能力制限イベントは唐突に
さて、面倒くさい仕事を任せられてしまった。
僕は十数年前におんぎゃあと生まれてからこの方、重いものを運んだことがほとんどないのである。
しかも、その運んだ数少ない重いものも、全てリュックなどで背負っていたため、負担は少なかった。
今回のこれは今まで運んだことのある重いものよりも遥かに重く、さらに腕に抱えて運ばなければならないのである。
この作業が、とにかく辛い。
今はまだ本を持ち上げただけなのだが、それでも十分腰に来る。
もし、この辛さがあまり分からないと言うのなら、家にある辞書や図鑑(出来るだけ大きくて持ちにくいもの)を十冊ほどを一度に持ち上げともらうと良い。
恐らく、直ぐに腰に激痛を感じて下ろしてしまうのがオチだろう。
僕も同じように、持ち上げるだけで精一杯だったので、一歩ずつくらいしか歩けなかった。
「他にも本は沢山あるんだから早くしなさい。あんまり遅いと昼食抜きにするわよ。」
「は……い……。」
修行のためとはいえ、いくら何でもこれは酷い。
というより、修行のためというのは口実で本当はただ単に使い易い労働力が欲しかっただけなのではないだろうか。
そうならばこの苦役が僕に課せられる筋合いはないであろう。
つまり、ズルをしても良いのである。
とても都合のいいことに、僕には質量を操る力も備わっている。
これさえあれば、もう怖いもの無しだ。
どんなに重たい本であろうと、この力の前では一円玉と同等なのである。
そうと決まれば早速――。
「あれ?」
「どうかしたの?」
「いえ、何も。」
おかしい。
能力が使えない。
どれだけ力を入れても、精神を集中させても手応えがまるで無い。
能力を得たばかりの頃なら上手く使えなかったりしても不思議ではなかった。
しかし、幻想郷のあちこちに行ったときにその能力を使って空を自由に飛べたのだから、その点は大丈夫なはずである。
が、使えないのもまた事実。
ここに来てから分からないことだらけである。
ふとパチュリーの方を見ると、彼女もこちらの様子の変化に気づいたのか、こちらを見ていた。
すると、すべてを察したかのような顔をし、軽くため息をつくと話し出した。
「良い忘れていたけど、この大図書館内では能力は使えないわよ。」
「え˝?」
「貴方の能力は聞いているわ。『重力と質量を操る』、でしょ。当然ズルにも使える。だったら防止するのは当たり前でしょ。」
どうやらパチュリーにはすべてお見通しだったようだ。
まぁ、僕のような貧弱な脳細胞しか持ち合わせていない奴の考えることなんか誰にでもわかるのだろう。
悲しきかな。
「ほら、さっさと運びなさい。」
恥ずかしいことにもう打つ手はないので、僕はおとなしくこの言葉に従った。
この幻想郷に来てから環境の変化などにより辛い思いをすることはあったが、いつもすぐに慣れていた。
しかし、それらはほとんど精神的なものであって、体力的なものより幾らかは受け入れやすかった。
なので、今回のこれは恐らくいつまで経ってもなれることはなく、得られるのはせいぜい激しい腰痛くらいだろう。
そんな憂鬱な考えをしながらも、僕は腰をヒィヒィ言わせながらなんとか運んで行った。
さらに、運ぶように頼まれた棚のF91はパチュリーの机から数百メートルほどあり(それでもこの図書館をほんのちょびっと歩いただけなのである!)、着いた頃には腰も腕も疲れ切って動かすことがほとんどできなかった。
その為、十分ほどかけて本棚まで移動し、腕が動かせるようになるまで数分ほど休憩、それから五分ほどかけて本棚に入れて戻る、という風になり、一セットに二十分ほどもかかってしまう。
しかも、途中ですれ違った小悪魔の一人の話によると、いつもこれを五十セットほどしているというので、どんなに早くても十三時間、休憩も入れるとそれよいもはるかに長い時間がかかるだろう。
そうなると僕の昼食はおろか、夕食ですら無くなってしまうかもしれない。
これは由々しき事態である。
こうなったら体が壊れることを覚悟して無理やりにでも体を動かし続けるしかないだろう。
心を無にしてひたすら動く、動く、動く。
そう決めると、僕はすぐさま行動に移した。
本を担いだら脇目も振らず棚へ向かい、その本を持ってはしまい、持ってはしまい……。
「大丈夫ですか?」
「様子おかしいですよ。」
「あの、少しくらいは手伝いますけど……。」
すれ違う小悪魔たちに何度もこのようなことを言われたが、そんなのにかまっている暇は無い。
動きを止めたらそれが最後。
もう動くことは出来ないだろう。
だから、止まるなよ、頼むから!
昨日はドラえもんの誕生日でしたね。
これでまた、ドラえもんの誕生に一歩近づいた気がします。
そしてあさってはMATRIXが再び公開される日!
もう、楽しみすぎです!
あ、でもその日はドラえもん誕生日スペシャルだった……。




