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『.......クロル様。久しぶりに侵入者のようです。それなりの魔力を感じます』
『あぁ、それは俺も感じていた。なんとなくだけど炎属性のような気がするんだけど、どう?』
『......貴方の推察能力には頭が上がりません』
『いやいや、教えたの誰だってんだ』
そして俺は玉座から立ち上がり、隣に跪いている暗い美丈夫の頭をポンポンと叩いて、そのまま数歩前へ進む。
『んじゃま、いつも通り扉前で待ち構えとくわ』
『......一応他の者達にも報告をしておきますので、何かあったらそれなりのサインをください。私は0.3秒で向かいます』
『大丈夫だろうけど.....まぁよろしく』
『はっ!』
そして男の気配が背後から消える。仕事の早い男だ、まだ始まってさえいないのに。
『......んじゃま、今日の実践練習といきますか』
そうつぶやき、目的地まで歩きだした。
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男は、城の壁を盗賊さながらの手つきでよじ登り、その敷地内へと足を踏み入れた。
その先の光景は異様なまでに人間じみていて豪華爛漫。大きい都市の領主の屋敷の敷地と大差ない。住民が通る道はきちんと舗装されており、芝はきちんと整備され、どでかい花壇までもがある。遠くには、上へ噴き上がる水がみえ、噴水までもの存在を知らせている。
『なんだこりゃ......ほんとにモンスター達が住む城かよ.........』
男は困惑していた。それもそのはず、自分はあのこの世最大の悪とされ、「入りこめば最後、生きて帰れはしない」とも教えこまれた魔王の城へと乗り込んだのだ。このようなお偉いさんが住んでいそうなところへ乗り込んだ訳では無い。まぁ普通に地位の高い人間の屋敷に忍び込んでも見つかれば同じなのだが。
『まぁ....色々と考えてないで、大仕事果たしますか』
そう、この男も何の用もなく魔王城に乗り込むほど馬鹿でもないし力がある訳でもない。
『まぁしかし、あの方もめんどくさい事言ってくれるわ。幹部1人の暗殺、狙えるなら魔王の暗殺とか言われても魔王狙おうなんて思わねぇってんだ。魔王幹部でも超難関ss級クエストだってのに』
そう、この男は暗殺者である。2年前ほどまでは人間専門の暗殺者だったが、その頃に前任のモンスター専門暗殺者が、大型獣の暗殺に失敗し、死んでしまったため、この男が次期モンスター専門となったわけだ。
モンスターの暗殺というのは、高難易度クエストの対象となるモンスターは人的被害が予想されるモンスターの駆除だが、暗殺はそういうモンスターの死体から取れるものなどを望む者達が暗殺者に命令し殺させるのだ。その際、昂らせて戦闘!というより油断しきっている時や寝ている時に一撃で仕留め、時間的、安全的にモンスターを殺すのが最適ということで行ってきた殺し方から呼ばれるようになったのだ。
『つっても今回はものすごい力を持った人間を殺すようなもんだし........はぁ』
ほんとに何故ここまでついてない人生だと思われる。しかしこのまま考え続けると欝になりかねないので思考を切り替える。仕事モード、ゾーン?とかいうやつだ。
『.....《魔力感知・Ⅲ》発動』
そう呟いた男の頭の中には、自分からどれくらいの距離、方向にどんな魔力を持ったモノがいるのかが浮かんでいた。1つだけ質の違う魔力を持つモノがいる。大方こいつが魔王だろう。その魔力は魔王城のもんを進んだ先、おそらく扉前にいる。そこは避けるべきなのだろうが、ほかの巨大な魔力は城のあちこちに散らばっており、しかも不思議なことに魔王と思われる魔力が一番小さいのだ。
モンスターというのは大体が体内魔力の強さで決まる。筋力とか物理的な力なんかも魔力を栄養に育つと分かっている。つまり体内魔力が小さいモンスターは力も、スキル・魔法も弱いということだ。
『どう考えてもこいつが魔王なわけないよな.....魔力小さいし。魔力で言えば騎士団副長と同格かそれより小さいレベルだ。今回はこいつ始末して帰ろう......』
目標が定まったあとの男は正に暗殺者そのものだ。今までの気だるさは仕事を早く終わらせるために棚に上げ、ほぼ無心に近い状態である。殺意もほとんど、いや全くと言っていいほど出していない。これがこの男が手練の暗殺者であることを物語る。
『.....《影移動Ⅱ》発動』
このスキルの発動の直後、彼の出していた影が消えた。そして、暗殺対象へ向かって全速力での突撃。その際当然のごとく音は立っていない。
彼は暗殺用の技を主に3つ使い分ける。
彼は炎を自由に扱えるので、両腕から炎の槍を伸ばし、胸と喉を貫く方法。
剣先を炎で伸ばし、大剣にしてその体を真っ二つに断ち切る方法。
相手の上をとり、そこから炎の矢を数百数千と打ち込む方法。
他にも作ればあるが、彼のとっているスキル上、どれをとっても大体相手が気づくまでに殺すことが出来る。今回は相手が超大物であるため、殺し損ねたあとも次に繋げやすい1番目の手段で殺すことにする。そして彼からターゲットの頭を視認できた瞬間、そして彼が槍を生成しようと炎魔力を手に練りこんだ瞬間、音が響いた。
『待ってたぜ、こそ泥』
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そりゃ分かるってもんだ。魔力むき出しで迫ってくるんだもの。しかも正門からではなく壁を駆け上がって入ってきたことも知っていた。なぜなら壁を駆け上がるのにも当然魔力が必要なのだから。
先の会話で魔力属性を当てていたのは、実にこの魔力を察知してである。無論暗殺者は壁をよじ登るのに炎魔力を使ってなどいない。スキル使用時特有の限りなく微量な魔力を発しただけである。
そしてその魔力がこちらを視認した瞬間を狙い、言い放ったのだ。
『待ってたぜ、こそ泥』
その瞬間、雷鳴のように駆けていた暗殺者の目の前に生物の体が現れ、一閃。暗殺者はこれをなんとか捉え、緊急回避をとるも、その一撃は彼の右肩を斬っていた。
攻撃の被害は最小限に抑えたものの、走っていた勢いで止まることが出来ず、5m程先ヘ。
『くっ........気づいてやがったのか』
唸る暗殺者の見やり、先程攻撃を与えた暗殺対象は先の質問に答える。
『そりゃぁあれだけ魔力ダダ漏らしにしてりゃね。俺の魔力感知に引っ掛かるよ』
『クソ....ふざけやがって........。お前、何者だ?』
暗殺対象は驚いた表情をみせ、名乗った。
『やっぱ俺知名度ないな....まぁいい、俺は魔王・クロル=フォルスだよ』
『は......?魔王?お前が?城にいたでかい魔力の中で1番小さいのにか?』
城の方から色々壊れる音が聞こえたような気がしたが、クロルは無視の方針だ。
『そうだよ。まぁその事実だけ持って帰ってもらっても困るし、実際それじゃ帰らねぇんだろ?』
『あぁ、そのつもりだ』
暗殺者の周りに赤く光り輝く粒子が集まり、胸の前のあたりで形を成し始める。そして出来上がったのがーーー
『【焔操作・槍】ッッッ!』
それは燃える深紅の槍。その細い槍の長さは暗殺自身を上回るほどだ。それを数回回すようにして持ち直し、構えをとる。
『長期決戦は嫌いなんだ。この一撃で決めさせてもらおう、魔王』
『おお、そうか。んじゃ俺もそれに答えなきゃな』
その回答を言い終わっても、魔王はゆらりとした体制を改めない。それに対して暗殺者は槍を構えたまま着々と集中し、明らかに気が高まっているのがわかる。
『魔王、貴様で436体目の殺しとさせてもらう』
『それまでの435は全部モンスターか?』
『人間なんぞ数えようとも思わんな』
そう言い放った瞬間、暗殺者は地を蹴った。槍を持っているのに関わらず、先程の暗殺未遂の時と同じかそれ以上の速さである。この速さで先ほど気を高めた全てをぶつければ確かに巨龍でも一撃で沈んでしまいそうな勢いである。
ーーーーが、
『なら435体分死ね。【スプラーハ・ダークネス】』
そう魔王が呟いた瞬間ーーーー疾走する暗殺者から半径7mほどのところ1面に数多の魔法陣が形成、その一つ一つから漆黒の魔道砲が放たれた。
まさしく轟音。
全ての魔導砲が暗殺者を捉えた。
どす黒い煙が消えると、暗殺者が倒れているのが確認できた。
『んじゃ、いつも通り行きますか。【奪取】、発動』
そう言った魔王が伸ばした手から黒い悪魔の手が伸び、倒れている暗殺者の心臓部分に入ってゆく。そして戻る時には手に紅い何かを持っていて、それを出てきた時と同じく手から取り込んだ。
『ん、いいね。腹いっぱいだわ。戻るか』
そう言って、城へ踵を返した。
残った死体は、キラキラと砂のようになり、大気中に消えていった。
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その男は、孤独。
その点に関して、ある意味極めていると言っていい。
男が今いるのは、世界の特異点と呼ばれる空間。その言葉よろしく、時が動いているように感じられない。
ーーーーー否、時間という概念が存在していない。
その世界の理から完全に外れた空間にいるこの男もまた、理から外れている者であることは明白である。
その男は、誰もいない空間に1人、話しかける
『ここまで辿り着いてくれたまえ、我が半身よ。その為に、私もきちんと脚本したつもりだ。君はこの物語の主役。さぁ、最高傑作の劇を始めようじゃないか』
ここに、劇の始まりが告げられた。
初めまして、YUMAです。
拙い文章でお粗末ですが、どうか温かい目で見守って下さるとありがたいです。
投稿は気が向いたらします、失踪も考慮しておいてください(笑)