曲芸飛行
「機動力ですかね。」
僕が墜落してしまったので、十五分ほどの休憩を挟んでから弾避けを再開することになり、例のように木陰で休んでいると美鈴が向こう側を向いたまま突然口を開いた。
「はい?」
素っ頓狂な声が喉から飛び出す。
「重信さんには飛行時の機動力が足りません。機動力は弾幕ごっこの要といっても良いでしょう。」
「はぁ。で、どうするんですか?」
美鈴はくるりと回ってこちらを向くと、話をつづけた。
「できるだけ密度の高い弾幕で鍛える……と言いたいところなんですが、これでは機動力を完全なものにするまでに何回もピチュってしまいます。」
「多分身体は持つと思いますよ。」
「問題はそこではなく、その都度休憩を取らなければいけないことです。」
「成る程。」
「というわけで、別の方法を考えました。それは……。」
美鈴が提案した内容は以下のようなものだった。
・湖の上を美鈴が飛ぶのでその五メートルほど後ろを僕が飛ぶ。
・空中に障害物の類はほとんどない(あったとしても鳥くらいで、こちらに向かって飛んでくることは先ずない)ので墜落の心配もいらない。
・疲れたときは声をかけて下りればいいし、そもそも体力はしっかりつけてあるのでそのようなことはない。
「どうです。これなら大丈夫でしょう。」
「はい、多分大丈夫だと思います。」
「多分とは何です、多分とは。」
美鈴がわざとらしくにらみを利かせる。
「問題無しってことですよ。」
そう言うと一転してにっこりと笑った。
「なら良いでしょう。では早速始めますよ。」
僕は立ち上がり、美鈴はそれを確認すると湖に向かて飛んで行った。
美鈴が五メートルほど離れたところで僕も飛んだ。
美鈴は湖中央のほぼ真上で止まって振り返り自分がちゃんと付いてきていることを確認した。
「ちゃんと付いてこられていますね。それでは、今から始めますね。」
「はい。」
「一応、最初はややゆっくり、穏やかに飛ぶので安心してください。でも、そのうち速くなって色んな動きをしますので、そのことは頭に置いといてくださいね。」
「分かりました。」
そう返事をすると、美鈴は直ぐに飛び始めた。
飛行訓練が始まっ直ぐは、美鈴の言った通りとても穏やかな飛行で、せいぜい緩やかな宙返りをしたり、螺旋を描くように飛行するだけだった。
勿論、僕は簡単に付いていくことができた。
しかし、開始から十分もするとどんどんアクロバティックな飛行になっていき、僕の動きも怪しくなってきた。
ここでタイムを入れ、しばらくはこのレベルで止まってもらうように頼んだ。
その後約三十分間四苦八苦しながら飛び続けた結果、ある程度余裕をもって付いていけるようになった。
五分休憩、その後再開。
今度は十五分ほど経ったところで美鈴の動きが人知を超えた段階に片足を踏み入れ、ハイジ―ターンのようなことまで始めてしまったので、またタイムを入れる羽目になった。
「すみません、もうちょっとだけ緩くしください。」
「あ、はい。やっぱりここまでくるときついですか?」
「はい。」
「まぁ、まだ上手く飛べないでしょうからね。」
「それもあるんですけど、身体にかかる負担が凄いんです。」
「というと?」
「急な角度で曲がる時だとかに遠心力が首だとか腕だとかに千切れそうになるほどかかるんですよ。美鈴さんは大丈夫なんですか?」
「鍛えてますからね。それに、私は妖怪ですし。」
「あぁ、そうか。妖怪っていいですね。人間みたいに貧弱じゃありませんし。僕も妖怪だったら生活ももうちょっと楽しかったろうに。」
「そうとも限りませんよ。私たち妖怪は外の世界では存在が否定されているわけですから、この幻想郷でしか生活できません。そもそも、幻想郷が出来上がったのも、もとはといえば存在を否定され、消えてしまいそうになったからですからね。」
「そうなんですか。」
どうやら人には人の、妖怪には妖怪の苦労があるらしい。
世の中苦労なしでは生きていけないようだ。
「取り敢えず、続きをしますよ。体にかかる負荷はもう耐えるしかありませんからね。それに、幾日、幾週間か負荷を与え続ければ耐えられるように筋肉もついてくるはずです。」
「そうだったら嬉しいんですが。」
「そうですよ。生き物の体という奴は大体そんな感じです。」
伏線をしっかり張れる作家さんってすごいですよね。
話の展開を先の先まで見通せていますし、絶対に頭がいいと思います。
そう言う人に僕もなれたらいいんですが……。
紅魔館編はなかなか終われそうにないです。




