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「ニィーティスト」  作者: ニィーティス亭 夢★職
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第二章 曙光篇 #1-4 啓一くんは試練番長一年生

啓一は激怒した。必ず、この邪知暴虐の遅刻野郎に、「社会人としての良識」を叩き込まねば、俺の侠気が納まらない。「お前はなにをいってるんだ?」を、完全棚上げして決意した。


 温厚な啓一くんが、そこまで思うほど、約束の午前10時を守るために。恵体にムチ打ち、たかがバイトを仲介業の派遣会社まで、メロスばりに全力で走ってきたのに。「揃ったら始める」もう一人の「不愉快な仲間」は。啓一くんがこの隙に。廊下で雨具を脱ぎ、スーツ姿でテーブルについてから、30分たってもいまだに現れないのです。


 内線に出た女も女だ。どうもすいませんね、これどうぞ。お茶の一杯も出すのが常識だろうが? 登録説明会に遅刻するなんて、「世間一般の常識」に照らして人間失格ですよね。では、遅刻野郎は登録する前からクビということで、内海さん一人だけで始めます。誰かー? 入り口に鍵かけてー! それが当然だろうが!


 散々、「世間一般の常識」に苦しめられたのに、こうして悩みながらも、結局ここまで来てしまうと。平気で30分も遅刻してる「不愉快な仲間」もそうだが。定刻にきっちり現れた俺に対し、お茶も謝罪もなく、30分も完全放置の、内線に出た女社員もどうかしているのではないか?


 「世間一般の常識」に照らして。


 ちょっと外に出て、派遣会社の中にただいる。それだけで、子供の頃、「人様に迷惑をかけるな!」。無意味どころか害以外でしかない、毒親の馬鹿げたしつけの後遺症で。啓一くんは遅刻野郎のような、「人様に迷惑をかける輩」に対し、このように心の狭さ、器の小ささを隠しきれないのですから、「外に出るとろくなことはない」系試練も、啓一くんにはまだまだ続きそうです。


「はい、それでは始めます」


 突然、会社内に通じるドアが開き、内線の声の人らしきアラサー女性が出てきました。


「おはようございます。ゲーマンプロジェクト、担当の花井です。えー、まずテーブルにある資料を見て欲しいんですが」


 もはや矯正不能と、俺自身が騙され、あきらめていた、22年物の、超熟成ニートひきこもりが。今、妄想や自分で描いた絵ではなく。現実の派遣登録会に参加している。「胸アツ」とはこのことか。普段は「凍りつく」系の感情ばかりですから、啓一くんが自分にもあった熱い血潮に震えていると、


「かげかたさんも、このテーブルに座ってもらってもいいですか~?」


 え? 俺一人じゃないの? 啓一くんがふりむくと。え? え、え、えー? な。目深にかぶった「DJM&KK」の野球帽からのぞく金髪、軍人みたいなサングラスにマスク。ビートルズ登場前のロック歌手みたいな、白のジャンプスーツという。それ派遣の登録会的にはありなの? 30分遅刻といい、自由すぎる外見の痩身の若者が。


「・・・・」


 ゴルゴ13ばりに、啓一くんの背後、壁際に。いつのまにか無言で立っているのです。


「・・・・」


 「かげかた」と呼ばれた、顔はよく見えませんが、啓一くんのようなクールジャパン系統とちがい。女性をひきつけそうな、イケメンモテオーラを隠し切れない若者は。無言でテーブルに歩みより、啓一くんから席を二つ開けて座りました。牛丼店などで、混雑状況にもよりますが、席一つ開けはマナー。


 ですが、啓一くんの隣の席用に置かれた資料を、失礼でもなく無言で取る姿は。イケメンがキモオタを無視する、かかわりを拒否する、テンプレ的失礼態度。生育状況のせいでひがみっぽい啓一くんには、そうとしか思えませんでした。同じ現場で働くかもしれない以上、相手がどんな外見だろうと、仕事現場だけでも打ち解けて、まずは挨拶。それが「社会人」以前の「人としての礼儀」ではないのか! 啓一くんは、堅苦しくそう思うのでした。


「えー、まず一番上の、第一項を見てほしいんですが、バイトといえども仕事は仕事です。クライアント様の意向には必ず従ってください。業務中に無断で現場を離れる、携帯スマホの使用などは厳禁です」


 おい! こいつの遅刻も、へんな服装も、無礼な態度も、全部スルーかい! 正直者が馬鹿をみた。体は横大でも心は狭小な啓一くんは、まだ初心者ルーキー、というか。登録会も初どころか、バイト経験も15年前の一時間半しかない、バイトしない歴ほぼゼロの、ある意味、純潔です。派遣会社に必要なのは「頭数」で、「人間性」ではないことなど、啓一くんには知る由もありません。


「えー、お二人とも短時間サンプリングをご希望されていますが、内海さん」


「は、はい」


「今日は午後から出社ですか?」


「え?」


「いえ、スーツ着てらっしゃるから」


「へ、変ですか?」


「業務中はスーツに革靴必須でお願いしているんですが、登録説明会は、カジュアルな服装の方が大半で。スーツでいらっしゃるのは、Wワークの方が多いもんですから」


 東京では、こういうのが「登録説明会向きカジュアルな服装」なのか? 啓一くんはジャンプスーツ男を見ましたが、


「・・・・」


 男は人形のように無言なのでした。


「えー、お給料の振り込み用口座の、銀行通帳、ハンコ、身分証明書はお持ち頂けましたか?」


 今の本業、職歴等。聞かれた時にそなえて、啓一くんは「設定」を考えてきましたが、プライベートなことはまったく聞かれることはなく。花井さんはニートひきこもりでも理解できる、業務上の注意を棒読みで説明すると。必ず持参されたしの、今はネットビジネス用の、小学生の頃に開設した銀行口座の通帳、ハンコ、唯一の身分証明書たる、健康保険証を花井さんに渡すと、


「へー、内海さん35歳にもなって、健康保険証、親と連名なんですか? ウケるーw」


 などと、馬鹿にしたりせず、


「えー、ではコピーを取らせてもらうので、その間にそちらの登録申込書を書いてください」


 履歴書不要と書いてあっても、登録申込書を書かされるから、適当な学歴を設定しておけ。給与明細が郵送されてくるから、バックレ前提で偽住所を書くと恥をかくから正直に記入しろ。表月尻氏の注意事項を、あらかじめ聞いていたので。啓一くんは本名、年齢、現住所、土地勘のある、偏差値40の私立高卒の偽学歴、スマホの電話番号、メールアドレスを、スムーズですが。おそろしく下手な字で書き込みました。


 かげかたって珍しい名前だけど、どんな漢字をかくんだろ? 啓一くんは、髪は薄いですけど、視力は2・0あるので、啓一くんは横目で、ジャンプスーツ男の申込書をのぞき見しました。


 陰形満 20歳 新宿区・・プーッ! 啓一くんが、ジャンプスーツ男の、意表突き過ぎの、あまりにへんな本名に、思わず吹き出してしまうと。


 うっ!


 何やら殺気を感じると、サングラスにマスクに隠されてはいますが、陰形満くんが、明らかに怒った様子で、啓一くんを見ているのです。


「あ、はじめまして。内海といいます。よろしく」


 啓一くんから折れて、軽く頭をさげながらいうと、陰形満くんは返事もせず、ぷいと顔をそむけました。俺みたいなキモいやつとは口も聞きたくないってか? バイト現場の「愉快な仲間たち」が、みんなこんなクセの強い奴ならどうしよう? 不安に気をもんでいると、花井さんが戻ってきました。


「内海さんは、週に三回、短時間のサンプリング(繁華街で宣伝テッシュを配る仕事)希望ですが。お給料の支払いは?」


「ひ、日払いで!」


 思わず声を裏返すと、


「それですと、一回ごとに振込手数料が756円(※ごめんなさい正確な金額は忘れました)がお給料から引かれ、交通費もなしとなりますが、いいですか?」


 よくねえよ!


「例えば、池袋駅前で三時間の短時間サンプリングをしたとして、日払い希望ですと、業務日の翌日午後の銀行振り込みとなりますが」


 花井さんは電卓を見せ、


「時給1200円×三時間で3600円から、まず振込手数料756円が引かれ。駅までのバス代は、基本的にパートナーさんのご負担ですので出ません。ですが最寄駅から現地までの交通費は、上限2000円まで全額支給されます。最寄駅から池袋まで・・内海さんの場合往復740円、これが日払いだと支給されませんので・・実質の手取りが2104円になりますがよろしいですか?」


 よくねえよ!


「日払いじゃないと?」


 汗が出て来た啓一くんを横目に、陰形満くんは、啓一くんが聞きだしたことを、ちゃっかりメモっていました。


「はい。弊社の場合、月に二回締め日がありまして、毎月15日と月末の月二回。お給料のお支払いは、締め日の一月後の15日、月末の支給となります。要するに、1日から15日まで働いた分は、翌月15日の振り込み。15日から月末まで働いた分は、翌月末の振り込みになり。その場合は手数料なしの3600円全額に、交通費の740円も全額支給されます」


「じゃあそれでお願いします」


 なんとかなるだろう、啓一くんは蚊の鳴くような返事をしました。


「陰形さんもそれでいいですか?」 


「・・・・」


「はい、月払い希望ですと」


 おい、こいつなんもいってねえぞ!


「では、これにて弊社への登録は完了いたしました。で、これからはお仕事の受け方なんですが、皆さんのメールアドレスに、職種、場所、時間、時給が書かれた、お仕事の案内メールが来ます。その中から、条件の合うお仕事をお選びいただき、電話ではなく。そのメールに返信で、「スタッフ何々です、この仕事を申し込みます」と送信していただき。折り返し弊社から「よろしくお願いします」的な返信があれば、申し込み登録完了となり。詳しい集合場所、集合時間は追ってメールでご案内させていただきます。以上ですが、なにかご質問は?」


 啓一くんは、陰形満くんをみました。なぜなら陰形くんは、登録説明会が始まってから今まで。一言も口を聞いていないからです。


「・・・・」


 陰形くんは、相変わらず口を開くことなく、人形のように身動き一つしません。


「なければこれにて終了とさせていただきます。質問、問い合わせ等は、くれぐれも弊社への電話ではなく、メールにてお願いします。それでは長い時間、お疲れさまでした」


 おい、こんな一言も口きかない、遅刻上等の怪しいやつ、弊社は雇うんかい! 来社から説明会まで、一人で汗かきっぱなしの啓一くんが、納得のいかない顔で帰り支度をしていると。花井さんが急にオンナの顔になり、


「ドリームジャンボ満さんですよね? 写真、いいですか?」


「・・・・」


 誰? 啓一くんが怪訝にみているのもなんのその。いつやめてもいいレベルの会社なのか。花井さんは業務中に、陰形満くんとの私用の2ショット写メを撮ると。


「頑張ってください!」


「・・・・」


 謎のジャンプスーツ男は、啓一くんを見ることもなく。なにやら格好良く背を向けると。まさに「脱兎のごとく」出て行き。啓一くんが外に出た時には、もう姿かたちもないのでした。








  

登録はしたものの、啓一くんは申し込み、実際にバイトすることは出来るのでしょうか?

面白かった、今後が気になって、目が離せない等の方は、ぜひ高評価、チャンネル登録をお願いします(違

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