救いの手は無力なり
色々あって一週間おくれました。
すみません。
フランドールは抱きつかれたままきょとんとしていた。
どうやらまだ状況を飲み込めていないようだ。
「……ぶたないの?」
十秒ほどしてようやく口を開いた。
「あぁ、ぶとうとは思ったよ。でも……」
「でも?」
「でも、ぶつってのは罰としてはあまりふさわしいような気がしないんだ。」
フランドールはよくわからないのか、顔を疑問だらけにしていた。
「確かに、そういう暴力的な方法は単純で、簡単で、手っ取り早い。いましめとしての効果も大きいしな。ただ、この方法だとフランドールが罰を受けたことに満足してそれ以降も状況が変わらないかもしれない。」
「どういうこと?」
「つまり、呪われた存在として地下に閉じ籠って生きるということだよ。そんなのは嫌だろう?」
フランドールはこわばった表情のままゆっくり、しかし深くうなずいた。
「なら、変えなきゃいけない。だから、僕はフランドールに別の罰を選ぶ。これからを、この先の未来を変えていける罰を。」
「フランドール、罰として友達をつくってもらう。最初は数人でも構わない。ともかく友達をつくれ。」
ここでフランドールが目を真ん丸にしたまま固まってしまったことは言うまでもないだろう(まぁ、建前としてここで言っているのだが)。
「友達?」
十数秒ほどのラグの後、フランドールはようやく一言だけ発し、そして我に返ったように喋りだした。
「で、でも、フランは友達の作り方なんて分からないし、そもそもここから出れないんじゃぁ……。」
「なんだ、そんなことなら大丈夫だ。僕がレミリアに頼んでフランドールを外に出してやる。そしたら、友達づくりくらい手伝っあげるよ。」
「できるかな……。」
「当たり前だ。それにフランドール、君はもう友達を一人つくっただろう?」
「え?それって……。」
「僕はもう君の友達だよ。それも、栄えある友達第一号。もしフランドールがちゃんと分かってないなら――。」
僕はフランドールの手を引っ張って握手の形にし、そのまま手を上下に振った。
「ほら、これで誰が何と言おうと友達だ。つまり、フランドールは最初のステップをクリアしたんだ。」
フランドールは口をパクパクさせて何か言おうとしたようだったが、結局何も言えずにうつむいてしまった。
少し心配になって顔を覗こうとしたとき、スカートが濡れていることに気が付いた。
泣いている。
それを知った僕ははてどうしたものかと途方に暮れてしまった。
泣く子を慰めるのははっきり言って得意ではない。
唯一の解決策「撫でて慰める」もさっき使ってしまった。
などと考えていると、フランドールがもごもごと口を動かした。
何か言っているようである。
しかし聞き取ることは出来なかった。
そしてまたフランドールの口が動いた。
今度はさっきよりも大きく、はっきりと言ったため、聞き取ることができた。
「ありがとう。」
フランドールはそう言っていた。
「私、がんばる。がんばって、みんなに迷惑かけないようにして、友達いっぱい作る。私にも、私にだってできるんだよね?」
「あぁ、出来るとも。まだ、繋がれるんだ。」
「……分かった。」
フランドールはゆっくり、同時に力強く立ち上がった。
「よし、じゃあやるぞ、フランドール。」
「あ、一つだけいいかな。」
いくらか明るさを取り戻した声でそう尋ねた。
「なんだい?」
「わたしのこと、フランって呼んでくれる?フランドールって呼ばれると他人のような気がするの。」
「分かったよ、フラン。」
そこで、フランはようやく笑顔を見せてくれた。
それもさっきまでのようなどこか不気味なものではなく、屈託のない笑顔を。
こちらも笑い返そうとしたとき、背後のドアの向こうで足音が聞こえた。
「お迎えかな。」
ガチャりという音とともにドアが開き、レミリアとパチュリーが入ってきた。
「すみません、ちょっと心配かけちゃいましたね。ところでちょっと相談が――。」
こちらに向かってくるレミリアに対して僕はそう口を開いた。
が、レミリアは僕の横を通り過ぎていき、フランのところへまっすぐ向かった。
そして、
”バシンッ”
大きな音が部屋の中にこだました。
「フラン!貴女は、何をやっているの!」
もう一振り、
”バシンッ”
「あと少しで!」
”バシンッ”
「貴女は!」
”バシンッ”
「人を殺していたかもしれないのよ!」
”バシンッ”
”……”
少しの間沈黙が訪れた。
しかし、レミリアは直ぐにまた殴ろうとしたので慌てて止めに入った。
「待ってください!確かにフランはいろんなことをしてしまましたけど、もう反省しています。そこまでやる必要もないでしょうに!」
レミリアは今まで僕の存在に気づいていなかったかのように、制止を受けた途端驚いた様子でこちらを向いた。
「あぁ重信、生きていて良かったわ。怪我は……ひどい怪我ね。パチェ、早く治療してやりなさい。」
そこで、やっとレミリアに対する違和感に気づいた。
客観的に見ても僕のけがは大したことはない。
ただ頬っぺたと手などを少し切っているだけである。
しかしレミリアはそれを命に係わる大怪我のように扱うのである。
レミリアは正気を失っているとしか言いようが無かった。
それに……。
レミリアはひどく怯えた様子でいるのである。
真っ青な顔、という表現がそのまま当てはまる。
何か、とても強大な力に怯えている。
「重信、こっちに来なさい。」
突然パチュリーに腕をつかまれ、そのままドアの方へ連れていかれた。
「待ってください、まだ話すことが!」
「無理よ。しばらくはあそこにいない方がいい。」
パチュリーの手を振りほどこうとしたが、身体が動かなかった。
見えない何かに拘束されていた。
そのため、フランの悲鳴と暴力的な音が響く部屋が遠ざかっていくのを何もできずに見つめていることしかできなかった。
大変なことになって心配でしょうけど、ご安心を。
紅魔館編は今回で終わりです。
友達は出来ないでしょう。
しばらくは。




