表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/46

外の世界からの漂流物

僕は魔理沙とその店に向かった。

小鈴もいかないかと誘ってみたが、直ぐに断られた(「長時間店を空にするのは余り良くないですからね。」)。

人里を出て歩くこと数十分、魔法の森の人里側の端にその店が見えてきた。


「魔理沙、まさかここが?」


「そうだ。外観は余り良くないがな。」


それは、店というにはあまりにも散らかっていた。

外観のことを言っているので散らかるという言葉は余り相応しくないのかもしれないが、そうとしか言いようがなかった。

様々な物(自転車、ポスト、立て看、ひらぺったいテレビ等々)が建物の壁のそばに散乱しており、粗大ごみ置き場と化した廃屋のようにも見えた。

一応扉の上に「香霖堂」と書かれた看板が見えたので、店として機能している(させようとしている)のは間違いないようだった。


外観の異常さを呆然と眺めていた僕を片目に、魔理沙は扉へと進んでいった。

僕も、まだ少し見ておきたかったが後に続いて言った。


「邪魔するぜ!」


中には外と同じように散乱した物の中で本を読んでいる眼鏡の男性が居た。


「いらっしゃ……なんだ、魔理沙か。冷やかしなら帰ってくれ。」


「何言ってんだ。今日はちゃんと買い物しに来たんだぜ。」


”霖之助”が意外そうな顔をしてへぇ、と呟いた。


「だから今日の私は”お客様”だ。」


「変わったこともあるもんだな。その子の為かい?」


こちらを向かれたので軽く会釈する(最初はかなり神経を使ったが、もう慣れてきた)。


「ああ。こいつの仕事用に何か書くものが欲しいんだが……。重信、その外の世界で使われてるやつの名前ってなんだ?」


「万年筆。あと、それ用のインクもいる。」


「形は?」


今度は霖之助の方が聞く。


「あーっと、ペンの先っぽが金属製で、それから……。」


その形状をどう表現すればいいか分からず店を見まわしていたが、ふと、それっぽい箱が目に飛び込んできた。


「多分見つかりました。そこの灰色の箱です。あ、いやそっちじゃなくてそのもう二つ隣の……そう、それです。」


霖之助がその箱をとってこっちに渡した。

その箱をゆっくり開けると、極めて状態の良い上等の万年筆と、替えのインクカートリッジが入っていた。


「これですこれです。」


蓋を閉じて机の上に置くと、店を見渡した。

パソコン、PS4、大量の本や食器、さらにはただのドアや障子までもがあった。

最早、ジャンル不問のリサイクルショップである(そもそもリサイクルショップはジャンル不問だったか?)。


「それにしてもすごいですね、こんなに外の世界の物があるなんて。」


「よく流れてくるんだ。」


「流れてくる?」


「ああ。無縁塚とか結界の薄いところにね。古めのものが多いけど。あと、外の世界から姿を消したもの、つまり幻想となったものとかも来る。」


「へぇ……。」


と、魔理沙が僕の肩を軽くたたいた。


「まぁ、目当てのものも見つけたんだし、そろそろ帰るぜ。」


「そうだな。あれ、でも何か忘れてないか?」


そういった瞬間魔理沙はぎくりとし、焦った口調で


「気のせいだろ。さ、早く早く。」


と言った。

僕は腕を引っ張られそのまま店から出そうになったが、その寸前に声がかかった。


「魔理沙、代金がまだだよね?お客さんとしてきたんなら、ちゃんと代金も払うのは当たり前だよね?」


この優しい声が逆に怖い。

魔理沙の動きがぴたりと止まる。

魔理沙の方に目を戻すと、文字通り苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「今日ぐらいはちゃんと払ってもらうよ。」


言葉に隠れていた威圧感がどんどんにじみ出てくる。


「あー、重信?」


困ったような声で話しかけてきた。


「なんだ?」


こちらが応答した瞬間、魔理沙の腕に力が入り、一気に引っ張られた。


「逃げるぞ!」


魔理沙の言葉に困惑しつつも、取り敢えず体勢を立て直し、低空飛行した。


「ちょっと待った!」


飛びながら話しかける。


「いくら何でも払わないのはいけないんじゃないか!?」


「大丈夫だ!あいつとは長い付き合いだからな!」


だからと言って万引きしてもいいとは限らない。

親しき中にも礼儀ありっていうやつだ。

やっぱり、大雑把だなと心の中で呟く。


「いつもやってるのか、ああいうこと!?」


「まぁな!だが、絶交とかもされてないから大丈夫だ!」


重症だ。

恐らく魔理沙はもともと盗癖を持っているのだろう。

こちらも被害にあう前に何か対策を立てねば……などと考えていると、いつの間にか人里まで戻ってきていた。

もう追ってきてはいないようだ。


「……まぁ、万年筆も手に入ったし、鈴奈庵に行こうぜ。」


息を切らしながら魔理沙が言う。


「わ、分かったよ。」


こちらも肩で息をしながら、仕方なく了承する。

魔理沙はこの先ずっと、この万年筆の代金を払うことは無いだろう。

ならば自分がお金を稼いでそれで払うしかない。

僕は魔理沙に気づかれないように、軽くため息をついた。

僕が東方を知って間もないころ、やっぱりその知識はとても浅かったので、霖之助の名前を香霖だとばかり思いこんでました。

それ以外にも様々な間違いをしていることに数か月ほどかけて気づいたわけですが、今でも多分していると思います。

勘違いほど恐ろしいものは無い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ