みを読んだ俺自身が、自分を完全論破、否定されてしまい。自分で自分に被弾して、ショックで三日寝込んだネットリテラシー(適切に表現できる力)を使い。一流会社正社員、21歳モデルの彼女の他に、19歳女子大生のセフレ持ち。趣味はネットトレードで車はレクサス。盆暮れは海外で過ごし以下略の、ネトウヨ時代の「マイネット設定」も再利用し。超上から目線で、二度とネットを開けないくらい、昔の「俺たち」を叩いた輩らを、返り討ちにし、フルボッコしてやる。会ったことはないが、お前らのせいで傷ついた借りはきっちり返す。その繰り返しで、「ニィーティストの知恵」のない、現役ニートひきこもりをも立ち上がらせる。どうです、これならネットも楽しいじゃないですか」


「なるほど、逆転の発想か。自分が汚水に押し流されるんじゃなくて、自分でトイレの水を流すように、「俺たち」に調子こいた、いじめ系ネット民を下水に流して、お仕置きしてやるんだ」


「かつては、うらみひがみ怒りのトリプルコンボで、ネトウヨパヨク同族嫌悪を、無知ゆえにやらされていた。でもニィーティストの知恵を得た今、俺はもう過去の俺じゃない。バイトで自分の小遣いを稼ぐ、マイルドのニートのネットリベラルになった。親の死体を放置して逮捕されるの待つより、こっちのが全然いいじゃないですか」


「うんそうだよ。こっちのが前より、全然、気分がいいもん。でもさ、その「ニィーティストの知恵」って誰の考えなの? 俺、前にも同じようなことを聞いたことがあるんだけど」


「月尻いき雄にですか?」


 矢野くんの口から意外な名前が、あまり快く思っていない口調で吐き捨てられました。


「うんその人。矢野くんも知ってるの?」


「元々「非正規バカ一代」の称号は、プラカーダー剛が考えたものでした」


 いや、漫画のパクリじゃ・・思いましたが、啓一くんは話の腰を折るのは大人げない。黙って耳を傾けます。


「それを同じ30年フリーターの月尻が、プラカーダー剛の「ニィーティストの知恵」ごとパクった。というより、最初の「ニィーティスト」が月尻いき雄なんです」


「なんだってー!」


「うわ、びっくりした。突然、大声出さないでくださいよ」


「ご、ごめん。その話興味あるなあ、くわしく教えてよ」


「元々は、漫画家を目指していた、あ、今もですが、プラカーダー剛。池谷さんのペンネームなんですが、彼が二十歳の時、となりの家でまだニートいう外来語をなかった時代。自分探しの旅に失敗し、家に引きこもっていた月尻を、池谷さんがはげまし、そこから「ニィーティストの知恵」が生まれたんです」


「なのに池谷さんは相変わらずのフリーター、助けてもらった月尻氏は、ニートひきこもり問題の気鋭の論客か」


「何しろ、30年近くに渡るバイト生活で、中抜き中抜きで搾取され続けましたからね。頭がおかしくなって、金に転んでも仕方がないのかもしれません。あ、僕はこっちなんで。続きはまたどこかの現場で会った時に」


「うん、お疲れ。またね」


 現実のバイト現場では、牛丼一杯程度の電車賃を。払わず貰うために、こんな長距離を自転車で往復する人もいなければ。便利な道具や魔法学校同様、こんな「愉快な仲間」とも出会えないかもしれません。ですが、啓一くんは得難い体験をし、ためになる知恵を得て、お金も稼ぎました。池谷氏や矢野くんのような、挫折や過ちをプラスに導ける、ニィーティストが増えれば。今の無意味なマウントの取り合いのような、知恵のないギスギスした世の中も、少しは明るく、楽しくなるでしょう。


 啓一くんは、昨日と同じコンビニで終了確認メールを送信し、来週三連休のプラカードのバイトにも、3日ともエントリーしました。


 そうして。うらみひがみ怒り、同族嫌悪からも解放された啓一くんは、すがすがしい気持ちで家に帰りました。


                       (^O^)/



明日はちょっと疲れたのとw 用事があるので更新はありません。続きは水曜からですので、またよろしく。

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