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幕間 光の勇者VS紅蓮騎士/ザックーガの欠片の困惑


タイトル通り幕間です。

クソ勇者が出て茶番しますが、本番は次話からなのでお嫌いな方はスルーしても問題ありません。ただ勇者は次から始まる話の対比に、ザックーガの方は本体との決戦に向けた、大したものではありませんが伏線にはなってはいます。


以下、三人称(+一人称)形式です。


【王国領辺境】




 現在、戦いの繰り広げられている侯都ヴォルティスヘルムから馬で三日、徒歩で五日から七日は掛かる距離にある王国の辺境。


「どうなってやがる?」


 その辺境にある平原の一つを見下ろす小高い丘の上に、数人の男女の姿があった。


 彼ら――光の勇者達一行は教国軍と王国所属の辺境伯軍が激突する戦場を、呆然と見下ろしている。


「おい。王国軍は何処に行るんだ?」


 王国軍、具体的にはその軍を率いる将軍に置き去りにされた彼等は王女が各地から強引に提供させた馬に、勇者のバフを掛けて乗り継ぐ事で通常の八倍近い速度で進軍してきた。


 そして道も大軍が通れるルートではなく、少数による最短ルートを経由した。なのでロック達のいる候都ヴォルティスヘルムを通っていない。


 その結果、彼等は無事に戦線に到着することができたが一つ問題が起こった。


 ――王国軍本体を抜き去ってしまったのだ。


「……あのー、勇者様?」


 その様子にパーティにおいて勇者を除く唯一の男である、危険察知のギフトを持つ斥候騎士、トロン・バートンがおずおずと口を開く。


「これ、勇者様が速すぎて逆に王国軍を抜いて来ちゃったんじゃないですか?」


 全員がその言葉に内心で同意した。


「……あー」


 ロックの幼馴染みにして元婚約者のポニーテールの少女、リビアは目を逸らし。


「他にないですよね」


 ロックの義妹である長い銀髪の少女、シェリーも頷く。


「さっ、流石はレオン様です!」


 と王女も微妙なフォローを掛ける。


「そうねレオン様がう……ん、レオン様のおかげよ」


 さらにツインテールの小柄な公爵令嬢も、普段とは違い歯切れ悪く勇者を賞賛する。


 彼等がなんでこんな微妙な反応なのかと言えば、それは道中の勇者の行動にあった。


「いや、このゼットはまだいける。おいゼット、疲れたフリしてんじゃねぇ!」

「サリーはもう無理だな。次で交代させてやろう」

「馬鹿、そんなもの食わせるな。馬は長距離を走っている時は、それよりこっちの野菜をだな――」


 馬である。

 

 勇者がやたら今まで見た事のない様な気配りと観察眼を馬に対して発揮したのだ。乗り捨てる馬にすら名前まで付ける始末。ゼットもサリーも全て馬の名前。これには周囲もドン引いていた。


 ただそのおかげか馬が勇者の仲間扱いとなり、加護のバフ適用。この超高速移動が可能となったのだ。


 ――しかしこの人、そのこと褒めると機嫌悪くするんだよなぁ。


 斥候騎士は微妙な顔で勇者を見る。

 なにせ彼はおべっかを使い、当初その手腕を必死に褒めた。

 流石、勇者様。馬についても随分とお詳し――へぶしっ!? という感じである。


 結局、褒めると勇者が苦々しい表情を見せ、斥候騎士に至っては殴られたので、ついに誰も馬に対する過剰な世話力に突っ込めなくなってしまった。


 ……なお勇者がうだつが上がらない馬子の息子で、自分もその仕事をさせられていた事について、王女も含めて実はこの場の人間は誰も知らない。


「そ、それよりこれはチャンスです勇者様」


 その微妙な場の空気を払拭するようにダークエルフの姫が声を上げる。


「今この場に王国軍はいません。今こそ勇者様のお力を世に示すことが出来ます!」


 ようは逆に抜け駆けしようという事だ。


 王国上層部が勇者派と反勇者派に別れ争っている現状、勇者が敵国の侵略を止めれば時流を決定付ける可能性がある大きな成果となる。


 事実、戦場を見るに辺境伯軍が劣勢。


 特に一点。


 戦場において赤く燃える様な輝きを放つ異様な甲冑姿が辺境伯軍を蹂躙している。業火を自在に操り、周囲の兵を灼熱地獄へ落としていた。


 間違いなく教国軍の要となる存在である。


「だったら――アイツの首を取ってやらぁ! いけラッシュ!」


「勇者様!? ――ああっもう、私達も突入しますよ!」


 ラッシュと命名していた馬を蹴り駆け出す。

 この馬も勇者の仲間と認定されているので、仲間経験値共有&経験値千倍化のバフが掛かり、馬として異様な強さを持っている。


 即座に丘を下り他の馬や兵を蹴散らして一気に戦場の中心に躍り出ると、勇者が業火に対し遠くから最上位水魔術を叩き込む。


「水属性最上位魔術――水宝!」


 業火と巨大な水弾がぶつかり、周辺一帯に爆発的な水蒸気が拡散。

 敵味方関係なく熱波が襲いその戦場の一角を死地に変える。


「っ――何者だ!」


 むせ返る様な高温の水蒸気の中で、赤い甲冑が叫ぶ。


「俺の名はレオン! 光の勇者、テメェを倒す男の名だ!」


「なんだと!? なぜここにいるっ。卿達はどうし――」


 その言葉を遮る様に、その霧の中から剣で斬り込む勇者。


 ――勝った。


 勇者の強さを知る者は誰もがそう確信した。


 が。


「――っ、舐めるなよ!」


 赤い甲冑はそれを真正面から受けきった。


「なにっ!?」

「うそっ、私以外の人がレオン君の剣を受け止めた!?」


 勇者を追って戦場に突撃していた斥候騎士とリビアが驚愕に目を見開く。

 特に剣聖であるリビアは、唯一彼と剣を交えられる事に自慢を持っていたので、二重の意味でショックを受けた。


「――それで? なぜ貴様がここにいる。卿はどうした?」


 赤い甲冑の声は綺麗な、それでいて厳格さを持つ若い女のものであった。

 本来ならレオンはそれを聞いて手加減をするくらいの声。


“良い女はなんやかんやで敵も味方も自分のモノにする”


 そんな思い上がった欲求を持っているが為だ。けれど。


「質問に答えろ! ヴォルティスヘルムはどうなったと聞いている!!」


「コイツっ……!?」


 けれど勇者の剣は事もあろうに、その赤い甲冑女に押し返された。


 距離を取るレオン。それを赤い甲冑は追撃しない。むしろ答えを待っている節すらある。


「っ、そういうテメェは何者だよ。それ次第で教えてやる」


「駄目だ。貴様が先だ。それによって答えてやる」


「変なやつだな……もしかして卿って言うのは王国軍の将軍の事か? だったら追い抜いてきたぜ。ヴォルティスヘルムには寄ってねぇからな」


「寄っていない? なるほど……そういう事態か」


「あ?」


 赤い甲冑は戦場にも関わらずそれを聞いて考え込む。


 そんな時だ。


「勇者様ぁ!!」


 背後から長い白い髭を生やした年老いた騎士が疾駆けでやってくる。

 ただ、その装備は見るからに豪華で周囲の護衛を見ても、かなりの重要人物なのは明白である。


「誰だジジイ」


「ジジっ――ごほんっ、儂は辺境伯を任されておりますオリバ・クロムス伯ですぞ。それよりその甲冑はあの伝説の紅蓮騎士にございます!!」


 その言葉に勇者パーティーの全員が驚愕する。


「なっ、あの公都を一撃で破壊したという悪魔の騎士っ!?」

「本物の化物じゃないっすか!!」


 紅蓮騎士。


 それはかつて公国と教国の戦争で出現した怪物。


 公国軍を壊滅に追いやり、公都を破壊し尽くした騎士。

 しかし最後は力を制御する事ができずに自爆したはず。ゆえに民間にはお伽話、国の中枢には恐怖の代名詞として刻まれた存在。


「……如何にも、私が二代目となる紅蓮騎士である」


 赤い甲冑はそれを肯定した。

 ただし。


 ――……せものだがな。


 そう小声で呟いた彼女の自虐は、誰にも拾われることはなかった。


「くっ、既に奴の前に千人もの兵が焼かれました! まさに化物ですっ」


 なのでそれを信じきった者達――特に彼女に蹂躙された辺境伯側の護衛がそう声を上げる。


「たった一人で千人を……」


 その言葉に勇者パーティー達も息を呑み、無意識に距離を取った。


「……へぇ。面白そうじゃねぇか」


 そんな中で勇者だけが面白がる様に前に出る。


「勇者様!?」

「レオンくん!」


 その姿に驚き目を見開く王女や辺境伯と、まるで英雄でも見る様に目を輝かせるリビアや護衛たち。

 周囲の兵士達もその様子に気付き、驚きと勇者レオンを讃える声が響く。


「ほぉ? 私が紅蓮騎士と知って挑むか」


「当然だ。俺は光の勇者だぜ?」


 両者が対峙。

 慌てて距離を取る両軍の有象無象たち。水蒸気の爆発と相まって戦場は、まるで主役二人を見守る舞台かの様な雰囲気へと変わる。


 両軍、勇者と紅蓮騎士以外がいなくなった場所で、それを待って二人が周辺にそれぞれ火と水を作り上げる。


「ならば――その思い上がりごと焼き尽くしてくれる!! 我が名は紅蓮騎士! 公国最強の騎士なりッ」

「ハッ、俺は世界最強の勇者レオンだ! やれるもんならやってみなッ、テメェを倒して俺は英雄になるぜ!」


 周囲が退避する中、両者の最上位魔術が真っ向から激突する。


 こうして勇者の登場で戦いは光の勇者VS紅蓮騎士に委ねられ、さながら教国と王国の最強同士による最終決戦の火蓋が今、辺境にて切られた。


















【候都ヴォルティスヘルム】





 学園の校舎の上に“彼”は一人いた。


 ――我はいったい、何に。


 彼。死者の王ザックーガの欠片はずっと奇妙な混乱を抱えていた。


 ――我はいったい、何に……何に憤っている?


 彼はその世界において、神をも食らい自らが神ノ座に辿り着いた現神達の一柱、ザックーガ――そのものではない。言わばザックーガの一部。


 かつての戦いで、かの魔王の杖から欠落した彼は教国の暗部で眠り続けていたのだ。


 それが今回の装置としての利用で蘇った。ただ、その中で一つだけ予想外とも言える奇跡が生じた。


 “彼”だ。


 その長い時の中で欠片はいつしか自我を持ち、彼という“人格”を作り上げてしまったのだ。


 ザックーガの欠片という存在は自我など持ってはいない。にも関わらず自我を確立し人格まで獲得してしまったのである。


 それは例え創世の神であっても予見できなかった異常。ある種のロック・シュバルエと同じイレギュラー。

 ゆえに。


「この底無しの怒りは? 我が本体は、何にそんなにも憎悪を滾らせていたのか?」


 彼は気付いてしまう。


 本体より引き継がれた尽きること無いこの怒りの理由が、まるで“分からない”ことに。


 そう。彼が本体から引き継いだのはその底なしの感情のみ。つまりその感情の原因となる記憶が備わっていなかったのだ。


「一体何が、我をそこまで怒りに駆り立てている?」


 だから考えてしまう。


 本体は何を望んでいたのか。

 何を憎んでいたのか。

 どうしてそこまでこの世界の者達を殺したいと願ったのか。


 ――やはり、嫉妬か?


 考えられるものはいくつかあった。

 それは人間達を観察し続け、その中で気づいたこと。それは持つ者と、持たざる者の違い。


 嫉妬。


 死しか存在しない世界にいたザックーガは生者へ憧れまた妬んでいるのではないか?


「さもなくば、生きとし生けるものを殺そう等と思いはしないはず」


 欠片は本体に従う。

 ゆえにそう自らを分析した彼は自らの次の行動を定める。その怒りの解消に向けて。

 そこへ――


「――」


 首の無い騎士が魔法陣より現れ片ひざをついた。


 ――時計塔にて暴れたデュラハン、すなわち黒髪イケメンことレインバックの身体である。


「戻ったか」


 欠片は片膝をつく自らが導いた成果たるアンデッドを見下ろす。


 ――やはりあの“怒り”を滾らせた少年は、触媒に相応しかった。


 少年とはレインバック。彼は欠片が必要とした、肉体を利用するのに共鳴できる怒りを滾らせる器として実に最適であった。


 ただその過程で再びあの存在――真なる勇者とも邂逅してしまった。


「――ッ」


 先代勇者。正しくは元現人神。そしてその男が言った、今代の勇者。


 それらを思い出すだけで、彼の中の憎悪は荒れ狂う。何故かあの存在だけは赦してはならないと、記憶のない感情が訴える。

 それは、自分を退けたことでの怒りと言うよりも、まるで勇者こそが本当は――。


「――?」


「…………気にするな」


 デュラハンの困惑の思念を感じ取り、欠片は我に返る。


「――この都市はもうすぐ終わる。仕上げに行くぞ」


 彼は今までの思考を切り捨てるかの様にローブを翻し、学園の校舎の上からデュラハンと共に消えた。






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