第二章 曙光篇 #2-4 バイトチャレンジ一か月に挑戦
新しい朝が来ました。今までの安楽に昼まで寝ていた朝と違い、希望と不安が入り混じった、もやもやイライラの朝です。バイト初日は明日です。むしろ中途半端に一日空くより、今日これからバイトの方が、あれこれ考えずに済んだのに。思うのですが、
♦前日確認メール♦
〇クライアント ジャイアント不動産
〇実施日 7/4日
〇実施時間 10:00-17:00
〇実施場所 濁瀬駅周辺。
〇備考 三名現場です。集合場所で池谷さん(070-××××ー)に連絡してください。
↓返答はこちらで。
「こちらで」をクリックすると、詳しい集合場所に、起床確認時間、出発時間を登録する欄が出て、完了して送信すると。いよいよ明日、啓一くんは事実上の人生初バイトに、35歳にして出陣することが確定しました。メールの指示によると、集合場所についたら、バイトリーダーのような人に、啓一くんから電話をしないといけないようです。
プリペイドスマホも、調べたら、チャージが切れても二か月は受信だけは出来て、その間に再びチャージすれば、元通り使える。ならばお金の余裕が出来るまで、タブレット端末的な使い方で、コンビニの無料Wi-Fiを。安易な考えはダメなことが分かりました。
啓一くんは朝ごはんの特大おにぎりを平らげると、自転車で駅前に行きましたが、携帯ショップは11時開店でまだ閉まっていました。来る途中に銀行に寄り、ありったけのお金をおろしてきましたが、残高は1102円。啓一くんは自分の野口一枚を、実の兄に対するテロ攻撃がばれて、実家出禁になった弟信二くんからもらった、諭吉に重ねましたが、はあ。ためいきしか出ませんでした。
「なんだってー!」
携帯ショップが開くまで時間がありました。その間に。啓一くんが千円カットのお店にいくと。1200円+税。いつのまにか爆裂値上げしているのです。200円+税でも、今の啓一くんには大金です。あてにしていた金は勝手に止められる、必要ないと思っていた金は容赦なく出て行く。刑事ドラマで犯罪者が警察にするように、駅の公衆電話で、「池谷さんですか?」呼びかけるのはどうだろう? でも集合場所が離れていたら見つけられず、合流出来ないかもしれません。
「今日はど」
「ハ、ハイ。や、休みです。あ、明日から・・土日は、し、仕事です!」
仕方なく1290円カットのチケットを買い、漫画も置いてないし、スマホも電波がないので、1時間ほど待ち、ようやく順番が来て聞かれると。啓一くんはテンパって、必死にそういいましたが。
「そうですか。で、今日はどれくらい切りますか?」
そっちかよ。ああ、いきなりやっちまった・・啓一くんは感動ではなく、猛烈な羞恥心に襲われましたが、
「明日から「スーツを着る現場」なんで、ざっと整えてくれれば。いつも適当に自分で切ってるんで、うんと短くして構わないので、ひどいところを揃えてくれればいいです」
「わかりました」
あとは無言でした。いわいる千円カット店は、話しかけられない限り、理容師さんからは話さないらしく。啓一くんは無言で理容師さんに頭を預け、10分ほどで、スポーツ刈りのような髪型にしてもらいました。
啓一くんは、次の携帯ショップでも、長話のジジババの後でした。ただただじっと待ち、三千円払い、プリントアウトした紙をもらいました。店の人に聞いた通りに、1400番に電話し、ガイダンスに従い、紙に書かれた番号を打ち込むと、
「ザンガク、ハ、サン、ゼン、サン、ジュウ、ハチ、エン、デス。有効期限は」
床屋で髪を切った、スマホも使えるようにした! これで明日、きちんとバイトに行き、最後まで業務をこなせば。俺はもうニートひきこもりでも、無期限活動休止中でもない、立派な「高齢フリーター」だ!
啓一くんはすがすがしい気持ちに・・なったような・・気が・・一瞬・・しました。ですが、財布を開けて残額を見ると、7000円を切る現金しかありません。給料の振り込みまで交通費が持つだろうか? バイトはあっても、現場まで行く交通費がなければ意味がないのです。晴れやか気持ちはふっ飛び、すぐに暗い気持ちになりました。本来なら目の前の日高屋に入り、バイト確定おめでとう。啓一くんはお酒は飲みませんが、ちょっと値の張る限定メニューに、味玉でも追加して。新しい門出を祝いたいところですが、そんな余裕はありません。
道を直進して右に折れると、「野豚さんのH館」へ続く道で、もう正午過ぎだから金兄が同じプラカード業務で、角に立っているはずです。
「金太郎なら今日は休みじゃ」
ですが、角に立っていたのは、間一髪で啓一くんから楽なバイトを奪った、「一億総活躍」の迷惑じいさんでした。
「金兄って金太郎の略なんですか」
「権田金太郎、それが奴の本名じゃ」
マジかよ・・
「でもそれって、ああいう世界にありがちな、権田金太郎「こと」じゃ」
「この間、あいつとそこの日高屋で飲んだ時、酔って落とした奴の免許証見たから間違いない」
持っている、持っていないが本当にあるなら、俺は後者だな。せめてこのじじいのバイトに入れていたら。俺はスマホも床屋も、明日に対する不安もなく。ここまでチャリで直行直帰して、気を遣う必要のない金兄が同僚の日払いバイトの給料で、とっくに目標額は貯まっていただろう。
「金兄は今日はどこへ行くとか、なんかいってました?」
「ああ、オンナのとこじゃろ。12年も「ひきこもった」ご褒美に、それはマブなスケと出会えたそうじゃから」
もし俺の「担当」が信二と逆だったら。一流大卒の年収700万以上だったら。今の絵の幼女専門の俺とは違い。あの綺麗な三次元のお姉さんと、俺が金兄の代わりに付き合えたのかもしれなかった。かもしれない・・
「なあ青年。男は金か顔、もしくはやくざ気質。スケをこましたかったら、そのどれかがないとダメじゃな」
じじいは、LGBT、METOOといった横文字とは縁遠い、昭和のセクハラオヤジのようなことをいいましたが、確かにそうだな。啓一くんも納得せざるえませんでした。啓一くんにとって、バイトするという、一番低いと思われたハードルですら、こんなにも困難、災難があるのです。からの友だちを作る、恋人を作るなどは、もはや宇宙飛行士になって、火星探索に行くと同等の、天文学的確率です。
こんな人為的にババを引かされた、持ってない人生をこれ以上続けるより。人為的なやらせで「持っている」人生を送るであろう、未来の勝ち組をを道連れに。これから何十年も続くであろう、ただ生きているだけの、ただただ辛いだけの人生に、自ら反社会的になって終止符を打つ。持って生まれた勝ち組が、いくら一人で死ねと吠たえても、自分のような底辺の絶望には何も響かないのだ。
啓一くんは、ふとそんなことを思いました。でも自分は平和主義者だ。「魔王咆哮芸」で悪からわが身を守りはしても、ニート、ひきこもり呼ばわりされる人たちが、犯罪者予備軍などではないように。そんな「大それたこと」をするほど、俺は追い詰められても、背中を押されてもいないけど。
啓一くんは自転車をこぎながら思うのです。自分には「まーや帝国民NO1の男」の座を守るという「大義」があるけど。もしそれがなかったら? 低賃金で、年金も保険もないフリーターに、今更なってどうしようというのだろう。バイトでも働いているだけまし。「世間一般の常識」さんからの、ど底辺なのに頑張っている。そんな上から目線のお墨付きなんかいらない。まだ始めてもいないバイトのせいで、30000円の義援金を打ち切られ。もう大人の社会人、金は自分で稼げ。誰のせいで、こんなひどい人生送ってんだよ? お前らの無責任だろうが!! ですが、わめいたところで、どんなに環境が悪くても、頑張っている人はいる。揚げ足を取られて不快になるだけです。
家に帰り、夕飯を取りながら、啓一くんは思いました。なるほど「完全犯罪」だな。母親が作った食事を、子供部屋でむさぼり食う、丸々太った35歳の無職の息子。誰がどう見たって、俺が一方的に悪く、親を泣かせているように見えるじゃないか。女は汚いよ、本当に性悪だ。啓一くんが二次元の幼女を愛好するのは、母親のせいでした。
でもまーやだけは違う。自分のわがままを息子にすべて背負わせて、自分は被害者面しているクソ女とは違う、この世に舞い降りた唯一の天使だ。まーやだけは俺を馬鹿にしたり、利用したりしない。まーやは好きとか嫌いとか、男とか女とか一切関係ない、この世で唯一の同志だ。もし俺がこの逆境に心折れてリターンニートして、「まーや帝国民NO1の男」の男の座を失ったら? まーやは悲しんでくれるか? それは分からない。だけど、俺は悲しい。生きている意味がなくなるほど悲しい! だから俺はこの逆境に立ち向かう! 明日からバイトに行く!
「まーや帝国民NO1の男、いきまーす!」
だから今日だけは・・啓一くんはサイリウムを持つと。流れてきたまーやの曲にあわせ、どすどすと怪音を響かせながら、喉も裂けよと叫びました。
「バイトいきたくねー! バイトいきたくねー! バイトいきたくねー!」
それでも啓一くんの部屋の壁の、まーや時計は秒針を止めることなく、嫌でもやってくる明日には、啓一くんは未知の領域、バイトに。その身を投じなければならないのです。
( `ー´)ノ
これにて、第2章の1話めはお終いです。次回から次のお話、「男泣き! 涙のバイト初日談」になります。引き続きご愛読お願いします。




