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Epilogue1 レインボーブリッジを封鎖せよ

『ロックを土壇場で救った男女二人』のエピローグです。




 

 紅蓮大帝VSロック・シュバルエ、その最終局面。


「空間――」


 大地が星の重力で崩壊。

 天より巨星が迫り。

 割れた大地の間を荒れ狂うマグマ。


 世界崩壊。


 その寸前、ロック・シュバルエはそう呟くと同時に消えた。

 紅蓮大帝の作り上げた最期の砦、紅蓮城の中へと。


 それを手助けした二人の男女が見送る。

 そして異空間は閉じられた。


「いいんか? まだ決着はついとらんぞ?」


 男の方は黒衣の老人。

 元皇国の武将にして大陸最強クラスの暗殺集団の長、沁黒。

 彼は異空間で隣に立つ女を冷やかした。


「構いません。勝つと信じています。それにあの子が勝たねばもはや誰もあの魔王を止められない以上、信じる他ありません」


「同じ力を操るお主でもか?」


「私はロックよりこの魔術に精通しているだけで、神気や才能では雲泥の差があります。例え参戦しても足手まといになってしまいますから」


 女は事務的な平坦な声で答える。


 彼女の歳は三十路程だろうか。

 服装は紫陽花が彩られた着物に唐傘。だがその顔立ちと髪は金髪碧眼。完全な西洋人。

 そんなギャップに加え美しく長く伸ばした髪。着物により浮き立つ女らしい色気のある体のラインと、無機質な氷の様な表情が、見る者の視線を奪う美女であった。


「それに貴方の手も限界でしょう……時間逆行」


 金髪着物の女は相変わらず無表情で、沁黒の焼け爛れた手に視線を送る。


 ――沁黒は紅蓮城へと影を撃ち込むべく、その手を数秒だけ向こう側に晒さなければならなかった。


 あの闘い、実はロックは常時展開していた空間迷宮で絶対に外皮を晒さずにいた。


 理由はこの沁黒の手。

 最終局面で周辺温度は陽炎の連発もありついに百六十度以上に達していた。いくら熱伝導率の低い空気であっても、もし皮膚を外気に晒せばその瞬間に火傷する環境である。


 神格も何もない“一般人”の沁黒がそんな世界に手を晒せばご覧の有様である。そもそもあの空間はたかが人間が干渉して良い場所ではないのだから。


 ……もっとも爛れた手も女の時空間魔術で即座に元に戻ったが。


「ふぅー、えらい目にあったわい。しかし便利じゃのうお主の力。この元に戻すのもそうじゃが何より……まさかあんな化物に、ワシの影が通じるとは思わなんだぞ?」


 また本来なら沁黒の影魔術など、紅蓮大帝からすれば火山にバケツ一杯の水を打ち込む程度の弱さであった。


 通じるはずがない。


 神気とは世界の理を自由に作る力。魔力は世界の理に従い使う力。

 だから沁黒の影魔術など覚醒したロックにも紅蓮大帝にも通じない。

 ……だがあの時。あの時だけ影は神に届く資格を得ていた。


「先ほどの『あれ』はあの子にも出来ます。こうしてお手本も見せました。きっと私なんぞより遥かに上手く使いこなすでしょう」


 ――あの子が『あれ』に気付けば、対魔王戦の幅は大きく広がります。それこそが時空間魔術が神殺したる由縁なのですから。


 またロックは必ずその使い方に気付くという確信があった。


「言い切るの。……ああ、そういえば初代勇者様も亡霊としてついているのじゃったな? なら普通に使えるのか」


「いいえ。あの御方はそこに気付いているか分かりませんね。……そもそも、あの子に付いている村松様は世間一般と本人は初代と思い込んでいますが()()()ですので」


「どういう事じゃ? 初代勇者なんていたのか?」


「ええ。いたらしいです。この星の創生に関わった方だと。現実的な話、かつて魔王に滅ぼされた聖国……現在の教国は初代勇者様と精霊王達が作り上げたと初代騎士団総長の日記にもありました」


「どこでそんなもの」


「教国の禁止領域書庫です。……なのでもし、初代様のお力を借りられれば【死の王】は何とか出来るかもしれないのですが……」


 女の顔が憂いを帯びる。

 死の王とは他でもない。紅蓮大帝を作り上げた欠片の本体、ザックーガ。


「魔王、か」


 その様子に沁黒は溜息を吐き、切り替える。


「ああ、そうじゃお主。訳も分からずにだが、言われた通りワシは宿屋の倅を助けたぞ。力が十全に使えずレインボーブリッジで殺されそうになっとったワシを引き込んだ理由と、お主の言った魔王討伐への協力ついて、いい加減にちゃんと説明せい」


 二人がいるのはロック達の世界でも現代日本でもない異空間である。


 実はここに来る前、沁黒は死に掛けていた。

 理由は現代日本の魔力が弱く力を十全に振るえなかったからだ。

 そうしていよいよレインボーブリッジで追い詰められ、最強の暗殺者もこれまでと言った時に突然、隣の女にここに連れ込まれたのだ。


「私、戻れないのですよ」


「は?」


「この世界に来たは良いのですが、戻る道が分からないのです。だから上野駅に次元門を作っておいて、誰か迷い込まないかずっと待っておりました」


 それはつまり。


「迷――」

「時間停止」


 沁黒が固まる。そして「んごぉ!?」と訳が分からない言葉になった。


「また私はこれからロックのいる世界に戻り、そこからまた別の世界へ行かなくてはなりません」


「良いのか? せっかくの()()じゃろ? 夫もいるだろう」


「夫は別に……それより【蟲の女王】が騒がしいのです。限界が近い。あれは、あれだけは何処にも繋げてはいけない。現れたら最後、その世界のあらゆる生物は『肉』へと成り下がる」


 沁黒はそれを黙って聞く。

 もし紅蓮大帝なんてものを見ていなければ、きっと笑い飛ばせただろうが、もう彼はその言葉を笑えはしない。


「それと私がいなくなるこの世界にも、私の息の掛かった者を誰かしら残しておきたかったのです。だから一度死んだ貴方をギリギリで蘇らせ、私の眷属にしました。これで貴方も本来の力を使えるはずです」


 彼女は澄ました顔でそう言い切る。

「死んだ」とか「蘇生」とか物騒な単語が聞こえたが沁黒は聞き流した。


「なるほど。……それと最後に魔王とは結局なんなんじゃ。まさかそれと戦えとは言わんよな?」


「ご安心を。貴方には貴方の役割があります。そして魔王とは、言わば星の力を我が物にして世界を好き勝手できる存在、神と言うのが一番わかり易いですね」


「まぁあの力を見せられればそうとしか思えんな」


「でしょうね。しかも私が様々な世界を渡って情報を集めた結果、存在を感知しているのが五柱程おります」


「あんなのがまだ五体もいるのか!?」


「ええ。残念ながら……判明している範囲で説明しておきましょう」


 沁黒が頬を引き攣らせる。


「まず最強と思われるのは【世界竜】。黄金竜王。

 ですが他へ侵攻する素振りはなく、なぜか人の姿をしています。恐ろしくて接触した事はありませんが、ずっと静観を決め込んでいます……まるで何かを待っている様に。

 ただもし動きだしたら、人類が抗う術が存在するのか私には分かりません」


「竜か。単純だが……最強か」


「ですが、それよりも問題はその下に来るであろう、悪性の三柱なのです」


「……なに?」


 悪性。

 その言葉に沁黒は眉をひそめた。


 彼女は続けて説明する。その恐怖を。


「まず【鋼】。巨大宇宙船団を率いる未知の人型兵器。

 率いる巨大機械兵団の数はおよそ十万を超え、核弾頭や科学兵器はもとより、母艦の主砲は星を砕き、さらに鋼の魔王本体は『権能』すら持つ。

 そして何故か分かりませんが、奴はあらゆる『人種』の駆逐を目的に動いてます。もはや『人種』を絶滅させる為に作られた存在とすら思います。

 そのせいで星ごと破壊された世界をいくつか見ましたが……狂っているとしか思えません。いえ、そもそも鋼は思考すらしていない。ただただ破壊の為に宇宙空間を彷徨う天災です」


 それが鋼の魔王。正式名称は誰も知らない。人を殺す理由さえも。


「次に【死】。冥王ザックーガ。死そのもの。奴が降臨すれば周辺の人間はそれだけで即死する。

 そうして死んだ者はザックーガの使徒、軍勢として何百、何千、何万、何十万、何百万と増えて行く。『権能』が死という生者に対して絶対的な力を持つ魔王。

 なにより奴は我々の世界に一度現れました。教国にゲートがあるのかそこから現れ、聖国も聖樹も精霊王達も滅ぼされました。

 目的はあらゆる生命の死。それはおそらく生者への妬みでしょう。憎悪の塊。

 ……もしかしたら初代勇者様がザックーガと戦い破ったのかもしれません。そのせいでここまで深く生者を憎んでいる可能性もあります。あくまで私の憶測ですが」


 そしてそれを復活させようと欠片なる者は既に動いている。


「最後に【蟲】。最強が竜、最狂が鋼、最恐が死ならば……蟲は間違いなく最凶。

 凶王たる女王ギャ・ヌは常に空腹であらある生物を喰らいます。合成生物かの様に幾多の蟲の特徴持ち、それら全てが神器の役割を持つ全身兵器。そこにさらに『権能』があるのです。

 その目的は悪い意味で単純明快。

 ――ただ腹が減ったから。

 それだけで星の他の生物を喰らい尽す悪魔。そして他の蟲の軍勢と共にやってくる。まさに蝗です。現れたら最後、生物は餌として絶滅するまで貪られる……そうして荒廃した星を見た事がありますが、筆舌にし難い惨状でした」


 その説明を聞き、密かに女が震えている事に気付いた。


「……失礼。以上が私が知り得た魔王です」


 今説明された事は全て真実なのだ。

 そしてその全てが来る可能性がある。


「……………勝てる、のか」


 説明を聞いただけで沁黒は己の喉が枯れている事に気付く。


「勝って貰わなければなりません。でなければ滅ぶだけです」


 暗澹たる気持ちになる。

 聞かなければ良かったと。ただその時、足りない事に気付いた。


「ん? もう一柱はどうした?」


「それは……」


 悪性三柱の説明すら言い切った彼女が口を濁す。

 そうして少しして半信半疑と言った風に答える。


「もしかしたら……一柱は私が殺したかもしれません」


「なんじゃと!?」


「しかしそれが魔王だったのか、未だに分からないのです。ですが……ただ神気を宿した華が、一輪の華が咲いていたのです」


「華?」


「その星は異様でした。全てに華が咲いていたのです。他には何もない。荒廃した文明にただ無限に咲き乱れる花畑。そしてその中で一輪だけ、凄まじい神気を放っていました。それが何の抵抗もなく呆気無く斬れたのです」


「花畑はどうなったんじゃ?」


「一瞬で枯れ果てました。そして星も死にました。勇者ではなく神気も僅かしか持たない私でも殺せる、まさに最弱の魔王でした」


 しかし彼女は心底気持ち悪そうに続ける。


「……けれと未だにあれが何なのか、そしてなぜ『生物最強が星の力を手にして魔王あるいは勇者になるのに』なんの害もない華が、どうやってその力を手にしたのか全く分からないのです」


 沁黒もその説明に得体の知れなさを感じ口を噤んだ。果たしてそれはどういう魔王だったのか。どういう権能だったのかと。


「……さて沁黒。この話を聞いた上で今度は私から問います」


 相変わらず澄ました顔で女が問う。


「本当にこの世界に残りますか? ここにロックはいませんよ」


 勇者不在の星。

 この現代日本に何故か魔王或いは勇者はいない。つまり何かあれば沁黒が戦わなければならない可能性すらある。 


 それを理解した上で。


「――構わん。ワシはここに残るぞ」


 沁黒はここに骨を埋める覚悟を示した。

 これでもう二度と沁黒は彼女やロック、元の世界の住人とは関わらないだろう。完全に別世界の人間となった。


 その理由に見当がついた女は意外ではあるが、理解を示す。


「そうですか……ですが流石にもう離れられませんからね」


 そう。

 沁黒はこの世界で新たな弟子を二人を流れで受け持っていた。


 一人は陰陽道の末席にいる廃れた一派のギャル。一人は京都本山で安倍晴明の血を引きながら、お家騒動に巻き込まれた幼い少年。


 向こうでは一人前の弟子達の死に大きな反応を示さなかった男だが、彼等はまだ成長途中。


「正直、致し方ない。今更帰るなど出来ん。なにせこの世界には――」


 その責任感から彼が残った事を察して、女はほんの少しだけ氷の鉄仮面を崩し微笑んだ。


「なるほど、年若い弟子二人に絆されたと。あの暗殺教団の長といえどやはり人の心が」


「あの雷来軒のビールと餃子セットがこの世界にはあるんじゃ。あんなもん食わされたらっ、もう元の世界なんぞもう戻れんわい……ッ!」


「あったので……………は?」


 しかしそれは女の勘違いであり。


「死んでもワシは戻らんからな。あれがワンコインとは卑怯極まりないッ。あれを喰うためならワシは世界を敵に回しても構わん!」


 実際は現代日本のチェーン店のビールと餃子セットに陥落していただけである。


「あっ――」


 女が再び鉄仮面に戻る。硬度三割増しで。


「……そう」


「きっと女のお主には、かろりー? とか言って分からんじゃろうなぁー。かあっー! 弟子サトミも言っとったが何がかろりーじゃ! 暗殺、潜入、強奪……そうして健全な汗を流して食う餃子! 飲み干すビール! これこそ至高よ! それをお主らは――」


 そこから現代日本の女学生は菓子ばかりでロクなものを食わないだとか、男子学生は痩せ過ぎで女々しいだとか、批判が始まる。


「時間停止」

「もっと油と肉をじゃ――がっ!?」


 そうして時間を止められて、ようやく女の殺意に満ちた顔に気付く。


「んんっ! ……まぁそれにお前さんの言う通り弟子二人と仕事がまだ残っとるからの。教国の依頼主も消え失せた以上もう構わんじゃろ。では、もたもたしてるとあのオカマも死ぬじゃろうし、ワシは戻るぞ」


「そうですか。ですが貴方は私の眷属になった以上、くれぐれも依頼した件はお忘れなく。私もこれから“蟲”を相手にする以上、こちらの世界には二度と戻れないでしょう」


 そう女が言うと沁黒の意識が霞み始める。


「分かっとるよ。そういうお前さんも、宿屋の倅に顔くらい出してやればええものよ。なにせ主」


 だが少し寂しそうに女が首を横に振った。


「十年も家に帰らず、産まれた時を除けば顔を見たのが一度しかない女など、名乗れませんよ……今更あの子に『母親』なんて」


 その自嘲を聞きながら、沁黒の視界は真っ白に染まって喋れなくなった。















「本当なのよぉ! 私は決して、お役所様と敵対するつもりはなくて! このガキ共を捕らえて献上するつもりだったの!」


 そうして沁黒が異世界から開放された頃。


 閉鎖されたレインボーブリッジ。


 その橋の上で糸で縛られるのは細身ながら筋肉質ないい身体をしたスーツの男。

 その黒い髪は刈り上げられ金のメッシュが入る。そして何故か唇には紫色の口紅。


 そんなエキゾチックな人物が、なぜか女口調で涙ながらに必死に喚く。


「全部はあの沁黒ってヤツが裏で糸を引いてたのぉ~っ! 全部あいつの指示! 私は被害者! 脅されて仕方なかったのよぉ!」


 全部、沁黒が悪いと。


 奴が自分を誑かし無理やり協力させられていたと。


 異世界から来た沁黒をボディガードとして雇い、散々悪事に協力させ胴元の極道たる川場組すら出し抜こうとしたヤクザの舎弟企業スメラギ・コーポレーション社長、皇は訴える。


 だがそれに真っ向から反発する声が隣から叫ばれた。


「こんのっクソオカマぁ!! 爺さんが消えたら、ここにきて裏切るっつーの!? マジ信じらんないんだけど!」

「相変わらず皇さんって……最低ですよね……まぁ知ってましたけど」


 そうキレたのは同じく糸に縛られた巫女服を着た日焼け肌のギャル。

 呆れたのはこちらも縛られた姿の、八歳くらいの神主姿の美少年。


「はんっ! 命あってのモノ種よ! ヤクザの舎弟企業の社長に何期待してんのよクソ餓鬼どもがァッ! それに沁黒が死んだ以上、あの爺をどう使おうが依頼主の私の勝手でしょ!?  ……ね? そういう訳だからっ、木崎様? 私だけでも助けてくれないかしら? 何だったら川場組の極秘資料も流しちゃうからっ。ねっ?」


「いやお前は殺すだろ。どう見てもクズ。これまでやってきた事を考えても、ここで殺しておくのが世の為、人の為だ」


 そう呆れ果て切り捨てたのは、指から伸ばす糸でレインボーブリッジにて三人を縛り上げる木崎と呼ばれたスーツを着た大男。


 神道庁直轄名倉神道執行宮司 木崎智彦。


 ようは日本の神秘関係のスペシャリスト。汚れ屋。

 彼の目的は縛られている安倍晴明の血を引く一族の少年。

 彼を確保し関係者を殺す。


 それが木崎が派遣された理由。


「諦めろオカマと女学生。お前達は処分しろとのお達しだ。あの爺が俺に殺された時点で命運は決まったのだ」


 そうして二人の首に掛かった糸が絞られる。


「ふぎゃッ!!」

「ごふっ!!」


「お姉さん! 皇さん!」


 少年の叫びも虚しく、二人の首に糸……ピアノ線が食い込み落ちる――。


 が。


 それより早く影が吊るされた三人を覆った。


「なにっ!?」


 困惑する木崎。


 途切れるピアノ線。


 影へと消える三人。


「――全く。人を勝手に殺さないで欲しいのぉ」


 そうして影より夜の支配者は現れる。


「じいちゃん!?」

「沁黒様!」


 吊るされていた三人が、影を通って衝突して止まっていた皇のBMW車の隣に放り出される。そうして見上げるとレインボーブリッジの柱に真横に立つ師の姿。


 そして一番目を輝かせたのが。


「沁黒ちゃん!?!? ああっ、アタシは信じてたわ! きっと帰ってきてくれるって! その為にある事無いこと言って時間を稼いでやったわ! やっぱり頼れるのは沁黒だけ! さぁそこのブサ男なんてぶっ殺しちゃって!!」


 ノリノリで木崎を指差す、下剋上を企むヤクザの舎弟企業社長である。


「このクソオカマ……」

「もうなんかコメディアンみたいになってますね……」


 弟子二人のギャルと少年は呆れ返るしかなかった。


 だがブサ男と名指しされた木崎に動揺はない。


「……射殺してレインボーブリッジから落としたが、まさか生きていたとはな妖術爺。だがなぜ逃げなかった?」


「なぁに、ちょっと野暮用がの」


「ハッ。どちらにせよ無意味だ。先ほどの戦いで格付けは済んだ。お前が例え先ほどの倍の空蝉を作ったとしても、貴様が私に勝てる可能性は――」


「じゃ、ちと本気で二十倍からいこうかの」


「…………え?」


 そう悪意に満ちた笑みを浮かべると。


 レインボーブリッジに大量の影で出来た沁黒が出現した。


 その数、およそ百。


「なっ!?」


「うそ、でしょ……」

「これが……お師匠様の本気っ!」


 木崎が沁黒を殺した時の二十倍。

 それをなんの造作もなく創りだす。その化物具合が分かる木崎とギャルは絶句。言葉すらない。


「いやっほおおおおい!! さすが沁黒ちゃん! 凄い! 天才! 抱いて!?」


 ……ただ一般人であるクズだけはノリノリで騒いでいた。


「すまんのぉ。先ほどまで訳あって本気を出せんかったのじゃ。謝罪として少しばかし最初から本気でゆくぞ、雑魚」


「ばっ、馬鹿な……なんだ……これは」


 五人の沁黒と互角だった木崎はその数に、怖気を覚え後退る。


 だがここは闇夜。


 今は影の時間。


 このレインボーブリッジは端から端までを今や沁黒の掌の上。


「ワシは皇国元六武将、影法師の沁黒。異世界より影投殺法にていざ――参るッ!」




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[一言] 爺さんも主人公してて何より
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