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「ニィーティスト」  作者: ニィーティス亭 夢★職
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第ニ章 曙光篇 #2-2 バイトチャレンジ1か月に挑戦!

埼玉県民にとって、もっとも近い東京とよばれる、池袋駅から勇躍飛び出たものの。駅近くに啓一くんが目視できる、赤だの青だの緑だののコンビニ店はありませんでした。そもそも電波がないので、無料Wi-Fiを探しているのですから、啓一くんは文明の利器たる、スマホの地図アプリなどに頼れず、自分の足でコンビニを探さなければならないのです。百貨店とか家電店でといった、一般人なら当たり前の知識も、世間知らずの元実家浪人22年生にはありません。


 足を棒にし、あてどなく無料Wi-Fiを探し歩く。それが今の啓一くんの現実なのです。道すがら、金券ショップがあり、啓一くんのスマホ用のプリペイドカードが2790円。定価より210円も安く売っていました。あと2週間でチャージ期限が切れると、スマホは使えなくなってしまいます。どうせ買うなら、今こそ節約のチャンス到来です。でも、今の啓一くんの財布には、自分で用意した1500円、父修二がくれた1080円から。ここまでの交通費を引いた1530円。それが今の啓一くんの全所持金がなのです。


 始めるのに遅いことはない、などといいます。確かにその通りの金言ではありますが、啓一くんのような22年も浪人していた者が始めるには。初めての場所に行き、初めて遭遇するような一般人と接し。そこで滝のような冷や汗をかき、予想外の金コマに苦しみ、今までとは全く違う、「始めるには遅いことはない」今なのです。金兄ような元受刑者同様、元実家浪人生が己の殻を打ち破るには、予想だにしない苦難が待ち受けていました。


 それでも。もう元の自分に戻ってはいけない。外の現実に自分でぶつかっていく時期が、ようやく俺にも来たのだ。啓一くんは自信はないけど、そう確信しました。根拠は何もないですが、心が強くそう思ったのです。俺はもう以前のネットビジネス業には戻ってはならないのだ。そう思って顔をあげると、そこには赤いコンビニがありました。無料Wi-Fiに接続すると、60分使えるとあります。なんでもいい、今日中にバイトを決めよう!


 固く決意し、啓一くんは充電を気にしながら、10分おきにメールをチェックしましたが、1時間たっても、メールボックスは空のままでした。落ち着いて考えてみれば、午前中に登録して、それを会社のリストに打ち込み、募集メールが流れて来るのは早くて夕方、もしくはそれ以降。啓一くんでも、それは理解できます。ならばコンビニの喫煙所のベンチで、おっちゃんたちの煙草のけむりにむせながら、スマホをガン見していないで、電車も動いたろうから、今日はここまで。切り上げて家に帰ればいいのですが。


 家に帰るまでに募集メールが来て、条件のいいバイトが、他のやつに取られてしまうんじゃないか? 何より今ここで決めないと、家に帰るころにはこの気持ちが萎えて、スーツもスマホもほったらかしで、また元の自分に戻ってしまうのではないか? 啓一くんはそれが怖かったのです。もしここでリターンニートしたら、俺の行く末はあのN犬だ。ああにだけはなりたくない。

 

 啓一くんは、いったんコンビニを離れ、あたりをぶらぶらしてコンビニに戻り、もう2時間、メールボックスとにらめっこしましたが、結局、募集メールは来ませんでした。もう一回。啓一くんは立ち上がると、目がくらんで、倒れそうになりました。鯨飲馬食、クジラが水を飲むように酒を飲み、馬のように大量のものを食べることをさす言葉。啓一くんはお酒は一度飲んだきりですが、食事は朝昼晩、おやつに間食夜食と際限なしです。なれない神経をつかい、走ったり歩き回ったりしたせいで、猛烈な空腹を覚えたのです。


 帰ろう。腹が減っては・・啓一くんは一次退却を決め、駅に向かいました。コンビニを見つけるのは至難の技でしたが、牛丼屋、チェーンのとんかつ店、てんぷら店、デカ盛りラーメン店等は、探してもいないのに、啓一くんの目に、次々と飛び込んでくるのです。グー。お腹が鳴るなどいつ以来でしょう? あとは電車賃が370円あればいいので、好きなものを食べればいいのですが、弟と親からの義援金は、いつ手に入るか分からないし、自分から催促するわけにもいきません。今ある手持ちの現金10,000円ちょいは、バイトの交通費用として必要で、絶対に手をつけてはならない。ここで空腹を我慢するのも、俺の新たな一歩へのいい修行だ。なあに、毒親とカルト弟からの、毎月の30,000円が手に入るまでの辛抱だ。


 啓一くんは最寄り駅に戻り、歩いて帰宅しました。家に入ろうとすると、お向かいの家の、啓一くんの宿敵、殿塚夫妻とばったり出くわしました。啓一くんが基本的人権を守らない、人間の姿をした害獣を、己の身を守るために、退治、駆除した件は第1話で述べました。その後も、殿塚夫妻は啓一くん宅を強襲し、お宅のひきこもりがと、声高に被害を訴えましたが、


「うちの啓一が犯人だと証明する、確かな証拠はあるのですか?」


 悪天然の、庭だけではなく、頭の中も「お花畑」の修二さんですが、以前から筋金入りの左ぎらいで、殿塚夫妻を快く思っていませんでした。てっきり「不肖の息子」を恥じ、平身低頭して秘密の部屋から引きずり出し、父親自ら警察に出頭させる。怒りで、同じように頭の中がお花畑になっていた冬子さんは、


「ないのか? え、ないのか!!」


 普段から、どこか亀裂の入った狂気を、全身から漂わす修二さんが。大嫌いな左勢力に青筋を立て、大声でマジぎれする姿に、あてがはずれやどころか、修二さんのあまりの剣幕に、ビビって石になってしまいました。


「もし証拠もないのに、このことを警察に届けたり、BBA仲間に広めたらしたら」


 修二さんは、今にも刃物でも抜きそうな、鬼のような怖い顔で、


「僕の会社の友人で顧問弁護士の男に頼んで、お前らを名誉棄損等で訴え、ここに住めなくしてやるがいいか!!」


 啓一を「自ら責任を取った」あと、このK系左夫婦がいなくなれば、執行猶予がついてシャバに戻った時、住み慣れたこの家に~。修二さんは心の中で歌いながら、安心して住める。これはそのための布石、繊ビッグチャンス。下心満載で、冬子さんをにらみつけると、みすぼらしい禿げた小男の夫驕志氏が、


「申し訳ありませんでした!」


 いきなり土下座しました。


「あなた! そんな、こんなことするのは」


「もういい、帰るんだ!」


 強引に冬子さんの手を引っぱり、帰っていく姿を。自宅警備22年の匠、啓一くんは秘密の部屋で、こつこつ増設した防犯カメラ映像で見ていました。


 殿塚冬子さんは、一瞬、誰だこいつ顔をしたあと。昭和の刑事ドラマのボスのような、ベージュの三つ揃いスーツを着た、167センチ80キロが。自分の怨敵、名前はしらないけど、内海さんちのひきこもりで。犯罪者予備軍、いや実行犯の啓一くんだと知ると。また何か、もっとひどいことをされるのではないか? 恐怖に震えた顔で、逃げるように走り出し、夫の驕志氏もそれを追い、行ってしまいました。


 これで害獣も、しばらく人権侵害することなく、この界隈にも平和が訪れるだろう。啓一くんは勝利宣言して家に入りました。二階の秘密の部屋に行くには、どうしても通らないといけない、廊下脇の居間。そこには険しい顔の修二さんと、房代さんがいました。啓一くんが無視して通り過ぎようとすると。


「啓一、ちょっと待ちなさい」


 修二さんが、「父の威厳」顔で、大人が子供に話すように、啓一くんを呼び止めました。普段ならガン無視ですが、ひょっとして何だかの偶然で、俺の派遣登録を知った親父が。バックレずに行って帰って来た俺に、就職(?)祝いの金をくれるんじゃないか。自分たちのせいで、息子がこんな苦汁を飲んだのだから、自宅警備費の他に、別途20,000円くらいくれるのは、親として当然の務めだろう。うっかり足を止め、


「なんだよ?」


「お父さんたちは無断でお前を命の保証もない、危険なバイトスクールに送った、信二と美代子さんを出禁にした」


 え? じゃあ、介護代行費用の10,000円はどうなんだよ?


「お前、今日、ちゃんと仕事を決めてきたのか?」


 自分の責任を棚上げ以前に、まったく気づいていない、超上から目線で修二さんがいうと、


「よく頑張ったな」


 にっこり笑うと、財布を取り出し、


「何かの足しにしろ」


 親の因果で啓一くんがこうなったことを反省し、啓一くんにそっと諭吉二枚を差し出した・・かというと、


「なら、これから金は、お前が自分の力で稼げ。住む所と食い物は今まで通りにしてやる。だが、毎月の小遣い20,000円は、今後一切なしだ」


 「暴力を振るう無職息子を父が刺殺!」が、もし、こういう状況で発生したなら、同情されるのは刺した父親ではなく、刺された啓一くんですが、「世間一般の常識」はそんな奥深い裏事情に気づくこともなく。それは啓一くんをここまで追い詰めた父修二さんも同じでした。


 「外に出るとろくなことはない」はまさにその通り! なのでしょうか? これで啓一くんは、次のお給料支給日まで、死ぬ気でバイトをしないと、まーやのライブに申し込めても、払う現金がないならチケットを入手できず、まーや帝国民NO1の男の称号を失ってしまうのです。空腹の他、精神からも立ちくらみがし、


「おい啓一、獅子は息子を千尋の谷に」


 俺の教育法が正しいから、息子はこうして立ち直った。だから、これからも俺のやり方を貫く。酔ったような口調で、また同じことをまくしたてる父修二さんに背を向け、啓一くんは秘密の部屋に戻りました。もはや空腹すら感じない無駄な疲れ、徒労。今日1日は、まさに「試練番長」に相応しい、派遣登録を完了したこと以外、本当にろくでもない1日でした。


 ごろりと横になると、抱き枕のまーやが啓一くんに微笑んでいました。部屋にはWi-Fiがあって、いつでも無制限にネットにつなげます。


 お疲れ様です。今週末のプラカードの緊急募集です。まだ予定が空いている方はエントリーお待ちしています♪ 


 プラカード業務 日時今週末土曜、日曜。時間10:00~17;00 服装スーツ着用 時給1000円 場所は追ってご連絡します。※両日エントリー可能な方を優先させていただきます。


 メールを開くと、ゲーマンプロジェクトから、バイト募集のメールが来ていました。プラカードってなんだろう? 啓一くんが検索してみると。ああ、金兄と同じ看板持ちか。あれならやれそうな気がするし、土日だけで12000円になるなら。啓一くんは、疲れてもうろうとしていたせいか、申し込むことにしました。


 ん、メールの最初に、「お疲れ様です」って挨拶的なことが書いてあったな。これを入れるのが、社会人としての礼儀なんだろうか? 啓一くんは、一つ、社会人の常識を学ぶと、お疲れさんです。違う、お、つ、か、れ、メールなどしたことがないので、ショートメール一つ打つのにも大苦労しながら。


「よくあるんですが、エントリーしたからといって、そのお仕事に確実に入れるわけではありません。人気の案件は応募が定員を越える場合が多く、その場合は経験を優先させていただき」


 花井さんは入れる入れないは、弊社からのメールの返信で確認してください。といっていました。啓一くんは、今日登録したばりの、まったくの新人です。エントリーは出来ても、バイト現場までたどり着けるかは、まったくの未知数です。


 お疲れ様です、スタッフ内海啓一です。土日のプラカード業務両日エントリーします。


 それでも、届いたメールに返信形でそう書くと。


「まーや帝国民NO1の男、いきまーす!」


 かすれた声でいうと、啓一くんは送信ボタンを押しました。


                     ( `ー´)ノ

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