コンビネーション
幻想郷に来てから早三週間。
この特異な環境にもすでに慣れた、はずだった。
ここでは常識を覆されることが常識である。
予想の斜め上を行くことだって想定内だ。
が、いくら何でもそれに加えてもう一段階、別次元方向に飛んでいくのは反則だろう。
異郷の身にはとても合わないものなのだと、今更ながら思った。
と、上空を飛んでいた大ガラスが突然急降下を始めた。
目標は、もちろん僕たちだ。
咄嗟の判断で斜め後ろに飛びのいた。
それとほぼ同時に爆風が襲い掛かる。
飛びのいた勢いと爆風で、僕の体は数メートル先の木に叩きつけられた。
背中にズキリと鈍い痛みが走る。
「うぅ……。」
呻きながら立ち上がり、魔理沙の方を確認する。
向こうはどうやら慣れているらしく、何ともない様子で立ち上がっていた。
「大丈夫か、重信。」
「なんとか。本当にあんなのと戦うのか?」
「勿論だ。それに、あれはまだましな方だぞ。」
知りたくないことまで話さないでほしい。
「で、どうやって戦うんだ?」
「そんなの決まってるだろ。」
魔理沙が服に着いた汚れを払い、それから周囲に弾幕を展開した。
「弾幕だ。」
カラスがもう一度こちらに突っ込もうと旋回し、また急降下してきた。
そこへ魔理沙がすかさず弾幕を打ち込む。
前に見せてもらった弾幕より火力を上げているらしく、激しい爆発が起こっていた。
「やったか?」
今やカラスは灰色の煙に隠れていた。
横ではもう勝利を確信したのか魔理沙が嬉しそうな顔をして言葉を発していた。
しかし、この流れは非常にまずかった。
初っ端からの高火力。
煙幕で見えない敵。
そして勝利を確信するセリフ。
問答無用でフラグ成立である。
「くっそー、無傷かよ!」
案の定、カラスに目立った外傷はなかった。
一撃目の失敗を生かし、今度は地面に伏せた。
頭上にとても大きな物量を感じ、それはそのまま通り過ぎて行った。
強風は襲ってきたが、吹き飛ばされるようなことは無かった。
急いで立ち上がり、相手の位置を確認する。
どうやらまた同じ攻撃をしようとしているようだった。
一応見切った攻撃だが、こちらの攻撃も通じない。
これでは埒が明かない。
「魔理沙、弾幕は効いてなかったみたいだが、どうするんだ?」
「このまま弾幕で攻撃する。」
「だから、聞いてなかったろ。」
「大丈夫だ。さっきの突進で見えたんだが、あいつの頭は皮膚が硬化していた。だから弾幕が効かなかったんだ。だが、腹は別だ。」
「そこに撃ち込むのか?」
「そうだ。でも、一つでか問題がある。」
「何だ?」
「あいつは攻撃中も旋回中も全く隙を見せない。腹に弾幕が撃てないんだ。」
「そうか……。」
弱点が分かっても当て方が分からないのでは意味がない。
どうにかしてはカラスの腹を曝け出してやりたいのだが……。
その時、僕の中で電流が走った。
悪魔的、閃き。
これが上手くいけばカラスを倒すことができる。
「また来るぞ!」
魔理沙の声で反射的に草むらに飛び込んだ。
カラスが通り過ぎたのを確認し、立ち上がった。
「魔理沙、一つだけ案がある。」
「本当か?」
「ああ。内容はだな……。」
魔理沙に作戦の流れを細かく伝える。
「分かった。実行するのはこれの次に突進してきた時で良いな?」
「ああ。」
二人で軽い打ち合わせを終えた後、四度目の突進を避け、行動を開始した。
僕は、カラスからできるだけ見つかりやすい場所に移動し、待ち構えた。
しくじったら恐らく僕の命は無い。
カラスが旋回し、真っすぐ突っ込んでくる。
一気に加速し、僕との距離はどんどん狭まっていった。
まだだ。
まだ。
あと少し。
もうすぐ……今。
カラスの右翼に精一杯の強さの重力をかける。
カラスはバランスを一気に崩し、右翼を下にしてそのまま進んできた。
「魔理沙!」
「OK、最高の位置だ。」
その声と共に、右の茂みから大量の弾幕が現れ、カラスの腹部を襲った。
苦痛に満ちた悲鳴を上げながら、カラスが左の方に飛ばされ、地面に激突する。
そのまま、カラスは動かなくなった。
「終わった……。」
「大丈夫か?」
茂みから魔理沙が出てきた。
「大丈夫だ、何も問題ない。」
「それにしても、よく思いついたな、あの作戦。」
「まぁね……。」
自分でもあの作戦は良かったと思っている。
しかし――。
「なぁ、魔理沙。」
「どうした?」
「例の特訓の話し合ったろ。あれ、やるよ。」
「本当か!」
「ああ。」
「でも、どうしてだ?」
「さっきの戦闘で、こっちは何もできなかったからな。」
「馬鹿言うな、ちゃんと作戦を考えてくれたじゃないか。」
「その作戦も魔理沙あってこそのものだ。僕みたいな非力な者だけじゃあ到底成り立たない。」
「……。」
「だから、一人でも戦えるように、あんたの援護とかもできるようにしておきたくなったんだ。」
「成る程ねぇ。よし、分かった。」
魔理沙がニコリと笑う。
「そんだけ熱い思いを語られたんだ。こっちも精一杯鍛えてやるよ。」
「だが、一つだけお願いがある。」
「何だ。」
「先ずは仕事を終わらせてくれ。」
この話を書いて、一つ思い知らされました。
戦闘シーンを書くのは難しい。
どうしても迫力のあるものが書けないという。
これも、やはり”慣れ”ですかね……。




