新しい生活、ずさんな説明
気が付くと、僕は薄暗い空間に立っていた。
いや、浮かんでいたと言った方が良いだろう。
そこには、地面がなかった。
そして、気味の悪いことに辺りは幾つもの"目"で覆われていた。
「災難だったわね。」
突然、声が聞こえた。
声がした方を見ると、一人の若い女性がいた。
随分と奇抜なデザインの服を着ている。
「誰だあんたは。ここは何処なんだ。僕に何の用だ。」
そう言おうとしたが、声が出なかった。
それどころか、体を動かすことさえもできなかった。
「手短に話すわ。あなたは列車に轢かれて危うく死ぬところだった。そこで私が能力を使ってここに避難させたの。
ところであなた、随分退屈そうにしていたじゃない。せっかくだから、私たちの世界に招待してあげるわ。」
僕はそう言われると歓喜し、同時に不安になった。
退屈なこの日常から逃れられるというのはこの上なく美味しい話なのだが、飛ばされた先が地獄では困る。
しかし、そう訴えようとしても声が出ない。
すると、僕の心境を悟ったのか、次のように話した。
「大丈夫よ。私たちの世界はとても暮らしやすいところだから。
でも、危険な妖怪や鬼等もいるわ。だから、あなたに私のような能力をあげるわ。能力名は……。」
今や不安などというものは一切なかった。
いや、忘れていた。
死の危険があることも考えられなくは無かった。
だが、それでもいい。
少なくとも、この退屈な世界とおさらばできる。
それだけではない。
もう一つ、能力という素晴らしい特典が付いてくるじゃないか。
その能力とはいかなるものか早く知りたかった。
が。
「あら、もう時間だわ。
悪いけど、ここでお別れね。」
数秒ほど固まってしまった。
訳がわからない。
待ってくれと言おうとしても、やはり声が出ない。
「じゃあ、あとは頑張ってね~。」
冗談じゃない。
まだ聞きたいことの半分も聞けてないのに。
しかし、彼女は少し目を離した隙に消えていた。
そして、目の前に突然空間の切れ目ができ、それが広がったと思うとこちらに向かってきた。
反射的に目を閉じてしまう。
少しすると、緑の匂いがし、心地のよい風が吹いてきた。
鳥のさえずりが聞こえる。
恐る恐る目を開けると、僕は森にいた。
どうやら、紫の言っていた"私たちの世界"についたようだ。
ふと足下を見ると、小さな紙が落ちていた。
拾ってみると、綺麗な字で以下のように書いてあった。
"能力名:重力と質量を操る程度の能力"
恐らくこれが紫の言っていた"能力"というやつなのだろう。
かなり面白そうな能力だが、一つ気になることがある。
重力と質量を操る程度の能力。
これはどういう意味なのか。
この能力は十分使える能力の筈なのだが、これでも"程度"なのだろうか。
まぁ、ここにはもっと凄い能力を持つ人もいるのだろう。
上を見ると、すでに空が赤みがかっていた。
よく考えると寝床がない。
はやく探さなければ。
僕は歩き出した。
やっと幻想入りできました。
やはりファーストコンタクトは紫ですね。
それでは皆さんまた来週(?)。