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戯れ

フランドールが飛び付いてきた時、彼女の頭が僕の胸にクリーンヒットしてしまい、僕は呻き声をあげながら倒れてしまった。

フランドールは抱きついたまま離れなかった。

そのまま、数分ほど経過。

痛みが引っ込んでいったのを確認した僕は、ゆっくりと立ち上がろうとした。


「あ、ごめんなさい、離すのを忘れていたわ。」


僕の行動に反応してフランドールが口を開く。


「大丈夫だよ。ところで、フランドールは何をして遊びたいんだい?」


「それは勿論、弾幕ごっこよ!」


「でも、それだと部屋が滅茶苦茶になってしまうよ。」


「この部屋はけっこう丈夫らしいからへーきよ、へーき。」


フランドールが笑いながら答えたので、こちらも軽く微笑んで


「じゃあ、大丈夫だね。」


と返した。


「それじゃあ、いくよ!」


その声を合図に二人ともが空中に浮かぶ。


「禁忌『レーヴァテイン』!」


そう叫ぶと共に、フランドールの持っている杖だかなんだかよくわからないもの(多分これがレーヴァテイン)の先端に紅い光が集中し、フランドールはそれをその状態のまま荒々しく振り回した。

すると、杖の先から真っ赤な弾幕が無数に飛び出し、綺麗に整列することで弧が何重にも重なったような模様を作り出した。

そして、そのまま少しずつ広がっていくように回転し始めた。

弾幕の密度は非常に濃かったが、美鈴のようなハイスピードの弾幕と違い直感で避ける必要もなかったので、慎重にルートを定めながら避けることができた。

弾幕は数分ほどしたところで別のものに変わり、その後も数分おきに次の弾幕へ、次の弾幕へと変わっていった。

そして、五つ目の弾幕が終わったところでフランドールが話し出した。


「けっこうやるのね。ここまで一度もピチュらないだなんて、すごいわ、重信!」


「伊達に一ヶ月間特訓してきた訳じゃないからね。」


「じゃあ、今から私の取って置きを見せてあげる!」


そう言われて僕は身構えたが、その数瞬後に不穏な空気を感じた。

それは、ここに降りてきたときや部屋に入ったときに感じたものととても似ていた。

唯一違うものと言えば、今回は本能が必死になって警鐘を鳴らしていることだろう。

しかし、もう遅かった。

フランドールは僕が止めるよりも早くスペルカードを唱えたのである。


「禁忌『フォーオブアカインド』!」


途端にフランドールの姿がゆらりと揺れ、次の瞬間にはフランドールは四人に増えていた。

勿論、僕は自分の目と脳を疑った。

だがここは幻想郷。

このようなことも十分にあり得るのである。


「「えへへ、驚いたでしょう。」」


四人のフランドールが同時に喋り、綺麗でしかも不気味な合唱が出来上がる。


「これが私の取って置きよ。じゃあ始めるね。」


楽しげな合唱がそう語る。

その合唱はやがて音から弾幕に変わった。

四人はそれぞれが自由に動き、そしてそれぞれが全く違う弾幕を放ってきた。

あるものは緑色をした球状の大きな弾幕を、そしてあるものは円上に広がっていく細かな弾幕を。

それぞれの弾幕は今まで同様そこまでの速さは有していなかった。

しかし、四方からこれだけの量を一度に叩き込まれるとたまったものではない。

僕は頭が真っ白になりつつも避け続けた。

しかし、そのうちにこれはそこまで恐れるほどのものではないと気づいた。

確かに弾幕の難易度は非常に高いが、これはあくまでも弾幕ごっこである。

命を落とすだとか重傷を負うだとかそんなことはあるはずがない。

そう思うと、いくらか落ちつくことができた。

が、それも直ぐに裏切られることとなった。

この弾幕はかなり長い間続き、三十分たっても終わらなかった。

フランドールはまだまだ元気そうだったが、こちらはそろそろ息切れするようになってきていた。

そして、少しふらついてしまい、弾幕の向かってくる方に傾いていってしまった。

僕は慌てて体制を建て直し、間一髪のところで避けることができた。

その時、ほっぺた辺りを弾幕がかすっていったのを覚えている。

そして、弾幕を避けた次の瞬間、ほっぺたに鋭い痛みが走った。

空気がごく限られた部分をザクザクと刺してきているような痛みである。

反射的にほっぺたに手をやると、塗るっとした感触が手とほっぺたを襲った。

その手をゆっくり見る余裕はなかったので、僕はぬるぬるするものがついた指を口に突っ込んだ。

すると、口になかに生臭い鉄の味が広がった。

血、である。

急いで僕はフランドールに尋ねる。


「フランドール、この弾幕に当たるとどうなるんだ!?」


「多分壊れちゃうと思うわ!」


「壊れるって……まさかとは思うけど。」


「つまり手とか足がとれちゃうのよ!床に落ちているお人形さんみたいにね!」


そこで、僕は首や腕から黄色い綿の覗いていたぬいぐるみのことを思い出した。

あれが、場合によっては未来の僕となる。

そう考えた途端、バケツ一杯の氷水を背中にかけられたような感覚がした。

僕が今までに感じた予感はこの事だったのか?


「ごめんよフランドール、まいった、僕の敗けだよ!」


流石に死ぬのはごめんなので、躊躇なく白旗をあげた。


「敗け?」


フランドールは弾幕を止め、静かに合唱した。


「そう、僕の敗け。だから、一旦終わろう。」


「駄目よ。この遊びはあなたが壊れてしまうまでやるんだから!」


大きな声で、かつ楽しそうにそう叫ぶ。

しかし、その目に宿っていたのは純粋な狂気だった。

フランドールは、狂喜していた。

純粋であるって怖いですよね。

疑うことを知らなければつまりとどまることを知らない。

だから、もし純粋に十分な力と一滴の狂気をたらしてしまえば殺戮に繋がりかねない。

おぉ~、怖ぇ~。

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