サービスの対価は払ってもらおう、てめえの体でな!
二日も遅れてしまいました。
すみません。
美鈴は変わった。
やはりレミリアやパチュリーの説教が効いたらしく、特訓は一般人向けのものに変わっていた。
おかげでつらいことにつらいが耐えられないほどではない運動をすることができて体力も少しづつ強化され、一週間ほどで霧の湖十週も楽々こなせるようになった。
多分、美鈴はもともと他人を鍛えるのが上手かったのだと思う。
特訓のメニューの全てにそれだけの理由があり、量も適切なのである。
それなのに初日であんなことをしたのは僕の初期ステータスを見誤っていただからなのだろう。
見方を変えれば自分が期待に応えられなかったと取れるのがなんとも悲しい。
が、それはあまり気にしない方が良いだろう。
兎も角、僕の特訓は順調だった。
そして特訓開始から一週間とちょっと経ったある日。
その日は朝妖精メイドに起こされると(ここでは毎朝メイドが朝食を持ってくるついでに起こしてくれるため、目覚ましが必要ないのである!)雨が槍のように降っていた。
これじゃあ特訓は――などと思っていると、
「今日の特訓は中止だそうです。」
と、メイドが朝食の乗ったトレイを机に置きながら言った。
僕は適当に返事をして机に向かった。
雨がガラスを激しく打つ音を聞きながら食べるご飯は意外と美味しく、雨によるどこか陰湿な雰囲気も心地よく思えてきた。
いつもは食べ終わるまでに三十分はかかる朝食だが、今日は十五分ほどで食べた。
朝食に満足した僕は座ったまま大きな伸びをして、それからトレイに目を戻した。
すると、トレイの隅に置かれた小さな紙が目に入った。
何だろうかと思い手に取って眺めてみると、紙の上の方に小さくきれいな文字で「本日のスケジュール」という文字が書かれていた。
さらにその下を見ていくと、以下のように書いてあった。
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| ・a.m.8:00~p.m.0:00 図書館の蔵書整理
| ・p.m.0:00~p.m.1:00 昼食
| ・p.m.1:00~p.m.7:00 図書館の蔵書整理
| 詳しい内容は地下一階、図書館のパチュリー・ノーレッジまで。
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はっきり言って、僕はこれが何を意味するのか明確にとらえることは出来なかった。
が、これについて思考する僕の脳に、「代償」の二文字が浮かんできた。
さては、この仕事は僕がここで特訓することに対する対価、即ち代償なのでな無いだろうか。
しかし、このことを僕は魔理沙から聞かしてもらってないのである。
レミリアがそのことを言い忘れた、とは考えにくい。
かと言って、魔理沙がわざと僕に伝えなかったというのも無いだろう。
彼女もまだそこまでは堕ちていないはずだ。
となると、魔理沙が僕に伝えるのを忘れた、というのが妥当なところだろうか。
実に恨めしい。
取り敢えず、パチュリーに聞いてみないことにはこの説はあくまで空想の域を出ないので、僕はドアに向かった。
この一週間ちょっと、特訓などの合間に身を削る思いをして館内の間取図は頭に叩き込んだので、図書館には迷うことなく到着できた。
僕はドアを数回ノックし、扉を開けて中に入った。
図書館はとても大きく、屋根まで十メートルはあり、北の壁の上の方には一、二メートルほどの窓が幾つも並んでいた。
北に窓を付けるとは、パチュリーはきっと日光が嫌いなのだろう。
そう考えながら、僕は図書館の奥の方へと進んでいった。
ここはとても広く、また地図も持ち合わせていなかったため迷路のようになっていた。
おかげで図書館にすぐ着いても、なかなかパチュリーのいる机(これの存在だけは知っていた)にたどり着くまでにたっぷりに十分もかかってしまった。
「あら、やっと来たのね。十分遅れよ。」
パチュリーがあきれたように言った。
「すみません。図書館の場所は分かっていたんですけど、机の位置までは……。何せ、急なことだったもんで。」
「急なこと?」
パチュリーは眉をひそめた。
あぁ、この感じはやっぱり……。
「やっぱり、事前に知らされているはずだったんですか。」
「ええ。確か、レミィが魔理沙に特訓の条件として話して、それを承諾した魔理沙があなたに伝えるはずだったんだけど……。聞いてない?」
「はい。全く。」
パチュリーは深くため息をつくと、
「魔理沙を信用するべきじゃなかったかしら。まったくもう。」
とこぼした。
「そう言えばこのことだったんですね、この前パチュリーさんが言っていたこと。」
「え?あぁ、『どうせ直ぐ~』のやつね。そうよ。だからそっちも分かっているものとばかり思っていたわ。」
これで、やっと疑問が解決された。
「で、蔵書整理は、具体的に何をすればいいんですか?」
「あぁ、それね。一応紙には『整理』って書いたけど、どちらかというと力仕事ね。分厚い魔導書を何冊も運んでもらうわ。で、それを本棚にしまう。」
「成る程。まさか、ここでも体力を使うことになるとは……。」
「まぁ、この仕事はあなたの特訓も少しは兼ねているから。」
「そうなんですか?」
「ええ。だから、私は手ごろな労働力を得られる、あなたは雨の日でもトレーニングができる、ていうことで、いわばウィンウィンよ。」
「そうなんですか……。」
本来ここは喜ぶべきところなのだろうが、正直数少ない休息日までも特訓に回されるのは嬉しくなかった。
しかし、これも相手の好意でしてくれたことなのだから、露骨に嫌な顔もできない。
その為、何とも言えない微妙な反応になってしまった。
「それじゃあ始めてもらおうかしら。取り敢えずそこに積まれている本を、F-91の棚、だからあの向こう側の本棚に入れてきて。」
パチュリーが指さしたところには、数十冊、若しくはそれ以上の広辞苑サイズの本が置かれていた。
これは想像以上に骨の折れる仕事になるだろう。
「あ、それと、若し本を傷つけたりしたら、あなたの腕を一本貰うわよ。だから、気を付けて運びなさいよ。」
追い打ちは勘弁してくれ。
本日八月三十日が何の日か、ご存じでしょうか。
Twitterなどを見ている方なら「ドラえもんが耳をネズミに噛まれた日」というのは知っているかもしれませんが、MGS3の「スネークイーター作戦が始まった日」でもあるそうです。
これはスネークとドラえもんのコラボありますね。※ありません。




