カリスマ
彼はひどい呪いをかけられた。
呪いを解く方法は一つだけ。
―――死ぬこと。
彼は世界で一番成功した男だった。
その歌声は人々の心を魅了し
次々と繰り広げられるダンスパフォーマンスは
世界中に衝撃を与えた。
使い切れないお金を稼ぎ
彼を知らない人はいないほど有名になった。
心の優しさでも彼は世界一だった。
ことあるごとにチャリティーに参加し
無償でのパフォーマンスをし
多額の寄付も惜しみなくしてきた。
特に子供が好きだった彼は
多くの貧しい子供たちに手を差し伸べた。
またある時は自然破壊を訴える歌を作り
地球のために祈った。
彼の行動を世界中の人々が見ていた。
人々に愛と勇気と希望、そして何より
感動を与えたのだ。
それを組織は許さなかった。
大衆をいとも簡単に扇動してしまう
カリスマ性のある危険人物とみなし
呪いをかけたのである。
死ぬまで解けない呪いを。
まず呪いは彼の容姿を変えていった。
子供が好きだという人間性をも逆手にとり
犯罪者に置き換え社会的にも抹殺しようとした。
呪いは彼だけにとどまらなかった。
彼に愛と勇気をもらった人々にも
影響を及ぼしていった。
今まで彼を熱狂的に支持していた人々が
彼を性的虐待者なのではと疑い始めた。
彼を格好いいと言っていた人々が
彼の容姿を揶揄しはじめた。
これらの人々にかけられた呪いを解く方法も
彼の死しかなかった。
彼は裁判で多額の費用を払わざるを得なかった。
財産は底をつき、借金をもかかえるようになっていった。
呪いは彼の身体もむしばんでいった。
激痛が毎日彼を襲い、薬が手放せなくなっていった。
ある日彼は大量の薬を飲んだ。
―――彼が死んだ。
ようやく彼は呪いから解き放たれ
天国で安らぎを得ることができた。
大いなる神の愛に包まれ幸せに暮らした。
彼の死が伝えられた瞬間、人々の呪いも解けた。
彼の死後、彼にまつわるあらゆる疑念は消えた。
多くの人が彼を信じなかった自分を責めた。
かけがえのない大いなる存在を失ったということに
ようやく気付いたのだ。
世界中が嘆き悲しみ、涙を流した。
彼は死んでしまったが、彼が残したものはたくさんあった。
ミュージックビデオは何万回も再生され、
数々の曲はヒットチャートに返り咲いた。
しかし、生きた彼を見ることはもう誰にも叶わない。
その年のグラミー賞では彼はホログラムとなって出演した。
死んでなお、彼の人気は生前よりも強くなっていた。
彼が死んでから二十年が経った。
彼は人々の記憶から消え去りそうになっていた頃だった。
ある日突然に、彼が復活したのだ。
旋風のように現れた新人歌手はまさに彼だった。
メディアは大騒ぎだった。
彼は本物なのか、いやそんなはずはない。
そもそもその新人歌手は若かりし頃の彼なのだ。
息子がいたのか、そういう人もいた。
しかし、どこからどう見ても本物の彼にしか見えなかった。
歌、踊りすべてが完璧だった。
世界中が熱狂した。
キリストの復活の再来だと言った。
そう彼は蘇ったのだと。
人々は歓喜して彼の復活を喜んだ。
そして彼はまた以前のようにスーパースターとなっていったのだ。
その頃、もう一人の青年がドイツの広場で演説をしていた。
MJに捧ぐ